「・・・さて、芳子、私達の友に何をされたのかは置いておいてまず私達の話からだ。」
「うん・・・」
おかわりしたケーキをほおばりながらひのこは真剣な目つきで答える。
「私達のいた世界は・・・突然だが終焉を迎えた。理由はわからない。」
「なにそれ・・・」
「前兆はあった。名のある妖怪達が姿を消し始めたからな。天狗・・・ぬえ・・・河童・・・玉藻前・・・いずれも大妖怪と言える連中だ。特に玉藻前は私達の世界を治めていたほどの大物だった。」
そこまで言ってお茶を一啜り・・・静かな雰囲気のまま再びひのこは口を開く。
「この大妖怪の消失・・・それはそれはおかしなことだった。普通なら名も無い妖怪が畏れを失って存在出来なくなる・・・これならよくある。人間の畏れの大体を受け持つ大妖怪達が消える等ありえないことだ。生存に必死になり原因をさがすべくあらゆる世界に調査に旅立った。しかし原因はわかることはなかった。だが事の重大さは尋常ではない。わからないでは済まされなかった。大妖怪が失われることで私達の世界は大きく畏れを削がれてバランスが崩れていく。滅びまで時間がない。」
「そ、それで・・・」
「私達は悟った・・・これは世界の運命ではないのか、私達は滅ぶ運命なのだと。そして有る一団が行動に出た。もっとも近い世界を襲撃し、滅びまでを先延ばしにするべく力づくで畏れを得ようとし始めたのだ。」
「それ、マクリルの妖精の国・・・!」
「ほうメグメルのことも知っていたか。まぁプリキュアなら当然か。しかしその一団の目論見は失敗した。単純だ。畏れを得ようとしていた対象が人間ではない上に対象を殺してしまったからだ。畏れを得るものを消してしまっては得られる物は無い。そしてメグメルと同時に私達の世界も滅んだ。」
「なんてことを・・・!」
「私達の世界の者はそこから二分した。滅びの運命に抗う者と運命を受け入れる者・・・ここにいる者や私は後者だ。どうにもならないと思ったから悠々と残りの時間を楽しもうと思ってここにいる。」
「しろかねもお菓子美味しいからここにいるカル~」
「・・・。」
「恐らく芳子が遭遇したのは前者だろう。そっちの友は生き残ることに必死だ。どんな手段でも取る。無くした畏れを取り戻す為に神変を得た人間を増やして妖怪を増やそうとしたのだろう。」
「そうだよ・・・その所為で・・・!」
「・・・。私が謝ったところで解決もしなければ進展もない。芳子も私に謝らせたいわけではないだろう?」
「・・・。」
「ここにいる提灯も傘も玉藻の形見も、戦いなんか望みはしない。畏れを得られない今無理に生きようとも思わない。静かに・・・余生を過ごしたいだけなんだ。そこだけはわかってくれプリキュア。」
「わかりました・・・」
「しかしだ・・・腑に落ちない部分もある。」
「何故大妖怪が滅んだのかってことですか?」
「それもだが・・・誰がメグメルを攻めたのかだ。」
「え?」
「わからないのだ。妖怪の誰かだという以外は。」
「別な世界の誰かではないんですか?」
「それはありえない。私達の世界のある場所は私達の世界とメグメルしか存在しない。」
「!?」
「・・・なんだ?知らなかったのか?」
「は、初めてききました!」
「いったい芳子はどれだけ何を知っているんだ・・・?そうだな・・・この世界のある場所を木としよう。世界は葉だ。世界の移動はこの木の幹を伝って移動する。私達の世界のある場所の木は小さく、葉は私達の世界とメグメルの二枚しかない。この木はいくつもあるが・・・私達の世界がある木は他の木からは小さすぎて観測することが出来ない。観測出来ないなら無いのと一緒だ。それに私達の世界とメグメル以外で木から木へ飛び移る技術を持つ世界は見たことがない。」
「次元空間が・・・いくつも・・・?」
「ほう、次元空間と人間は呼んでいるのか。」
「あ、はい。この世界ではないですけど・・・」
「この世界のある木は大木らしい。かなり青々とした木のようだしな。それで他の木からわざわざ乗り込んできて・・・というのはタイミングが良すぎるし。文明的にもありえないと判断した。」
「その・・・メグメルを滅ぼしたのってカッシャって名前の妖怪だったとおもうんですけど・・・」
「・・・カッシャ・・・あぁ朧車か・・・奴が・・・?」
「それとろくろ首と牛鬼と幽霊・・・」
「ふむ・・・確かにいた・・・が・・・そいつらは・・・」
「どうかしたんですか?」
「いや・・・本当にそいつらがメグメルを滅ぼしたのかと思ってな・・・大妖怪達ほどじゃないが名のある妖怪達だ。しかし私達の世界が滅びに向かったとき私達妖怪は力を失ってしまったのに・・・やつらにメグメルを滅ぼせるほどの力があったのかと・・・」
「・・・?いったいどういうことですか?」
「・・・本当に何が起きてるんだろうな。私も何をいってるのかわからなくなってきた。何故、運命は私達を一思いに消し去ってくれなかったのか。何故、世界は我々に牙を向けたのか。」
ひのこ達は俯き黙ってしまう。それもそうだ・・・自分たちの故郷が無くなったなど気分のいい話でもない・・・
「・・・しろかねもケーキ食べたい!カルカルカル~」
「あ、ああごめんね!すぐ持ってくるわね!」
「うちのエンゲル係数が・・・」
「ああ・・・菓子の代金か?それは心配するな。私達には財を招く力もある。一人一人は微々たる物だが・・・まぁ四人もいれば孫の代まで遊ぶくらいの財は呼べる。」
「そ、そうなの?」
かっかと笑いひのこがお茶を飲み干す。小気味いい音がテーブルとカップが響出すとひのこやじんぺいたちの目つきが変わる。
「・・・プリキュアよ。あなたが現れたなら、私達穏健派の意見は大きく変わる。」
「一度命を諦めた身ではあるが世界を救う伝説の戦士プリキュアならば・・・」
「希望が見えた。我が輩達にも生の光が見えた。」
「死にたくない・・・死にたくない!カル!」
妖怪達の目は悲しみ・・・悔しさ・・・様々な感情で溢れていた。あたしに助けを求めてこぼれ落ちる心は・・・あたしを突き動かすには充分だった。
「・・・まぁもともと人に害為す妖怪が人に助けを求めるなど・・・虫の良すぎる話か・・・?」
「あたし、やるよ。」
「な・・・」
「カル・・・?」
「あたしね・・・覚悟が出来てないって追い返されてここに帰ってきたの・・・でもあたしは覚悟なんてわからない。ずっと誰かを守りたくて戦ってた・・・」
「芳子・・・」
「助けるよ。ひのこ達も暴れてる妖怪達も。プリキュアなら・・・あたしなら出来る!ここでみんなに会えたのも何かの縁なんだよ!それにさ・・・助けを求めてるのに、手をさしのべなかったらお父さんに怒られちゃうしね。」
「芳子・・・すまない・・・すまない・・・!」
「ううん・・・今度はね。誰かを守る為じゃなくて助ける為に戦うの。あたしに、世界を救うプリキュアにどーんと任せて!!」
「ありがとう・・・!」
《Full care!!》
「うわっ!?」
リリカルコミューンが光りを放ち大きなヒビが修復されていく。そしてそこには人影のような光が映し出される。
「な、なんだ・・・!」
『ヨシコさん・・・』
「え!?誰!?きゃあああっ!?」
光の粒子に包まれ目を閉じていても視界が白に染まる。再びめを開けると・・・あたしは不思議な空間に浮いていた。
「うわっ・・・なにこれ・・・」
『ここは・・・コミューンの中です・・・』
「へ!?こここコミューンのなかぁ!?」
『私はメグメルの女王テスラ・・・ヨシコさん・・・あなたには・・・過酷な運命に巻き込んでしまってすみません・・・』
「女王様・・・い、いえ・・・」
『あなたは・・・遂に真のプリキュアとして覚醒しました・・・救済のプリキュアとして・・・』
「救済のプリキュア・・・」
『以前は・・・救済するべき相手との戦いでした・・・お力添え出来ずに・・・ごめんなさい・・・』
「いや・・・仕方ないですよ・・・あたしも・・・ほら、わかんなかったし。」
『ヨシコさん・・・あなたがプリキュアとして覚醒したならば・・・先代プリキュアの私はもうすぐ消滅するでしょう・・・ふふ、既に肉体も失っていますし今までこうして残れたことが奇跡なんですね・・・』
「女王様!だめですよ!マクリルが待ってます!」
『なりません・・・私は・・・既にこの世を去る身です・・・なので私からもお願いを・・・』
「・・・そんな。」
『メグメルも・・・メグメルも救って・・・お願い・・・ヨシコさん・・・』
「・・・わかった。絶対に救い出すよ。」
『ありがとう・・・最後に、敵は・・・』
「女王様!?」
まばゆい空間に浮かぶ光の人影はゆらゆらと揺らめきはじめて消えかかっていく。
『敵は・・・』
「敵はなんなんですか!?あたしは!何からみんなを救い出せばいいの!?」
『敵は・・・時間と空間を飛び越える・・・暗黒・・・ヨシコさん・・・負けない・・・で・・・・』
ゆらぎが小さくなって消えてしまうと・・・光が晴れてリビングに戻る。
「・・・はっ!?」
「芳子!どうしたんだいいったい!どこ行ってたんだい!?」
「・・・。」
床に落ちていたコミューンを拾うと、前とは意匠が違っていた。各所にリボンをあしらった装飾があり、金のラインがはいっている。
「いかなきゃ・・・」
「もういくのか・・・!」
「時間と空間を飛び越える、暗黒・・・嫌な予感がする・・・!」
あたしは玄関に向かって走り出す。その途中でお母さんとすれ違った。
「芳子?こんな時間にどこいくの!」
「なのはさん達が危ない!」
「待って芳子!しろかねもいくカル~!」
「だ、ダメだよ!あぶないって!」
「同胞の命を救う約束をしてくれたのに指くわえて見てるなんていかないカル!」
「しろかね・・・」
「それに、芳子だけでそうやって世界を渡るカル~?」
「そ、それは~・・・ちょっと知り合いに~・・・」
「芳子!」
飛び出した玄関の先でまごまごしているところをお母さんが呼び止めてきた。
「・・・お母さん。」
「芳子・・・あなた、今お父さんが出動の連絡がきたときと同じ顔してるわ。」
「え、お父さんと同じ顔ってあんまりうれしくないかも・・・」
「そうじゃないわ。・・・誰かを助けることが出来る力を・・・奮いに行く時の顔!かっこいいわよ。芳子。」
「お母さん・・・」
「いってらっしゃい。」
「・・・いってきますっ!しろかねお願い!」
「転移呪術式!」
あたしは夜風に曝されたお母さんを残して青白い狐火の中に消えた。
「・・・お願い芳子、あなたまでいなくならないで。」
つづく