本郷猛はショッカーとの闘いの中で「正義」とは何かを突きつけられる。自分の信じる正義とは、そして自分とは別の正義とは。迷い傷つきながら仮面ライダーは今日も戦う。
「あ、トイレットペーパー切れた。買ってこなきゃ」
仮面ライダー、たけしは人造人間である。たけしを改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である。仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!
「ついでにタバコと今週の週刊ドスケベも買おうっと」
たけしはパンツを履いた。3日ぶりの下着だった。
「念のためブラジャーもつけておくか」
引き出しからお気に入りのブラジャーを取り出して装着した。胸を締め付ける圧迫感が心地良かった。
たけしは原チャリの鍵をポケットにしまった。つけていたキーホルダーの納豆の食品サンプルがポケットから顔を覗かせていた。
「おっと、出かける前にウンコしなきゃ」
たけしはブラジャーとパンツを脱いだ。生まれたてのありのままの姿でないと脱糞できないのだ。
便座に腰掛けて、力を抜いた。たけしはこの時、この世の誰よりも幸福だった。
原チャリのスピードメーターは時速120km/hを示していた。
たけしの身体を向かい風がすり抜けていく。目の前の風景が現れては消える。バイクの速度を直に感じる。車では味わうことのできないバイクの魅力とアルコールにたけしは酔いしれていた。
バイクはこのまま何処までも行けるような甘い錯覚を与えてくれる。しかし、現実は甘くない。たけしはショッカーを倒さねばならない。それまでは何処へも行けないのだ。それがたけしに課せられた宿命なのだから。
「ウィッヒー!」
たけしは調子に乗ってドリフト走行をした。たけしの原チャリはブロックにつまずき転倒した。
「事故の原因は何なの」
「ドリフト走行をしまして……」
「お父さん無茶するねー」
警察官は調書を淡々と取っている。たけしは肩身の狭い思いだった。
「はいじゃあここに向かって息吐いてくださいね」
警察官はたけしに棒状の器具を向けた。たけしはそれがアルコール検知器であることを警察24時で見て理解していたので、絶対に息を吐かまいとした。しかし、タバコで肺の機能が低下していたたけしは、わずか10秒すらも息を止めることはできなかった。
「あー、アルコール出てるね。じゃあお父さん警察署でお話聞かせてもらおうか」
ついて行ったら終わる。たけしは直感した。たけしはこのまま終わる訳にはいかない。なぜならショッカーとの戦いが終わっていないからだ。それならば、この場で取る行動はひとつだった。
「ファッキュージャップ!」
たけしは手早く原チャリのキーを回すと、あっという間にその場をあとにした。
「あっ、そうだ。変身!」
向かい風の風圧によって、たけしの腰のベルトのあの回るやつがなんか回ってたけしは仮面ライダーへと変身した。
「このまま逃げ切るぞ!」
仮面ライダーの原チャリのスピードメーターは最早振り切っていた。
いける。このまま逃げ切れる。仮面ライダーはそう思った。最後には正義が勝つ。それがヒーローの掟なのだから。仮面ライダーはアクセルを更に回した。
「モゲラッチャ!!」
仮面ライダーは頭から転倒した。流石の仮面ライダーもアルコールには勝てなかった。
鉄の輪の重みがたけしの両手にのしかかった。これが敗北者の重みなのか。たけしは奥歯を噛みしめた。
正義の反対は悪ではない。別の正義なのだ。たけしは己の正義が負け崩れていく音を聞いた。
たけしを乗せたパトカーが走り出す。このまま仮面ライダーがいなくなったら、ショッカーは、世界はどうなるのか。
そんなことを考えてみたが、今のたけしにはどうすることもできなかった。