「っくそが!どんどん増えてやがるぞ!一体何なんだ!?」
「いい!構うんじゃない!進路の邪魔になるモノだけを選別して押し出すんだ!!」
「足を止めるんやない!止まったら死ぬで!!」
「木の根や押し出したゾンビに足を取られないように気を付けろ!取られて転んだら死へと転がり落ちるぞ!!」
トレインしている大量のゾンビ達に追い掛けられる中、様々な怒号が飛び交いながらも全員が足を止めずに走っていた。
「唯一の救いは疲労とかで足が止まらないで済むって所だな!」
エギルが気を紛らわせるように声を上げた。
「それよりもアレって人間じゃないぞ!」
そんなエギルの言葉に苛立ったのか、今の状況に対してプレイヤーの1人が声を荒げた。
「ゾンビっていうモンスターなんだから当たり前だろ!」
そんな言葉に別のプレイヤーが苛立ち、当然の事を言うなと声を荒げる。
「そうじゃなくて!普通ゾンビは人の死体だろ!アレは人じゃなくて二足歩行できる何かの死体だぞ!」
「どういう事か説明してくれないか!?」
変だと思ったリンドが詳細を求めた。
「次にゾンビを押し出す時にゾンビの腕や足を見てくれ!蛇みたいな鱗がビッシリ生えていやがるから!」
進路上のゾンビを2人のプレイヤーが腕や大腿部を注意して見ながら押し出した。
「言ってた通り蛇みたいな鱗がビッシリ生えていました!人では考えられません!」
DKBのメンバーがリンドに報告する。
「この宝玉を渡してきた化け物にも鱗が生えてなかったっスか?」
最後尾のジョーが同意を求める様に問い掛けた。
「そういえば生えていたような・・・・こいつ等はアレの同類って事かよ?」
「見ろ!光が見えてきたぞ!考察は出てからにしよう!」
リンドが指差すさきには、外の光が薄暗い迷宮区に射していた。
「おい?近づいてるのに入り口の大きさが小さくなってねえか?」
集団の中間当たりを走っていたが、頭一つ大きいエギルが目を細めながら呟いた。
「そんな!?まさか木の根が入り口を塞ごうとしているのか!?」
「いや、大丈夫だ!塞ぐスピードはゆっくりだ。この速さなら塞がれる前に抜けられるぞ!」
エギルの言葉は焦燥に陥りかけたプレイヤー達を安心させた。
「それは最高っスね!!つまり、何か起これば間に合わなくなるって事でしょ」
レザーマスクの中を見なくても分かるほど、隠しきれずに笑みが零れていた。
「何を言っとんね「ああっ!?」なんやあっ!?」
その言葉を聞いたキバオウが最後尾を走るジョーへと首を向けた瞬間、顔の横をソードスキルの輝きに包まれた何かが通過して、先頭付近に居たフルプレートのリーテンの足元を弾いた。
フルプレートゆえにゾンビを押し出す役割をしていたリーテンは終わりが見えていた事で油断しており、足元の衝撃に対応できずバランスを崩して転倒し、後から続いていたALSのメンバーが将棋倒しのように転倒した。
「ひゃっはあああ!!上から失礼しますよっと!!」
モノの見事に成功した事にジョーは嬉しさの余り奇声を発しながら転倒したプレイヤーを足場に先頭へと躍り出た。
「あ・・ああああ!!りっちゃあああん!?」
転倒したプレイヤー達へと近づいてくるゾンビ達、その光景を見て難を逃れていたDKBのメンバーの1人が助けにいくように進行方向を変えた。
「シヴァタ!?」
集団の中間当たりで援護していたシヴァタが突然方向転換したせいでリンドが巻き込まれて体勢を崩して転倒した。
「おっ棚ボタ!日頃の行いが良いお陰っスね!!」
その光景を見てジョーは口笛を吹きながら出口へと向かって駆け抜けた。
「あの野郎!逃がさねえ!!」
いち早く体勢を立て直したエギルは逃げ出したジョーを見て叫んだ。
「待つんじゃ!転倒した者を見捨てるのか?見捨てれば俺達チームは全員助かるかもしれんが・・・・」
ウルフギャングの言葉を聞いてエギルはチームメンバーの顔を見渡して決断した。
「聞くまでもないだろ。一緒にこの糞ったれな世界を生きる仲間を見捨てるなんて出来る訳がないよな!!」
「「「応!!」」」
入り口から射す光に背を向け、エギル達は救援に向かった。
_____________________
「なあ、いくらなんでも時間が掛りすぎじゃないか?」
リンド達が迷宮区に入って一時間と少し、モンスターの系統を見極めるだけと説明を受けていたプレイヤー達は迷宮区の前で待っていた。
「もしかしたらフィールドボスみたいなトレント系が何体も居るんじゃないのか?アレを倒すのは時間が掛るし」
「マジかよ、軽装備の俺達は耐久力ないし不利なんだよ。今回の迷宮区には入れないかもしれないなぁ」
そんな事を言いながら話し合っていると入り口でリンド達を待っていたメンバーが焦った様子で掛け込んできた。
「早く来てくれ!迷宮区の入り口が閉じかけている!!」
「な、何だって!?」
驚愕に染まった声を上げながら入り口へと向かうと既に半分ほどが無数の木の根で塞がれていた。
「くっ!切れ!全員で木の根を切るんだ!!」
既に何人かは木の根に武器を振るっていたが、ソードスキル無しだと一本切るのにも時間が掛っていた。
「くそっ!ソードスキルを使っても技後硬直してる間に他の枝が塞いでやがる!」
段々と塞がっていく入り口に抵抗しながらもどうしようも無いと諦めかけた時に迷宮区の中から何か叫び声が聞こえた。
「何だ!?中で何が起きているんだ!?」
リンドを呼ぶ声やキバオウを呼ぶ声はすれど、何が起きているか分からない恐怖で誰も迷宮区の中に入ろうとはしなかったが、せめてもの抵抗で塞ごうとしている木の根を切っていた。
「良かった!間に合ったっス!!」
入り口が塞がれる直前で中に入ったメンバーの1人が跳び出してきた。
「ジョー!一体何がどうなっているんだ!?キバオウさんは?他のメンバーはどうしたんだ!?」
「た、大量のモンスターが発生して撤退していたんスけど、逃げ切れなくて軽装備で一番早い自分が救援を呼びに」
ジョーは息を荒げながら入り口の塞がった迷宮区を指差す。
「まだキバオウさん達は中で戦っているのか!?」
再び何人かが入り口を塞いでいる木の根へとソードスキルを叩きつけるが、一本や二本切れるが複雑に絡み合った木の根は断ち切れなかった。
「そんな、このままじゃ・・・・」
ビクともしないのを見てプレイヤー達は絶望したように空気が重く圧し掛かった。
「そこを退きなさい」
その声は重く圧し掛かっていた空気を切り裂き、聞いた者は全て従ってしまうほどの覇気が溢れていた。
「え、あ・・アンタはビーターのっ!?」
そんな男の言葉は顔の横を通過したレイピアによって止まった。
「退きなさい」
振られたレイピアはバッサリと木の根を切り裂いていた。
「ひやぁっい!!」
日に当たりキラキラと輝く深い黄金色のロングヘヤーが躍る様に激しく動き出す。動きに合わせてリズムよくレイピアが振られていき入り口を塞いでいた木の根がズタズタに引き裂かれた。
「はあっ!!」
一拍溜めて放たれたソードスキルの突きにより引き裂かれた木の根がバラバラになって弾け飛んだ。
「アレね」
奥でソードスキルの燐光を見つけると同時に凄まじい勢いで駆け出した。
「へ?」
自分達の背後から消えた筈の外の光が戻った事に驚いたプレイヤーが振り向くと、その横を凄まじい勢いの何かが通り過ぎ、呆けた声が出てしまった。
通り過ぎた何かを追うように視線を戻すと近づいていた三体のゾンビが一瞬でポリゴンの欠片に変わっていた。
「全員無事?」
その凛とした声と姿に見惚れていたプレイヤー達。その中で一番会った回数が多いエギルが一番先に我へと帰った。
「あ、アスナ?」
しかし、今までの雰囲気とは明らかに異なっていた。年相応の女の子らしさを微塵も感じさせない姿。
言葉にするのなら___
薄暗い迷宮区の中でも輝きを放つ髪が躍るたびにゾンビ達がポリゴンへと変わっていく。
「___攻略の鬼___」
その言葉は誰にも届かなかったが、全員の頭の中に浮かんでいた言葉。
「なんだ、この程度なのね。いや、この武器があればこそ・・・・か」
少なくとも五十はいた筈のゾンビ達は五分も掛らない内に全て倒され、アスナは足りないと言わんばかりにため息を吐いた。
「入り口を塞いでいた木の根は切り払っておいたわ。今の内に撤退しなさい」
「あ、ありがとう。アスナ君には礼を「いらないわ」ど、どうして・・・・!?」
リンドの言葉にアスナは直ぐに拒絶した。
「必要無いからよ。何か返したいと言うのなら一刻も早く攻略を続けて。ソレ以外何もいらないから」
一方的に宣告した後、アスナは振り向きもせずに奥へと歩を進め始めた。
「ひ、1人で行く気かい!?相方のブラッキーはどないしてん!?」
キバオウの言葉にアスナはピクリと反応したが、それ以上の反応は無かった。
「コンビは解消したの。その方が効率がいいから」
「な、なおさら1人じゃ危ない僕達と一緒に「必要無いわ」なっ!?」
リンドの誘いにアスナは首だけを向け
「私より弱い人に隣や上に立たれたら邪魔で仕方ないから」
誰もが見惚れる笑みと共に放たれた言葉は、何処かで聞いた覚えのあるモノだった。
「それじゃボス攻略会議で会いましょう」
そう言ってアスナは奥へと進んでいった。
もう誰にも止められなかった。
_____________________
「__ということが、あったらしいのサ」
細かく刻んだ肉と野菜を一緒に炊いた飯物、野菜などを薄い皮で巻いて焼き上げられた物、肉と野菜を薄い皮で包んで茹で上げ皿に並べた煮物、茹でたエビのようなザリガニのようなモノを生地で包んで焼き上げた物、冷たいスープに茹でた麺を入れた汁物と色鮮やかな料理がテーブルに並んでいた。
並んでいたのだ。
それらは1人によって凄まじい勢いで食べられ無くなっていき、手にした飯物が入っていた皿を置いた時にはテーブルの上は空の皿だけになっていた。
「色々とズレている気がしたけど、圏外にいる時の食い物に比べたら天と地ほどの差があるな。やっぱり調味料が塩の一つもないとなると厳しいか」
食い終わって食後のお茶を啜りながら今後の事について真剣に考えていた。
「久しぶりの飯だって事は理解しているが、オイラの話はちゃんと聞いていたカ?」
金褐色の髪の女性プレイヤーが呆れながらお茶を啜っているプレイヤーを見た。
「うーん、お茶も何か違和感を感じるな。何だコレは?ほうじ茶でもないし玄米茶でもないし、何で微かにウーロン茶の味もするんだよ?」
「聞いているのかフワっち!!アーちゃんが心配じゃないのカ!?」
女性プレイヤーは呑気にお茶の事で首を傾げているフワに腹を立て、テーブルを強く叩いた。
「あ、はい。中々おいしかったですよアルゴさん」
キョトンという擬音が似合う顔をしてフワがアルゴへと向き直りながら見当違いな事を口にした。
「ちぃがぁうぅ!!フロントランナー達が逃げ帰って来た迷宮区に1人で入っていったアーちゃんが心配じゃないのカ!?って聞いてるんダ!!」
ぜーぜーと息を荒げながらアルゴはフワを問い詰める。
「ああ、その事ですか。大丈夫なんじゃないですかね、アレは見境なくプレイヤーを襲う訳じゃなさそうですし」
言い終えたフワは再び怪訝な目で手にしたお茶を見る。
「アレ・・・・って事は!」
話を一瞬だけ切ってフワのお茶を無理やり奪い
「中に入ったプレイヤー達が見た化け物を、フワっちは知ってるという事だナ」
真剣な面持ちで情報のやり取りを求めた。
「まあ知ってると言えば知ってますけど、知らないと言えば知らないですね」
どっちとも取れないフワの答えにアルゴは怒りの四つ角が立ちかけた。
「情報は出来る限り正確に、その違いで誰かが死んでしまう。コレはフワっちの言葉だったよな」
「そういえば言ってましたね。なら、だからこそって部分もあります」
フワの言葉にアルゴは考えるように目を閉じて一呼吸置いてから口を開いた。
「フワっちが自分の利益の為だけに情報の独占をするとは考えずらいナ。どういう事か教えてくれないカ?」
『つい最近、自分の為だけにホントの事を話さなかった事があったけど・・・・黙っていよう』
アルゴの真摯な眼差しで見られた事により、フワは悪戯がバレていない子供の様な心境になった。
「ソードスキルを使わず圧倒的膂力に任せて剣を振り回すか、武器を捨てて獣のように爪等で襲いかかって来るのどちらかなんですけど・・・・」
フワは右頬を掻きながら気まずそうな振りをして目を逸らした。
「なんですけど?」
そんなフワの仕草が演技だと見破れなかったアルゴはフワが何かミスをしたと感じて声を掛けた。
「一度完膚なきまで叩きのめしているんですよ。その後、クエストの関係で取り逃がしてしまいまして・・・・次からは戦い方を変えて来るのではないかなぁと、例えばソードスキルを使ったり・・・・とか」
その言葉にアルゴは納得したように頷いた。
「確かに中途半端な情報はかえって危険になるかもナ・・・・なら戦ってみて何か弱点とかは無かったカ?」
「あー、フルプレート装備をして高速移動するモノだと考えて下さい。生半可な攻撃は全て無意味です。やるなら斬撃系よりも打撃系の攻撃の方が有効だと思います」
これくらいですかね。とフワは話し終えて近くにあった湯呑を取り中身を啜った。
「あ・・・・!?ソレはオイラの・・・・」
小さく悲鳴を上げたアルゴは何かを抗議するように小さく呟いた。
「はい?ああ、これ・・・・」
フワはアルゴの様子を見て自分が何をしたか理解した。
「失礼、また何かで返しますから勘弁して下さい」
飲み切ったフワは食事代を払って席を立った。
「・・・・乙女の唇は高いんだゾ。覚悟しとくんだナ」
そんなフワの様子を見て、アルゴは不満気に頬を膨らませて批難するように呟いた。
「怖や怖や、何を要求されるか分かったモノじゃないですね」
フワは笑みを浮かべながらアルゴの非難めいた視線から逃げるように店を後にした。
「どうなるかはフワっちの態度次第だナ」
そう言いながらアルゴはフワの横に並んだ。
「とりあえず、アルゴさんから防具屋の情報でも買わせて貰おうかな」
コレぐらいで足りますか。と言わんばかりにフワはコルが提示された画面をアルゴの前に出した。
「むー、これほどの額を提示されたらアフターサービスもしなくてはいけなくなるナ」
「はい。よろしくお願いしますよ」
フワとアルゴは2人横に並んで街中を歩いて行く。
ジョーはアスナが木の根を切り裂いたのを見て、すぐに逃げ出しました。
ちなみにパーティ内の誤射扱いになり犯罪行為には当たらずオレンジにはなりませんでした。
余談ですが、サブタイは"怒りの四つ角"とどっちにするか迷いました。