「駄目!」
その声に反応したのは一方通行だった。一方通行が声の方を向くと、そこには打ち止め《ラストオーダー》がいた。
「違う! その人、ジャッジメントだよ!」
一方通行は、打ち止めのその声を聞いて、我に返ったかのように初春をゆっくりとおろして、首を絞めあげた手を離した。
「げほっ! げほっ!」
初春は、自分の首を抑えながら、胸に溜まったものを吐き出す。
「ってミサカはミサカは睨んでみる」
打ち止めは一方通行を睨むが、一方通行は初春を静かに見つめていた。
「なるほどなァ。バンクでも覗いたか? バンクにゃそんな情報まであンのかよ。 プライバシーの侵害にもほどがあるぜ」
と、機械音が響いた。携帯電話の着信音で、それは一方通行の携帯電話のようだった。
一方通行は、杖を持つ反対の手で携帯電話を取り出して、電話に出た。
そして、何度か適当な相槌を打つと、座り込んでいる初春を見下ろした。
「おい、俺は野暮用ができた。お前はそこのガキと一緒にマンションに行ってろ。俺に話があンだろ?」
一方通行は、そう言い残すと買い物かごの中に何枚かお札を投げ込みながら歩き始めた。
「悪かったな」
そう、まるで、聞き間違いのような謝罪が、初春の耳に届く。
初春は慌てて顔をあげる。一方通行は、静かに杖をつきながらスーパーマーケットの出口に歩いていった。
その背中は、どこか諦めていて、それでいて何かを背負っているようにも見えた。
初春は知らない。一方通行が謝るということがどういうことか。だが、初春はわかった。あれは、打ち止めを守ろうとした行動だと。
初春のようにハッキングしなければ得ることができない情報、それを知っているのは実験関係者か打ち止めを利用しようとする何かであることは容易に想像できる。
と、ビニールが擦れるような音が聞こえて、振り向くと、そこには大量のお菓子を買い物かごに入れ込む打ち止めがいた。
「だって、こんなタイミングじゃないと、お菓子をいっぱい買えないって、ミサカはミサカは…」
打ち止めは顔を赤くしながら、つぶやく。
初春は、その様子が可愛らしくて少し吹き出しながら笑った。
「駄目ですよ。お菓子は一個って言われたでしょ?」
「こんなチャンス滅多にないのに、ってミサカはミサカは愚痴ってみたり…」
「じゃあ私も一個食べたいんで、二個にしていいですよ」
打ち止めはその言葉に顔を輝かせると、あれでもない、これでもないとお菓子を選びながら、ようやく二個だけ選ぶと、未練がましく他のお菓子を元の場所に戻しにいった。
『やっぱり、普通の子と変わらないんだ』
打ち止めがこんな風に振る舞えるということは、あの計画を知っている初春の中では想像ができなかった。
普通の子供と同じような様子に初春は少しだけ安心する。
そして打ち止めが一方通行の側でも同じような態度だったことを思い出し、やはりちゃんと話を聞くべきだと思った。