打ち止めから連絡を受けた初春は、風紀委員《ジャッジメント》の業務もそこそこに第一七七支部を飛び出した。
初春は打ち止めの悲痛な声を思い出しながら、昨日訪れたマンションへ急いだ。
エントランスで目的の部屋の番号を押して、打ち止めに開けてもらうと、初春はエレベータに乗って、その部屋まで急いだ。
打ち止めは、ドアを開けて部屋の前に既に出ていた。
その泣き出しそうな姿を見て、初春は慌てて駆け寄る。呼吸を整えることもせずに、打ち止めに問いかける。
「あ、アクセラ、レータ、さんが、帰って、こないって、昨日の、夜、から!?」
肺に酸素が入る前に吐き出す言葉は切れ切れだが、その内容は打ち止めに伝わった。
「こんなこと、初めてで、帰れないときは、ちゃんとそう言うのにって、ミサカは、ミサカは…」
打ち止めは、涙を流すことを我慢しながら話す。
「他には、誰かに言いました、か?」
ようやく息が落ち着いてきた初春は、状況を少しずつ確認する。
「一緒に住んでる人には、昨日の夜話して、探してみるって言ってたけど、アクセラレータだから心配ないって」
一緒に住んでいる人がいることを、初春は知らなかったが、その判断は恐らく正しい。一方通行の態度を考えれば無断外泊は普通にあることだと考えるだろう。それに、そもそも学園都市第1位に敵う相手はいない。だが、打ち止めは知っている。一方通行が、何を大事にしているかを。
「あの人は私を放っておかない。一度失敗しているから。放っておくのは、私に危険が及ぶ可能性があることだけ」
「それは、つまり」
「危険なことに巻き込みたくないか、それとも、私たちのことに関係しているかって、ミサカはミサカは推測してみる」
妹達《シスターズ》に関係しているかもしれないと、打ち止めは言っていた。
実験が再開されたか、それとも、妹達《シスターズ》を利用しようとする何かがいるのか。
「ねえ、どうすればいい? どうすれば見つけられる?」
打ち止めは、初春に懇願する。
「心当たりとかはありませんか? 場所とか、人とか、なんでもいいです」
打ち止めは首を振る。
「分からないの。私、あんまり外にでないし、あの人が誰かと話しているのだって、ほとんど見たことないし」
初春は両手をおでこに当てる。考えをまとめるために、僅かな情報から、一方通行の居場所を割り出すために。
しかし、そもそも情報がない。初春は一方通行との会話を思い出すが、使える情報はほとんどない。思い返せば一方通行の会話は、他人と接触することを拒むようなものばかりだった。探そうにも、手がかりがない。
あるとすれば、最後に一方通行が話していた携帯電話だが、肝心のその携帯電話を識別する情報がない。
と、初春は気づく。
「ラストオーダーちゃん! アクセラレータさんの電話番号が分かる?!」
「分かる! って、ミサカはミサカは携帯電話を…、これ! この番号!」
初春はその番号を確認すると、携帯端末を片手に通信業者へのハッキングを開始した。
初春の技術は超一流、そして使っている端末もそれなりにハイスペックではある。だが、どうしても携帯端末としての処理速度の遅さは目立つ。しかも普段自分が使っている通信サービスである。一つの失敗が、身の破滅に繋がる。
だが、それを初春は鼻で笑う。
『そんなリスク、いくらでもかぶってみせます』
だが、特定したその電話番号の通信情報に、昨日の時間の通信ログはなかった。
「二台持ち…」
初春は、そんな面倒なことするように見えないのに、と苛立つ。そしてそんなことにも気が回らなかった自分を責めた。もっと冷静に、もっと的確に、と。
「ごめんなさい、その番号じゃ、見つけられませんでした」
その言葉に初春は目に涙を溜める。
「他にありませんか? どこでもいい、誰でもいい、何か情報をください」
打ち止めは、困った風に眉間に皺を寄せる。そして、しばらく考え込んで、目を見開いた。
「あ!」
「なにか、情報がありますか?」
「ううん、情報じゃないんだけど、でも、もしかしたら、あの人の居場所も、知ってるかもしれないけど」
初春はその言葉に唖然とする。何故、それを早く思いつかなかったのか、それは引っかかったが、居場所が分かるならそれでいいと、考え直す。
「知ってるかもしれない人がいるんですか?! じゃあ、早く連絡をとりましょう」
「いや、でもでも、できれば連絡はとりたくないって、ミサカはミサカは…」
「そんなことを言っている場合じゃないかもしれないのでしょう?!」
初春が責め立てるが、打ち止めははっきりしない。
「でも、あの人は、駄目っていうか、余計悪くなるっていうか」
「よく分かりませんが、それはアクセラレータさんを見つけられてから考えましょう。 名前を教えてください。 名前がわかれば、私、調べられますから」
打ち止めは、しばらくの間、身じろぎしながら唸っていた。
初春が辛抱強く待っていると、やがて、俯き加減に、そして絞り出すようにその名を呟いた。
「佐天…涙子…」
そして、初春は強い目眩を覚えた。