美月転生。~お兄様からは逃げられない~   作:カボチャ自動販売機

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第六十八話 転入生

「え、飛行魔法が完成した?ああ、何か加重系魔法の三大無理ゲーの一つだっけ?前から達也が頑張ってた奴ね、とりま、おめでとう。じゃ、ぼく、今リーナの編入準備が忙しくて、また後で聞くから!」

 

「ミヅキ、タツヤ何の電話だったの?」

 

「何か汎用的飛行魔法の開発に成功したからって電話だった。そんなことより、制服届いてるから着てみてよ!ぼくそのためにカメラ最新の奴買ったんだから!」

 

「へー……ってえっ!?決してそんなことじゃない気がするのだけど!?ワタシの制服とかむしろどうでも良いのだけど!?」

 

「ぼくはね、常々リーナには制服を着てほしいと思っていたんだよ。この日のために、インナーガウンも手作りしたしね!徹夜で!」

 

ジャケットの内側に着るインナーガウンは洋裁・和裁・刺繍なんでもござれな『テーラーマシン』という機械でデザインから考えて仕立てた特別品だ。

まあ、女子は中学校の選択教科でその操作を習っているから、自分でデザインした服を自分で仕立てることはそう難しいことではないのだけど。たまに忘れそうになるが、女子である美月さんも、勿論、中学生の時に学習済み。徹夜こそしたものの、仕上がりは完璧だ。

 

 

「何しろ急に転入が早まったから、準備が出来てなくて。焦った、焦った」

 

「今ワタシの方が焦っているのだけど!?飛行魔法って、世界的大発明なのよ!?魔法界とか軍とか、いろんなところが大混乱して、歴史が変わるレベルの!」

 

当初リーナは、交換留学生として一校にやってくる予定だったのだ。それが、転入という形に変わり、時期も九校戦前に早まったのは、ぼくが石川に住む大親友、桐生薫に会いに行った時に、とある事件(・・・・・)に巻き込まれ、若干危ない目にあった、ということがあったため、真夜さんが早めたらしいのだ。

何故か、真夜さんと達也の間では、ぼくはトラブルメーカーということになっており、さっさとガーディアンをつけておかないと、何が起きるか分からない、ということなんだけど、ぼくより断然、達也の方がトラブルメーカーだと思うんだけど!

 

 

「別に特別なことじゃないでしょ。達也ならこれくらいやれるよ」

 

 

汎用的飛行魔法の完成というのが、途方もなく難しいことだということはぼくだって理解している。魔法の歴史の中で、それこそ、世に知られていない頃からならば、長い歴史の中で、誰一人として成し遂げることの出来なかった偉業だ。

でも、きっと達也はそれで満足していないと思う。

汎用的飛行魔法というのは、まだ達也の目的の途中で、寄り道でしかなくて、目指すべきものはもっと遠くにあるんじゃないかと思う。

これからもきっと、達也は歴史を変えるようなことを成すと思うし、世界を騒がせるに違いない。

 

なら、これくらい(・・・・・)で、驚いている場合じゃないよね。

 

 

「……とんでもない惚気をくらったのだけど」

 

「ん?何が?」

 

「タツヤとミヅキはベストカップルってことよ」

 

「益々分からないよ!?」

 

 

そんな感じで、何故か死んだ魚のような目になってしまったリーナだけど、ぼくが徹夜して作ったインナーガウンを見ると、再び、その宝石のような目を輝かせた。

 

「わ、これ本当に素敵よ!」

 

青く光る星と光の粒で出来た海、そして満月。

デザインとしては、学校で使うものであるし、派手なものは控え、シンプルかつメッセージ性のあるものにした。青い星はリーナ、光の粒は水波ちゃん、満月はぼくだ。全体的な色味は透けるような青なのだけど、グラデーションで、変化をつけることで、宇宙のような神秘感を演出している。きっと制服と合わせればリーナにぴったりのはずだ。

 

「セレネ・ゴールドの仕事が休業になったから、ファッションブランド立ち上げたって聞いたけど、それなら流行るのも納得ね」

 

 

セレネ・ゴールドの仕事は、ぼくがUSNAに狙われた事件を期に休業となった。理由としては今回の件で国内でもセレネの正体を突き止めようとする動きがあり、真夜さん曰く、既にセレネ・ゴールドとして『真夜さんの求める成果』はあげられているらしく、ぼくの正体を秘匿するのに最も簡単な方法として休業としたのだ。

これでやっと絵に集中できるぜ、と燃えた(萌えたとも言える)ぼくは、描いて描いて描きまくり、熱中するあまり、ご飯を作り忘れてリーナが餓死寸前になったりとちょっとしたハプニングはあったものの、満足のできる作品が何作も完成した。

 

これが、ぼくの最後の幸せであった。

真夜さんは、ぼくに別の才能を見出だしていた。つまり、ファッションデザイナーだ。

 

月柴美の名前は割と有名になっているらしく、その知名度を生かしてデザインすれば売れるのでは?という安易極まりない考えで発案したらしいのだが、これが当たってしまった。

数ヵ月前からぼくの知らぬところで立ち上げられていたこのブランドはぐんぐんと知名度を増していき、どこぞのアイドルがSNSで紹介したのをきっかけに流行。若者の間で絶大な人気となった。

いや、急に服のデザインを頼まれるようになった時はおかしいと思ったよ?でも、色々な仕事をやらされ過ぎて、もう何がおかしくて、何が普通なのか分からなくなってるんだよね。

 

そうして、ぼくがこのブランドを知った頃にはもう引き返せない状態となっており、晴れてぼくは社畜へと戻った。

勿論、最初は断ろうとしたんだ。セレネの時みたいに安請け合いはしないぞって決めてた。

でもさ、ファッションブランド続けるなら、深雪がコスプレしてくれるって真夜さんが言うからさ!やるじゃん!そりゃ、やるよ!

ぼくは欲望に負け、社畜になった道化さ。

 

でも、セレネの時よりぼくの仕事自体は少なくて、服のイラストを描くだけで、後はプロの人達が現物の服にしてくれるのだ。絵を描けるわけだし、まあ良いかと、そんな気持ちで、ポジティブに、ぼくは過ごしているわけです。

 

 

「あ」

 

「ん?どうしたのミヅキ?」

 

 

首を傾げるリーナは可愛いのだけど、ぼくは今、気がついてしまったのだ。

ぼくがデザインして作ったインナーガウンと一高の制服を着たリーナの写真を撮ったりしていて、思ったより時間が経っていて。

 

 

「リーナ、遅刻確定のデッドライン過ぎてる……」

 

 

やらかしたぁぁああああー!!

 

 

 

 

魔法科高校において転入というのは極めて珍しく、何日も前から噂にはなっていた。

そんな中、初日から遅刻という前代未聞に前代未聞を重ねていくスタイルでバッチリと高校デビューを果たしたリーナは、その圧倒的美貌も相まって即座に校内中の人間に存在が知れ渡った。

 

リーナが綺麗で、可愛くて、人気者になるのは分かりきってたことだから、何ならぼくはドヤ顔で、ぼくが育てたっ!と言いたいくらいなのだけど、そうも言っていられない事態が二つ起きている。

 

一つはリーナの入ったクラスだ。

リーナはAクラスへの転入となったのである。いやいやいやいや、ちょっと待って欲しい。おかしくない?おかしいよね?だってぼくの守護者だよね?そしたらB組になるべきなんじゃないの!?

そう思うのだけど、転入させるだけでも相当の無茶をやっているらしく、クラスの操作までは難しいのだとか。

 

リーナは正式な転入手続きを経て転入している。受験の時のぼくのように、ひぃひぃ言いながら勉強をして試験を受けての一科だ。ただ、その転入手続きまでがちょっと無茶をしている。

 

リーナは名前まで変えて日本国籍の新しい戸籍を用意した。日本に帰化したのだが、そのやり方は完全に四葉パワーだ。本来ならこんなすぐには帰化出来ないし、色々厄介な手続きがある。それを真夜さんがどうにかした上で、一高への転入まで捩じ込んだという事で、それだけで相当無茶なのである。達也と深雪が四葉の一族であることは内緒で、だから四葉家が一高に干渉していることを知られるのもまずい。

クラスにまで手を回すとなると、一高内部に根回しが必要になりリスクも高まるから、そこは操作しない、ということなのだ。

理由は分かるけど納得は出来ない。そもそも深雪とクラスが違ったことにも納得していないのに、リーナまでA組とか、絶対おかしい。

 

リーナは残念ではあるけどどうせ家では一緒でしょ、とあまり堪えていない様子で、騒いでいるのはぼくだけなので、ここは大人な美月さんが涙を呑んで、渋々引き下がることにしよう。絶対おかしいし、納得出来ないけれど、仕方なく、本当に仕方なく諦めることにする。

 

しかし、もう一つの問題は、リーナがAクラスだった、という所に起因する。

 

「リーナと深雪がバチバチなんだけど!」

 

九校戦の準備で各所を飛び回って大忙しの深雪と、そんな大忙しの現場から逃げ出したい真由美さんの策略によって学校案内に連れ出されているリーナ。

二人がいないことを良いことに、ぼくは書類が積まれたを机をバシッと叩き、風紀委員室で達也に叫んだ。

 

「そのうち落ち着くだろう」

 

「二人が喧嘩すると何故かぼくに飛び火するんだよ!待ってられないよ!」

 

達也が書類から目も上げずに適当に言う。こっちは一大事なのにっ!

 

二人の因縁は随分前からだ。初めて二人が会ったときから何故かあの二人は犬猿の仲なのである。事あるごとに競って、喧嘩になるのがいつものことで、その場合、大概ぼくに飛び火する。なんでかぼくが二人に責められることになるのだ。意味分からないし辛い。

 

二人が仲良くしてくれるのが一番なのだけど、ぼくがそう言うと怒られるし、どちらかを宥めようとすると、片方の機嫌が悪くなって、そっちを宥めようとすると、またもう一人の機嫌が悪くなって……のループで最終的にぼくが二人に責められる形になっているという悪魔のパターン。

 

「深雪もリーナも卓越した魔法師だ。まともに競い合える相手など今まで同級生にいなかっただろうから、熱くなるのは仕方ないさ」

 

「絶対そういうのじゃないと思うんだけどなー」

 

ぼく自身、かつて達也にテストの点数でどうしても勝てず勝手にライバル視していたし、逆に深雪はぼくをライバル視していた。でも今はこうして三人仲良くやれてるし、そのうちこうなれるのだろうか。

 

「ミヅキー!ミユキがー!」

 

上の生徒会室からバタバタとリーナが降りてくる。真由美さんと学校見学に行っていたはずなのだけど、なんで涙目?

 

「ミユキが虐めるわ!」

 

鬼の形相(深雪のそれは極上の笑顔をそう呼ぶ)で生徒会室からゆっくり降りてきた深雪に、慌ててぼくの後ろに隠れると、深雪を指差してリーナは声高らかに言った。

 

「リーナ、あまりふざけたことを言っていると、私、怒るわよ?」

 

「もう怒ってるじゃない!」

 

リーナさん、何があったのか知らないけど、ぼくの後ろに隠れるの止めて!深雪の怒りがこっちにまで向けられてるのをヒシヒシ感じるからっ!

 

「何があったんだ?」

 

達也が書類を仕分けていた手を止めて、深雪に訊いた。ぼくじゃ訊けそうになかったから助かった!

 

「お兄様!リーナがですね――」

 

深雪とリーナ、それぞれの話をまとめるとこうなる。

真由美さんと学校見学をしていたリーナだったが、生徒会長である真由美さんにしか処理できない案件が発生し、真由美さんと交代で深雪がリーナの元へ。

 

ところが指定された場所にリーナは居らず、深雪は校内中を探し回ったが、見つけられなかったため一度生徒会室へ戻ると、そこには、カフェで購入したのかチョコチップクッキーを頬張りながら、動物の面白動画を見て笑っているリーナがいて。

 

そのリーナが深雪に向かって一言。遅かったわね、校内で迷ったの?

 

深雪は激おこになった。

 

「私は美月ではないんですよ!校内で迷うだなんて、そんな頭の足りないことは決してしません!」

 

「深雪さん、深雪さん、気がついていないかもしれないけど、ぼくめっちゃ悪口言われてるよ!」

 

深雪、ぼくのこと頭足りないとか思ってたんだ!

 

「バケツが頭に嵌まったまま、ぶつかりながら歩く犬は本当に面白かったわ」

 

誰も感想聞いてないよ!動画じゃなくて深雪の顔見て!あの笑顔はもう危険な状態だから!土下座不可避のやつだから!

 

「深雪、一回落ち着け。リーナも隠れてないで出てこい」

 

今回の件は今のところ圧倒的にリーナが悪い気がするが、もしかしたらリーナにも何か理由があったのかもしれない。

 

「リーナは会長にその場で待つように言われたんだな?どうして生徒会室へ行ったんだ?」

 

「退屈だったからミヅキのところに行こうとしたのだけど、仕事中に邪魔をするのも悪いから、生徒会室へ行ったのよ」

 

今のところ、リーナのまともな知り合いはぼくら以外では生徒会の面々だけだ。ぼくが仕事中だと気を使ったところまでは良かったけど、どうしてクッキー食べながら、動画見てたのかな!?

 

「お腹空いたからクッキー買って、やっぱり生徒会室でも退屈だったから動画見てたの」

 

自由!転入初日でこの自由さはいくら自由の国出身でも中々出来ることじゃないよ!そして、いよいよリーナを擁護できなくなったよ!

 

「リーナ、素直に謝ろう」

 

「謝ったけどミユキが細かく言ってくるのよ!」

 

「細かい!?リーナ、貴女にはまず常識を叩き込まなくてはならないようね」

 

どうしてこう二人は何しても喧嘩に発展するのかな!?後、リーナ、ずっと言えなかったんだけど頬にクッキーの食べかす付いてるから!ポケットから飛び出てる開けたクッキーの袋も捨てようね!

 

 

 

 

「ん?なんだか人が増えてるが何かあったか?」

 

ぼくがまたまた喧嘩が始まりそうな様子に、リーナのポンコツな点を指摘することで現実逃避していると、摩利さんが風紀委員室へ戻ってきた。元々はぼくと達也と摩利さんで資料整理をしていたのだけど、資料の中に今日までに職員室へ提出しないとまずいものがあって、摩利さんは慌てて提出しにいっていた。随分遅かったけど、何かあったのかな。本当は提出期限過ぎてたとか。

 

摩利さん最近放っておくと、どんどん書類仕事溜めるから、ぼくと達也が少し目を離すとこういうことが起きるのだ。

 

「まあ、大したことではありませんよ」

 

達也が何食わぬ顔でそう言えば、深雪もそれに合わせざるを得ない。リーナが勝ち誇った顔で深雪を見ているが、そういうことをすると後で怖いのを知らないのだろうか。

 

「そうか、ならちょっと美月を借りていくぞ」

 

「へっ?」

 

凄く嫌な予感がする。具体的には最近拉致られていつの間にか九校戦のエンジニアをやることになっていたくらいのことが。

 

「今さっき真由美と十文字と話し合って決めたのだが、美月には、選手としても九校戦に出場してもらうことになった」

 

 




――前話の続きの摩利さん――

Σ( ̄ロ ̄lll) 摩利「……さらに酷いことになった」


(o≧▽゜)oドンマイ 美月「摩利さんドンマイです」


(*`Д´)っオイ 摩利「お前のせいだがな!」


(*´∇`*)美月「怒鳴れても好き!」


( ; ゜Д゜)タノム 摩利「謝るから止めてくれないか!?」


(〃^ー^〃)サイコー 美月「楽しいから止めない」


o(≧◇≦)oウワー 摩利「泣くぞ!?」


(*^3^*)ラブ 美月「そんな摩利さんも、愛してる♡」



泣いた。




ついにリーナ一高に参戦。カオス過ぎる一高をお楽しみ下さい。

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