「ここが」
初春は、風紀委員《ジャッジメント》の業務終了後に、書庫《バンク》で調べた一方通行が住んでいるマンションへ足を運んだ。意気揚々と来たものの、そこにはなんの変哲もないただのマンションがあった。
『そりゃあそうだよね』
学園都市第1位とはいえ、ただの人間である。住む場所など、一般人とそれほど変わるとは思えない。ただ、支給されている金銭の額を考えれば、意外と手頃なところに住んでいると感じられる程度だった。
と、初春はそこまで考えて、なんと言って伺えばよいかを今更考え出した。
『書庫《バンク》をみました』などというわけにはいかない。何せ一般には公開させていない情報である。むしろ怪しまれるのは目に見えている。風紀委員《ジャッジメント》が不正使用したなどということも合わせてよくない。
ああだこうだ考えていたが、偶然出会うことが一番自然かと思い、そのマンションの隣にある公園に腰を据えた。
だが、待つという行為は、なかなかに時間が経つのが遅い。
初春は何度も時計を見ながら、中々経たない時間にため息をつくと、気分転換に飲み物でも買おうと周りを見渡すと、すぐ近くにスーパーマーケットが見えた。自動販売機やコンビニエンスストアで買うよりは、安付くだろうと、その店に入って飲み物を置いているコーナーを探して適当なオレンジジュースを手にとった。
そして、何気なく振り向いた隣に、缶コーヒーを持った一方通行がいた。
硬直する初春と、その視線に気づき、初春を見る一方通行。一方通行は目を細めると、初春とは別の方法へ歩きだした。
「ちょっと!」
初春は、またか、と思いながらも声をかける。
一方通行は、気だるそうに振り向いた。
「あァ?」
「何でいつも無視するんですか!」
「何で声かけてくんだよ。俺はお前の友達かァ?」
「ち、違いますけど、社交辞令くらいはしてくださいよ!」
「いい天気だなァ」
「お店の中ですよ!」
まるで漫才をしているような気になってきた初春は、俯いて長いため息をつくと、顔を上げて一方通行を鋭く見つめた。
「わたしは、あなたにお話があってですね!」
その初春の目が見たのは、一方通行に駆け寄る少女の姿だった。一方通行は、その少女を軽く叩いた。
「勝手にいくつも菓子を入れんじゃねえよ」
「でもでも、どれも美味しそうだし、どうせ聞いたって駄目って言われるって、ミサカはミサカはなるべくバレないように小さなお菓子を選んでみたり!」
「買ってやっからどれか一つにしろ」
その一方通行の声に少女は両手をあげると、買い物かごに入れたお菓子を取ると、お菓子コーナーへと走りだした。
「ったく、走んじゃねえよ」
そのやりとりを見て、初春は驚愕していた。いや、正確にはやりとりではない、あの少女に、である。
「ら、ラスト、オーダー?」
自分の口からその声が漏れたことに気づいたとほぼ同時に、初春は強烈な息苦しさを覚えた。
そして、自分の首を一方通行の右手で締め上げられ、宙吊りになっていることに気がついた。
「うぐぅっ…」
「誰だ、テメエ」
初春は手と足をもがきながら、目に涙を溜めながら一方通行を見た。
ぼやけた視界に映るのは、先ほどまでの様子を一変させた殺気を放つ一方通行だった。
初春は、自分に向けられた殺意に震え、恐怖で身が縮んだ。