初春から見て、打ち止めは本当にただの子供にしか見えなかった。
スーパーマーケットで買ったお菓子だけを別の袋に分けて自分で持つと言い張ったり、エレベーターのボタンを押したがったり、少し精神年齢は低めにも見えたが、それもまた初春の目には魅力的に映った。
「ただいまー、ってミサカはミサカは誰も居ないって分かってて言ってみたりー」
打ち止めはドアの鍵を開けると、お菓子の袋を持って、一足先に中に入ってしまった。
「お、お邪魔します」
初春は、恐縮した様子で中を覗き込むと、ゆっくりとした動作で靴を脱いで中に入った。
玄関前の廊下を抜けてドアを開けると、そこは広いリビングがあった。目の前には大きいL字型のソファ、左手には大きめのテレビと作り付けの棚、右手側にはキッチンがあった。
『なんで炊飯器がいくつもあるんだろう』
少しばかりおかしなキッチンだったが、外見とは裏腹に部屋の中は随分と広く作られていた。超能力者《レベル5》が住んでいるのもうなづけると初春は思った。
「冷蔵庫、失礼しますね」
初春は買ってきたレトルト物や缶コーヒーを冷蔵庫に収納していく。と、その扉側にオレンジジュースがあるのを見つけた。
「ジュースとか飲みますか?」
「もちろん!って、ミサカはミサカは大盤振る舞いに喜んでみたりー!」
『いつもはあげないのか』と、初春は自分の失言に下を出した。打ち止めの喜んでいる顔を見ると、今更取り消しにするわけにもいかないため、「コップ借りますよー」と声だけかけて、収納されている適当なガラスのコップを出すと、オレンジジュースを注いでソファ前のテーブルに載せた。
お菓子の袋はすでに二つとも打ち止めの手で開かれていた。
「いっただきまーす!ってミサカはミサカは開戦のゴングを鳴らしてみたりー!」
と、その声を合図に打ち止めはお菓子を次々に口に放り込み始めた。
「もっと味わって食べないと勿体無いですよ」
そういいながらも、初春は打ち止めのその様子を和かに見つめていた。
初春もお菓子を少し摘んだが、あまり食べると打ち止めが変わりそうかと思い、手を出さないようにした。
初春は、しばらくその打ち止めの様子をみていた。
そして時計を見て、7時半を過ぎようとしていることに気がつく。
『そろそろ帰らないとまずいなあ』
そう思い、初春は何も考えずに打ち止めに軽く問いかけた。
「アクセラレータさん、いつ戻るんですかねー」
打ち止めはその言葉を聞いて、お菓子を食べている手を止める。
「あの人が戻るのはまだ時間がかかると思う」
初春は、急に言葉遣いが変わった打ち止めに少し驚く。打ち止めは先ほどの様子とは一転して、暗い顔で俯いている。
「そ、そうなんですか?」
「あの人がミサカを置いていくのは珍しい。多分、私たちのことに関係している」
「『たち』って…」
「あなたも知っていること、って、ミサカはミサカは敢えて全ては語らない」
打ち止めは顔をあげて、初春をみる。
「あなたがどこまで知っているかは知らないけど、その情報は多分正しい、間違っていない。でも、あの人は今は私たちのためだけに生きてるようなもの」
打ち止めは初春の手を握る。
「あの人はあなたと話していて楽しそうだった、だからあの人を嫌いにならないで欲しい。あの人は酷いことをしたかもしれないけど、けどそれはあの人だけが悪いんじゃないって、ミサカは、ミサカは…」
打ち止めは目に涙を溜めていた。打ち止めは一方通行の在り方を心配していた。全てをかけて打ち止めや妹達《シスターズ》を守ろうとするその姿勢を、自分を捨ててしまっているその様子を、だからもっと別の在り方を探してほしいと、考えていた。
一方通行が、どこかの誰かと笑いあえるような関係を。
初春は打ち止めの手を握り返して、少し微笑む。
「大丈夫ですよ、分かります。悪い人じゃないのも、あなたが大事にされていることも」
初春は、もう一度、打ち止めに笑いかける。
「だから、遅くなるなら、また、来ます」
打ち止めは、その言葉に強く反応した。
「うん! また来て! って、ミサカはミサカは両手をあげて歓迎してみたりー!」
その様子を見て、初春は安心すると携帯電話の番号を打ち止めと交換すると、ジュースが入っていたグラスとお菓子のゴミを片付けて、マンションを後にした。もちろん、また今後来ることを約束して。
その約束は悪い意味で果たされた。
次の日の夕方、初春の携帯電話に打ち止めからの悲報がはいった。