シュラアート・オンライン   作:メガネザル

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デスゲームで出来る事

 

「色々あってちょっと遅れたけど始めますか」

 

時刻は午後三時前、少年は一息ついていた。

 

茅場明彦から貰ったナーヴギアの説明書を読みキャリブレーションで身体的特徴などを記録してからナーヴギアを被ったままベッドに倒れ込んだ。

 

「リンク・スタート」

 

閉じた筈の目に様々な光の群れが飛び込んでは流れていき、

最後に《Welcome to Sword Art Online!》という文字が現れて自分の分身であるキャラクター設定画面へと移った。

 

少年はキャラクターの容姿をキャリブレーションで設定したのをそのまま使う事にした。

 

このゲームは実際に身体を動かすのと変わらないから・・・・とかではなく、設定するのが面倒くさかっただけであるが。

 

次にプレイヤー名の設定に映った。

 

「・・・・どうせ、ゲームの中だけだし・・・・」

 

少年は少し悩んだ後、プレイヤー名を__Huwa__にした。

 

そして設定の確認ボタンを押すと今度は青い光が視界一杯に溢れて少年を飲み込んだ。

 

寝ていた筈のフワの身体は立った状態になり、周りから様々な音が一気に雪崩れ込んだ。

 

「・・・・これがゲームの中・・・・」

 

周囲の景色が中世のヨーロッパ風なモノで多くの人が行き合っている。

 

一通り周囲を見回した後、ようやくフワが動き出すと何か違和感を感じたのか首を傾げた。

 

『あれ?身体が重く感じる?まあ、ゲームだし完璧に再現出来てる訳じゃないのかも』

 

フワは感じた違和感を無理やり納得させて何をするか考えていると視界の端をフードを深く被った人が路地裏から飛び出すのを捉えた。

 

「うあっ!?」

 

「っとと!?」

 

ぶつかる寸前でフードを被った方が驚きの声を上げ、フワは受け止めるつもりだったがバランスを崩して一緒になって倒れ込んだ。

 

『今の・・・・身体に力を入れたつもりが普段の十分の一も入ってなかった?コレもゲームだからか?』

 

フワにぶつかって倒れたフードを被った人が頭を掻きながら身体を起こした。

 

「いやあ、すまないネ。少しはしゃぎ過ぎてて周りが見えてなかったヨ」

 

声で分かっていたがフードの中には左右の頬に三本ずつヒゲをペイントしてある女の人だった。

 

「こちらこそ、本当は受け止めるつもりだったのですがVR体験自体が初めてなモノで上手く動く事が出来なくて」

 

フワも身体を起こしながら答えるとヒゲをペイントした女の人が更にすまなさそうにした。

 

「あちゃー、ホントのビギナーに酷い事したナ。お詫びにオネーサンがこのゲームについて教えてあげるけど、どうすル?ちなみに初回サービスだから次からはしっかりお代は頂くことになるヨ」

 

フワにとっては願ってもない事だったのでアッサリと提案を受け入れた。

 

「ありがとうございます。山ほど聞きたい事があるので広場の座れる所にでも行きませんか?」

 

そう答えながら立ちあがったフワは座ったままの女の人に手を差し出した。

 

「ニャハハ、上手い事返すじゃないカ。今回だけダゾ」

 

女の人は笑いながらフワの手を取って立ちあがった。

 

「はい、俺のプレイヤー名はフワです」

 

「オレッちはアルゴ、鼠のアルゴって呼ばれている情報屋ダヨ。サービスとはいえ情報をタダで教えるンだ、これから御贔屓にしてくれヨ」

 

もちろんです。フワはそう言いながら座れる場所を探した。

 

_____________________

 

 

かれこれ二時間近く話しただろうか、フワはこのSAOというゲームの基本的な部分どころかボスの隠しデータまでも得ていた。

 

「ありがとうございます。これで大体聞きたい事は聞けたかと」

 

「よ、ようやく終わっタ。タダで教えると言った過去の自分の首を絞めたくなったヨ」

 

フワは笑いながらアルゴに向かって指を一本立てた。

 

「俺へ貸しを作ったと思って下さい。いつか必ず返しますから」

 

「期待して待ってるヨ、オレッち将来性がある少年は好きダゾ」

 

そう言って別れる寸前、周りのプレイヤー達が悲鳴を上げると次々と光に包まれて消えていった。

 

「これは転移する時の光ダヨ!一体なにが」

 

アルゴが話している途中で光に包まれると何処かに消え、次にフワも同じように光に包まれると見覚えのある広場へと移動していた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

フワの目の前には両手の指を突き合わせてモジモジしているアルゴが居た。

 

「焦った割には2、3メートル位しか移動しませんでしたね」

 

耐え切れなくなったのか真っ赤になった顔を両手で覆った。

 

「言うなヨ!凄く恥ずかしいンダ!忘れようと必死なんだからナ!!」

 

周りのプレイヤー達が不安や恐怖で騒ぐ中、この2人だけは何かが違った。

 

「え?今、ログアウト出来ないって聞こえませんでしたか?」

 

赤くなった顔を両手で隠しているアルゴにフワが懐疑的な声色で聞いた。

 

「なっ、何だって?そんなバカな話がある訳___ホントにない___」

 

「なるほど、だから周りの奴等は何かに怯えているのか」

 

あのままだと取り乱しかけたアルゴは周りから浮くフワの落ち着きようを見て落ち着きを取り戻した。

 

「ず、随分落ち着いているんだナ」

 

「ん?まあ、大丈夫ですよ。プレイヤー全員を此処に集めたんですからゲームマスターから何らかの説明があると思いますよ」

 

アルゴが頷くと上空から血のようなモノが流れ出た後、何かを形作る様に1つに纏まると20メートルはある中が空洞の赤いローブが出来上がった。

 

「アレは、βテストの時に__」

 

アルゴの呟きからフワの考えが合っている事が分かる。今から何かしらの説明が入るのだろう。

 

__プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ__

 

この言葉からチュートリアル終了までの流れで一体どれくらいの不安を、どれくらいの怒りを、どれくらいの絶望を、今ここに居るプレイヤー全員が受けただろうか。

 

その中でフワは1人だけ、笑みを浮かべていた。

 

「ああ、これが『これはゲームであっても遊びではない』って意味か」

 

その笑みはあまりにも獰猛であり、その顔はまさしく修羅と呼ぶに相応しいモノだった。

 

「大したモノだよ__天才__」

 

既に200人以上の死者を出しているデスゲームの始まりだった。

 

チュートリアルが終わり赤いローブが消えた瞬間、広場は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。

 

「ぁっ___」

 

先程のチュートリアルを信じきれないのか理解しきれなかったのかは分からないが何も言わず立ちつくしているアルゴの手をフワが掴んで広場から引っ張りながら出た。

 

「しっかりして下さい!これからどうするか考えないと死にますよ!」

 

フワがアルゴの肩を掴んで強めに揺らすと焦点の合ってなかった目が戻っていった。

 

「す、すまない・・・・でも、いきなり死ぬなんて言われテ」

 

「死ぬのが怖いのなら始まりの場所に居ればいい、それは恥じる事じゃない。」

 

『ま、正直言えば他のプレイヤーが幾ら死んでもいいけど・・・・』

 

フワの目の前には今にも死にそうな顔をしているアルゴがいた。

 

『借りがあるこの人の為に精々利用させて貰うか』

 

「ですが、貴女なら多くのプレイヤーの命を助ける事が出来ると俺は思っています」

 

言葉の意味が分かっても納得できないのか何かに怯えた目でフワを見た。

 

「貴女の持っている情報には死なない為のモノが沢山ある。ソレを多くの人に知らせる事が出来れば多くプレイヤーを救うことが出来る筈だ」

 

「で、でもどうやって・・・・」

 

「例えば死なない為の知識や助言を薄いガイドブックなようなモノに纏めて配ればいい」

 

完全にフワの言葉を理解したのか抜けていた生気が戻っていく。

 

「そして、それはきっと貴女にしか出来ない事だ。他の誰でもない、SAO内で一番の情報屋である貴女にしか出来ないと俺は思っています」

 

全てを聞き終えたアルゴは静かに震えた後、ゆっくりと立ち上がって満面の笑みを浮かべた。

 

「オネーサン煽てられたら空だって飛べるって事を見せてあげるヨ!!」

 

アルゴのそんな顔を見てフワは思惑通りいったのか安心したのかは分からないが傍から見れば優しい笑みを浮かべていた。

 

「アルゴさんは始まりの街で情報収集と持っている情報との差異を探す所ですか?」

 

「それと元βテスター達を探して一緒にガイドブックを作るつもりダ」

 

フワの質問に答えたアルゴはやる気に満ちていた。

 

「そうですか、なら俺は先に進みます。アルゴさんと一緒に居ても邪魔になると思うので」

 

アルゴは一瞬だけ表情を歪ませたが直ぐに笑みを貼り直した。

 

「__そうだナ、死ぬんじゃないゾ。まだ貸しを返して貰ってないんだからナ」

 

「ええ、誰かさんから貰った情報があります。そう簡単に死にませんよ」

 

そう言って踏み出したフワの歩が止まった。

 

「そういえば、アルゴさんはリアルの顔をそのまま使ってたんですね。可愛らしい顔立ちのままでホッしました」

 

茅場明彦のプレゼントにより、広場では女の恰好をしたモヤシみたいな男や服にフリフリをつけた図体がデカイ女が沢山いて見ているだけでも吐き気がする人外魔境になっていた。

 

「ナっ!?」

 

いきなり容姿の話をされてアルゴは驚いた。何故なら今の容姿がそのままリアルに直結しているので仕方がない事だった。

 

「それじゃ俺は行きますね。ガイドブック作成の為の資金なら幾らでも出しますので頑張って下さい」

 

今度こそ先に進む為に走り出したフワの背にアルゴは顔を赤らめたまま大きな声で声を掛けた。

 

「フワっちもカッコいいままでオネーサンうっかり惚れそうになったゾ!!」

 

フワは振り向きもせずに走っていった。

 

 

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