「ヴォオオオオオオ!!!!」
「だぁああああっ!」
牛鬼の振り下ろす斧を弾き、突進してくる朧車を避ける。震える足で立つのが精一杯のあたしは体中が嫌な汗でべっとりと濡れている。
「わたしたちぉぉぉぉぉぉぉ忘れないでおくれよぉぉぉぉぉぉ」
「おのれ・・・うらめしやぁぁぁ」
ろくろ首が火の玉をいくつも放ち、幽霊がおどろおどろしい鬼火を放つ。
「っぐ・・・!?がはっ・・・」
どうしても避けきれず後ろの五人に当たらぬ様かばう。火の玉や鬼火が体に当たって弾ける度に悲鳴をあげてしまう。
「リボン!」
「プリキュアさん!いま手を貸すから・・・」
「プリキュア!一人じゃダメだ!」
「だめ!早く逃げて!!」
横たわってしまった体に鞭打って立ち上がる時、五人から声がかかる・・・早く五人を逃がさないと・・・
「そんなこと出来ないよ!リボン私達も・・・」
「ジャマなの!!!」
「!!」
ぼろぼろの緑色のドレスをはためかせて・・・立ち上がる。もう立っていられない。倒れたままでいたい、帰りたい、お母さん・・・苦しいよ・・・でも・・・
「・・・みんなを守らなきゃ」
「くっ・・・ブレイクキャノン!」
クロノさんの砲撃がろくろ首めがけて放たれたが目前でかき消えて・・・
「ひぃーひっひっひ・・・面白い人間だね・・・ただのマヌケか・・・それとも何か企んでいるのか?そこの黒いの?」
「魔法が・・・何故・・・!?」
「さっきも言ったじゃないですか!こいつらには魔法が効かない!だから魔導士はジャマなの!早く逃げてよぉ!!!お願いッ・・・」
「・・・なのはママ、フェイトママ、逃げよう。」
「ヴィヴィオ・・・でも!」
「そうだ!管理局員が一般人を置いて逃げるなど・・・」
「周りに一般人はいるんですか?クロノさん?」
「なに・・・これは」
そう、辺りは謎の闇で包まれていて一般人の姿は見えない。管理局員以外を一般人というならあたしとヴィヴィオだけだ。
「わたしは少し周りが見えるようになってきました・・・さっきまで恐怖に飲まれてて何も考えられてませんでした。少し落ち着いて、周りをみてください!」
「・・・なのは、お兄ちゃん、逃げよう。」
「フェイトちゃん?」
「フェイト・・・」
「私はアイツらと三回も戦ったからわかる。今目の前にいる奴らは今までのとはわけが違う。敵わないんだ。逃げるしかない。見て?アルフなんか気絶してるよ・・・」
「管理局員が彼女を一人残して逃げるわけにはいかないだろう!?それにそれほどの脅威だとわかっているならなおさら・・・」
「一般人ならこっちにヴィヴィオがいる!それに・・・デバイスの無い私も戦力にならない。奴らと戦うには魔導士だと戦えない・・・」
「・・・クロノ君、フェイトちゃん達を連れて逃げて。」
「なのは!?」
「私の火力なら足止めくらいは出来る。みんなが逃げる時間稼ぎも・・・早く!」
「わかった、なのはも危なくなったら・・・」
「うわああああああっ!?」
朧車の体当たりをもろにもらってドレスが燃える。大きく吹っ飛んでみんなの所に落下した。
「クロノ君!急いで!!」
「リボン!・・・頑張ってッ・・・!」
あたしはヴィヴィオの言葉にサムズアップするしか出来なかった。肺に息が入らず呼吸が出来ない。
「君!・・・帰ったら話を聞かせてもらうからな!!」
「・・・げほ、あ゛い゛・・・」
「プリキュアさん!私も戦うよ。足止めくらいしか出来ないと思うけど・・・!」
「・・・ありがとう、ございます。」
よろめきながらも立ち上がり、常夜の住人を睨む。
「ふぅーむ・・・なかなかしぶといな。人間。」
「時間がないってのに・・・嫌になるねぇ・・・」
「フーッ!フーッ!ブモオオオオオオ!!!!!」
「ウシオニ・・・すこし落ち着いて・・・」
「ディバイーン!!!バスタァー!!!!」
ピンク色の光が奴らに迫るも目前でかき消える・・・なのはさんの顔が歪む。
「結構力いれたんだけどな・・・!」
「ううう・・・げほっげほっ・・・消耗が激しい・・・っ!」
再び構え直そうと足に力を入れたその時だった。ポーチからマクリルが飛び出してあたしたちの前で仁王立ちする。
「ま、マクリル・・・!危ない、から!戻って!」
「・・・どうしてメグメルを滅ぼしたリル!!」
「まさか・・・妖精?」
「嘘・・・」
・・・なんだろう。奴らがマクリルの姿を見たら動揺し始めた。
「・・・ヨウセイ、ソンナ、ゼンインケシタハズ。」
「しくじった・・・?生き残りが・・・いるなど・・・」
「こっちの質問に答えるリル!」
ちら、とマクリルと目が合った。・・・時間を稼ぐから、休めということだろうか。
「・・・妖精、私が答えよう。」
朧車が火を噴きながら前に出て来る。今のうちに、少しだけでも体を休める・・・
「メグメルを滅ぼしたのは他でも無い。我々の力を誇示するためだ。」
「・・・ふざけんなリル。」
「ふざけていない。我々はそういう生き物だ。貴様も妖精ならば見ていただろう。日々決闘に明け暮れ、自身の強さを見せつける様を。それを我々の世界だけではなく他の者にも見せつけてやろうと思ったのだ!手始めにどうにもちまちまと目障りな世界があったので・・・な?」
「この・・・!!!こっちにはプリキュアがいるリル!お前達を倒せる光の力を持ったこっちの切り札リル!降参して自分の世界に帰るリル!」
「切り札だと?笑わせる・・・半分も力を引き出すことが出来ず、満身創痍で我々に怯えるそこの少女が、か?」
「・・・!?」
やばい、休んだら意識がもうろうとしてきた・・・なのはさん・・・?
「プリキュアさん!?しっかりして!?プリキュアさん!?」
「しまったリル!」
「ふははははは!!!妖精の切り札もたいしたことないのだなぁ・・・」
「・・・なぁカッシャぁ」
「クロクビーナ、今更戻れん。」
「オレ・・・オレハ・・・ウオオオオオオ!!!!ブモオオオオ!!!!」
「ギュウキ・・・!?」
やばい!!牛鬼の咆吼で目を覚ますと、その巨体はマクリルを踏み越えてあたしとなのはさんの目の前に迫っている。
「キエロ!!!プリキュア!!!!」
「くっ・・・うわあああっ!!!」
「リボンーーーーーッ!!」
あたしは蹴飛ばされて瓦礫の山を転がる。牛鬼は更に詰め寄り、斧を振りかぶる。
「間に合って!!リングバインド!!!」
「ブモオオオオォォォォ!!!!」
「うが・・・げほ・・・」
牛鬼はバインドを引きちぎりながら、虫の息のわたしに斧を振り下ろした。
「っぐ!!うわあああああああああああっ!!」
「いやっ・・・!」
「リボン・・・!」
瓦礫を吹き飛ばしてあたしは地面にめりこんでいく。ジェラニウムフォームが防御特化だったらしく体が両断されるという悲劇は回避出来たが、航空ゴーグルは吹き飛び、頭のリボンはほどけ、グローブは砕け散った。
「も、もうだめリル・・・リボン!逃げるリル!この世界から逃げるリル!リボンだけでも生き延びるリル・・・お願いリル・・・リボン・・・!」
「プリキュアさ・・・嘘・・・!ヨシコちゃん・・・!?」
「あ・・・ぐ・・・うぅ・・・」
「ヨシコちゃん!ヨシコちゃんしっかりして!?」
「・・・マクリルーーーーーッ!!!!」
なのはさんに抱きかかえられ、もはや飛んでしまった意識で無意識にマクリルの名前を叫ぶ。マクリルは光の玉となってコミューンに収まった。
「・・・させ、ないッ!」
「ヨシコちゃん!もうやめて!」
「この世界でもう好き勝手させないんだからっ!!!」
《reloading!》
「あたしが!あたしが守るの!!!」
コミューンがまばゆい金色の光を放ち、闇を照らす。
「・・・世界の救世主か、そんなものが我々にもいてくれたらな。」
「そんなの最初からいやしないさ・・・カッシャ?私達は最初から日陰者だろう?」
「マブシイ・・・ヒカリ・・・アタタカイ・・・!!」
「・・・みんな、来るよ。」
《break open!》
「フォームッ!チェーンジッ!!」
なのはさんの腕からふわりと浮き上がって奴らに立ちはだかる。もう後が無い。限界なのがわかる。この変身が終わったらどうなってしまうのか、見当も付かない。今までは疲労で動けなくなる程度だった。今回は明らかに致命傷となる攻撃を受けすぎた。
「・・・ヨシコちゃんがずっと戦ってたんなんて・・・最初から、いままで、ずっとぼろぼろになって・・・」
コミューンのシリンダーが回転して金色の宝石がセットされる。
《complete!formchange!stand up tournesol!》
ほぼ裸同然になったぼろぼろのジェラニウムフォームのドレスが光の粒子となって消える。金色の光の帯が体に巻き付いて、金のラインがいくつも入ったワンピースドレスに変わる。金色のまぶしいリボンが腰と頭に巻かれ、小さなリボンのついた金の意匠の白いドレスグローブが装着される。ブーツは金の靴紐のロングブーツが履かれる。
「ッ!」
指を鳴らすと金のヴェネチアンマスク、金のロングスカーフが巻かれる。
「疾風怒濤!夏燃ゆる情熱の魔法!キュアリボン トゥルヌソル!」
眩しい光を放ちながら、ゆっくりと着地する。
「ヨシコ・・・ちゃん・・・?」
「なのはさん・・・正体、ばれちゃいましたね。」
「なんで・・・どうして言ってくれなかったの!」
「最初は、ウラメシーナが出現したときフェイトさんの家から出ちゃダメだよっていう言いつけを守る為でした・・・それがずるずると引き延ばされちゃって・・・」
「そんなの・・・!」
「この力・・・あたしにしか使えないそうなんです。困っている人がいて、助けてあげられる力があるなら迷っちゃいけないってヴィヴィオが教えてくれました・・・なのはさんの言葉だって・・・」
「確かに・・・そうだけど・・・それはわたしのお父さんの言葉で・・・」
「なのはさん!今はあいつらを!!!」
「世界の救世主・・・プリキュアと言ったか。」
「そうだよ・・・あなたたちの好きなようにはさせない。」
「そうか。ならば私が相手だ。クロクビーナ、後は頼む。」
「そうかい・・・達者でな、カッシャ。行くよギュウキ、レイリン。」
「カッシャ オイテクノカ?ダメダ ミンナデカエル」
「ギュウキ・・・仕方ないんだ・・・いくよ・・・」
「カッシャ!カッシャ!ダメダ!」
「・・・ッ!」
牛鬼とろくろ首と幽霊が闇の中に消えてあっという間に見えなくなって逃げた・・・でも追えない。目の前の朧車が並々ならぬ殺気を放っていてうごけない。
「我々も後に退けない。」
「後に退けなくなるんならどうして、メグメルを滅ぼしたりしたの!」
「我々にとっては必要なことだった。」
「だからって!誰かを苦しめるなんてことは許されない!」
「その許されないことがどうしても必要だった・・・我々は生きるためには悪になるしか道はない。」
「あるよ!きっとある!どうして他の道を探そうとしなかったの・・・!」
「・・・もう話すことはない。いくぞ。」
朧車のまわりに瓦礫の木材や石が集まり、巨大な牛車を構成していく。骨の塊ように見えるその巨体は一瞬で10メートルを超え炎につつまれていた。
「・・・なのはさん、お手伝いしてもらってもいいですか!」
「わかった・・・ヨシコちゃん。でも魔法は効かないんだよね?」
「はい・・・それでも撃ち続けてください!人間が・・・この世界の人が、魔導士が!抵抗し続けなければならないと思うんです!全力全開で!!!」
「全力全開・・・そういうのなら得意だよ。じゃ、一緒にやろっかヨシコちゃん。」
「精一杯やります!わたしが負けたら、それこそ終わりですし。絶対に、諦めない!!あたしの決意は固結びで絶対ほどけないんだからッ・・・!!!」
つづく