とある花弁の無限迷路《ラビリンス》【完結】   作:ちひろん

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不安と凶行

 第一七七支部に置いてある端末の前に座っている初春は、机の上で組んだ腕に顎を乗せて画面をぼんやりと見ていた。

 

 『早めに離れたほうがいいぜ』

 

 昨日、あの男からの受けた助言に反抗したい自分と、それを否定できない自分がせめぎ合い、言葉にならず、それはため息として口から漏れた。

 画面に表示されているのは、書庫《バンク》に登録されている佐天涙子の情報だった。

 以前見たときと別段変化はない。それもそのはず、書庫《バンク》には能力やパーソナルデータは載っているものの、その人物の近況や思想などが反映されているわけではない。それは初春も十分に理解していた。それが職権濫用であることも。自分が守るべき情報を、私的に利用するなどあってはならない。

 ただ、不安をどう解消すればよいかが分からなかったのだ。何か、道標が欲しかった。

 

 そこで、初春は佐天があの男を『あくせらさん』と呼んでいたことを思い出した。

 名前であることは考えづらいため、苗字と考えた。『阿久世良』といった漢字が頭に浮かんだが、漢字で検索する必要はないことに気づき、読み仮名検索で『アクセラ』と入力し、検索をかけた。

 

 ヒット数は1件。

 言わずともしれた、学園都市第1位、一方通行《アクセラレータ》が表示されていた。

 

 その結果に初春は目が点になった。確かに最初の4文字はアクセラとあるが、佐天が親しげに話しかけるような相手ではないはずと、恐る恐るその詳細を表示し、その画像に驚愕した。

 

 そこには、昨日の男の画像が載っていた。

 

 「アクセラレータ」

 

 初春の口から、声が漏れる。

 思いもよらぬ結果に呆然とするも、それであればあの路地裏での件も納得がいった。

 

 「アクセラレータ」

 

 初春は再度、同じ単語を口にする。

 関係していると、佐天がああなってしまった理由に、あの学園都市第1位は必ず関係していると確信した。

 それからは手当たり次第だった。

 アクセラレータという名があれば、その情報の発生元や、その情報から発展した先へのハッキングを仕掛け、そこの情報を収集、さらに別の情報へアクセスを広げる。アクセスログなどを残すことはしない。アクセス元は巧妙に偽装隠蔽し、アクセス先のログはセキュリティが甘ければ残さないように、そうでなかったとしても記録されたアクセスログは改竄する。学園都市のセキュリティは非常に高度ではあるが、そのセキュリティは業者に頼むか、経験のある技術者に頼る。つまり似たり寄ったりである。

 超一流のハッカー、守護神《ゴールキーパー》とも呼ばれる初春にとっては、飽き飽きするものだった。

 

 後になって考えれば、初春はこの頃から次第に壊れ始めていたのかもしれなかった。私用に書庫《バンク》を参照し、必要な情報を得るために手当たり次第にハッキングをかける。本来の彼女の性格では考えられない凶行である。

 

 そうして、結局、佐天涙子と一方通行《アクセラレータ》の関係性は、初春の手にかかっても暴くことができなかった。

 だが、1つだけ、ある情報だけは手に入れた。

 

 『絶対能力進化《レベル6シフト》』

 

 手に入れてはならない情報だけは、手に入れた。

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