これからはどんどんエリアをすっ飛ばして進んでいくと思うので、キャラ設定は早めのうちにしておいた方がいいのでは……と思って回想入れちゃったんですよねぇ、どうなんでしょうコレ
次回こそは料理回です(もう半分は書き終えてる)、でもなんかすごくまずそうな描写になった
私は、極めて強い苦痛を覚えるほどに空腹だった。
私は、それを解消するためここに立っている。
手に持ったのは一本の調理器具。
目の前には食材たち。
今からこれで、料理をしてやろう。
私は草むらへと駆け出した。
―――
私の胸に像が吸い込まれると、老婆たちの笑いはよりいっそう激しくなったように思えた。対照的に、あの家政婦は心配そうな目をこちらに向けている。
「人の像」とかいう物を持っていたことからして、きっとこの老人たちはすべてを知っているのだろう。
老女の嘲笑と強い空腹に鈍い苛立ちを覚え始めたとき、私の眼は、己の姿を完全に映し出したその像を捉えていた。
いかにも頑固そうなやたらに太い眉と、怒っている訳でもないのに固く結んだ唇、そして深く刻まれた皺。何回洗ってもシミの落ちないエプロンを着て、鞘に入った大きな包丁を右手で握っている。全くそのまま、私である。
追憶は、止まるところを知らないようだった。一挙に浮かび上がる自らの半生に涙が滲んだ。
だがしかし、何を差し置いても先に思い出されるのは家族であった。
弟子入りした店で看板娘として働いていた妻。私とは到底釣り合わないそんな彼女も、最近はよく自分の腹をつまんで愚痴をこぼしていたものだ。常に明るく振る舞う彼女だが、個人店の立ち上げの際はどれだけ苦労をかけたことだろうか。
娘は、年頃になったのか、私に抱き上げられるのを嫌がるようになった。妻と些細なことでよく喧嘩するあの子の、時折見せる眩しい笑顔が大好きだった。
そして、その家族たちは。
私は、追手たちから必死に逃げ、隠れ、切羽詰まってその一人を斬殺したあの夜のことを思い出しかけ、慌てて首を横に振った。
送られてきたのは国の兵士だった。不死の呪いが発現したことで、私に猶予なしの死刑が下ったのだ。妻と子は逃がせたはずだが、一体今頃はどうしているだろうか。
今すぐにでも呪いを解かねばならない。そして家族と私の日常を取り戻すのだ。それを除いては、こんなところに来た理由はないのだから。
「なあ、俺は呪いを解きたいんだ」
私は掠れる声で老婆に言った。無様に腹が鳴った。
「さあて、できるかね お前さんに」
老婆の一人が口を開いた。
また別の一人が言う。
「できるといいねえ」
もう、馬鹿にされて苛立つ気力は残っていなかった。
「その扉から外に出れば、すぐに王国に辿りつく」
王国とはどこのことだろう。そこでは、不死の呪いが解けるとでもいうのだろうか。
老婆はその後も言葉を続けたが、私がそれに耳を傾けることはなかった。空腹が限界に近付いた苦痛から生じた、苛立ちのためである。
「あの、申し訳ないのだが、……ええとあなたは」
「ミリベスといいます」
家政婦は微笑んでそう告げた。
「とりあえず、何か食べ物を頂けないだろうか。腹が減って仕方がない」
「……大変申し訳ないのですが、ここにお出しできる物はなくて……」
「えっ?いや、どんなものでも構わないし、勿論その分のお礼は……」
「何も」
ミリベスは私の言葉を遮り、語気を強めて言った。
「食べられる物は、何もないのです」
じゃああなたたちは、と尋ねようとした私を制するように、彼女は間髪入れず口を開いた。
「この世界の生き物は、生命の源となる力、ソウルをその身に蓄えて生きることができます。ですから、この老婆たちも食べるということを一切行わずに生きていけるのです。不死者も例外ではない。でも、あなたは………」
混乱した。何を言っているか理解できなかった。ただその表情から、それが偽りでないことは容易に理解できた。
「…ならば、この近くに何かありませんか。木の実だとか、動物だとか、本当にどんなものでもよいのです」
そう言うと、彼女は必死に考えを巡らすように視線を下げ、眉をひそめた。やがて、諦めたような顔で私に告げる。
「………食べられそうなものは、あの獣しかおりません……あなたを襲った」
私は全身の毛が逆立つ思いでいた。自分の身体を食い破り、皮を噛み千切った化け物に挑めというのか。
ただ、ミリベスの苦しげな目から、彼女に対する抗議が何の意味も持たないということは、すぐ判断できた。
「……わかった。そいつを殺して喰うことにします。では、何か武器を貸してもらえませんか」
そう言うと、彼女はまた苦しそうな顔をした。きっと、剣も斧もここにはないだろう。だが、包丁や金槌の一本ぐらい、ない方が不自然だ。
「……ほら、ナイフだとかそういうものでも結構ですから。そういう…何ていうか、調理器具というか…ね、武器になりそうなものなら何でも」
縋るように言う。
「………分かりました………」
ミリベスはいつになく絶望的な声色でそう言うと、近くにあった箱を開けた。黙っていた老婆たちが、いつになく楽しそうに笑いだす。私には、それが不吉な予兆に感じられて仕方がなかった。
振り向いた彼女は、驚くほど申し訳のなさそうな顔で、何かを手渡してきた。
ありがとう、そう言おうとして開きかけた私の口は即座に閉じられた。私は自らの軽率な発言を後悔した。
おたま。
彼女が持ってきたのは、俗におたまと呼ばれる、持ち手と短い柄の先に半球型のカップをつけた調理器具であった。
―――
私は草むらへと駆け出した。
およそおぼつかない足取りではあるが、決心は固かった。どうせ死ねない身体だ。
私は考えることを放棄し、一匹で背を向け佇んでいる獣に向かって家政婦のおたまを振り下ろした。
ごん。
滑稽な音が私の期待を嘲笑うかのように響いた。
笑いたくなるのも束の間、草むらから一斉に走ってくる獣たち。
私は何度も挑んだ。絶望などしなかった。しかし、自我と記憶は死ぬたびに薄れていくようだった。
ある時。
私は落ちていた石で、獣を一体だけ誘き出すことに成功した。
何度も死ななければ得られない、大きなチャンス。これを逃せば、また何度死ぬことになるか分からない。
私は真っ直ぐ走ってくるそれの飛び掛かりをおたまで迎え撃った。化け物はごつごつとした岩壁に叩きつけられ、弱ったように見えた。
全力で駆け寄り、その頭部に繰り返し繰り返しおたまを振り下ろし続ける。
繰り返し。
繰り返し。
何度も、何度も。
我に返った時、もうその獣は動かなくなっていた。
私は、白く濁った眼で宿敵を見下ろすと、安堵の溜め息を吐いた。
さて。
料理の時間だ。
前書き通り、飯食えませんでした
もしわざわざ読んで下さる方がいらっしゃるなら、申し訳ないです
ホントに
次回は、料理を済ませてマデューラにも行く予定(チュートリアルはもちろん触りません)
で、次々回からはテンポよく(できれば一話で一エリア以上!)ドラングレイグを攻略していきたい
引き続き、皆様の率直なご感想や評価、お待ちしております