とある花弁の無限迷路《ラビリンス》【完結】   作:ちひろん

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久しぶりにゆっくりとした休みなので、ぼんやり書いてます。
書き溜めすればいいんですが、せっかくなので、アップしていきます。


歪な約束

 白髪の男は、佐天を見ると顔をしかめた。

 

 「アクセラさん、お久しぶりです!」

 「あァ」

 

 佐天のその言葉に、男は短く返事をすると、目を細める。

 その様子は決して友好的とは思えない。

 

 「俺は約束は破ってねェぞ」

 

 その言葉に佐天は慌てて顔と手を振って、笑う。初春が最近よく見る、いつもの笑顔だ。

 

 「ああ、違います、違います。それはもちろん分かってますよ。そうじゃなくて」

 

 佐天は初春に目線を合わせ、唇の端を上げる。その様子を見て、男は佐天と初春を見る。

 

 「お前ら知り合いか?」

 「はい」

 

 佐天はその問いを肯定する。

 男は気だるそうに俯いて、ため息をつく。

 

 「知るかよ、そんなこと」

 「まあ、そうですよね。なので、先に言っとこうと思いまして」

 

 佐天は、その笑顔を酷く歪めた。

 

 「後で、もめるのも嫌でしょう?」

 

 男は俯いたまま、目線を佐天に向ける。自然とその目つきは睨みつけるような形になる。

 いや、その様子から察するに、睨みつけていると考えるのが正しい。

 

 「まァな」

 

 男はそのまま長くため息をつくと、気だるそうに顔を上げて、しばらく佐天と初春を見比べた。

 そして、顎で初春を指す。

 

 「じゃあ、こいつはお前が連れて帰れよ」

 「いやあ、友達の恋路を邪魔する趣味はないんで」

 「あァ?」

 

 男と佐天は、初春を見る。

 

 「え?」

 

 初春はいきなりの展開についていけない。

 

 「え? え? い、いやいや、違いますよ、佐天さん! 私はちょっと気になっただけで!」

 

 佐天は嬉しそうに破顔する。

 

 「んー? いやいや、恋の最初はそんなもんなんだよ、ういはるー?」

 「ち、違いますって!」

 

 楽しそうに言い合いをしている佐天と初春を尻目に、男は杖をついて、歩き始めた。

 初春は男が歩き始めたことに少し後に気がついて、慌てて追いかけようとする。

 

 「佐天さん! 違いますからね! 本当ですからね! 変な噂流さないでくださいね!」

 

 初春はそう言いながら、男の後を追いかける。その様子を佐天は生暖かい目を眺めていた。

 

 初春は男にようやく追いつくと、後ろから話しかける。

 

 「ちょっと待ってくださいよ。少しだけ話を…」

 「お前、あいつとどんな関係だ?」

 

 男は歩みも止めず、振り返りもせずに問う。抑揚のない声だ。初春も歩きながら答える

 

 「えっと、はい。友達、です」

 「よくあんなのと付き合えるな」

 「あ、あんなのって! 佐天さんは明るくて、優しくて、どこか安心できて、他人のために頑張れる人で…! 私は、だい、すきで…」

 

 初春の語尾はしりすぼみになった。

 初春の知っていた佐天を、二人で何も考えずに笑いあえていた頃を思い出して喋ったが、次第に今の佐天を思い、その昔との違和感につい黙り込み、立ち止まってしまった。

 

 男は後ろの足音が聞こえなくなったことに気づいたのが、初春が止まった少し先に立ち止まり、振り返った。

 

 「その様子を見ると、あいつがああなったのは、最近のことみてェだなァ」

 

 初春は体を震わせる。

 

 「最近…?」

 「あァ、あれはもう駄目だ。何が原因か知らねェがな。早めに離れたほうがいいぜ」

 

 男の言葉を、初春は否定できなかった。

 

 「じゃあな」

 

 男は何事もなかったように歩き始めた。

 初春はその男の後ろ姿を、黙って眺めていた。 

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