ないない尽くしで転生   作:バンビーノ

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29.末っ子誕生

 ペケペケー、アリシアと俺は合格しました。

 ただし何故か俺は呼び出された、てより単刀直入に言えばもう一回試験を受けさせられたでござる。

 面接官三人ほど相手に要約すると、なんでお前解答欄に設計図書いてんの? って聞かれた。俺にもわかんないから答えようがなかった。

 能力としては十分、ただその他の面が心配なところがあるのでストレートにいうと俺が正常かのテスト。ついでにもう一度内容変更されたテストを受けた。

 今度は解答欄に図面を引くヘマをすることなく合格、前代未聞な間抜けな合格の仕方だと笑われた……プレシアとアリシアに。

 

 そこからはアリシアとお互い一緒に動いたり各々能力に合った仕事探してた。合格後、真っ先にクイント・ナカジマさんとこに行ったんだけどね。

 これがまた凄いデバイスだった。リボルバーナックル、名前からも想像できるけど両手に装着してぶん殴るガチンコインファイト系デバイス。アリシアがウッヒョーキマシタワーと言わんばかりの勢いで食いつき俺の出番は特になかった。

 

 で、おっきな仕事を請け負った、アリシアが。

 

「へぇ、娘さん二人もシューティングアーツを始めたんですか」

「うん、だからね……二人にもデバイスを用意してやりたいのよ。旦那はまだ早いだろってんだけどねー、私としては早くから慣らしといた方がいいと思うのよ」

「はぁ、それで製作をアリシアに」

「ええ、初めての仕事にどう? 娘たちのリボルバーナックルを右手用と左手用に」

「受けます。全身全霊で」

 

 お仕事モードアリシアさん降臨、クイントさんと話し合いを始めたので外に出てデバイス簡易点検ボランティアを始める。 言うまでもなく下心しかない、フリーでやるなら顔を売っとこうと思って。

 まー、名前もなにも売れてないガキんちょで中々人は来ないけどな! でも、ちょくちょく気の良さそうなおっちゃんたちが頼み込んできてくれた。

 そんななか物珍しさに惹かれたのかお一人、若そうなお兄さんが来た。

 

「おーう、坊主。無料で見てくれんのか?」

「ええ、簡易検査程度だけど」

「見れるデバイスの種類は?」

「カートリッジ対応、非対応問わずストレージにインテリジェント。あとアームドデバイスでユニゾンデバイスは怪しいのでお断り」

 

 リインの身体の開発も基本はアリシア主体だったし。なかなかアレを一人で見る気にはなれない。

 

「じゃあ、こいつを見てくれ。ライフル型だけど見れるか?」

「いけますいけます、超いけます」

「坊主、連呼すると信頼性落ちるぞ?」

「不思議ですよね。必死な人ほど信用できないなんて……人間って汚い」

「薄っぺらくなるからじゃないかね」

 

 口を動かしつつも手を動かす、逆か手を動かしつつも口は勝手に動いてる。

 ……うわぁ、これ整備あんましてないやつだ。アリシアが見たらスパナ出してくるやつ。用途は持ち主にスローイングかますため。カートリッジ使用時に出る魔力の残滓、パッと見が煙のアレ。あれの噴出口とか2~3割埋もれてるし配線も……ああ、稼働率かなり落ちてるぞ。

 

「どんな具合だ?」

「1週間洗わず履き続けたパンツ」

「やぁーっぱり? いやー、二人暮らしなんだが生活費のため色々切り詰めてたらなぁ。いやいやパンツはさすがに洗ってんぜ?」

「そうだね、プロゲステロンだね」

「聞いてるか?」

「そうだね、プロキオンだね」

 

 排莢孔も削れて、どんだけ使い込んでんだ。フレームもかなり軋む……同型排莢孔はあったっけ、あるわけなかった。ここは家じゃなかった。

 噴出口の汚れは固まってるし削って取るか。銃身がホント微妙に歪んでるのはここじゃ無理だし放置。正規のお店かアリシアに頼んでどうぞ。

 なんてマジで取りかかり始めた俺を現実に引き戻したのはお兄さん――でなくアリシアによるチョップ。

 

「とうっ!」

「あべし……なんだアリシアか」

「なんだじゃないよ。ほら目の前のお兄さんが苦笑いしてる」

 

 あらら、申し訳ない。簡易点検のつもりが直し始めてた。普通に勝手にやったら怒られるし、もとの状態に戻して返したのちに頭を下げる。

 

「いやいや、いいんだがよ。むしろ無料で直してもらえるなら万々歳だ」

「そこは後ろのデバイスマイスターアリシアにパス」

「むっふっふー、残念ながら私は無料ではやらないよお兄さん! 一回やるとズルズルいきそうだからね!」

「アッハッハ、見た目なわりにしっかりしてんだな」

「精神的にはリトルマダムだからね!」

 

 マダムなのに小さいのかよ。マダムだけだとおばさんっぽいとか知らないから、全国のマダムに謝っとけ。

 

「あ、そだ。そのデバイスは一回ちゃんと直した方が吉かと。若干銃身歪んでるし、パーツも色々悲鳴をあげてる」

「あー、そうか。さすがにそろそろ一度ちゃんと見せねぇと駄目か。よし、じゃあな坊主に嬢ちゃん」

 

 明るい茶髪なお兄さんはそのまま去っていった。いやホントにアレは見せた方がいい。具体的には夏に工事現場で働くおじ様が1週間ほど履き続けた下着並みにヤバい。

 

「それでナナシは陸士部隊うろうろして何してたの?」

「暇してた」

「よし、帰ろっか」

「待てよ、もう少しツッコもうぜ。デバイス製作の仕事ゲットしてちょっと賢者モードなアリシアさんやー!」

「私がよければそれでいいのだ!」

「割りとゲスいように聞こえて大体の人間の真理をついてくるなんてさすがアリシアだぜ!」

「「いぇーい!」」

 

 ――その日陸士部隊の出入り口で子供二人はしゃいでる姿が見られたとかなんとか。

 出入り口にいた俺たちは全く知らなかったんだけどなー、不思議だね。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 スパッと色々全略、製作開始から約2年たちリインフォース・ツヴァイが誕生した。

 技術的にはともかく地球的にいうと東京のど真ん中にちょっといい家建てれるほどの費用かかった。それをどう準備したんだこの小学生って話なんだけど……

 なんか聖王教会に知り合いが出来たらしくそこからゴニョゴニョと援助があったそうな。

 そもそも聖王教会ってとこが古代ベルカの王を祀ってるところで、その古代ベルカの融合デバイスを作るために~ってことで資金援助が成立したと聞いた。

 

「だからごめんなツヴァイ。お前はちょっと後ろめたいお金から生まれたんだ……俺がはやてを止められていたら……ッ!」

「はわ!? 私はちょっと怪しいお金で作られたんですかマイスター!?」

「なにいきなりいらんこと吹き込んでるんやー!」

 

 スリッパで思いっきり頭を叩かれた。それはもう快音が鳴り響いたけど手加減なしでやられたので些か痛い。

 いや、だってはやても陸士のおっちゃんに豆タヌキ言われてたじゃんか。魔力コントロールはともかく話術は既に汚いって。

 

「さ、三等陸佐やな……!?」

「うん、あの俺よりミソッカスというか空っぽ魔力のおっちゃん」

「面と向かって笑いながら空っぽ魔力ですねって言うたときは肝が冷えたで」

 

 幸い気のいい人で笑って許してもらえた。背中バシバシ叩かれたけど。

 今度娘と会わないか聞かれたけど、教育に悪いのでやめた方がいいと言ったらもっと笑われた。

 

「というかナナシ君はなんで普通に陸士の部隊とかに出入りしてるんやろね?」

「あ、知らんかったっけ? デバイス点検を格安で行っております。アリシアはデバイス製作の依頼とか受けてる」

 

 初めて受けた仕事、クイントさんの娘さんたちへのデバイスを仕上げたときには感動のあまり少し泣いてたりしたのは秘密。製作時間実に半年、滅茶苦茶凝りに凝って真剣に作ってた。

 

「んん、待ち待ち。今誰からの依頼言うた?」

「クイントさん」

「…………それナカジマ三等陸佐の奥さんや」

「なんだと……」

「衝撃の事実今ここにといった顔です! そんなお二人にツヴァイは笑撃をお送りします!」

「以上発言は八神家の提供でお送りしました」

「来週もお楽しみにや!」

「お送りする前に終わってしまいました!?」

 

 ガーンと口に出しながら頭を抱え仰け反るツヴァイ。ノリ良すぎて大好き、はやても満足げに笑ってる。

 ここは聖王教会、支援してもらった手前報告に来た。

 んでもって製作の手伝いをした身として俺が来た、来たくなかった。アリシアとジャンケンした結果ここにいる、つまり負けたのだ。いやー、聖王教会とか名前からして厳格な感じして……ほら俺とアリシアは真面目な空気に対してアレルギーがあるから。

 

「ほら、着いたで」

「だってさツヴァイ、もう一人でも挨拶できるよな? じゃあここから先はお前一人でいくんだ。大丈夫、ツヴァイなら出来るさ」

「はい! なんだかよくわからないのですが不思議といける気がしてきました!」

「アホなことやっとらんで入るで」

 

 帰ろうとした俺の襟首を掴んだはやてがノックし部屋へと入る。なかにはザ・優雅な感じのお嬢様とその後ろにシスターっぽい人が控えている。シスターっぽい人を見た瞬間、脳内警鐘が五月蝿く鳴った気がした。だってシグナムとかフェイトと似た雰囲気がしてるんだもの。

 

「はやて、いらっしゃい」

「カリム、シスターこんにちわや。さっそくでなんやけどツヴァイが無事誕生した報告に来たで」

「ど、どうもはじめまして! 八神家末っ子、狙うは大黒柱! リインフォース・ツヴァイなのです!」

「ちょっと待ちぃ、ナナシくん面かしぃや」

「待て待て待て、リインが緊張してたから空気を解そうとしただけでな」

 

 こう自己紹介したら空気が和むかもしれないって耳打ちしただけなんだって。ほら、カリムさんクスクス笑ってるしシスターさんは……呆れた目で見られてるな!

 取り敢えず胸ぐらから手を離そう、離せばわかる。離したところでこの現実は変わらないってことがわかるから。

 

「はぁ……こっちのマイペース貫いてるのが製作の協力者の一人」

「ナナシです、シスターさんそんな信じられないもの見る目で見るのはどうかと思う。ほら、信ずるものは救われるらしいし信じましょうバッチ来い!」

「ようこそ聖王教会へ。私はカリム・グラシア、こちらはシャッハ・ヌエラです」

「貴方を信じるとむしろ足を掬われそうな気がするのですが……騎士はやて本当にこの方が?」

 

 おい、はやて。このシスターなかなかのやり手だ、なんかうまいこと言ってきたぞ。

 

「そうや、今はこんなんやけどやるときはやるんやで? 一応」

「ついでにもう一人のメイン協力者は腹痛の予定が急遽入ったためこれず申し訳ない」

「そうですか、それは残念ですね……」

「待ってくださいカリム、腹痛の予定が入ったというところへ疑問を感じてください」

 

 いっけね、口が滑った。はやてがジト目で見てきてるけどカリムさんは普通に流してくれたのかただ残念そうにするだけだし、まあいいやセーフセーフ。

 

「それでツヴァイさんとはやては無事ユニゾン出来たのでしょうか?」

「そこはバッチリや。私も元々適性があるのとツヴァイの基盤には私自身のリンカーコアのコピーをつこうとるからな」

「まー、もともとは適性あるかわからん俺たちが合わすのに使ってた技術転用だしな。そりゃバッチリにならんわけがない」

「へぇ、あなたは個人的にユニゾンデバイス製作をしたことが?」

 

 いやん、なんかおっとり系だったカリムさんの目が鋭くなった。はやてにヘルプと目線を送るが目を逸らされ着信拒否された。ならばとツヴァイをチラッと見たら私に任せろと言わんばかりだ。なんか不安だけど任せた!

 

「あります! ツヴァイの姉、アインスお姉ちゃんの身体はアリシアさんとナナシさんが製作したのです!」

「ふふっ、そうなんですか」

 

 不安的中だよ、言ってやったぜといった雰囲気を醸し出す誇らしげなツヴァイが眩しい。そうじゃない、そうじゃないんだ。

 

「はやてから聞いていた通りなんですね」

「え、なんだとはやて言ってたのか」

「他言無用ってことでな。ツヴァイ製作手伝ってもらう人がおるっちゅーても実績ゼロの素人やったら支援もしてもらいにくいやろ?」

「……子狸」

「聞こえとる、化かしてまうで」

 

 化かすために葉っぱを頭に乗せたデフォルメされた子狸はやてを想像したら……ツボった。似合いすぎだろ……! ゲンヤ・ナカジマ三等陸士はセンスがありすぎると思う。

 

「なんにせよツヴァイが無事誕生してよかったです」

「せやなー、フリーダムな二人に手伝うてもらったせいで不安ばっかやったけど仕事はキチンとこなしてくれたから安心して出来たわ」

「というわけでデバイスの点検はナナシまでご一報を。もしくは製作の場合はアリシアまで」

「サラッと売り込みますね」

「ビビっと来たので」

 

 再びシスターシャッハに呆れた目を向けられるもなんのその。チマチマ働き始めたにも関わらず未だテスタロッサ家居候から抜け出せない俺には死角なし。理由は家事が出来ないから……食費だけは納めるようになったから進歩はあると信じたい。

 

「シスターシャッハどうです? お試しに無料で」

「あなたが見るのですか……?」

「信用のなさが痛い」

 

 俺が何をしたというのか……うん、ここ来てからの言動を思い返せば自業自得でしかなかったわ。その後、はやての援護とカリムさんの後押し、ツヴァイと俺による再度信用を下げるトーク行為によって物は試しということで簡単な整備だけ任された。

 

「うん、今余計なもんが混ざっとったな。なんで自分からまた信用を下げとんねん」

「ついツヴァイにネタを振られて」

「ついナナシさんが打てば響くので」

 

 そんな会話を挟みつつ、はやてたちがお茶する間に10分ほどで簡易メンテ終了。普段からちゃんと手入れしてるのかほとんどやることがなかった。多少処理は早くなるかもしんないけどそれくらい……いつかのライフル型デバイスとは大違いだ。

 

「シスター、出来ました」

 

 手渡し、試運転がてらセットアップ。素振りを何度かしてるけど風がビュンビュンきて正直怖い。

 

「……ふむ、本当に整備はちゃんとするのですね。心なし少し処理が早くなったような気がします」

「まぁ、人様の命掛けるものは基本ちゃんとしますって」

 

 基本。徹夜明けのテンションで犠牲になりそうになったことのあるデバイスがいないこともない。

 

「またご利用の機会があればご連絡を」

「じゃあ、そろそろ帰ろか。カリム、シスターお邪魔しました」

「ええ、また来てねはやて。ナナシさんも、ツヴァイさんも」

「はい! またマイスターはやてと来ます、かもです!」

「俺もまた来ます、かもです」

「最後までそのノリか」

 

 許されそうとわかったところでは自重のブレーキがサヨナラバイバイしてしまって。そんなこんなでなんとか決定的な失礼をすることなく帰路についた俺たちだった。

 しかしツヴァイが俺を惑わすからついつい……

 

「私も罪な女です!」

「判決おやつ三日抜きの刑に処す」

「実は綺麗な女です!」

「嘘つきにはおやつ三日抜きの刑」

「どう転んでもおやつ抜きになってしまうのですか!?」

 

 うーん、楽しくて仕方ない。




感想感謝です。
ツヴァイの書きやすさ、ノリのよい明るい子にしたい。八神家の大黒柱へ下克上目指して今日もノリで生きます。

ふと気づけば空白期は本来終わってる予定だったのにまだ続いている。時系列的に何故かまだ半分越えたぐらいという不具合……よくある空白期エターが脳裏をよぎる、少し巻くか。
なのでStSはもう少し待ってください、すまない……すまない。

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