雁夜おじさんに憑依してしまった大学生   作:幼馴染み最強伝説

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閑話:3

◇もう一つの聖杯戦争:第二章◇

 

「~♪」

 

鼻歌交じりに通学路を歩くのは昨日、同じ日に二体目のサーヴァントを召喚する、平行世界の自分を召喚する、クラスがエクストラクラスという異例づくめのマスター、間桐桜だった。

 

いつものように同じ穂群原に通う先輩であり、想い人である衛宮士郎の家で朝食を摂り、これまたいつものように時間をずらして登校している彼女の足取りはいつも以上に軽い。

 

それは昨日の出来事だ。

 

間桐桜を苦しめていた元凶、彼女の精神を歪めていた根源である間桐臓硯の消失。元々、兄の方は養子の自分が来たせいで魔術師の家系の長男としての責務を奪ってしまった呵責があった分、そこまででもなかったものの、彼女の心の闇を増長させるものは一日のうちに全て消え失せ、残った虫も細胞一つ残さず焼き払われた。

 

自らの生に絶望し、諦観しつつも何処かで救いを求めていた彼女は、皮肉な事に既に救われている自分に救われることになったものの、それはそれで良かったのかもしれない。

 

少なくとも、穢れた自分を知られる事はなくなったのだから。

 

ところで、その件のサーヴァント、サクラはというと、今現在は家に待機中だ。

 

本来ならばサーヴァントは常にマスターの側にいるべきなのだが、サクラは生きたままサーヴァントとして召喚された性質上、霊体化する事が出来ない。

 

ともすれば、瓜二つの桜と入れ替わるという方法もあったのだが、髪の長さに始まり、瞳の色や体つきに差があり、何より記憶に差がある。

 

姉である凛との関係は当然の事、そもそもサクラの世界では衛宮士郎が存在しない。

 

学校の生徒である意味一番接触の多い人間との記憶がない事は致命的で、仕方なく、サクラは家で待機し、いざという時は令呪による強制召喚の方法を取るという事で話はまとまった。

 

(聖杯戦争なんてしたくないけど……助けてもらったお礼はしなくちゃ)

 

聖杯にかける願いなど桜は微塵もありはしないが、サクラが聖杯を求める以上、お礼として聖杯を勝ち得る事とした。闘争自体好きではないものの、それだけの事をしてもらったのだ。お礼をしないわけにはいかない。桜はそう思った。

 

(でも、姉さんもきっと参加するはず……)

 

そうなると戦いは避けられず、魔術師として育てられなかった桜が魔術師の鍛錬を受けてきた凛に勝てる要素はない。マスター同士で戦ったら、瞬殺されるのがオチだ。普通なら。

 

未だ桜は知らない。自分がどれ程えげつないサーヴァントを引き当てたのかという事を。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ!お掃除完了です」

 

時刻は午後二時が回ろうかという頃。

 

ウィッチことマトウサクラは間桐邸内を一通り掃除し終えて、そういった。

 

「お昼ご飯の時間に……と思ったんですけど、サーヴァントって凄いなぁ。お腹減らないんだ」

 

本来ならすぐに胃が空腹を訴えていてもおかしくはない時間であるにもかかわらず、全く空腹感を感じていないことにサクラはサーヴァントという存在の神秘を改めて感じていた。

 

とはいえ、サクラは存命中にサーヴァントとして召喚された身であるため、空腹は感じず、睡眠も必要としないものの、霊体化は出来ない。それ故にマスターたる桜の側にはいられなかった。

 

その気になれば入れ替わることもできるのだが……。

 

「折角、髪の毛伸ばしたの切りたくないし。聖杯戦争は人目のつかない時にするってお父さん達も言ってたし、いざとなれば令呪もあるから大丈夫だよね」

 

実は念の為にこっそりリレイズもかけたことはマスターには内緒である。

 

「一応籠城する可能性も考えて、今日のうちに買い貯めておかなきゃ。戦争は決闘じゃない、だもんね」

 

数多い師の一人である衛宮切嗣の教えを復唱し、サクラは渡されている金銭を持って、間桐邸を出る。

 

霊体化できない以上、認識阻害の魔術をかけるしかないのだが、これまた買い物に行かなければいけないので使用できない。してしまえば、透明人間扱いになってしまうからだ。

 

「あーあ、こんな事なら認識阻害の魔術は変装用の方を教えてもらうべきだったなぁ」

 

愚痴を言っても仕方がない。

 

サクラは人目がない事を確認して、間桐邸を出ると、サーヴァントのステータスを活かして、常人の目に留まらない速度で屋根伝いに移動していく。もちろん認識阻害も忘れずに。

 

いくら敏捷値が高くないとはいえ、それでもサーヴァントである事に変わりはない。超人的な能力を得ているサクラは自然に零れる笑みをそのままに屋根の上を駆ける。

 

そうして新都へと向かっている途中、人通りの少ない場を通過した時だった。

 

「よおっ、随分楽しそうだな、お嬢ちゃん」

 

突然、背後から声が聞こえてきたかと思うと、鋭い一撃がサクラの胴の真横を通り過ぎた。

 

咄嗟に避けたサクラは体勢を崩しながらも、地面に着地する。

 

声の主もそれ以上の追撃はしてこず、サクラより少し離れた位置に着地した。

 

「ッ!?」

 

襲撃してきた相手を見て、サクラは驚愕に表情を染める。

 

それもそのはず、その相手はつい先日まで彼女と顔を合わせていた人間なのだから。

 

青い全身タイツに深紅の長槍。

 

サクラとの鍛錬の際に彼がよく着ている服装だ。

 

「クー・フーリンさん?なんでこんなところに……」

 

サクラの問いに襲撃者は目を見開く。

 

「………当てずっぽうってわけじゃなさそうだな。なんでわかった?」

 

「へ?えーと、なんといいますか………ともかく知ってたんです」

 

「戦う前から真名がバレるとはな……お前、どこの神話の英霊だ?」

 

問われて、サクラは黙る。

 

どこの神話の英霊でもない。というか、英霊だと言っていいのだろうか。

 

サクラは答えに困り、押し黙るだけだった。

 

クー・フーリンは答えが返ってこない事に別段何を言うでもなく、槍を構える。

 

「まあ、別に教えてもらえるなんざ思ってねえ。ただ、俺の真名を知ってるなら、そっちの名前も教えてもらうぜ。でないと不公平ってもんだからな」

 

そう言って、クー・フーリンは全身から殺意を迸らせる。

 

手加減なく放たれる殺意の波動にサクラは身を怯ませる……事はなかった。

 

それどころか、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

それもそのはず、サクラは師の一人であるクー・フーリンに一度も勝てた試しはない。

 

英霊であるのだから、勝てるわけもないのだが、しかし勝ちたいという気持ちはある。

 

ましてや、今のクー・フーリンはマトウサクラだからという理由で手加減はしてこない。状況次第では宝具を打つ事も辞さないだろう。

 

ならば、相手がどんな状態であったても、師弟関係を築いているクー・フーリンよりも死合う事ができるはずだ。

 

「ライダーか、アーチャーか、セイバーか。どのクラスのサーヴァントか知らねえが、さっさと構えな。得物を構える時間くらいは待ってやる」

 

「優しいんですね」

 

「はっ!闘わずに倒すのは面白味がねえからな。そっちも負けたときの言い訳が得物を出せなかったなんざ、嫌だろ?」

 

「そうですね。では、お言葉に甘えて」

 

サクラがそう言うと、何もない空間から一本の槍が出現する。

 

その槍を見たクー・フーリンは目を剥いた。

 

何故ならその槍はーー。

 

「……てめえ、マジで何処の英霊だ?なんでゲイ・ボルクを持ってる?」

 

サクラの手に握られた槍。それはまごう事なく、クー・フーリンの持つものと同じものだった。

 

贋作ではない。使用している本人にはそれがわかる。サクラの手に握られたゲイ・ボルクが真作である事が。

 

(俺より後の時代の英霊なのは確かだ。ましてや、俺以外にゲイ・ボルクを使った英霊なんざ限られてくるが、間違いなくこいつじゃない)

 

自然と槍を握った手に力が込められる。

 

今現在、自分にかけられた令呪のせいで十全に闘えないクー・フーリンもといランサーだが、この相手はここで倒せと英霊としての本能が告げていた。

 

「まあいい。それがあっても、使い手が弱けりゃ意味ねえからな!」

 

地を蹴り、ランサーは肉薄する。

 

相手がどのクラスだろうと関係は無い。敵だから倒す。特にわけのわからない敵は早々に倒すにかぎる。

 

薙ぐように振るわれた槍は吸い込まれるようにサクラの首めがけて放たれる。

 

「翻りて来たれ、幾重にもその身に刻め、Haste(ヘイスト)!」

 

その詠唱と同時、首を刎ねんと迫った穂先は空を切った。

 

「っ!」

 

完全に捉えていたはずの一撃が躱されたことにランサーは僅かに目を見開いた。

 

すぐにお返しとばかりに喉元目掛けて突き出された穂先を躱す。

 

(急に加速した?隠してたのか、それとも何らかの魔術で補強したか……だとしたらキャスター適性のあるサーヴァントか、厄介だな)

 

(流石はクー・フーリンさん。殺す気で来られると魔法の補助無しでの近接戦闘は無理)

 

お互いに警戒レベルを一気に跳ね上げ、同じ構えを持って相対する。

 

そして次に仕掛けたのはサクラだった。

 

「はあっ!」

 

振るわれる槍の一撃は何れも鋭く、全て致命傷足り得る一撃だ。

 

それをランサーはいなし、反撃にでる。

 

刹那の死闘において、何度も攻防が入れ替わる。

 

ただ違うのは、余裕が無いのはサクラの方で、ランサーには幾分か余裕があるということ。

 

魔法による補助をかけたとしても、槍兵相手に魔法使いであるサクラが槍だけで勝てる道理は無い。

 

そう槍だけでは。

 

Thunder(サンダー)!」

 

攻防の切り替わる瞬間にサクラは詠唱する。

 

対魔力を持つランサーには詠唱破棄された魔術など恐るるに足らない。

 

だが、忘れることなかれ。

 

彼女の使うものは神代すらも届かない。魔法であることを。

 

「っ!?」

 

身体を焦がす一撃にランサーは一瞬動きを止めた。

 

それは攻めるにはあまりにも短い時間ではあったため、サクラは攻めることはせず、すぐさまその場を離脱した。

 

敵前逃亡をしたのには理由がある。

 

一つはまだ手を完全に明かすつもりはないこと。一つはまだ人目がないだけで聖杯戦争の時間。つまり夜ではないこと。そして最後にクー・フーリンが全力で無い事だ。

 

勝つのなら今しか無い。

 

しかし、サクラとしては師であるクー・フーリンに勝ちたい。それも全身全霊をかけた闘いで。

 

他の条件も重なり、今は撤退する事にしたのだ。買い物をする事を忘れていたというのもあるが。

 

すぐに槍を構え直したランサーの前にもうサクラはいない。

 

少し離れた位置に建物の屋根を跳躍する影が見えたものの、これ以上の深追いは他のサーヴァントを呼び寄せかねないとランサーは槍を消した。

 

「野郎……俺の対魔力をぶち抜いてきやがった。どうなってやがる」

 

大規模な魔術……というには奇襲に対してあまりにも対応が雑だった。

 

それに槍で対応する道理がない。詠唱破棄で打ち込めるなら、ランサーの攻撃に合わせれば、カウンターで打ち込める上に今よりも遥かに隙ができただろう。なのにしてこなかったという事は何かしらの意図があったとしか思えなかった。

 

「ちっ……まあいい。次やるときは全力だ。きっちり殺してやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他のサーヴァントと闘った!?」

 

「はい。真名はクー・フーリン。クラスは多分ランサーだと思いますよ」

 

帰ってくるなり、他のサーヴァントと闘ったという事実を聞いて、桜は驚きの声を上げた。

 

「宝具はゲイ・ボルク。対人用の一刺一殺とその投擲から繰り出される対軍用のものの二つで、避けるのはかなり難しい……って本人は言ってました」

 

「そう……え?本人?」

 

「はい。『この槍を避けられる奴がいるんなら、そいつは普通の英霊じゃねえか、俺のマスターがダメなんだ』って」

 

「?」

 

なんで相手が自分の宝具の特性を話してくるのか、桜は首をかしげる。

 

無論、サクラの言っているクー・フーリンはサクラの世界の方である。

 

「でも、そんなサーヴァントがいるんじゃ、勝つのは難しいと思うけど……」

 

「あ、その辺は大丈夫ですよ。私、心臓刺された程度ならすぐに蘇生しますし、なんならこっちもゲイ・ボルク打ちますから」

 

けろっとした表情で言うサクラに桜は本格的に頭が痛くなってきた。

 

自分の人生も大概波瀾万丈ではあったものの、平行世界の自分は心臓刺された程度ならすぐに蘇生してしまうような化け物になっているのだから。

 

元より英霊となるような存在だ。平行世界の自分は蟲に陵辱されていなくとも、ろくな人生は送っていないのだろうと思っていた。

 

「それよりもです。姉さんはどうでした?」

 

「……マスターだったし、私がマスターなのもばれちゃった」

 

「あー、やっぱり。まあ、別に?姉さんがどんな英霊呼び出してても、日頃の鬱憤はきっちり晴らさせてもらいますけどね。寧ろ、姉さんだけには何があっても負けません。他のサーヴァントに負けても姉さんのサーヴァントだけは倒します」

 

がしっと握り拳を作るサクラ。

 

常日頃から溜められた鬱憤はきっちり晴らすとその目にはメラメラと私怨の炎が燃え上がっていた。

 

「他のマスターはどうですか?」

 

「わからない……けど、一人だけ、心当たりがあるの。でも、その人は私にとって大切な人で……」

 

「大切な人……つまり、好きなんですね」

 

「べ、別にそういうわけじゃ……!」

 

「隠さなくてもわかりますよ。好きな人ができた事はありませんけど、こう見えて恋愛相談は百戦錬磨。結んだ愛の数は私達の両手足の指じゃ数え切れませんから!」

 

どうだとばかりに胸を張るものの、完全に恋愛出来ない人の典型的なパターンだった。相談に乗るばかりで自分の好機を逃すタイプであることに本人は気づいていない。

 

「じゃあ、明日にでも確認してさくっと同盟組みましょう」

 

「え……そんなにあっさり」

 

「『愛は全てにおいて優先すべし』。お母さんが言ってました。聖杯戦争に勝ちたいのはあります。でも、マスターの好きな人がマスターとなれば、その恋路。全力で応援するしかないでしょう。ましてや、私が好きな人。きっと男らしい人に違いありません」

 

「え、えーと、私がいいならそれでお願いするけど……」

 

なんだか、嫌な予感しかしないなぁと桜は思った。

 

そしてその予感は的中する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇バカ二人◇

 

「雁夜。実は折り入って頼みがあるんだ」

 

「あ?どうした、そんなに畏まって」

 

ある日のこと。

 

喫茶店に呼び出された雁夜は切嗣から真剣な表情で問いかけられていた。

 

「実は……イリヤが」

 

「なんだ、好きなやつでもできたのか?」

 

「そんなわけがあるか。もしそんなやつがいたら、僕は今すぐ魔術師殺しに戻って家ごと爆破解体してやる」

 

煙草をふかし、真顔で言う切嗣。

 

いっそ怒鳴った方がまだマシだった。その顔は完全に聖杯戦争時代のものに戻っていた。

 

「まあ、そんな事はどうだっていい。実は……」

 

「嫌われたのか?反抗期にしては早いな」

 

「間違ってもイリヤに反抗期なんかあるもんか。来たら僕は自殺する」

 

これまた真顔……だが、目が泣きそうだった。やたら真剣すぎる切嗣の言葉に雁夜は若干引いた。

 

「はぁ……そんな来ない未来の事はどうでもいい。僕が言いたいのは、イリヤが魔法を使いたいと言い出したことだ」

 

「………何?」

 

ぴくりと雁夜の眉が動いた。

 

「以前、僕が桜ちゃんに魔術を教えている時に桜ちゃんが魔法を使っているのをイリヤが見てね。それを見て、イリヤも使いたいと言い出したんだ」

 

「魔術じゃダメだったのか?」

 

「僕もそう言ったさ。でも、イリヤがどうしてもって言うからさ。断るわけにも行かなくなったんだ。それにね……僕の、僕の魔術は地味だって……」

 

「そ、そうか……ま、まあお前のは暗殺向きだもんな」

 

「くそっ……こんな事ならもっと派手な魔術を覚えておくんだった……!」

 

心底悔しそうな表情で切嗣は言う。その様子に雁夜はなんとなく察した。

 

自分にも、まだ生まれて間もない子どもがいる。

 

もしも、切嗣と似たような状況に陥ったらと思うと同情せずにはいられない。

 

しかしだ。はい、そうですかと教えられないのも事実だった。

 

魔法は今現在使える人間は雁夜と桜のみ。タマモも使えないのだ。

 

「頼む、雁夜!同じ娘を持つもの同士、君にもわかるだろう!?」

 

「わかる事にはわかるんだけどな……そうなるともう一人うるさいのが……」

 

「それは私の事を言っているのかな、雁夜」

 

「げっ……時臣……」

 

いつの間にか、その場には時臣がいた。

 

「なんだ、遠坂時臣。人の話に割り込むんじゃない」

 

「それを言うなら、衛宮切嗣。雁夜の弟子入りについては私が先約だ」

 

「僕はイリヤを魔法使いにしたいんじゃない。ただ、イリヤが魔法を使ってみたいというから、教えてほしいと頼んだだけだ。お前みたいな魔術師脳と一緒にするんじゃない」

 

「何を言うかと思えば。魔法とは即ち魔導の極み。それを使用する以上、魔導の道を歩むのは必定だ。それを使ってみたいなどという安易な考えで指南してもらおうなど、程度が知れるというものだ」

 

「何?今、イリヤをバカにしたな?表へ出ろ。今すぐ魔術回路を全部壊してやる」

 

「面白い。魔術を手段としてしか見ていない不届きものには誅を下さねばと常々思っていたところだ」

 

席を立ち懐に手を突っ込む切嗣と手にしていた宝石杖を持ち直す時臣。

 

まさしく一触即発の空気。

 

二人の迫力に客は静かに席を離れ、一つの場所に固まる。

 

お互いに内心で怒りの炎を燃え上がらせていたその時ーー。

 

「お客様、店内での揉め事は困り……カリヤ?」

 

「すみませ……アルトリア?」

 

止めに入ってきたのはセイバーだった。

 

その姿は騎士王としての服でもなく、雁夜が買ったものでもなく、ウェイトレス姿のものだった。

 

「なんでここに?」

 

「言っていませんでしたか?私はこの喫茶店でアルバイトをしています。まだ一週間ほどなので、もう少し経ってから、カリヤを招待するつもりでしたが……それはそれとして、何故このような状況に?」

 

「実は切嗣に連れてこられてな。色々と厄介な事になったんだ」

 

「そうですか。他のお客様が怯えているので、やめていただきたいのですが……」

 

セイバーは切嗣と時臣を一瞥する。

 

どう見ても止まらなさそうな雰囲気を醸し出す二人を見て、二人は溜息を吐いた。

 

それも仕方ない。二人にとって、それはタブーなのだ。

 

「……やむを得ません。こうなれば、実力行使に訴えます」

 

「は?いや、ちょっと待て!流石に宝具は……」

 

「ご安心を。私は箒を使います。例え宝具が無くとも、遅れをとる事はありませんので」

 

そう言ってセイバーは箒を構える。その姿は実に俗世に染まっていると言わざるを得ないが、それで騎士王としての戦闘経験がなくなるわけではない。一切の隙も見受けられなかった。

 

「では、今すぐ鎮めてーー」

 

「ちょっと待った、アルトリア。そんな事しなくてもあいつら止められるから」

 

箒を片手に切嗣と時臣の元に向かうセイバーを雁夜が止める。

 

セイバーは怪訝そうな表情で雁夜に何故と問いかけると、雁夜は言う。

 

「あー、他人に迷惑かけるような奴等の娘に教えたくないなー」

 

その言葉に切嗣と時臣は肩をびくりと震わせて睨み合いを即座に止め、そして何事もなかったかのように席に着いた。

 

「な?」

 

「流石です、カリヤ。一体どんな魔法を使ったのですか?」

 

「お父さんは娘に弱いんだ。あの馬鹿どもも結局そうなんだろ」

 

「はい?」

 

「何はともあれ、問題は解決したし、アルトリアも仕事に戻っても大丈夫だぞ」

 

きょとんとした顔で疑問符を頭の上に浮かべるセイバーに雁夜が言うと、セイバーは不思議そうにしたまま、仕事へと戻っていった。

 

「お前らの熱意はよくわかった。俺も、二児の親だ。気持ちはわからなくもない」

 

「じゃあ……」

 

「だが、魔法は負担がかかりすぎる。桜は俺やタマモと長い時間いたから、漸く初級魔法が使えるようになったが、それ以上はなかなか難しい。桜でも難しい事を、イリヤちゃんや凛ちゃんにさせるのは二人の身が危険だ。それはお前達も嫌だろ?」

 

「確かに……凛は遠坂の次期当主以前に私の大事な娘だ。出来れば危険な目に合わせるのは避けたい」

 

「そうだ。イリヤにもし何かあったら僕は……」

 

「そこでだ。イリヤちゃんや凛ちゃんにやる気があるなら、教えてやらなくもない」

 

「「何!?」」

 

がたっと席を立つ二人。

 

特に時臣は今の今までどれだけ頼み込んでも弟子入りは拒まれていただけにその表情は驚愕と共に喜びに満ちていた。

 

だが、普通の魔術師に魔法は使えない。

 

それは雁夜も承知している。ならば、どうするか。

 

二人とも、魔法の影響を受ければいいだけだ。

 

「二人が魔術師として一端になった時、魔法を覚えたかったら、桜に勝て。そしたら教えてやる」

 

「……それでいいのか?」

 

意外そうに雁夜に尋ねる切嗣。

 

「ああ。尤も、勝てればの話だがな」

 

二人が魔術師として一端となっている頃、桜は魔法使いとして一人前になっている、というのが雁夜の見解で、そうなれば十中八九二人に勝ち目はない。かなり意地の悪い提案だが、雁夜としてはそれでも二人が諦めずに桜に挑み続けるほどの根気を持つのなら、或いは桜のような奇跡が起きるかもしれないと考えた。

 

「桜には俺から説明しておく。あとはお前達次第だ」

 

「是非も無し。凛ならば、必ずその機会を活かせるはずだ」

 

「イリヤは良いっていうだろうな……でも、危ないしなぁ……僕の魔術は身体の負担大きいし……どうしようかな……」

 

時臣は自信たっぷりに頷き、切嗣は顎に手を当てて唸る。

 

どちらにしても雁夜にとっては構わない。負け続ける覚悟がなければ、それで終わりの話だ。いくら桜がやさしい子だとしても、そこは姉妹同士似ているのか、凛同様に極度の負けず嫌いだ。仮に勝てるとしても遥か先の話なのは分かりきっている。

 

「ま、せいぜい悩め。魔法は教えてやらんが、それ以外なら付き合ってやるからな」

 

この約束がきっかけとなり、凛は桜に挑み続ける事となる。

 

そしてイリヤもイリヤで、桜に勝つべく、様々な分野に手を出し、虎視眈々とその機会を伺うというどちらも実に親の影響を受けた魔術師として育った。

 




指摘されましたのでサクラの追加ステータス。

宝具:刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)
ランクC+
種別:対人宝具。
最大補足:一人。
クー・フーリンの編み出した対人用の刺突技。
槍の持つ因果逆転の呪いにより、真名解放すると「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因を作る。ゆえに必殺必中……のはず。
躱すには幸運値の高さを要求され、それを持ってして稀に外れるといったもの。なのにマトモに当たったことは相打ちの時しかなかったのが可哀相。
サクラが使用できるものはエクストラクラス故に対人用かつランクが一つダウンし、第5次におけるセイバー(幸運高め+未来予知レベルの直感)には確実に躱される。しかし、本人の幸運の高さ故か、幸運値が低いものは令呪で強制転移しない限り絶対殺す。幸運値が高いものもサクラを下回れば必中ではないものの、当たる確率は高い。ランサークラスなら投げる方も使える。
サクラがクー・フーリンの宝具を使用できるのは、現代においてゲイ・ボルクを使用して全力を出せる敵になかなか巡り会えない為、自らに制限をつける事で闘いを楽しもうとした結果、サクラの手にゲイ・ボルクが渡った。戦闘スタイルや真名解放はクー・フーリン直伝である。両者が宝具を使用した場合、同じ軌道で相手の心臓を穿つ為、ゲイ・ボルクがぶつかり合って終わる(FGO談)

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