___2022年12月4日___
午前10時、総勢45人のプレイヤー達が和気あいあいとボス部屋へ向けて歩いている。
その中で最後尾を歩いている3人のパーティは空気がおかしかった。
「昨日、何かあったのか?」
フワはキリトと女性プレイヤーの間の空気が変で思わずキリトに聞いてしまった。
「さっさあ?昨日はスイッチやPOTについて教えたダケダヨ」
キリトの話し方が何かに怯えていて、その姿を女性プレイヤーが睨みつけていた。
「なんというか、まるで男女が風呂場で遭遇するラッキースケベにあった後のような___」
その瞬間、2人とも同時に固まり。キリトは半分意識を手放していて女性プレイヤーはフワを睨みつけていた。
「・・・・え?図星?あー・・・・お幸せに?」
顔を真っ赤にした女性プレイヤーの拳が腹に突き刺さった。
「分かった、悪かった、事故だったんだな・・・・」
女性プレイヤーは意識を半分手放しているキリトに向かって低い声で言った。
「思い出した?」
「・・・・」
無言のキリトに納得したのか1人だけ先を行くように歩き出した。
「キリト、本当に恨まれる事をするなよな・・・・」
「・・・・俺は悪くない・・・・」
憐れな男2人はゆっくりと女性プレイヤーの後を歩いた。
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誰1人欠けること無く45人のプレイヤー達がボス部屋の前に辿り着いた。
1人を除く全プレイヤーが初めてのボス戦に様々な感情を抱きながら緊張し、空気が張り詰めていく。
この中を知っているフワだけが大きな欠伸をしていると、扉の前で自分の剣を掲げていたディアベルと目が合った。
が、ディアベルは何も無かったかのように目を逸らした。
「皆・・・・勝とうぜ!!」
言いながら振り降ろすと緊張で張り詰めていたプレイヤー達が雄叫びをあげ、ボス部屋へと雪崩れ込んだ。
恐怖を誤魔化す為か鬨の声を大きくしながら部屋の中程まで行くと、前と同じように玉座から獣人の王が跳び出して着地と同時に凄まじい咆哮を上げた。
「っひ・・・・っ!?」
走っていた何人かのプレイヤーが怯え、足並みを乱した。
攻略本の情報通り2メートルを超える身長に、それに似合う体格をしている獣人の王《イルファング・ザ・コボルドロード》
例え知っていたとしても実際に目の前にして凄まじい咆哮を浴びると、原始的な恐怖が湧き上がってしまうのは仕方の無い事だった。
『なるほど、最初の咆哮は本来こういう効果を望んでいたのか』
フワは乱れかけた足並みを見て1人で納得していると、ディアベルが力強く言い放った。
「行くぞ!!」
ディアベルはその事を見越してか、勇ましい声を出しながらボスと相対すると怯えかけていたプレイヤー達も立ち直してボスと相対した。
『アレを無意識の内に言ってボスと相対したのなら大したモノだが、ボスと相対した時の間合いを見ると全部予定通りってとこか・・・・』
「フワ!センチネルが湧いたぞ!」
フワは何処か冷めた目でボスと戦っているディアベル達を見ていると、キリトが声を掛けた。
「ったく、あの可笑しい頭のオッサンは何してるんだよ」
可笑しい頭ことキバオウ達は遊撃部隊で取り巻きの《ルイン・コボルド・センチネル》の排除をするのだが湧き出た三体の内の一体を六人で囲み、槍などを持った4人がもう一体を間合いを取りながら抑えていた。
「・・・・やっぱり中身も可笑しいんだな・・・・」
強固な鎧で身を固めたセンチネルは守りに入ると唯一の弱点である喉元を攻撃できない為、生存力が桁違いに跳ね上がる。
だが、キバオウが可笑しい訳ではない。死ねば終わりの世界の中でキバオウ達の取った行動は当たり前のモノだった。
だからセンチネルはボスの取り巻きで強敵と呼ばれている。ただ、フワの感覚が可笑しいだけだった。
「キリトはアイツ等とは違うよな?」
「まあ、少し荒っぽいと思うけど・・・・」
フワは期待の眼差しでキリトを見ると、キリトは頬を掻きながら答えた。
「なら合わせるから好きにやってくれ、お嬢さんも俺の事は考えなくていいから」
「・・・・」
お嬢さんと呼ばれて女性プレイヤーは少し機嫌をを悪そうにした。
「昨日、話した通りに頼む。心配しなくてもフワも強いからフォローはしてくれるよ」
「・・・・必要ない」
キリトと女性プレイヤーがほぼ同時にセンチネルへと走り出し、その後ろを追いかけるようにフワも走り出した。
「__ふっ!スイッチ!!」
先行したキリトの斬撃がセンチネルの得物を上空に弾き返し、大きく隙を作るとキリトのすぐ後ろから女性プレイヤーが飛び出して細剣のソードスキル《リニアー》を繰り出した。
「はぁっ!」
その《リニアー》は捻りを加えつつ真っすぐ突き出すだけのソードスキルなのだが、ブーストされたソレは全くの別物に見えるほど鮮烈なモノだった。
正確に弱点である喉元を突かれたセンチネルはHPの半分を削られながら強烈なノックバックで後ろに仰け反った。
「予想以上だ、俺も真面目にやるか」
フワは女性プレイヤーを跳び越えて、仰け反ったセンチネルの喉元に右足の跳び蹴りを放った。
仰け反っていたセンチネルは更にHPを削られながらバランスを崩し、着地したフワはソードスキルのモーションを取っており《ピアース》を再び喉元に突き刺した。
それでセンチネルはHPをゼロにされて爆散した。
「?どうかしたか?」
キリトは驚いた顔で女性プレイヤーは怪訝な顔で2人ともフワを見ていた。
「貴方、変な戦い方をするのね」
「そうか?この方が楽なんだけどな」
怪訝な顔をした女性プレイヤーの質問に答えるとキリトが何処か悪そうにしながら口を開いた。
「スキル構成を聞くのはマナー違反なんだけど、もしかして《軽業》を取っているのか?」
「ああ、短剣と一緒に取ったかな?」
「い、一緒に?最初はスキルの空きは二つしかない筈、でもあの時・・・・」
フワの答えを聞いてキリトは何かを思い出そうとしていると、女性プレイヤーが細剣を振るった。
「今、考えに耽っている状況?次の取り巻きかボスに向かわなくていいの?」
不機嫌な声で話す女性プレイヤーにキリトは思考を中断して慌てて答えた。
「下手に介入してタゲ・・・・じゃ分からないか、ボスのターゲットを変えてしまうと戦線が乱れてしまうから下手に手を出さない方がいいんだ」
「そう、次からも一体倒せば暇な時間が来るってこと?」
その質問にはフワが答えた。
「心配しなくても次からは二体に増えるから忙しくなるさ。ボスの攻撃を受け止めている壁役の人達のHPの回復の為に、槍などの長柄武器を持った人達がフォローするから単純計算で一体フリーになる。ということは?」
続きを女性プレイヤーに求めると理解したわと言わんばかりに答えた。
「倒すまでの時間が圧倒的に短い私達が相手にするって事ね」
正解と言わんばかりに女性プレイヤーにフワが笑みを向けた後、つまらなさそうな顔をしながら戦っている人達へと視線を向けると呟いた。
「それにしてもトロくさい奴等だな。アイツ等の中ではターン制のゲームでもしてるのかね?」
「は、はは・・・・まあ、そう言ってやるなって。アレが一番安全な方法で手堅い方法でもあるんだから」
フォローを入れるキリトだが、女性プレイヤーは首を傾げていた。
「ターン制のゲームって何?」
「有名どころで言えばポケ〇ンとか一昔前のF〇とか・・・・」
「なにそれ?」
キリトの答えに疑問を持ったのは女性プレイヤーではなく、フワだった。
「え?」
「ポケモンは私も聞いたことあるけど内容までは知らないわ」
「俺もそうだ。聞いたことあるだけ」
更に畳みかけるように答えられたキリトは気が遠くなった。
「・・・・フワにとってのターン制のゲームって何か教えてくれないか?」
「そうだな、将棋とかチェスとか__」
「あっ!それなら分かるわ!確かにそんな感じよね、あの人達の戦いは」
フワの言葉に女性プレイヤーは思っていたイメージと合致したのか何処か嬉しそうに同意を口にした。
「・・・・なんだろう、俺だけが間違っている気がする・・・・」
そんな2人の横でキリトだけが項垂れていた。
少しするとディアベルの指示で長柄武器を持ったパーティがフォローに向かうと、ボスのHPが一本なくなり取り巻きが再び湧き出た。
「それじゃ、俺が一体を押さえておくから終わったらコッチに来てくれ」
「分かった、フワもあまり無茶するなよ」
「どうして?三人でやった方が早いでしょ」
キリトは分かっていたが、女性プレイヤーはフワの言葉の意味が分からず疑問を口にした。
「フリーの一体を野放しには出来ない、ボスと戦ってる奴等の後ろから襲われて戦線が崩壊されたら困るだろ?」
女性プレイヤーはハッとして静かに頷くとキリトと一緒に取り巻きの一体へと向かった。
「試したい事もあるし・・・・」
フワも少し離れた位置のセンチネルに向かうと、同じようにキバオウと左手に盾を持った仲間の一人が向かった。
「邪魔やねん、余りモンは余所に行ってもらおか」
「分かった、俺の番が来るまで何もしない。アンタ等の好きにすればいいさ」
「はんっ、お前の番なんて来るかいな」
キバオウは鼻で笑いながら仲間の1人がタゲを取っているセンチネルへと片手剣のソードスキル《スラント》を放った。
しかし、横から放った《スラント》センチネルに直撃しても鎧の上からでHPが碌に削れていなかった。
『おいおい、そんな戦い方じゃ頭数が足りてないと思うんだけどな』
HPは碌に削れてないのに気にした風のないキバオウと仲間の一人を見て、フワは呆れながら結果が見えていた。
その結果は思った以上に早く訪れた。
ダメージが取れないキバオウにタゲが全く移らず、センチネルの猛功を連続で受けていたプレイヤーが体勢を崩した。
キバオウがフォローするようにセンチネルへソードスキルを放つが鎧の上を剣が滑り、全くダメージを与えられなかった。
そして、タゲは移ること無くセンチネルは片手斧のソードスキルを使い、体勢を崩したプレイヤーの剣を持っていた方の肩口へと吸い込まれるように直撃した。
盾で受けていたとはいえ、受け流す事もしなかったプレイヤーのHPは積み重なったモノとソードスキルの一撃で一気に減り赤く染まった。
「うっくぅわあああああっ!!」
自分の死が目の前に来た所為か、そのプレイヤーは以上に怯えてキバオウ1人を残して人数の多いパーティの元へと逃げていった。
「おい!?逃げるなや!!」
キバオウが慌てて声を掛けているとセンチネルは逃げていったプレイヤーを追わず、隙だらけのキバオウに向き直った。
「どうでもいいけど、アンタは見なくても見えてるのか?」
「あ?何を言っとんねっぅづっ!!?」
自分にタゲが移ったと思わなかったのか、キバオウはセンチネルのソードスキルをまともに喰らいHPを半分ほど削られた。
「言わんこっちゃない、ホントにどうしたいのアンタは?」
フワは呆れながらキバオウを見ると、動揺してか何も言わずに右膝を地面に着けていた。
「俺の番だよな」
フワは呟きながらキバオウに追撃を掛けようとしているセンチネルに《エッジ》を片手斧に叩きつけて上空に跳ね上げてノックバックを起こさせた。
「もういいから黙って見てろ。口だけの小物が・・・・」
動かないキバオウに聞こえるように言い放ったフワはセンチネルと対峙した。
「さて、どうなるかな・・・・?」
センチネルは右肩に片手斧を添えるように構えるとソードスキルを発動させた。
緑色の輝きを纏わせた片手斧はフワの左肩から右腰を両断するような軌跡を描くが、フワは体捌きだけで避けて更に踏み込んでセンチネルの背後を取ると同時に裸締めの形で首を絞めた。
「___ふっ!」
フワが息を一瞬だけ吐きながら力を込めると、甲高くも鈍い音が鳴り響きセンチネルの首が九十度横に曲がった。その音は首の骨が砕ける音なのかポリゴンの破砕音なのかは誰にも分からなかった。
「なるほど絞め技も関節も一応効くみたいだな」
ポリゴンの欠片へと変わり爆散しながらフワは新しい発見に笑みを浮かべて喜んでいた。
ソレを見ていたキバオウは顔を真っ白にさせて微動だにしなかった。