騒ぎに気付いたのか、通路には青い検査着を着たクローン達が溜まりつつあった。
一方通行は近くの部屋のドアを千切りとると、そのまま通路のクローン達に向かって放り投げる。反射に成功したクローンは虚ろな顔のまま瓦礫を一方通行へベクトルを加速させて蹴り飛ばす。一方通行はそれを何事もないように反射し、お返しとばかりに自らを加速させてそのクローンの頭を鷲づかみにすると、そのまま壁に叩きつける。
結果、辺りは血を流すクローンの屍体が転がることになる。
一方通行の前に立ちはだかっているのは、一方通行の劣化クローンだった。劣化と表現する理由としては、その能力使用が非常に不安定であるからだ。ベクトルの向きを反射する能力使用の成功率も低く、同じ相手に数度攻撃を仕掛ければ、通ってしまう。一方通行への攻撃を仕掛けようとするものも、数度に一度程度しか成功していない。場合によっては発生させた衝撃を反射しきれずに自滅するものもいる。
『こいつらも、本当は保護すべきなんだろうな』
一方通行はそう思う。
作られたからには、命がある。この命を蹂躙するのは、妹達《シスターズ》を虐殺したことと、なんら変わりないと、理解していた。
だが、このクローン達は意識の大部分を削られている。反抗できないように、まともな思考ができないように、研究者の思い通りに動くように、失敗作はそういう非人道的な加工が行われている。
研究者が偉そうに語った言葉だった。
だが、このクローン達は一方通行の前で、言った。
『ころしてくれ』
言葉にはならなかったが、虚ろな意識の中で、そう唇を動かした。
「お願いされたら、期待に応えるしかねェわなァ」
『すまねえな』と、そう誰にも聞こえないようにつぶやきながら、一方通行は蹂躙する。自分のエゴを、虐殺で押し通す。
「おらァ! 気張らねェとすぐに死んじまうぞォ!」
一方通行は蹂躙しつつ、地上へ向かう。まずは初春を無事に返さなくてはならないからだ。
初春はその後ろを、クローンの屍体の間を縫うように、ふらふらと、ぶつぶつと、歩く。
そうしてしばらくすると、クローンが現れなくなり、その代わりにそれが唐突に現れた。
それは、手に白衣を着た誰かの後頭部を片手で掴んで引きずっている。
「こんにちわ。どうですか、調子は?」
そのクローンは他のクローンとは違い、目の焦点がしっかりと一方通行を見ていた。
一方通行は、自分の顔で礼儀正しい口調で喋られることに、違和感を覚える。
「そうだな、まあ悪くねェし、その顔みたら気分も乗ってきたぜェ!」
一方通行は足元の瓦礫をそのクローンに向けて、蹴り飛ばす。ベクトルを加速させられた瓦礫は、そのクローンに反射されて一方通行に返るが、一方通行はそれを左手で壁に向けて弾く。
「危ないじゃないですか」
「わりィわりィ。足が滑ってな」
そのクローンは一方通行の後ろの初春をみる。
「可愛い助っ人ですね。バッテリーはフル充電って感じですか?」
「ああ、わりィな。昨日はあんまし相手にできなくてよォ」
「いえいえ。こいつの作戦だったらしいですから」
クローンはそういうと、掴んでいた白衣のそれを、一方通行に投げつけた。高速で飛来するそれを、一方通行はなんのためらいもなく、壁に向けて弾く。また一つ、屍体が増えた。
「おいおい、親は大事にするもんだろォ?」
「子供を信用しない親ですよ。子供から信用されなくても仕方ないです」
「ま、俺も手間が省けたからいいけどよォ」
お互い、取るに足りない会話を続けながら、相手の様子を伺う。
一方通行のバッテリーが続く限り、能力はほぼ同等のため、拮抗状態となる。それが続けば続くほど、制限のある一方通行は分が悪くなる。お互いに外部からのベクトルに対して反射を行っている限り、この状態を破ることはできない。
クローンは、ただ待てばいい。勝負は二人が相対した時に終わっていた。
そして、一方通行は焦っていた。自分の死は覚悟している。ただ、初春だけは逃さなくてはいけないと、相手の隙を伺っている。試しにクローンへいくつかの瓦礫を蹴り飛ばすが、ことごとく反射される。劣化クローンと違い、不安定さは皆無だ。
一方通行はため息をつく。
「後ろの女だけは逃がしてくれねェか?」
クローンは、微笑む。
「僕はいいですよ。でもそいつらは馬鹿ですからねえ」
一方通行は慌てて後ろに居る初春の方へ振り返る。そこには、二人の劣化クローンに手首を捻りあげられた初春がいた。初春は自分の状況に気がついていないのか、虚ろな目でつぶやく。
「少しの力と…」
一方通行は、舌打ちをして、初春に駆け寄ろうとした。
「ちょっぴりの勇気…」
だが、その初春の言葉と同時に、二人のクローンは崩れ落ちた。
初春の顔が、静かに歪んだ。