___2023年2月6日___
日が傾き、視界がオレンジ色に染まり、またゲームの中で日が過ぎていく、そんな感傷を破る報告が上がった。
《第九層のボス部屋を発見!!今日の午後5時からルートオブトゥリーの中央広場にて攻略会議が開催!!》
新聞の号外の様に複数のプレイヤー達が配っている《アルゴの攻略本》に記載されていた内容。
その内容を見たプレイヤー達の反応は様々だった。
死の恐怖に怯える者達は少しでも早く解放されるかもと喜び、早く解放されたいと期待をする。
攻略組といかないまでも自分達のレベルを上げ、いつかは攻略組の一員にと考えている者達は攻略スピードに焦り、自分達の前を走っているプレイヤー達に憧れを抱く。
そして現実を知っている攻略組の者達は顔を青ざめていた。
対策をキチンと取れば進めるが、それでも攻略組の中でも精鋭中の精鋭達が全滅しかけた迷宮区。
ソレをたった1人で、僅か一日と少しで突破した
___攻略の鬼___
誰が広めた訳でもないが、既に攻略組の中で知らないものは居らず、実際に見た者も見なかった者も全員が恐怖を感じていた。
「言ってた通り、問題無かったでしょ」
《アルゴの攻略本》を配り終えたフワは、同じように配り終えて一息吐いているアルゴへと苦笑した。
「その通りだったナ。それにしても急ぎ過ぎな気もするんだガ・・・・」
タダでマップ情報を渡す代わりに今日中に攻略会議を開いて欲しいと告げた《攻略の鬼》と呼ばれている女性プレイヤー。
以前会った時と余りにも変わった彼女の姿を頭に浮かべたアルゴは心配そうに溜め息を吐いた。
「何であんなに変わってしまったんダ?教えてくれないカ?」
隣に座っているフワへとアルゴは問い掛けた。
「確信してる言い方ですね。普通ならキリトに聞くんじゃないんですか?」
普通ならカルマ浄化クエストをしていたフワに、アスナやキリトと接点があるとは考えずらい。フワは確信しているアルゴに疑問を抱いた。
「簡単な事ダ。アーちゃん自身が言ったんだヨ「フワさんとフレンド登録してましたよね。この事を知らせて貰ってもいいですか?」ってナ。号外を配るのを手伝ってくレ、なんて送ったけど誰よりも先に教えたのはアーちゃんが言ったからサ」
アルゴの話を聞いたフワはクスリと小さく笑った。
「・・・・まったく、褒められるのを待つ犬みたいな事を」
何処か呆れながらフワは呟いた。
「もちろん聞いた話を売ったりなんかしない。ただ、友達とも呼べる存在が人が変わったかの様に変わってしまった。知らないでなんか居たくないんだ」
頼む、とアルゴは言いながらフワへと縋りつくように言った。
「簡単な話です。現実世界とゲーム世界の区別を付けただけですよ」
__ほら、簡単な話でしょう?__
そう言いながらアルゴへと微笑んだフワの顔にアルゴは鳥肌が立った。
男だと理解しているが、その微笑みは余りにも完璧に作り上げられていて性別を忘れて見惚れるモノであり
「どうもアスナはリアルに対して思う所があるみたいで、リアルに対して思う所がある分、この世界に思う所がある。だから変わったのだと思いますよ」
人の心を弄ぶ悪魔の様な微笑みだったから。
「さてと、配り終えた事だし宿に戻りますね」
大きく伸びをしながらフワはアルゴに言った。
「え?こ、攻略会議に出ないのか?」
そんなアルゴへとフワは顔だけを向け口を開け
「あれ?情報屋ともあろう人が知らないなんて言わせませんよ。第一層のボスを倒した後、俺が何をしたかを・・・・」
何かを思い出しながら薄ら笑いを浮かべたフワにアルゴは背筋を凍らせた。
「という訳です。まさかアレが攻略組を率いるリーダーの1人になっているなんて世も末ですね。ま、世と言ってもゲームの世界なんですけど」
可笑しなモノを見るようにフワは薄ら笑いを浮かべたまま宿へと向かい出すが、ふと何かを思い出したように足を止めてアルゴへと向き直った。
「そうそう、アスナに伝えといて貰っていいですか?」
「な、何をダ?」
いつの間にかフワの笑みは何処か優しさを感じる親の様な微笑みに変わっており、アルゴは何とか平静を取り戻した。
「新しい得物に振り回されるなよって」
アルゴの頭では《攻略の鬼》としての情報が巡っていた。
「ああ、分かっタ」
「これで100コル分の情報は渡せましたか?」
情報の整理で固まっているアルゴを見て、フワはからかう様に言ってから今度こそ宿へと向けて歩き出した。
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午後5時になり、何処か緊張した面持ちのプレイヤー達が中央広場に集まっていた。
「・・・・予定していた時刻になったようだね。始めて貰ってもいいかな?」
リンドが遠慮がちに口を開いてアスナに開催を促した。
「・・・・・・・・」
アスナは無言のまま周囲に目を配っており、周囲のプレイヤー達は何かを警戒しているように見えていた。
「・・・・はあ、とりあえず場所を移動しましょうか」
周囲の確認を終えたアスナは唐突にそう言った。
「はあ?此処に集めといて始める前に場所を変えるやとぉ?」
その言葉にイライラしていたキバオウは文句を言いだした。
「ホントに・・・・あの人の言っていた通りね・・・・」
その反応にアスナは呆れた様に額に手を当てながら、小さく呟いた。
「何を言っとんねん?しっかり話さんかい」
「口を開かないで貰えますか?オレンジを仲間にしていたALSさん。つい先日そのオレンジが何をしたのか忘れたんですか?」
容赦のないアスナの言葉にキバオウは何も言えずに視線を逸らした。
「最近、オレンジ達の活動が活発になっています。その為、不測の事態に陥りやすいボス攻略、その会議は本当に選ばれた人達しか参加できない様にしたいのです。何も犯罪者達と情報の共有をする必要はないですよね?」
疑問口調に話しているが、そこには自身の確信と誰にも反論できない絶対の意見だった。
「と言う訳で、各リーダーは絶対に信用できる者を3人まで選んで来てください。その後で場所を変えて攻略会議を始めたいと思います」
リンドとキバオウは急いで戻り、仲間達に説明をして誰を連れていくか決め始めた。
「アスナ・・・・」
《攻略の鬼》に相応しい姿のアスナを見てキリトは不安そうに呟くとアスナがキリトを見つけて近づいた。
「君は私と一緒に入って貰うわ。後は知識量があるアルゴさんともう1人・・・・」
アスナはそう言いながらアルゴにメッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。
「・・・・アルゴさんは立場上仕方がないとしても・・・・」
返事の内容を見たアスナが露骨に機嫌を悪くした。
「・・・・フワのことか?」
アスナの様子を見て察したキリトはアスナに問い掛けた。
「ええ、彼の理由も仕方がないと言えば仕方がないけど・・・・」
そう言いながらアスナはリンドの居る方を睨みつけた。
「あの人達と彼、どちらの方が有能かしら。私は問う必要性を感じないのだけど」
「そ、ソレは流石に駄目だって!いくらフワでも1人なんだし、今回のボス攻略は人数が必要なのかもしれない、此処で露骨に敵を作らない方がいい」
そんなキリトをジロっと見たアスナはため息を吐いた。
「まあ、協力しないとは書かれてないし。いざとなったら無理やり引っ張ってくればいいか。その時は君も協力しなさいよ」
キリトは安堵しながら首を縦に振った。
「どうやら決まったみたいね。アルゴさんに紹介された店で始めましょうか」
此方に近づいてくる人達を見てアスナは動き始めた。
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質素な作りだが、二階をまるまる貸し出され大きなテーブルを囲むようにプレイヤー達が集まった。
「それで偵察はどないすんねん?」
まだ不機嫌そうな顔をしたキバオウがボス部屋を見つけたアスナへと問い掛けた。
「既に私と隣の彼はボス部屋に入ったわ」
その言葉に周囲がざわざわと騒ぎ出した。
「またラストアタック・ボーナスを独り占めする気やったんか?」
その反応を代表するかのようにキバオウが批難を始めた。
「今の私にはどうでもいいモノね。そんなにアレが欲しかったら自分達だけで挑んだら?」
アスナは心底どうでもいい風にしながら逆に挑発をした。
「そ、それよりも!ボス部屋に入ったが、ボスが出てこなかった。部屋の中は大部分を占領するように大きな木が立っているだけだった」
「ボスがいない?その大きな木がボスでは無かったのかい?」
キリトの言葉を確認するようにリンドが問い掛けた。
「ああ、HPバーも無ければカーソルもなかった。オブジェクトの一種かと思ったんだが・・・・」
その内、リンドに連れられたプレイヤーの1人が口を開いた。
「我々が受けたクエスト関連でボスに関する情報は今のところ上がっていませんでした」
話を聞いていたALSのプレイヤーの1人も首を横に振った。
「私達の方でもボスに関する情報は無いですね」
「クエストって言ったらアンタ等が受けていたキャンペーンクエストはどないやねん」
思い出したようにキバオウが訝しげな目を向けながら2人に向けた。
「オレンジ達の襲撃を受けて滅茶苦茶になった。まあ、ある人の協力を受けて何とか丸く治められたから心配ないわ」
事もなげにアスナが言い放ち、誰も二の句を告げられなくなってしまった。
「化け物に渡されたっていう《紅蓮の秘鍵》が文字通り鍵になってるんじゃないでしょうね」
ジョーを逃がしたキバオウをアスナが何処か批難するように見た。
「いや、ソレはないと思う。アレは持っている者に本来の持ち主が力を与えるモノだからアレ自体が鍵にはならない」
「そんなこと一体誰に聞いたのよ」
その場にいた誰よりも早く隣にいたアスナがキリトへと問い掛けた。
「あの化け物本人が話してたのを聞いたのさ」
気絶していたアスナはその時の事を思い出して悔しそうに眉を顰めた。
「そういえば、あの時も直接攻撃はしてこなかった・・・・」
あるプレイヤーがジョーに《紅蓮の秘鍵》を渡してきた時の事を思い出して呟いた。
「ボス部屋に入る人数が関係するとか他に何か条件があるのかもしれない」
「それなんだがよ。迷宮区前のフィールドボスを倒した時のラストアタック・ボーナスで出たアイテムを見てくれ」
そう言って手を上げたエギルに全員の視線が集まるとエギルはストレージから《ブランチ》を取り出した。
「アイテムの説明欄に聖樹(PT)と書かれているんだが、そのボス部屋にあった大きな木が聖樹じゃないのか?」
キリトとアスナは少し忌々しく思いながら、あの場所を思い出していた。
「アレも聖樹の一部だったりするのか?そうならパーティ1つだけで攻略をすることに・・・・」
「それならβテスト時のボスは何やったか確認した方がエエんちゃうんけ?」
そんなキバオウの言葉にキリトが答えた。
「βテスト時は《スァクティ・ザ・リザード》リビングデッドで巨大なワニみたいな奴だったよ」
「強さはどれくらいだったのかな?」
リンドがキリトに確認するように問い掛けた。
「強さ自体は大した事はない。けど状態異常にする攻撃が厄介だ、解毒ポーションの用意と使用タイミングさえ打ち合わせしていればパーティ1つでも問題ないと思うけど・・・・」
キリトがエギルに目をやるとエギルは察したのか
「パーティ全員のストレージに《ブランチ》が入っていた。おそらくフィールドボスを倒した時のパーティだけが手に入れられるんだろう」
「エギルのパーティは4人、4人で攻略・・・・」
キリトは顔を青ざめさせてエギル達を見回した。
「βテストの時はそんなに強くなかったんだろ?明らかにβテスト時よりも倍以上のレベルがあるんだ。そんなに問題じゃないだろう」
青ざめたキリトを安心させるようにエギルは自身の胸を叩いた。
「そんな心配ならβテスト時のボスの挙動とか色々教えてくれ、絶対に大丈夫なくらいによ」
「・・・・分かった。後でしっかり教えるが、βテスト時と違う挙動が必ずあると思う。動きは遅いから十分見極めてから対応してくれ」
説明を始めたキリトを見てリンドとエギルも互いに話し始めた。
「今回ばっかりは互いに協力してエギルさん達のバックアップをしないか?」
「まあ、しゃあないな。あん時に助けて貰った礼がまだ済んでないしな」
リンドが差し出した手を握ってキバオウは、エギル達が自分達だけなら助かったのに助けに来てくれた事を思い出していた。
「ならボス部屋までのマップとルートは私が提供するわ。どうせタダで公開する予定だったし別にいいわよ」
近くにアスナが寄って来て2人に告げた。
「それとボス部屋までの露払いもするわ。貴方達も対策くらい出来てると思うけど、万が一があればエギルさん達にも影響が出かねないもの」
誰よりも早く、深く潜り込んでいたアスナの言葉にリンドとキバオウは頷くしかなかった。
「こんな所でモタモタしてられないのよ。
こんな世界で・・・・」
アスナは黙って窓へと近づき、窓から見える景色を視界に映してはいるが、見てはいなかった。
こんな中途半端な所で止まってしまいました。
次回から第九層のボス攻略です。
それと大して出てはいないんですが、主人公の挿絵を描いてみました。
素人の絵なんて見れるもんじゃねえ!(作者自身)
自分のイメージを壊すなボケ!(作者自身)
自分の絵を出すなんて恥ずかしくないのか!(作者自身)
全てとんでもないブーメランになって突き刺さりますが、どうも主人公のイメージが付きにくいんだよ!とリアルで言われて描いてみました。
見てもいいと言う、人達の為に活動報告の所にひっそりと載せてみます。
誹謗中傷、既に特大のブーメランを喰らっている作者ですので覚悟は決めています。
ですが、出来れば優しい反応が欲しいです。
お願いします。