10.ドロップ・ドロップ
6月、裁判が始まった。
8月、フェイトたちより一足も二足も先に終わった。やったことが最後の最後に手伝いをしたことのみだったことや、アリシアを蘇生したという事実をプレシアが隠蔽し不治の眠り病を治したということに事実をねじ曲げられたことが大きかった。
このことにより、俺がやったのはプレシアにお願いされジュエルシードの魔力を廃棄する協力をしたことのみになった。結果として判決は保護観察処分、実にスピーディーに終わった。お前に裂いている時間はないと言わんばかりの早さだった。2ヶ月でもそれはもう早いのよ?
プレシアとフェイトに関してはジュエルシードを強奪、使用したことやアースラに魔法を撃ち込んだことで裁判が続いているがクロノ曰く保護観察処分で落ち着くだろうとのこと。ただ普通裁判は長引くものなので、まだ時間はかかるとも言っていた。
「ナナシが異常に早いだけだよね」
「クロノにもそれ言われた」
フェイトたちが遅いわけじゃないし、速さに定評のあるフェイトが「私が遅い? 私がスロウリィ!?」なんて言ったわけもない。
「なによりやったことが違法なのかどうかスレスレ過ぎて困ってた」
そもそも魔法文化のないとこの人間だったから「違法だと知らず……ただ娘の病を治す協力をしたかっただけなんです」って言ったら通じた。プレシアの入れ知恵だよ。
話聞いてて違法ってことはわかってたけど証拠がないからノーカンノーカン!
この2ヶ月の間で初夏にはフェイトとアルフの契約記念日があったりしたけど、それはまたの機会にでも。ひとつ印象深かったのはドッグフードをネタでアルフに渡したら普通に受け入れられたりした。
アリシアと話していたデバイスの話については、裁判のとき以外は基本的に暇なので結局手伝ってた。やったこととしては手始めに俺の超初心者用デバイスが改造された。
最終目標であるユニゾンデバイスを調べる過程でベルカ式のデバイスを調べていたんだが、取り敢えず俺のデバイスの改造でベルカ式を無理矢理組み込んでみた結果見事に処理機能がダウン。
代わりにミッド式もベルカ式も使えるデバイスになったっぽいけど、俺がベルカ式知らないし意味ない。
「あれは悪かったと思ってるよ。まぁおかげで何となくミッドとベルカの魔法の差はわかったし……あとは資料とか欲しいね、カートリッジシステムってのが手持ちの資料じゃどうにもなー」
「適当にカードリッジつけてみたらいいんじゃね?」
「暴発して終わるよ」
「爆破オチなんてサイテー!」
何はともあれ、そういう資料が置いてるとことかないの? 図書館みたいなやつ。
「無限書庫っていう整理もなにもしてないくせして、大抵の書物が揃ってる図書館があるんだけど無許可に入れないのだ」
うだーっとダレてるな、本格的に行き詰まってるようだ。そのまましばらくゴロゴロしながら唸ってたアリシアは急に動きをピタッと止めた。小刻みに震え……
「うがぁぁぁー!」
噴火した。机の上の資料を撒き散らし、髪の毛は錯覚ではなく普通に逆立っている。飴でも食って落ち着けよ、四次元空間にしこたま入れて常備してる飴を渡そうとするが、
「私の母さんはこう言いました! ちんたら悩んでても何も変わらない! 無限書庫立ち入り許可の取り方調べてくる!」
そう言い放ちアリシアは部屋から駆け出していった……言ったのプレシアかよ。まぁ、歴史に残りそうなことしてるけど正直歴史に残せない。
それにしても図書館か、海鳴市で初めて目覚めたときも情報収集に使ったな。直後に調べた意味がなくなったが。
「あ、図書館で思い出したけど車椅子少女は元気にしてるだろうか……」
懐かしいな、魔法が使えるか聞いて変な顔をされたことは記憶に残っている。一方的に覚えてるだけだろうが海鳴市で初めて話した人間ということもあり、思い出すと凄い会いたくなってきた。奇跡も魔法もあったんだよって伝えたい、また変な目で見られること間違いなし。
――ふむ、
「俺は言います、思い立ったら即行動」
▽▽▽▽
やってまいりました地球、日本、海鳴市。転送してもらった。一応裁判も終わってて、地球は俺の故郷ということになってるので許可はあっさりおりた、対外的には帰郷となってる。
取り敢えず図書館に到着した。何となく顔を見たくなって来たはいいけど車椅子少女が図書館にいるとは限らないって今気づいたなんて事実は存在しない、しないのだ。
「最悪、ここらへんで店を開いてるっていう翠屋にお土産買いに行ってみよう」
フェイトとなのはがやり取りしてるビデオメールでそんなこと言ってた。喫茶店だかなんだかを親がやってると。今回はしっかりと金も持っているし安心感が違う。
「……あ、見っけ」
車椅子少女を発見。相変わらず棚の上の本を取りにくそうにしてる。普段なら見て見ぬふりをするところだけど、懐かしさでテンションがちょっとハイになってるんで話しかける。
「――もしもし、俺魔法使い。今あなたの後ろにいるの」
「あー、結構です。うちにはもう魔法使いが4人おるんで」
まさかの切り返しである。
「というか、誰やの……あっ、いつかの魔法使いに憧れてた人や。あのあと調べてんけど30歳まで彼女つくらずにおったらワンチャンあるみたいやで」
「それはまた違うから、割りと不名誉な魔法使いだから。それはそうとお久しぶり。いつかの節はお世話になりました」
「久しぶりやねぇ。あれから見かけんかったけどどうしてたん? 魔法は見つかった?」
「それはもう奇跡も魔法もあることを体感してきた」
目の前の少女はニヤニヤして聞いてる。聞いといて信じてないな?
さっきまで車椅子少女が取ろうとしていた本を一段上の棚に直して話を続ける。
「あっ、ちょ!?」
「目標が高い方が人間成長するよね」
「物理的に
「え、達成が困難になればなるほど達成したときの快感が大きくなって喜ぶかと思っての気遣いなんだが」
「どんな変態や、いいから魔法でも使って取ってえな」
「人目があるとちょっと」
夏休み中ということもあって図書館も人がいるのだ。そんななか魔法を使えば悪目立ちしすぎるので、普通に本を取る。
「きゃー、そう言って人目のないところで何するつもりやのー?」
「小学生はサービス適応外となっております。十年後に出直せ車椅子少女。はいよ」
「あんたも小学生やろ。ありがと……って車椅子少女って私か?」
「もちろん、気分を害したなら全身発光土下座で謝る」
「別にいいけどそれは見てみたい。あと私は八神はやてや、新世界の神様は目指してへんで?」
「俺はナナシ、名無しじゃなくてナナシ。よろしく八神」
今更ながら自己紹介をした。本当に割りと今更感があるけど、俺の場合相手の名前がわからないまま状況が進むことが多かったので、普通に自己紹介しただけで珍しい。なんか末期である。
「それでナナシ君は魔法を見せてくれへんの?」
「ごめん、MPが切れてて……飯食わないと無理だわ」
「MP驚きの回復方法やな」
まぁ、腹が減っただけで魔法は使えるんだけど、もう少しでいい時間なので先に昼飯食べたい。
「飯を食べてからでいいならちょちょいと魔法の杖を使って見せるけど?」
「ふーん、ならうちで食べるか?」
「ん、いいの? そんな急に行ったら両親が怒るもんだよ?」
「あーっと……両親はおらんくて料理は私が作ってるんよ」
「ごめんなさい、ホントすまん」
「いや、ええんよ。今は一緒に暮らしてる家族もおるし」
それでも謝るべきとこは謝っとくものだ。謝るべきところで謝れなくなると人間終わりだと思う、あと謝れば何とかなるかもしれないじゃん? ……この考え方も終わってるかもしれん。
「じゃあ、遠慮なく」
「簡単なもんやし大したものは出せんけどどーぞ。魔法楽しみにしてるで?」
「マジカルなくせしてロジカルなの見せてやる」
「ファンタジックやないんや……」
その後、八神の借りたい本を借り家へ向かった。
▽▽▽▽
突然ですが問題。ピンク、赤、金色、これなーんだ?
正解は八神さんの家族の髪でしたー。遺伝子迷走しすぎだろ、おい……たぶん血は繋がってないんだろうけどね?
ピンクでポニーテールなのがシグナム、金髪なのがシャマル、赤髪ロリがヴィータ。あと狼っぽい犬がザフィーラというらしい……どっかで似た犬だか狼みたような気がする。
「どうも、ナナシです」
「MP回復のためにうちでお昼食べるからよろしくなー」
「え、MPですか……?」
「MPを回復して魔法をご覧に入れます、よかったら後一見どうぞ」
全身が空色に発光する奇妙な光景が見れま……あれ、視線が厳しくなった。もともとヴィータからは睨まれてた気もするけど。
「八神さん、八神さん。俺ご家族に頭おかしいやつと思われてない?」
「オブラートに言うとお花畑や思われる自己紹介やったね。まぁ、ちゃちゃっとお昼作ってくるさかいに待っといてや」
「え、俺この状態で放置……!?」
非常に気まずい、時には常識人として振る舞うことも必要だと思ったけど……割りと手遅れな気がする。いったいどうしてこうなってしまったのか、転生したときはもう少しマシだった気がしないでもないのに。
『お前は魔導師か? 何が目的で主に近づいた』
……ん? どこからか声がしたか。そう思って八神の家族さんを見るが誰も口を開いてない、ガン見はされてるが。
『おい、聞こえているだろう。返事をしろ』
「こいつ脳内に直接……!」
え、何これ魔法? テレパスみたいな、いや誰が話しかけてんのさ。取り敢えず返事……は出来るのかね? ものは試し、やってみよう。
『ファミチキください』
『ファ、ファミ……いや、そんなものどうでもいい。何が目的だ』
目的って何のだよ。というかお前が誰だ、勝手に脳内に話しかけてきといて図々しい!
『もしもし、テレパス相手間違ってませんか?』
『目の前の相手に念話を使うのに間違うはずがあるか』
『……目の前?』
シグナムと目が合う。指を指すと頷かれる、シグナムだけでなく残りの二人とザフィーラにも頷かれる。あ、八神ったら魔法使いが家に4人いるってマジだったの?
『お前念話知らねーのか?』
『使う機会が無かったもので』
『魔法の初歩中の初歩なんですけど……』
『その初歩を知らない事実を突きつけられた俺の気持ちプライスレス』
『ええっ!? す、すみません』
てかアリシアでも教えてくれよ。デバイス知識を叩き込む前にそっちを教えてほしかった。
『ええい、そんなことはどうでもいい! 私たちの主に近づいた目的はなんだ!?』
『お昼ご飯、魔法を見せるため、久々に会いたくなった。どーれだ、答えは全部でした! というか主ってなに?』
俺以外の全員が目を合わせ、黙りこむ。端から見れば元から黙ってたけどね? 脳内会話で黙りこ……あ、これ俺だけハブられてるパターンではないだろうか。
衝撃の事実、念話が使えれば相手が目の前にいても陰口が叩ける。こんなの全然マジカルじゃねぇ!
『――もしもし、私の声が聞こえますか?』
『ちょっと黙ってろ』
『はい』
ヴィータに睨みとともに封殺された。5分後話が終わったのか再び念話が通じた。
――このときの俺には知るよしもなかったのだが、このとき俺が見逃された理由が『念話も知らない魔導師がいるはずもない、というか魔力もほとんど感じられない。本当に魔導師か?』って結論が出たかららしい。泣くぞ。まぁ、八神と同じように地球でたまたま魔力を持って生まれたと判断されたのと八神を主と呼んでる意味を理解してなかったのも大きかったらしい。
ちなみに現在俺のなかでシグナムは家族を主って呼ぶ変わった人ってイメージが定着し始めている。
『すまなかった、私たちの勘違いだったようだ。ただ私たちの存在は口外しないでもらえないか?』
「そうですか、了解です」
もう念話じゃなくていいよね? ちょっと疲れてきた。
魔法使える家族がいるって口外されるのもね。うん、地球でそんなこと言っても俺が頭おかしく見られるだけだけどもしバレれば暮らしにくくなるしな。
「それでナナシ君ははやてちゃんとどこで会ったんですか?」
「図書館ではやてが高いところの本を取ろうとしてるのを見かけて」
「取ってあげたんですね」
「いや、心のなかでエールを送ってそのまま通りすぎた」
「そこは取れよ」
せっかく緩んだヴィータからの視線が冷たくなった。
「アハハ、でも今日は取ってくれたやん」
「あ、はやて! 今日の昼飯はなに?」
「冷やし中華やでヴィータ」
ヴィータの目というか表情が180度反転した、すごい爛々としてる。ザフィーラより犬っぽい。
「作ってからでなんやけどナナシ君は食べれんもんある?」
「ない」
「そか、なら食べよーか」
いただきますをして食い始めるけど、ウマい。今までそんな冷やし中華を特別美味しいと感じたことはなかったけどこれは美味しい。八神料理スキル高すぎない?
「どう? 口に合うとええんやけど」
「はやての飯はギガうまだから口に合わなかったらそいつの味覚が悪い」
「こら、ヴィータ。嬉しいけどそんなこと言うたらあかんよ」
「めちゃくちゃウマイ、ヴィータ食わないならくれ」
「やらねぇよ!」
「そらよかった、MPも回復しそうか?」
「バッチリ」
ぶっちゃけデバイス忘れてきたんだけどなんとかなるよね? 飯食べてる間にアリシアとのデバイス開発室に忘れてきたのを思い出した。
食べ終わった食器を八神とシャマルが片付けている間に考える。夢を与えるキャッキャッウフフな似非魔法か本当のマジカルロジカルな魔法か……
「八神ー、庭でよう。ロジカルさが微塵もないけど小さな子供たちに夢を与えて大喜びさせるような魔法を使って見せようではないか」
「ほほー、期待してるで」
▽▽▽▽
結論、はやては大喜びした。いや、普通にデバイスなしの一か八かでフォトンバレットとか使ってもよかったんだけど爆破オチが見えたからやめた。
代わりに空から飴を降らせた、種は簡単。四次元空間を上空に展開し、しこたま入れてた飴を落としまくった。
「確かにこれは夢があるな! 飴の雨や!」
「これは魔法、なのか……?」
「一応、きっと魔法」
「いいですねー、これ」
「なぁ、この飴貰っていいのか!?」
「どうぞどうぞ」
我ながらいい発想だと思う。平和的でとてもいい、魔法って見て知ってから基本的にバトルばっかだったしね。庭ではやてとヴィータが飴を集め、それを残りの面子が眺めている……庭で遊ぶ孫を眺めるお爺ちゃんな気分。
「私たちの魔法とはかなり違うな」
「どんなの使ってるの?」
「レヴァンティン」
《Jawohl.》
シグナムの手に剣の型をしたデバイスが展開された……魔導師じゃん。なんか八神家には色々事情がありそうなんで、いつも通り見て見ぬふりでいこう。
「どうやって使うの?」
「ふむ、面白いものを見せてもらった礼にひとつ見せてやろう。派手なものは見せれないが……カートリッジロード」
《Nachladen》
「パンツァーガイスト!」
《Panzergeist》
柄がスライドし薬莢らしきものが弾き出される。そしてシグナムさんは赤紫の魔力っぽいものに包まれていた。
「こんな感じだ。攻撃魔法ともなれば派手なんだがここで使うわけにはいかんからな」
「ということは防御系の魔法?」
「ああ、私たちは基本的に戦闘のための魔法しか使えないからな……お前のアレはいいと思う」
「ですかね、なんでも使いような気もしますけど」
まぁ、アレは小学校とかそのあたりの年齢には大受けすると思う。実際それくらいの年齢っぽい八神とヴィータは喜んでたし。
落ちている薬莢を拾ってみるけど大きい。
「記念にこれもらっていいですか?」
「別に構わんがそれだけでは何にもならんぞ?」
「問題ないです。では、ありがたく」
男の子はこういうのに憧れるんだって、剣に銃のカートリッジとか意味わかんないけどカッコいいじゃん。個人的には飴よりもそっちがいい。
「さて、八神ー。そろそろおいとまさせてもらうわ」
「んー、そうか。面白いもの見せてもろうてありがとうな」
「こちらこそごちそうさま、ちょっと次いつ来れるかは未定なんだけどまた機会があればよろしく」
「ならまたそのときには魔法見せてな」
「次は缶詰でも降らそうか」
「止めい危ない」
ふははは、たぶん俺もケガするしやんない。結局自爆じゃねぇか。
「じゃあ、また」
「また、機会が合えば」
ここまで読んでくださった方に感謝を。
何とか八神家に絡ませました、結構無理矢理ですが気にせずレッツゴ。ザフィーラ喋れさせれなくてごめん。
あとシグナムたちと戦闘になるパターンを考えたんですがどうやっても負け確定ルートしか無かったので断念。
A`s本編スタートまであと4ヵ月弱、アリシアとぬるぬる進めたい。