全員の口が閉じ、叫んだ方を見るとディアベルのパーティの一人シミター使いがフワを睨みつけていた。
「俺が殺した?ボスが殺したんじゃなくてか?」
人殺しと言われてもフワは眉1つ動かすこと無く、質問を返した。
「ああそうさ!お前がしっかり受け止めてさえいればディアベルさんは助かった筈だ!!」
「その証拠は?」
「見れば分かる!今のお前を示すカーソルは《オレンジ》!犯罪者の色だろ!!」
その答えを受けて誰もが目を凝らしてフワを見ると、確かにフワを指し示すカーソルはオレンジ色になっていた。
「あら?ホントだ。一体いつ・・・・」
少し考えると心当たりがあったのかフワは思い出したように黒人風の男へと声を掛けた。
「悪いな、踏み台みたいに使っちまったけど大丈夫だったか?」
黒人風の男にも心当たりがあったのか、思い出したかのように頷いて答えた。
「あ、ああ。少し痛かったでけでHPも少し削れただけだったから問題ないが・・・・」
「たぶん、ソレが犯罪行為に当たったんだろうな」
フワは自分が《オレンジ》になった事に興味がないようで大きな欠伸をした。
「それじゃないだろ!!お前はディアベルさんを殺したから《オレンジ》になったんだ!出鱈目を言って誤魔化せるとでも思っているのか!?」
やり取りを聞いていたシミター使いが耐えられない様に叫んだ。
「雑魚騎士様を殺したのがボスだろうと俺だろうと、どっちでも構わない」
「ざ・・・・こ・・・・?ディ、ディアベルさんのことかあああああッ!!?」
シミター使いが怒りに任せて武器を握ったが、フワは気にすることなく言葉を続けた。
「ああ、騎士様だけじゃねえよ。今まで死んだ奴等も全員弱かったから死んだんだ」
「な、なんだと・・・・?!」
誰かが驚きながら呟いた。
「俺達が生きているこの世界は何だ?ゲームか?それとも現実世界の一部か?狂った世界か?どれも間違っちゃいねえよ、全部同じ世界だ」
誰もがフワの言っている意味が分からず言葉の続きを待った。
「そして根本にある絶対不変のルール__弱肉強食__力無き者は食われ、力ある者が食らう。そして力の種類は違うが、現実世界にも当てまはる事__」
誰にも否定の言葉を口に出せない様にフワは言葉を続ける。
「だから誰もが小さな頃から学校に行き、力の1つである__学歴__という力を手に入れるんだ。もちろんソレだけじゃない、他にも様々な種類の力があり、力がある者が成功者と言われ、力がない者は惨めに生きていく・・・・そんな世界だろ?」
フワの言葉の途中でアスナが身体を硬直させて微かに震えていた。
「この世界ではソレが顕著に表れているだけ。力が無い弱い者が死んでいく・・・・ソレだけの事だろ?」
フワは当然の事だ、と言わんばかりに全員へと問いかけた。
「そんな訳あるか!お前の考えを他人に押し付けるな!!」
その言葉を聞いてフワは小さく笑った。
「ああ、その通りだ。なら、お前等も自分達の考えを俺に押し付けるなよ。俺は俺の意思によって生きているんだ。言ったろ弱肉強食だって、俺に関わるなら相応の力を手に入れてから言ってくれ」
「っ貴様ぁ・・・・!!」
シミタ―使いは怒りに震えながらフワへと走り出した。
「俺に攻撃するのはいいけど、お前のカルマ値が俺のカルマ値を越えた瞬間、お前も《オレンジ》になる事を忘れるなよ」
「ッ!!?」
その言葉を聞いたシミター使いは固まった。
「そうだよなぁ《オレンジ》になるのは怖いよなぁ。いくら仇討とは言え、もしかしたら自分が犯罪者になるのは怖いよなあ!」
自分とフワに対して怒りが積もり身体を震わせるシミタ―使いの前に1つのウインドが現れた。
___決闘《完全決着モード》___
自ら敗北を認める《リザイン》降参するか、HPがゼロになれば決着。
降参しなければ死ぬシステム
「__________」
今度こそ完全にシミタ―使いは身体も息すらも固まった。
「俺が憎いんだろ?今回だけは手伝ってやるからさ、やってみろよ」
完全な挑発、固まっていたシミタ―使いは直ぐに有利な状況なのに気が付いたのか、笑みを浮かべながら決闘を受諾するOKを押した。
決闘が始まるまでのカウントダウンが表示され、止めれる雰囲気でない中、キリトが何かを言おうとしているがシミタ―使いは構えを取った。
先程のボス戦でフワは自分の武器を破壊されており無手の状態、たとえストレージから新たな武器を出したとしても今の自分の武器より劣る筈だ。
シミタ―使いはそう考え、自分の圧倒的優位を確認してから決闘を受けた。
カウントが無くなる中、フワは新たな武器を出す素振りすらなく、つまらなさそうな顔でシミタ―使いを見ていた。
「ッ___!!」
シミタ―使いは歯軋りを起こすほど力を入れながら、決闘開始と同時にソードスキルを発動させた。
___曲刀ソードスキル《クレセント》___
ターゲットとの間合いを詰め、ターゲットを袈裟斬りに斬り付ける。
システムにより高速化された動きは、迷う事無く間合いを詰めてフワの肩口から両断せんと言わんばかりにシミタ―が振られた。
振った瞬間、シミタ―使いは勝ったと思って笑みを浮かべた。
なにせ相手のフワは武器を持っていない。間合いに入った今、避ける事も防ぐ事も出来ないのだから___
そして、シミタ―使いは顔に凄まじい衝撃を受け、フワの右を通り過ぎて地面に転がった。
「っぅあぁぁあぁあぁぁあああ?!!」
シミタ―使いは少しの間理解出来なかった。この世界に囚われてから一度も経験しなかったから__
「ぃぃぃ痛い?!顔が痛いぃぃっ!?」
それは__痛み__ゲームだから痛覚が無い筈なのに、今は顔の骨が折れて顔の形が歪んだのではと錯覚を起こす程の痛みがシミタ―使いを襲っていた。
「五月蠅い奴だな、たかが痛いだけだろ?」
フワはつまらなさそうな顔のまま、武器のシミタ―を手放して蹲っているシミタ―使いへと歩を進めた。
「まさか・・・・《ペイン・アブソーバー》を・・・・?」
周りのプレイヤーは意味が分からず固まっていると、キリトは微かに震えながら呟いた。
「さすがキリト、ONにしてあるよ」
「_________」
「な、なによ《ペインアブソーバー》って?」
キリトは信じられない表情のまま震えていると、横に居たアスナは意味が分からずキリトに説明を求めた。
「《ペインアブソーバー》βテスト時に発見された倫理解除コードの1つで通称__悪魔の取引__と言われたシステムだ。特定の敵に与ダメージとノックバック率の上昇、そして痛覚再現」
キリトはβテスト時を思い出しながら呟いた。
「痛覚再現?それって・・・・まさか」
「ああ、自分と相手に痛覚を再現させるシステム。この非現実を現実に変える、一度入れると二度と切る事が出来ない、悪魔の取引と呼ばれたシステム」
此処に居るプレイヤーの誰もが経験したモンスターからのダメージ、ある者は突進を受けただろう、噛み付かれた者も、剣に斬られた者も、槍が刺さった者も、鈍器で殴られた者も__
全てのプレイヤーが痛覚が無いから立っていられる、生きていられる。
そう言っても過言じゃないほど重要なモノ、この世界がゲームだと認識できる最大要因の1つ___なのに
「なんで、なんで入れたんだ?そんな事をすればHPが無くなる前に死ぬかもしれないんだぞ・・・・」
キリトが言っているのはショック死だ。
いつか腕が斬り落される《部位欠損》と呼ばれるモノになるかもしれない、そんな時に痛覚があるとすれば、腕が無くなる程の痛みに耐えられるのか。
その事が分かっているキリトはフワに問わずにはいられなかった。
「フワは死ぬのが怖くないのか・・・・?」
「ああ、怖くない。というか、どっちでもいいことの1つだな」
フワはそう言いながら右足を上げて、未だに蹲っているシミタ―使いの首に狙いを定めた。
「それよりも、コレでサヨナラだ」
「ぅがあぁぁあぁああぁぁ・・・・!?」
フワは乗せた足に徐々に体重を掛け始めるとシミタ―使いは苦しいのか苦痛に塗れた声を上げ出した。
「や、止めなさい!もう決着は着いた筈よ!」
アスナは死者に鞭を撃つ様なフワの行動に危機感を覚えて叫んだ。
「でも、こいつ何時まで経っても《リザイン》しないし、やらないと終わらないよね」
フワは言いながらも体重を徐々に掛けていく事を止めず、言葉を聞いた誰もが殺す文字が頭に浮かんでいた。
「それに《オレンジ》になった俺は次から殆ど攻略に参加しない。なのに力無き者が居ても困るじゃん。だから此処で___」
殺す
何1つ感慨なく言い切ったフワに誰もが恐怖で口を閉ざしたが、一人だけ口を開いた。
「これ以上死者を出したら今後の攻略にも響いてくる。だから、そいつを殺さないでくれ・・・・頼む・・・・」
キリトの静かな懇願にフワは少し考えてから《リザイン》をした。
「それもそうだな。分かった、見逃してやるから後は宜しくなキリト。俺はカルマ回復クエストがある所まで姿を消すから」
フワはシミタ―使いの首から足を外して、ボス部屋の奥にある階段へと歩を進めた。
「あ、それと人に依存し過ぎると弱くなるから気を付けてくれ」
フワは言い終わると同時に部屋を出て第二層の《転移門》へと向かった。
するとフワの後を追う様にアスナが駆けてきた。
「何か用か?お嬢さん」
「アスナよ、次からはそう呼びなさい」
フワは呆れたように頭を掻きながら溜め息を吐いた。
「分かったよアスナ、用はコレだけか?」
「いえ、本当に言いたかった事を言いに来たのよ」
フワは話の続きを促す様に黙っているとアスナは意を決したように口を開いた。
「貴方の作った攻略本のお陰で死なずに済んだわ。だから、ありがとう。それと貴方の考え方には共感できるわ。だけど、貴方のやり方は認められない。そのやり方じゃ自身の身を滅ぼしかねないわよ」
アスナの言葉を全て聞いてフワは堪え切れない様に笑みを浮かべた。
「攻略本の礼なら情報屋のアルゴっていう人に言ってくれ。俺はあの人への借りを返す為に攻略本の作成を手伝ったんだ。その他大勢のプレイヤーを助けようなんて気はサラサラ無かったからな。それと___」
フワは言葉を一旦切って、改めてアスナの顔を見た。
「当たってるかもな、たぶん滅ぼしたいんだろうさ。何も無い俺自身を・・・・」
フワは笑いながら言うとアスナは自分で言った事なのに理解が追い付かず、固まってしまい。フワは何かが分かった様な顔をした。
「アスナには色んな力があるよ。人を引き付ける力、人を率いる力、そして人を魅せる力も・・・・アンタは攻略に欠かせない人になれるだろうから頑張ってくれ」
フワはそう言って《転移門》に触れて起動させると第二層に足を踏み入れた。
犯罪者になったにも関わらず、全く気負った風もなく飄々とした雰囲気で。