やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.280 その一手はまだくすんでいる

「ちっ……」

 瞬きした瞬間、目の前に現れたサイが拳を振るい、ギリギリのところで体を捻って回避する。そのままバックステップして距離を取り、反撃のために今度はこちらから近づこうと足に力を籠めた。

「ダメ!」

 だが、その直後にハイルからの指示が飛び、上体を起こすことで前に行こうとしていた体を無理やり上に向けて無駄にその場で跳躍する。

「またかよ! なんとかならねぇのか!?」

「なってたらこんな苦労してないわよ! ほら、次が来るわ!」

「くっそたれ!」

 ハイルに文句を言っても仕方ないのはわかっていた。だが、今の状況が非常にやばいのだから悪態だって吐きたくなる。

 サイは魔力のドームを展開し、俺たちの足を止めた後、一瞬で接近してきて攻撃してくる。こちらはそれを回避し、反撃に出ようとするのだが、その時にはすでに魔力のドームが復活。そんなやり取りを何度も繰り返していた。

(時間がねぇってんのに!)

 サイを正気に戻すのもそうだが、大本の目的は『ファウード』を止めること。日本に到着する時間は延びたとはいえ、こんな無駄な時間を過ごしている間にもタイムリミットは刻一刻と迫っている。

 だが、戦っているからこそあの魔力のドームの厄介さが身に染みる。近づこうとしてもドームがある限り、それが不可能。それに対し、サイはいつでもドームを消してこちらに攻撃を仕掛けられ、反撃されそうなったらドームを展開すればいい。これでは一方的な戦い(ワンサイドゲーム)である。

「ハイル、何か策はないのか!?」

 正直、悔しいがオレの術にあのドームを突破するものはない。情けないことだが、ハイルに頼るしかなかった。

「……一応、方法はなくもないわ」

「ッ!? 本当か!」

「でも……成功する確証がないの。一手――いいえ、二手足りないわ」

「それにオレは入ってんだろうな!」

「入れて足りないのよ。それに……少し違和感があって……ッ!」

「ハイル!」

 そんな会話を中断させるようにサイがハイルの懐に潜り込んだ。本当に音もなく近づかれるので反応が必ずワンテンポ遅れてしまう。しかし、今回の場合、ハイルは考えごとに意識を割いていた。ほんの僅かな隙。それでもサイ相手にはあまりに致命的だった。

「メルメルメ~!」

 だが、そんなハイルを庇うように大きな影が割り込み、サイの拳と立派な角を激突させる。そう、瓦礫の下から救出した時、すでにボロボロだったウマゴンだ。

「あら? そんな怪我でよく動けるね?」

「メ、メル……メルメルメ~!」

 サイに話しかけられたウマゴンはビクリと体を震わせるがそんな恐怖を振り払うように戦慄きながら角でサイの拳を弾く。攻撃を弾かれた彼女は後ろに下がりながらまた魔力のドームを展開した。

「ウマゴン、お前、怪我は!」

「メル!! メルメル! メルメルメ~!」

「そんなことよりサイを助けたい。ウマゴンはそう言ってる」

 ウマゴンの言葉を通訳したのはウマゴンの本の持ち主(パートナー)らしき男だった。清麿のメールに書かれていたがサンビームという名前だったと思う。

「状況を知りたい。教えてくれるか?」

「……ええ、そうね。今は少しでも手が欲しいわ」

 サンビームの問いかけにハイルはウマゴンとサンビームの怪我の具合を確かめ、少しだけ悔しげに頷いた。きっと、サイが指摘した通り、こうやって立っているだけでも奇跡に近いほど2人の怪我は酷いのだろう。しかし、それでも手を借りなければサイを正気に戻せない。

 ああ、なんとも情けない。オレたちが弱いばっかりに怪我人に無理を強要してしまった。オレは悔しさのあまり、拳を握りしめてしまう。

「なるほど……状況は最悪に近いというわけか」

「そうね。でも……ウマゴンの突破力は力になる。むしろ、望んでいた一手よ」

「そうか。だが、気づいていると思うがこちらは長くは持たない」

「ええ、だから――」

 

 

 

 

 

 ――チャンスは一度きり。

 

 

 

 

 

 そう言いたげに目を鋭くしたハイルはこちらの作戦会議を楽しそうに待つサイを見つめる。そんな視線に気づいたのだろう。サイはキョトンとして首を傾げた。

「とにかく、ウマゴンは少しでも体力を温存してて。合図をしたら私を背中に乗せてサイちゃんに突撃。いいわね」

「メル!」

「それでもう一手はどうする? どんな一手が必要なんだよ」

「この違和感の正体にもよるけど……遠距離攻撃が欲しいわ」

「……と、なると」

 ハイルの言葉を聞いてオレは後ろを振り返る。

 ガッシュは清麿が気を失っているので術が使えない。

 他の奴らはどうか、とサンビームに視線を送るが首を横に振った。どうやら、純粋な攻撃呪文を使える奴はいないようだ。

 そう、この部屋にいる中でハイルが望む術を使えるのはたった一人だけ。

「……テッド、お願いがあるわ」

 おそらく、ハイルも同じ考えに至ったのだろう。サイが動き出すのを警戒しながら口を動かす。

 

 

 

 

 

「チェリッシュを説得して協力してもらって。それができなければ私たちの負けよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマゴンがハイルを助けた後、彼らは作戦会議をしている。災はそんな彼らを見て少しだけ退屈そうにしていた。

「……」

 そんな中、私はただ茫然とその光景を眺めていることしかできなかった。逃げることもなく、立ち向かうこともなく、泣き喚くことなく、ただぽつんとそこに座り込んでいる。

「チェリッシュ」

「ぁ、ニコル……」

 肩を叩かれ、顔を上げるとそこには私の本の持ち主(パートナー)であるニコルが立っていた。瓦礫の下敷きになったせいで怪我をしているようだが、そこまで酷いものではない。そんな彼女(・・)の姿を見てホッと安堵のため息を吐いた。

「状況は?」

「……災と戦ってる」

「サイ? でも、髪の色が……」

「そう。だって、あそこにいるのは……」

 化け物。そう、何度も言ったはずだ。何度も言い聞かせた。でも、何故か言葉が出てこない。まさか、私――。

 いいや、違う。そんなはずない。だって、この中で一番、災の恐ろしさを知っているのは私だ。

 魔力のドームに押しつぶされ、ひき肉になった大人がいた。

 術を弾かれ、味方に激突し意図せず同士討ちになった兵士がいた。

 ただ歩いているだけで風圧によって子供たちが吹き飛ばされ、ただの肉塊に変わった。

 そう、思い出せる。思い出してしまう。自覚してしまった今、彼女の姿を見るだけで体が震え、惨めにもその場で縮こまってしまった。

「チェリッシュ!?」

 いきなり体を震わせた私にニコルは声を荒げる。彼女の前でこんな姿を見せたことがないからだろう。私の傍に駆け寄って肩に手を乗せて落ち着かせようとする。

 でも、それでは駄目だ。災が目の前にいる限り、私はどうしようもなく、弱くなってしまう。

 きっと、これは罰なのだ。あの日のことを忘れ、仇である災に手を差し伸べた私に対する――。

「よぉ、チェリッシュ」

「ッ――」

 ――そんな思考を遮るように私の名前を呼ぶ声。この戦いが始まってからずっと、ずっと聞きたかった。でも、聞きたくなかった声。

 だって、もし、この声で敵対するような言葉をぶつけられたら私は――。

 

 

 

 

 

「どうして、そんな情けない顔してんだよ。お前らしくないぜ?」

 

 

 

 

 

「テッド……」

 顔を上げて見たのは頭から血を流しながらも優しい目で私を見つめる魔界にいた頃から何も変わっていないテッドの姿だった。

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