ユニゾンデバイスやベルカについての資料を無限書庫でかき集めた三日後。時刻は早朝、作業室は静寂に包まれていた。当然と言えば当然である、世間一般から大きく外れることなく過ごしている人間はあと少しの間ではあるが夢の中に沈んでいるはずの時間なのだから。
しかし、そんな静寂に満ちた作業室にかすかな物音が鳴る。布切れを擦り合わせるかのような……否、まるで這うような音である。いや、実際に這っているのだろう、床に平積みされている本の山にどこかを引っ掛けたのかバサバサッと山が崩れる音が響いた。
「……うぁ……もた」
崩れた本に埋もれたのかソレは奇妙なうえに気だるげな呻き声をあげる。そうして再び作業室には静寂が戻るかと思われたが、布切れを擦るかのようなナニかが地を這う音は続いている。しかし、本に溺死したナニかとはまた別のナニかである。
まぁ、ナニかって俺なんだけどね、名無しなわけじゃなくて名のあるナナシなんだけど。本の雪崩で溺死したのはアリシア……いや、死んでないけどね?
しまったなぁ、徹夜はヤバいってわかってたのに二徹しちまった。ストッパーになりそうなフェイトやプレシアは2日ほど前から本局でクロノたちと次の裁判の準備をしに行っており帰ってきていない。
よって資料を借りた日と次の日は俺のミッド語習得に費やされた、アリシアのスパルタ式語学で何とかものにした。
そしてミッド語を習得した次の日、プレシアたちが家を空けた。つまるところやりたい放題であり、ノーブレーキで突っ切ってしまったのだ。
まず融合型デバイスの作り方は見つかった。難しくはあるがアリシア曰く不可能ではないレベルであり、ノリノリで設計図を引き始めた。
まずは形であるが人型にすることにした。万が一融合事故を起こしたときにはユニゾンデバイスの姿になってしまうのだが……悪ノリして虫型デバイスにして事故ってみろ。
「女としてッ! それは許容できない……!」
「男でも嫌だわ」
ソレ以上考えたくない俺たちは人型の女性タイプにした。女性タイプはアリシアの希望で異論はなかったのでそうなったが、詳しい容姿は決めていない。デバイスの性格を明確に決めてからにしようと言うとこにしたのだ。
そして外郭の設計図は完成――少しグラマスな感じになってるのはアリシアの願望か。
慈愛に満ちた目でアリシアを見ると上を向いて男泣きしてた……泣くなよ、プレシア見た限り希望は無限大だから。
ただ問題点が浮上した。ユニゾンデバイスはベルカによって開発されたものであり、基本的にベルカの技術で作られベルカ用になってるわけだ。つまり完全にミッド式魔法を使う俺たちの使用なんて考慮されてないわけだ。
しかし、俺たちはそんなところで止まるわけにはいかない。なのはの砲撃から、フェイトの雷撃から生き延びるためには何としても作り上げねばならないという使命感に燃えたナナシ&アリシアは止まらない。
因みにここで徹夜一日目の朝のこと。
まだまだ行くぜ。テンションが振りきっていたのか眠たさや疲労を微塵も自覚してないバカたちがそこにはいた。
一周回って冴え渡った、本人たち的にはそのつもりの頭でベルカ式に組み立てられたユニゾンデバイスの内部構造式をミッド形式のものへと書き換えていった。ここまで2日目の深夜。
結果的に言おう。まぁ、このあとに何回か手直しや細かい修正は繰り返したものの作ったときには成功してたんだ。
その出来上がったユニゾンデバイスは、割りと未だに書き換えた本人たちである……主にアリシア自身も理解できない部分があるのだが成功してた。プレシアからすれば綱渡りしながら砲撃を避けるような奇跡的なバランスを保った構造に書き換えられてると言われた。
ま、それは結構先の話になるのだが。今はまだ図面上での話だ。
それで昨晩、新たな壁にぶつかった。
「人格プログラムってどう組めばいいの……?」
「デバイスに思考プログラムだけじゃなくて感情を持たせろとな」
顔を見合わせてプレシアの資料保管部屋にダッシュ、インテリジェントデバイスの特に人工知能についての記述されてる資料を抱えて作業室へと戻る。ユニゾンデバイスで一部抜けてた部分はここであった。
そして感情のプログラムについての資料を探す。
「人工知能のはあった……けど感情のプログラムとかあるわけない!」
「あれだ、俺たちの日常の感情をデータ化して記録していけば」
「お、ナナシ冴えてるねー、それならいけるかも……一年くらいかければ」
「神は死んだ、いや死ね」
度々なんだが、ここで徹夜2日目の深夜が過ぎた頃である。中身はともかく小学生の身体にはオーバーワーク甚だしいかぎりであり、事実限界であった。
取り敢えず感情というソフト面については見て見ぬふりを決定。それ以外のハード面の設計図の見直しと手直しをしようとしたのだが……現状で越えがたい壁を自覚したことでテンションが素に戻ったのだろう。疲労が一気に押し寄せてきた。
――ここで俺たちはぶっ倒れ、床で数時間眠ることとなったのだ。
……ぐぅ、床を這ってアリシアに近づく。
「生きてるかー」
「本、重い……」
「生存確認、風呂入ってくるわ」
「そこは、助けようよ……」
崩れた本の山から震えた腕のみがこちらへとつき出される。軽くホラーっぽい。
よっこらせ、気合いで起き上がるが身体中からバキバキ音が鳴るのがわかる、風呂に入りたい。
「私も入るー、連れてけー」
「一緒に入りたいとな? きゃー、アリシアさんのエッチー」
「それ普通私の台詞、じゃない……? ナナシ結構余裕あるよね」
「まぁ、床でとはいえ寝てたんで。アリシアはほとんど疲労抜けてなさそうだけど」
「タフさではナナシに一歩劣ってるみたい……引きずってでいいから連れていって」
このままでは本当に再び倒れそうなのでアリシアを本の墓場から引っぱりだす。
そのままズルズルと引きずりながら作業室をあとにする。お姫さま抱っこでもすると思うたか、余裕でアリシアでモップ掛けですよ。
「あ゛うぅぅぅ」
「乙女の口から出していい音なのか」
「乙女力5、ただのゴミか……」
「むしろ現状ゴミを掃除するモップ系女子アリシア」
しかし重たい。いや、アリシアは軽いのだがさすがに体力も回復しきってるわけもなく疲労度は高い。よって、そのままアリシアを自室に放り込んで風呂に向かうことにした。
その後、身体を洗い浴槽に湯を張ってつかると魂が抜けるかのような声が口から漏れだしたし風呂場に響いた……デュエットを奏でて。
「なんで普通に入ってきてる」
「水着着て来たしいいじゃん。それともナナシは私の悩殺ボディーに興奮しちゃうのかなー?」
浴槽のなかで腰に手を当てしなをつくるアリシア。しなというよりウネウネしてるだけで奇妙すぎる。
「すみません、お客様のような方には当方の興奮は対応しておらずお引き取りください。10年早いわ
「超冷静に切り返された……!?」
そりゃね、ホント来るなら10年後に来てほしい。小学生に興奮できるほど守備範囲は広くないのだ……現在俺も小学生と変わらんけど。
「ふぅ、まぁ
「おかしいな、褒められてる気がしないよ」
褒めてないからね。それから他愛ない無駄話を続けたあとに先に上がった。俺が居たままじゃアリシアが身体洗えないしね。
ほどなくしてアリシアも上がってきた。冷蔵庫の牛乳を取りだし、腰に手を当てイッキ飲みする。
「ぷっはぁぁぁ!」
「凄く旨そうだけど女としてそれはいいのか」
「乙女力3、1……まだ下がっているだって!?」
「マイナス値を振り切って計測器が爆発した!? ……いや、目指してんだよ」
「ぶー、いいんだよー。別に家だし、ナナシ以外いないしさー」
まぁ、確かに俺も気にしないけどね? お前は将来普通に外でもやってそうだよ。
「……やるね」
「銭湯にでも行ったらお爺さんお婆さんに可愛がられそうだけどな」
飲みっぷりいいし、お菓子とかめっちゃ渡されそうだ。ほら食いんさい食いんさい、とか言って渡してくるご老公たちがありありと思い浮かぶ。
「お爺ちゃんお婆ちゃんにモテモテだな」
「あと70歳若ければ……!」
「アリシアが70歳老けるでも可」
「それは嫌だなぁ」
ふたり並んでソファーに座るが平和だ……こうして駄弁ってゆったり過ごす日々がずっと続けばいいのに。あれ、なんか爺臭い考えだ。
「ユニゾンデバイスはどうしようかな。感情のプログラム以外はなんとかなりそうなんだけど……いや、あとは私たちの融合適性かな」
「そっちの方が問題じゃね? もし、俺たちが強いユニゾンデバイスつくれてもすんなり融合できるか……」
「想像できない……!」
アリシアが頭を抱える。奇遇だな、俺も想像できんわ。
「……いや、俺たちの適性を問題にしなかったらいいんじゃね?」
「えっ、どういうこと?」
「俺たちが合うか合わないかじゃなくて、ユニゾンデバイスの方に合わせてもらえば何とかならんかね?」
せっかく自分達で作ってるわけだし気合い出せば何とかなったりしないかなと。気合い出すのはアリシアになるんだけどな!
「あ……そっか、そうすればいいんだ! ナナシグッジョブ! いけるよ、私たちのリンカーコアの一部をコピーしてユニゾンデバイスの大本となる部分にすれば!」
「融合適性を越えた合体ができる!」
「イエッス! なんか違うけど大体そんな感じ!」
「いぇーい!」
「いぇーい!」
座ったままでハイタッチ。ある種の一番の懸念である融合適性ゼロとなる可能性は消え去った。
「……ただこれするとユニゾンデバイスがほぼ私たちにしか合わなくなるってデメリットもあったり」
「ん、別によくないか?」
「まー、私たちが使う予定だからいいんだけど技術者の一端としては誰でも使えるものを諦めるのは悔しさもあるのだよ」
アリシアは唇を尖らせつつ足をぷらぷらさせる。
そんなもんかね、自分にはよくわからん感覚だけどそんなとこはカッケェと思う。
「リンカーコアのコピーはさすがに今じゃできないしどうしようかな……取り敢えず普通に使うようのストレージデバイス作ろうか」
「ついでに俺のデバイスも直してくれ」
「ばっちり
「おっかしいな、直すって言われてるのに信用できない」
間違いなく改造って書いて直すって読んでやがる。
まぁ、カートリッジシステムについての資料自体は借りてきてるわけだし出来ないことはないか。
「さぁ、今回は私のやつから作ります」
「材料はこちら」
「基礎となるミッド式デバイスの各部品とカートリッジシステムに使う少し特殊な部品、あとその他もろもろ」
「量はこちら、各材料適量となります」
「みんなちゃんと量を守ってね!」
適量って言葉は便利だと思う。言われた側からすれば不便極まりないけどね。
「これらをすべて横に置いておきます」
「ほうほう」
「よしっ、そろそろ真面目にデバイス考えよっか」
「だな、どんな形かも決めてないのに作れるわけない」
アリシアのデバイスについては本当にすべて白紙である。今まで模擬戦は一般的なストレージデバイスを貸出ししてもらってたが、新しく作るものはインテリジェントかストレージにするかすら決めてない状態である。
「ストレージデバイスなことは決定かな。私もインテリジェント扱いきれるほど力が強くないからね」
「知ってた。よっす、魔力E」
「うるさい、E-。フェイトやなのはとかが使えば1+1を5にも10にもする可能性を秘めてるんだけどなー」
「俺たちが使うと1+1を0にもマイナスにもする可能性を秘めている」
「世知辛いね」
「切ないな」
100%そうなるってわけじゃないんだろうけど自分達で成功する姿を想像できないって悲しいね。
これは失敗癖がついてきている、なにか成功せねば。
「アリシア……俺なにか成功するよ」
「もうその発言が失敗じゃないかな?」
「失敗は成功のもとというので、もう今の失敗は成功と言ってもいいんじゃね?」
「ナナシが訳わかんない暴論言い始めた……その言葉って、失敗によって積み重なった経験が後々の成功に繋がるって意味じゃないの?」
全くもってその通りだと思う。失敗を成功と言い張る奴はただの駄目人間だ。つまり俺は駄目人間か……
「なんか急に悟った顔してるけど私のデバイス一緒に考えてよ」
「妹のフェイトに対抗してクロスレンジ、ミドルレンジをメインにして刀とかにしようぜ!」
「ずっと私のターンなアウトレンジがいいんだけどなー、私の魔力じゃ厳しいし無理か」
「それ言ったらどのスタイルでもキツいけどな」
「スルーしても気にしなくなってきたね」
その程度でへこたれてたらプレシアとは会話できないからな。プレシアさんったら不意にディスってくるし、それも自然に。
折れず曲がらずよく斬れるナナシでございます。
「折れずしなってよく曲がるじゃないかなぁ……ま、いいや。真面目にいうと普通に杖の形でもいいかなって思ってるんだけどどうかな?」
「んん……別にいいとは思う、けど扱いにくくないか? 将来はともかく今かなりちっちゃいじゃん」
「あー、たしかに直ぐに真後ろとかに構え直すには向かないね」
「魔法撃つだけなら背中からでもいいんだけどな」
「そんな発想した変態はナナシが初じゃないかな」
失礼な、わざわざデバイスを構えなくていいし効率的だぞ。見栄えはかなり悪いけど、やっぱり手を付きだして撃つとかの方がカッコいいよな。
「銃とかどうだ? 取り回しはかなり良いと思う」
「ふむ……クロスレンジになっても杖よりはやり易いかな」
「銃口の下から魔力の刃も出るようにすればクロスレンジの対応力も上がります」
「そしてフェイトと戦うとするよね」
「魔力刃出す暇なくやられるな」
刃のギミックあっても、俺らじゃないよりマシくらいのレベルだな。
「リボルバー式にしようかな、カートリッジ装置の付け方も想像しやすいし」
「そして近づかれたら、銃口を握り銃床で殴る」
「カートリッジ付けただけあって、ベルカらしさを前面に押し出した
「マジカル、フィジカル!」
「始まります!」
始まらねぇよ、終わっちまえばいいと思う。
因みに銃型に決定したよ。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
リリカルフィジカル始まります!噴ッ! 始まりませんけどね。
ありがちなお風呂イベント終了、一緒に入ろ?とかそんな甘いもんではないですが気にしない。
ついでに作者も薄々気づいてます、A`s編ってなんだっ け? って内容になってることには。
けど、このままいきます。本編の12月になってもこのままいく可能性すらあります。