プリヤ世界にアーチャーがいたら   作:アヴァランチ刹那

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こんにちわ、学生のみなさん夏休みをいかがお過ごしでしょう?
もしくは社会人の皆さんは、そろそろ迫った盆休みに心を踊らせているのでしょうか?



【7】一筋の矢

春時の夜、というのは寒暖差が激しい。

極端に寒い時もあればその逆、真夏の夜のように暑い時もあり温度差により風邪を引きやすい季節だ。

 

だがそればっかりというわけでもなく、ちゃんとどんなものにでも中間点というものは存在する。

 

 

初夏のように不快感を感じさせない風が校庭を吹き抜けた。

すでに校舎の灯りは完全に消えており、そこを照らすのは満天の星空ともうすぐ満月になるかと思われる澄んだ月明かりだけだ。

 

その月に照らされ校庭に佇んでいる少女が一人。

 

先日イリヤの家を強襲した、遠坂凛その人である。

 

凛は黒髪を靡かせ、七部袖のジャケットとスカートを身につけて仕切りに時計を見ている。

 

まるで待ち人を待つかのように。

 

 

そして時刻は、午前0時に差しかかろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、ちゃんと来たわね」

 

校庭内に、自分とは別の気配が現れるのを感じ取り、腕時計から視線をずらしそちらに向ける。

 

そこにはピンクを基調としたワンピース型の服とそれに取り付けられたマントに身を包んだ少女がいた。

 

端的に言うと、ステッキ片手に魔法少女に転身を果たしたイリヤだった。

 

「そりゃあんな脅迫状出されたら………ねぇ?」

 

「ん?なに?」

 

「いえなんでも…………」

 

脅迫状、と聞いても凛は眉ひとつ動かさない。

無自覚なのか或いはそういうのに慣れてしまっているのか、どちらにせよマトモとは言い難いだろう。

だが魔術師などにマトモを求めてはいけない、というのはある意味その世界では常識であるのだがイリヤがそれを知るはずもなかった。

 

先日自身の平和を風神のように荒らして帰った人のその様子を見て、凛に対する印象を理不尽な人から危なそうな人に変化させた。

 

「ってかなんでもう転身してるのよ。その格好で歩いてきたわけ?」

 

「うっ…………いや、それは」

 

『さっきまで色々練習してたんですよー。付け焼き刃でもないよりはマシかと』

 

今頃羞恥心を思い出して顔を紅潮させる主に変わって、ルビーが事情を説明する。

 

だが練習、という名目を差し引いてもどこからどう見てもコスプレにしか見えないこの衣装で小学生が夜の街を彷徨いていたら警察官による補導は確定だ。

それを考慮していない辺り、イリヤもこの非日常に毒されてきたということだろうか。

 

ルビーの言葉を聞いた凛は、意外そうな顔をした。

 

半強制的にこちらがわに連れ込まれたというのに、ちゃんとこの現実を受け止めていることに驚いたのか。それともそんな恥ずかしい格好を受け入れていることに驚いたのか。

凛が先ほどの言葉をどう取っているかはわからないが、どちらにせよイリヤが凛の脳内で言われようのない評価を受けていることに変わりはなかった。

 

「へぇ、その成果は?」

 

『とりあえず基本的な魔力弾射出くらいなら問題なく。あとの動作はまぁ………タイミングと気合いでどーにかなるでしょう』

 

「なんとも頼もしい言葉なこと……」

 

余りに適当なルビーの言葉に頬をひくつかせながら、凛はイリヤに目を合わせた。

 

「正直……かなり不安ではあるけど、今はあんたを頼るしか他にないわ。準備はいい?」

 

その言葉に、イリヤは凛の眼差しに対抗するようにしっかりと目を合わせて力強く頷いた。

 

その様子に納得するかのように凛は不敵に笑い、校庭の中央に歩を進める。

 

「カードの位置は特定済みよ。この校庭のほぼ中央……歪みはそこを中心に観測されてるわ」

 

人気のない校庭。

目を向ければ、クラブ員が片付けをサボったのかサッカーゴールとボードが置かれている。

 

しかし、それを除けばおかしなところは何もなくイリヤは首を傾げた。

 

「中心って………なにもないよ?」

 

ここにはないわ(・・・・・・・)。カードがあるのはこっちの世界じゃないのよ。ルビー!」

 

『はいはーい』

 

要領を得ない凛の言葉にさらに首を傾げるイリヤを放置して、ルビーは応じに答えて術式を発動した。

 

『それじゃいきますよー』

 

瞬間、小型の魔法陣がイリヤを中心として展開される。

そしてそれに驚く間もなく、今度は魔力の充填される音と共に陣が光を発し、闇夜に落ちた校庭を照らし始める。

 

『半径2メートルで反射路形成、境界回廊一部反転します!』

 

「えっ!?な、なにするの?」

 

カードのある世界(・・・・・・・・)に飛ぶのよ」

 

いきなりの出来事に言葉を失い、凛に問いかけると彼女はそう返した。

 

カードのある世界……?それじゃまるでこの世界じゃないみたいな言い方じゃーーーー。

 

脳内の疑問を感じ取ったのか、凛はさらに言葉を続ける。

 

「そうね。分かりやすく言うなら……無限に連なる合わせ鏡。この世界をその像の一つとするならば、カードのある世界は鏡面そのもの(・・・・・・)

 

魔法陣が臨界点に達したとばかりに、先ほどとは比にならない輝きを放出する。

 

 

 

ーーーーそして、それは突然イリヤに襲いかかった。

 

 

 

自分の肉体と精神が乖離するかのような言い知れない違和感(・・・)

 

先ほど凛は、この世界が数多ある内の像の一つと言い、これから移動する世界が鏡面そのものだと言った。

 

なるほど確かにその言葉は適切だ。

五感が、意識が、心がズレる。まるで別世界に投射されるように。

 

こことは別の場所に引き込まれる感覚。そんな得体の知れない感覚がようやく消えた時。

 

「鏡面界。そう呼ばれるこの世界にカードはあるわ」

 

イリヤはまったくの異世界に足をついていた。

 

「な、なに………ここ……」

 

突然のことで動揺が混じった声音でそう漏らした。

 

イリヤがいるのは、確かに先ほどまでと同じ場所だった。だがそれがあまりにも異質だった。

 

穂群原高等部の校庭。

片付けられてないサッカーゴール。

代わり映えしない、少しガタが来てそうな校舎。

固く閉じられた校門。

 

まったく同じ光景。

しかし漂う雰囲気は違う、最早別物に変化している。

 

1秒前まで吹いていた暖かく心地よい風はすっかり消え去り、身も凍えるようなモノに成り代わってしまっている。

 

空は碁盤のようなマス目が存在していて、背景には澄んだ夜空は無く、ただひたすらに黒がブチまけられたドロドロとした空が果てしなく広がっていた。

 

「ここが………鏡面界」

 

何もかもが異質で形取られている。そこにイリヤの知る風景など欠片たりとて存在しない。

 

だが目を見開いて呆然とするイリヤに対し、凛は極めて冷静であった。

 

「詳しく説明している暇はないわ。カードは校庭の中央!」

 

名前通り、凛とした声に現実に引き戻られる。

 

目を向けた校庭の中央には、黒い亀裂のようなモノが不気味な黒い霧を垂れ流しながら浮かんでいた。

 

まだ完全に我を取り戻しきっていない主を心配したのか、檄を入れるように手にもたれたステッキは、

 

『構えてくださいイリヤさん、来ますよ』

 

真剣な声音でそう言った。

 

1日と短い付き合いだが、普段おちゃらけたルビーがこんな真剣にモノを言うということは、きっとそういうことなのだろうと考え、ひとつ深呼吸を入れて意識を変えた。

 

その直後、黒い亀裂が一際多く霧を排出した。

同時に手が這い出る。そして腕、胴体、頭といった順に次々と全貌がはっきりと見えてくる。

 

 

 

ソレを見た瞬間、思わず後ずさりした。

 

 

 

ーーーーそれは異様な姿だった。

紫の長髪に、ピッタリと体に張り付いた闇のように黒いボディコン。

 

極め付けは、異質さが数段増す気味の悪い眼帯。それも両目をおおいかくすほどの大きさだ。

 

ソレ(・・)は明らかに人間ではないと、イリヤは直感的に感じ取った。

 

「報告通り実体化したわね………。来るわよ!!」

 

それが合図だと言わんばかりに、ソレは足に溜めていた力を解き放ち、こちらに低く跳躍してくる。

そして手に持った、先端に短剣のついた長い鎖をこちらに向けて一閃した。

 

『避けてくださいイリヤさん!』

 

咄嗟にルビーの言葉に従い、横に跳ぶ。

 

刹那、剣の当たった場所がズドンと体に響く異音を発して爆散した。

 

空に舞う土塊と砂埃。それが晴れた先にあったのは大きく抉れた1秒前まで自身が立っていた地面。

 

ショベルで掘られたように大きく陥没した地面を作り出した鎖剣を見て、イリヤは小さく悲鳴を漏らした。

 

その間にも、黒い影は地に埋もれた剣を引き抜き、次の一撃にて完全に敵の命を刈り取るーーーー!

 

Anfang(セット)ーーーーッ!」

 

そのコンマ秒前に、凛が先に動いた。

黒髪を空に靡かせる姿の手には、3つの赤い宝石がそれぞれ指の間に挟み込まれてその色と同じ輝きを発している。

 

「爆炎三連弾ーーーーッ!!」

 

放られた宝石。

その一つ一つが申し分のないほどの魔力を術者から受け取り、主の言葉を起爆剤とした。

 

赤い宝石は敵に着弾した瞬間、自身に込められた術を解放する。

 

弾ける炎と闇を照らす火花が空に咲く。

空気を媒介としてさらに燃え上がる三つの華は、ある程度離れていたイリヤの肌すら軽く炙るほどの火力。

 

倒せないはずがない。

 

 

 

ーーーーーーそう、普通ならば(・・・・・)

 

 

 

「ーーーーーーーーーーッ!?」

 

凛が息を飲む。見開かれた(まなこ)は驚愕に彩られ、信じられないようなモノを見たような表情だ。

 

そして、それはイリヤも同じだった。

 

突如風切り音が鳴り響く。

爆炎の奥に見える影は、手に持つ鎖剣を引き絞り、無音の気合と共に炎熱を切り裂いた。

 

「……………………」

 

一言で言い表すのなら"無傷"。

 

影を纏ったソレは、何事もなかったかのようにゆらりと幽鬼かごとく姿を現した。

 

服にも、肌にも、髪にすら焦げ跡は見当たらず、そればかりか煤の一つすら見受けられない。

 

効かなかった、どころのコトではない。

あれではまるで無力化されたかのように、ソレはただそこに在った(・・・)

 

ソレを見た凛は、ただ納得したかのように頷いて、

 

「ーーーーやっぱり魔術になると無効、か。高い宝石だったのに、アレ」

 

初めから分かっていたかのように気まずげに笑った。

 

そして一瞬イリヤの方を向き、

 

「じゃ後は任せた!わたしは建物の中に隠れてるから!!」

 

丸投げするかのごとくそう言い放ち、神速で校舎の影に避難した。

 

「って、えぇ!?丸投げ!?」

 

『イリヤさん!二撃目、来ます!!』

 

ルビーの声で咄嗟に横に回避。そして又しても真横スレスレで空を切る剣。

 

その非現実的な光景についぞイリヤは天に祈りそうになった。

 

「(なんでわたしがこんな目にーーー!?)」

 

『イリヤさん、接近戦は危険です!一旦距離を取ってください!』

 

「そうね!距離を取りましょう距離!!」

 

迫る第三撃。それを交わし、敵と交差するようにイリヤは全力ダッシュで敵から離れた。

普通の小学生にしてはズバ抜けている走力で、距離を取りながら空に慟哭のように叫ぶ。

 

「た、戦うってホントーに戦うんだねっ!冗談だと思ってたよどんなファンタジー、これ!?というかあの剣怖すぎ!!」

 

最早恐怖を通り越して笑いが出る。

人間、恐怖のピークが来ると失禁や絶叫をよくドラマでは上げているが本当に怖いときは笑う、ということをイリヤは深く理解した。

 

『落ち着いていきましょう、イリヤさん!とにかく距離を取りつつ魔力弾を打ち込むのが基本戦術です!チキンとか芋云々言われようとも勝ったもん勝ちなんです!とりあえず散弾をイメージしてください!」

 

「さ、散弾!?え、えーと、ショットガンみたいな?」

 

『乙女が銃器を想像するのは魔法少女的にどうかと思いますが、状況が状況なんで構いません!攻撃のイメージを込めてステッキを振ってください!』

 

「りょ、りょーかい!!」

 

ステッキ(ルビー)をグッと握り直し、後方から追ってくる影をチラリと見る。

 

想像するのは散弾。

砲弾のような一撃必殺ではなく、敵を捉えるための小さく無数に分かたれた絨毯攻撃。

 

「ーーーーーーいけるッ!!」

 

イメージを脳内で固め、それ維持してステッキを影に対して振り下ろした。

 

「極大のーーーーーーーー散弾ッ!!!」

 

「ーーーーーーーーガッ!?!?」

 

掠れた声だが、確かに声を聞いた気がした。

 

影から漏れた声が耳に届くとほぼ同時に、空中に現れた数えるのもバカらしい弾丸はイリヤの想像通りの軌道を描き、地に落ちる。

 

鼓膜が破れそうなほどの着弾音に、空に巻き上がる砂埃。

 

 

ーーーーーー確実に仕留めた、そう思い油断したのがいけなかった。

 

 

ここは戦場、敵の亡骸を見るまでは油断など言語道断だ。それをまだ幼い彼女は分かっていなかった。

 

緊張で張り詰めていた糸が切れる。恐怖で強張っていた体を弛緩させ、一息ついたその刹那。

 

『まだですイリヤさん!!敵はまだーーーー』

 

ルビーの悲痛な声と共に、埃の中から飛び出る鎖。

 

その先端の剣は間違いなくイリヤに向かっていて。

全身の緊張を解いたイリヤには避ける術がなく。

その剣がイリヤを貫くことは道理だった。

 

 

 

ーーーーーーしかし、それを()は許さなかった。

 

 

 

霧が濃く舞っている校庭を切り裂く一迅の風。

 

何かの泣き声にも聞こえる風切り音を鳴らし、それはイリヤの真横を後ろから通過した。

 

「ーーーーーーえ?」

 

響く金属音。

 

コンマ秒前までイリヤを貫こうと大気を切っていた剣は、後方から飛び出た一本の矢に弾かた。

 

地に落ちる剣。

イリヤを守った矢は剣を弾くと、役目は終えたとばかり蒼い燐光を散らし虚空に消える。

 

「ーーーー嘘」

 

校舎の影に隠れていた凛が、思わず声を漏らす。

 

矢が飛んできた方向。校舎の屋上に視線を合わせた彼女を待っていたのは。

 

 

 

「二人目の、英霊ーーーーーーーッ!?」

 

 

 

紅い外套を纏った白髪の男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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