とある花弁の無限迷路《ラビリンス》【完結】   作:ちひろん

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常識殺し

 初春と佐天は、その研究所の入り口を遠目に確認できる限界のところから、その場所を眺めていた。

 

 「ね、場所は分かった?」

 「…はい」

 

 その初春の声は震えていた。先ほどまでは佐天への強い怒りで自分を奮い立たせていたが、いざ目の前にその場所を見てよく考えれば、かなりの危険を伴うことが想像できた。

 今からでも超能力者《レベル5》の御坂美琴や大能力者《レベル4》の白井黒子を呼ぶか、そう考えたが、妹達《シスターズ》に関わることに巻き込んでもよいかが、判断できなかった。

 初春は、自分が上手く一方通行を助け出せれば全てが上手くいくと考えた。そう、一人で助け出せればである。ゆえに、初春を助けるものは、何もない。

 

 「お、武者震い?」

 「そ、そうです」

 「どこに捕まっているかまでは知らないから、あとは自分でね」

 

 そういうと佐天は初春の肩を叩く。おのずと、その震えは佐天に伝わる。

 

 「ちょっと、緊張しすぎだって。リラックスしなきゃ」

 

 佐天はことも無げに言うが、それは無理な要求だった。

 初春は風紀委員《ジャッジメント》の仕事柄、荒事に関わることもある。だが、それはチームとしてである。単独で、このような事にあたるのは初めてだった。誰かとなら耐えられることも、一人では耐えられないことは沢山ある。中で何が行われているかも、分からないのだ。不安にならない方がおかしい。

 

 「あ、あの、佐天さん。中では、一体、何が」

 

 初春は、震えが言葉が上手く出ない。

 

 「もう、仕方ないなあ」

 

 佐天は、ため息をつきながら子供をあやすように言う。

 

 「シスターズってさ、御坂さんのクローンでしょ? でも御坂さんは学園都市の第3位なわけ。むしろ、なんで今まで誰もしなかったのか不思議なくらいだよ」

 

 初春は、その言葉で全てを察した。

 

 「さっきラーちゃんから聞いたとおり、アクセラさんは今は制限付きで、そのバッテリーが生命線なわけで」

 

 佐天は、初春がもつ小型のバッテリーを指差す。

 初春は、打ち止めから一方通行の状況を聞いていた。一方通行は脳の障害により、演算補助を受けなければ日常生活もままならない。そして、それは首に巻きつけている首輪のようなチョーカーが担っており、定期的なバッテリー交換が必要であった。通常で約48時間、能力を使用するなら、約15分程度がそのバッテリーの限界だった。

 現在、その持続時間は増えているが、それは打ち止めは知らない。

 

 「でも中にいるアクセラさんのクローンは制限なしだからね。よくあそこまで作れたよね。多分、実験体はシスターズ並に死んだんじゃないかなあ。量産目的と、完全複写目的じゃあ、目指すところが違うからよく分からないけど」

 

 その話を聞いて、初春は聞かなければよかったと後悔した。

 つまり、あの研究所の中には、学園都市第1位と同等の能力を持つクローンが居て、そこに単身乗り込むことになるからだ。

 低能力者《レベル1》の初春が、超能力者《レベル5》に敵う道理はない。

 しかも初春の能力は、定温保存《サーマルハンド》、触れているものの温度を一定に保つ程度しかない。しかも触れている必要があるため、極度に熱く、冷たくすることはできない。コーヒーが冷えにくくなる程度の能力である。

 それに対して一方通行の能力は、運動量・熱量・光量・電気量など、体に触れたあらゆる力の向き《ベクトル》を操作する能力である。

 レベルも、その能力も、何もかもが敵わない。

 

 「ま、アクセラさんは、今はバッテリー切れで捕まってるだけだから、交換すればいいだけだよ」

 

 その言葉にも、初春は反応できない。体の震えを抑えるために必死である。

 

 「大丈夫だってば!」

 「で、でも、私、誰かに襲われたら、多分それだけで」

 「もう、手がやけるなあ。仕方ない、じゃあ私が、初春の常識を殺してあげる」

 

 初春は、佐天を見る。

 

 「常識を…殺…?」

 

 佐天は初春の目の前に指を1本立て、いつものように笑う。

 

 「いいことを教えてあげる。人を殺すにはね。少しの力と、ほんのちょっぴりの勇気があればいいんだよ?」

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