真姫ちゃんの『心の声』が聴こえるようになってしまったにこちゃん!

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テーマはブレブレだけど、まあ楽しめると思います。


エンジェルヴォイス

やばい、遅刻しちゃう!私は通い慣れた道を駆けていく。顔を出したばかりの夏の太陽が、私の眼に差し込む。あと5分でチャイムが鳴ってしまうっていうのに、音乃木坂学院は、未だその姿を見せない。「はー、もうだめ〜」と、弱音を吐いて足を止めかけたそんな折、一人の女の子が曲がり角から走って出て来るのが見えた。

「真姫ちゃん!?」

「ゔぇえええ!? にこちゃん!?」

現れた少女、真姫ちゃんはきれいな赤い髪の毛を振り乱し、必死に走っていた。私も負けじとまた走り始める。

「あんたがこんな遅い登校なんて、珍しいわね!ハァハァ……」

「た、たまたまよ!ハァハァ……」

ふと、隣を走る彼女の顔を下から覗き込む。まったく、真姫ちゃんってば、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうくらい必死ね。よっぽど遅刻したくないのかしら。ふふっ、かわいい。そんなことを思いながら走っていると、(にこちゃん、なんで私の顔見てんだろ、でも、疲れてるにこちゃんもかわいいわね) と声が聞こえてきた。

「あんた!遅刻しそうだってのに、なんて呑気なの!そりゃあにこは走る姿も可愛いスーパーアイドルだけど!」

「なっ、何も言ってないじゃない!」

「えっ、だって今……」

「ほら、学校見えてきたわよ!急ぎましょ!」

「う、うん……」

今の声は確かに真姫ちゃんだったような気がしたんだけど……。って、これが気のせいだとしたら私、相当な自意識過剰じゃない!恥ずかしい……。そして、校門を通り抜けたところで、キーンコーンカーンコーンと、いつものチャイムが鳴った。

「結局、間に合わなかったわね」

「遅刻したのなんていつぶりかしら、ああ……」

(でも、にこちゃんと一緒に来れたからいっか……)

「……あんた今何か言った?」

「別に何も言ってないわよ、さっさと怒られに行きましょ」

そう言って歩いていく赤い天使を見つめ、気づいてしまった。どうやら私は、真姫ちゃんの心の声が聴こえるようになってしまったらしい。

 

放課後になって、私はアイドル研究部の部室へ一番乗りでやってきた。それにしても、今朝のあれは一体なんだったんだろう?他の人の心は全然聴こえなかったし。もしかして、真姫ちゃんの思ってることが、全部聞こえてくるのかな?それは嬉しいけど、なんか真姫ちゃんのプライバシーを覗いてるみたいで、あまりいい気持ちではないわね。そんなことを思っていると、

「やっほー、にこちゃん早いねー!」

と穂乃果が勢い良くドアを開け、飛び込んできた。そして、その後ろから、ことりと海未も連れ立って部室に入って来た。

「あんたらが遅いのよ、まったく」と悪態をつく。するとことりが、

「にこちゃん、真姫ちゃんと一緒に来なかったんだぁ?」

「はぁ!?な、なんでにこが!」

「にこ、慌てすぎです」

「海未、うるさいわよ!」

「にこちゃんと真姫ちゃんって、本当に仲良しだよねー」

「穂乃果!」

この後輩たちは、どれだけ先輩をからかえば気が済むのだろう。そりゃ、真姫ちゃんのことはもちろん好きだけど……。あ、やばい。顔赤くなってないかなぁ……。その後やって来たのは、凛、花陽、それに希だった。

「熱い〜。授業疲れたにゃ〜」

「凛ちゃん、ほとんど寝ちゃってたけどね……」

「かよちん、それは言わない約束にゃ〜!」

「凛ちゃん、悪い子にはワシワシやで〜!」

「にゃ〜!!?」……なんというか、微笑ましくなるくらい元気よね、この子たち。逃げる凛と、追う希。そして傍観する4人を尻目に、私はμ'sの練習メニューを考える。私たちはラブライブの頂点に立つスクールアイドルなんだから、まだまだ必死に努力しなくちゃあいけない。そして、最後の2人、絵里と真姫ちゃんがドアから入って来た。

「みんな揃ってるわね」

「ほんとあっついわねこの部屋」(疲れたわ……)

「真姫ちゃんどうしたの?」

「えっ、何がよ?」

「あっ、いや、なんか疲れた顔してたから……」

危なかったわ……。心の声に反応して思わず訊いちゃった。聞こえないって『設定』で接さないといけないのね。まかせて!『設定』なら大得意よ!

「遅刻しちゃったから反省文書いてたのよ、そういうにこちゃんは書かなくてもよかったの?」

「にこっちは常習犯やからええんよ。な〜、にこっち〜」

……返す言葉も無かった。

「ところでみんな、なんで今日ここに集まったか覚えてる?」絵里が問うた。

「あれ、なんだっけ?」

「もう、穂乃果ったら……。他のラブライブ出場者のライブを研究するんですよ」

「そういえばそうだったにゃ〜」

穂乃果と凛は相変わらずね。そう、私たち以外のアイドルを見て学ぶこともスクールアイドルとして必要なこと。決して私や花陽の趣味を優先したという訳じゃない。

(まったく、穂乃果と凛は相変わらずね)

あっ、真姫ちゃんも同んなじこと思ってたんだ。急に胸がくすぐったくなる。

「にこちゃん。なんでニヤニヤしてるの?」

「ことり。訊いても無駄よ。にこはもう……」

「どういう意味よ、絵里!」

みんなしてこのスーパーアイドルにこにーをこけにして!きーー!!悔しいけど、これも人気者の性ね。仕方ないから許してあげましょ。

「では、見てみましょう皆さん!」

「花陽ちゃん、張り切ってるね!」

「はい!今から見るのは全部私の好きなかわいいアイドル達なんです!」

(花陽……。趣味全開じゃない……)

真姫ちゃん!そういうこと思っても言っちゃダメ!あれ、言ってはいないのか。ああもう!ややこしいわ!花陽がDVDプレイヤーをセットして、画面の向こうで華々しいライブの幕が上がった。最初のグループは、5人組のアイドルだった。全体的にボーイッシュな雰囲気がある。あっ、この曲!

(いい曲ね!今度参考にしようかしら)

さっすが真姫ちゃん!わかってるわね〜。私も凄くいいメロディだと思う。

「なんか、結構切ない歌詞だにゃ〜」

「そうですね。好きな人の気持ちが分からない。想いが伝えられない。」

「悩んでる女の子の曲やね」

希はそう言って何故か私の方をチラリと見る。

(好きな人、か……)

真姫ちゃん……。好きな人の気持ちは出来るだけ知りたいけど、かといって全てを知っちゃうのは……。私は自分がある意味で贅沢な悩みを抱いていることに気付き、少し恥ずかしくなった。真姫ちゃんにも好きな子いるのかなぁ。それが私だったらどんなに……。いや、今朝も私のこと可愛いって言ってたしもしかして!でもそれは女の子なら普通に友達として可愛いっていう事なのかも……。ああもう!訳わかんなくなってきた!気付くと次のアイドルの映像に切り替わっていた。またも恋愛の曲。告白について、可愛らしい振り付けで表現していた。

「みんなは好きな子いないの?ねえねえ、真姫ちゃんとかさ、どうなの!」

「ゔぇえええ!?」(ゔぇえええ!?)

穂乃果!?何訊いてんのよいきなり!!

「えっ、私は、その……」

「真姫ちゃん顔がトマトみたいに真っ赤だにゃ〜」

「いけませんよ穂乃果、いきなりそんな破廉恥な」

「いいじゃない、私も興味あるわ」

「絵里まで……」

「私、えー、あー、う……」

(なんでにこちゃんの前でこんなこと聞かれなくちゃいけないの!?あーもう顔赤くなってきてるし、こんなんじゃにこちゃんにバレちゃうよ……。でも、だからって正直に伝えるわけには……。にこちゃんが私の事嫌いになるかもだし、もう、穂乃果のバカ!)

「え、なんでにこちゃんまで顔火照ってるの?」

「う、うるさいわねことり!暑いだけよ」

結局その後、スクールアイドル達のライブも、真姫ちゃんの心の声でさえも、私の耳には入って来なかった。

 

下校時刻になり、みんなが荷物をまとめる中、真姫ちゃんの姿だけが、そこになかった。

「あれ、真姫ちゃんは?」花陽が尋ねる。

「すごいスピードで帰っていきましたよ、さっきのが相当恥ずかしかったんじゃないですか」海未が答えて、穂乃果をきっと睨んだ。

「えへへ……」と穂乃果が笑う。私はカバンを持って駆け出した。

「にこちゃん!?」

「ごめん、私急用思い出した!」

ドアを開け、廊下を走る中、後方で希が「青春やね」と言うのが聞こえた気がした。

 

河川敷のそばを、真姫ちゃんは歩いていた。

「真姫ちゃん!」と私は叫ぶ。

「にこちゃん!?」(どうして追いかけて……)

そんなの、決まってる。私はずるい。真姫ちゃんの本音を知っていながら、そのまま黙って、やり過ごそうとして。傷つきたくないから。怖いから。でも、もうやめにしよう。私が聴きたいのは心の声じゃない。真姫ちゃんの心からの、ホントの声。

「私、真姫ちゃんのことが好き!」

「えっ……」

その瞬間、真姫ちゃんの心の声がパタリと聴こえなくなった。きっと、私が想いを吐き出したから。

「私も……。にこちゃんのこと、好き!」

心の声は、もう聴こえないけれど真姫ちゃんがどうしたいか、今ならわかる。きっと、彼女も私のこと、分かってくれてるはず。夏の夕暮れの中、私は背伸びをして、目の前にいる真っ赤な天使の唇に、自分の唇を重ねた。


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