陸にデバイスの整備に来ていたある日、またレジアス中将に捕まった。すみません、ちょっと今急いでて陸の人材不足と海の陸より潤った資金による人材の確保についての不満を聞いてる時間は……今日は愚痴じゃない?
あぁ、はい。科学者に陸の防衛についての開発を協力してほしいって前々から嘆願書を多く送っているけど返事を濁されたままと。それに機動六課も陸の人員に追加で出向及び協力願いを出してるようだからもう胃痛がマッハでヤバイと。あれ、愚痴じゃないかこれ?
「もうコイツは儂にとってゼストに次ぐ相棒なのかもしれんな……」
「あの、それ胃薬なんスけど。そんな黄昏た感じで言わないでください」
なんか初対面のときの勢いがこの頃見る影もないんだけど本当に大丈夫なんだろうか? というかこのおっちゃんってば実は偉いさんだったらしい。具体的には陸のトップ、階級は中将で役職は首都防衛隊代表だった。つまり俺は数年間陸トップの愚痴を聞き続けてきたということだ。給料出ませんかね?
「せめて防衛面だけでも強化したいのだが人材がな……全く足りん。それに本局とこちらで議論がな、どうしようもなく戦力が足りんというのに渋りおる。地上防衛用の巨大魔力攻撃兵器なのだから問題はないはずなのだがな、グレーかもしれんが。魔力による対空砲撃が可能な遠距離用魔力砲を三連装化して射線を確保する為、三基ともミッドチルダの高地に建造…………予定だったのだがな、科学者がいなくなったのでそれも難しい」
「まぁ、まず兵器っていうものへのアレルギー反応みたいなの強いですしね。あれですかね、アトピーとかあるんですかね? 痒くなるとか、ムヒあげれば承認されるんじゃないですかね?」
「そうだ! 確かに過去から学ぶことは大切だが過去に縛られていても前には進めん! だいたい――」
適当にネタを振ってもスルーされる。たぶん、強いですしね、までしか聞いてくれてないな!
でも嫌いと言えば、
「……レジアスさんもレアスキル嫌いですよね」
「ぐっ、それはレアスキルを保有してるというだけで優遇されたりするのが、だな……」
後半は尻すぼみな感じで言ってるあたり感情論で嫌ってるところもあるっぽいけど仕方ないよね。俺も感情的に嫌いになるものとかあるからわかる。理不尽であっても不当なものじゃないと思ってる……相手からしたら傍迷惑なんだけどな!
それはさておき俺も一応レアスキル持ち扱いなんで耳が痛い、なんてことはなく申請もなにもしてないので優遇されたことなんてない。そもそもこの倉庫のどこかレアなのか、かさばらないだけじゃないか。
「いや、そんなことはいいのだ! とにかく陸を、ミッドを守るためには戦力が必要なのだがそのための技術者もおらん……」
「技術者、技術者……」
アリシアはデバイス専門っていってもいいから外すとしてプレシアだ。そういえば前に陸と六課から声がかかったとか面倒そうに言ってたっけか。返事したのだろうか、あの人そこらへん適当だからなぁ……用があるならそっちから出向きなさいってタイプ。いうなればダンジョンのラスボス、勇者のもとへ出向くことなくダンジョン奥でやりたいこと(娘を愛でる)をして待ってる。つつかなければ安全だが手を出せばたちまち襲ってくる。ちなみにクリアは不可能なんで、娘を貢いであとはそっとしておいてあげて。
「プレシアさんに聞いてみるか……ちゃんと返事返したかどうかだけでも」
「む、プレシア女史と知り合いなのか?」
「ええ、まあ。むしろレジアスさんがプレシアさんを知ってることに驚き」
「有名だぞ彼女は。つい最近も新型の魔力炉の論文を一人で書き上げ――る一歩手前から娘への思いの丈を綴ったものにシフトしてたとか。他所の技術者が真面目に仕上げてくれと懇願すれば私のなかでは完成してるのだから書き上げる必要はないと言い切ったらしい」
「なにやってんのあの人」
もう我を貫く力と意思はミッド1じゃないか。なのはは不屈の心のエースオブエースって管理局で呼ばれてるらしいけど、プレシアは親バカのエースオブエースだ。知力も魔力もあるから尚質が悪い……まぁ、研究も本人がやりたいからやってるだけらしい。アリシアと同じで趣味が仕事な感じだろうし、周りの声なんて気にしてないんだろうけど。
『私の耳は二つしかないからアリシアとフェイトの声を聞いたらもう他は聞こえないわ』
とは本人の弁である。俺の言葉どうやって聞いてんだよと思ったけど、読唇術とか言われたらあながち本当な気がして怖いので止めておいた。世の中知らない方がいいことも沢山あるって何だかんだ二十歳になったナナシは知っているんだ。
「まあ、親として娘が大事なことはわかるのだがな」
「そんなものですか」
「そんなものだ」
しんみりしてる中、台無しだがよくわからん。
そのままレジアスさんも愚痴を言う気分じゃなくなったのか仕事へと戻っていくのであった。
▼▼▼▼
「ってなわけで陸と六課に返事しましたかね?」
「一光年前の地に忘れてきたわ、私の優秀な頭の99%は娘にキャパシティを割いてるからそんな些末なこと覚えてられないのよ」
「凄い言い訳だなおい、てか残り1%で新しい魔力炉思い付くとかなんなの? 100%を研究に回したらナニができるの?」
「将来的なロストロギアかしら」
「ナニソレ怖い」
もうこの人がロストロギアじゃないだろうか。はやて、歩くロストロギアって異名を返上してプレシアにあげてくれ。正直娘がいるだけで肌年齢が若返ってる時点でだいぶんおかしいんだって……あ、いやでも幸せを感じることで難病が治癒したっていう症例もあるっていうしこれはあり得なくはない? というか写真で見せてもらったなのはの両親もリンディさんも、歳はなのはたちの年齢から逆算しただけだけど見た目が大概若かったよな。あるぇー?
「それよりいきなりそんなことを聞いてくるなんて何かあったのかしら? 八神はやてにでもお願いされたのかしら?」
「いんや、陸の方でプレシアさんにお願いしたっての聞いて返事してなさそうだなと」
「別に手伝ってもいいのよ、両方」
「えっ?」
意外である。人の下で働くことは嫌がると思ってたし両方断るものかと思った。
「零から十まで私が全権持てるならね」
「ああ、それなら納得」
「ということでそう返事しておいて貰えるかしら」
「そこは自分で返事しましょうよ」
「どうせまた陸からの仕事を引き受けてるんでしょう、ならその方が効率がいいじゃない」
「効率厨め」
「失礼ね、効率なんかより娘に首ったけよ。いわば娘厨よ、チュウといっても流石にキスはしないわよ?」
「疲れてるの? あ、平常運転か……」
知ってる、娘のためなら効率も投げ捨てて確率を打ち破ってしまうことくらいよく知ってる。ジュエルシードに願う姿を見て親ってこういうのもなのかと肌に伝わってきて体感した。
ついでに次元を裂いたり更地をつくったり大気を焦がす雷も放っちゃうことも身をもって知ってる、体感したくなかった……なんで生きてるのかたまに不思議になる。
「さて、アリシアとアルフが帰ってくる前に夕食を作るわ」
「ん、フェイトは向こうの家? それか隊舎?」
「六課から近い方の家よ。そっちの方が負担も少なくていいからといい親の顔して言っちゃったのだけれど……私たちが引っ越せばよかったわ。これが親離れなのかしら、ああ悲しいわね」
そう、フェイトの住まいは現在別にある。というのもミッド市街地の外れにある今の家では機動六課に毎日通うには些か遠く新しい家になのはと家を一軒構えたのである。何気に二人とも高給取りなのでフェイトのために払いたがるプレシアをなんとか止めて自腹で買ってた。
19歳でマイホームか。地球のサラリーマンが聞くと発狂しそうだ。いや目の前で子の親離れについて真剣に悩んでるプレシアみたいにポンポン家買えるってのはミッドでも珍しい部類ではあるけどね。テスタロッサ家は何気にお金持ちだった。
「………………………………………………………………まぁフェイトにも一緒に住むくらい仲の良い友人が出来たってことで良しとしましょう」
「沈黙なげー、どんだけの葛藤があったのか……」
たぶんなのはが本当の意味でいい奴だったからこの結論が出たんだろうけど、プレシアは友達がスカさん的な奴だったら迷わず灰にしに行ってたぞ。
と玄関を開ける音とアリシアとアルフの声。どうやら二人揃って帰ってきたようだ。
「話しすぎたわね。夕食の準備をするわ、バイト帰りで悪いけどアルフ手伝いなさい」
「あいよー」
台所へと向かう二人と入れ違いでアリシアがリビングへと入ってくる。この頃グッと背が伸びてきてるので後ろ姿がフェイトと似てきた。
「ただいまー、ナナシもう帰ってたんだ。母さんとなに話してたの?」
「あー、なのはとフェイトがマイホーム買ったなーとかんなことかね。全く19歳でマイホームとは高給取りめ」
「アハハー、私たちも買えるんだけどね」
「えっ」
「えっ」
なに言ってんだコイツって顔してアリシアを見ると向こうもそんな顔してやがった。冷静に考えてみろって、俺はフリーで簡単なデバイス点検とかの仕事しかしてないのに一軒家買えるわけないじゃん。
「デバイスの設計図と睨めっこしすぎて単純計算が出来なくなったか……?」
「んなわけないでしょ。ナナシがすっかり忘れてるだけで、私たち一応は特許持ちなんだよ?」
「……?」
「完全に忘れてるね。ほらカートリッジシステムをミッド式に転換するアレ」
「あー、あったな……」
基本的にアリシアがやったと思ってるから全く覚えてなかった。まあ、その特許でお金が自然とがっぽりムフフな状態らしい。金は人の縁を狂わすっていうけどアリシアは金を稼ぐ行為に当たるデバイス関連の仕事が趣味みたいなもんだし、俺も普段そんなに金を使わず楽しんでるから執着が薄いんだよなぁ……こっち来た頃は寝床にも困ってたってのに偉くいい生活になったもんだ。
「ま、将来的に必要になるまで置いとけばいいんだけどね」
「そのときになって二人揃って路頭に迷ってて金の為に熾烈極まる戦いが繰り広げられるんだな」
「人間って汚い……ううん、悪いのは私たちをこんな風にした社会なのかもしれないね」
「でもこの金だけは譲らない――! って感じか」
「いやー、想像できないね」
そもそもアリシアが路頭に迷う姿は考えられんしなー。プレシア譲りの頭脳だしどこかしら雇われるだろ。
「鼻高々! そういえばこの頃は新しいことに手をつけてないから開発したいよね」
「固定砲とかアンチマジックなチャフ撒き散らす妨害系な、のはグレーゾーンか」
「魔力のない人でも使える簡易式なキットとかも悪くないよね」
「カートリッジの技術を転用すればある程度出来そうだけど魔法展開のトリガーとする魔力をどうするかって話だよな……と今こんな話すると落としどころがねぇ」
「えー、その通りだけど……あ、そうだキャロやエリオからメール来た?」
「ん、あー来てるな」
どうやら機動六課で二人が初邂逅したらしい。キャロからはもうIHクッキングヒーターも使えるようになりました! って一緒にメールに書いてる。なにかと火を熾こそうとしていたカントリーガールもどうやら科学に適応したらしい。
「私はフェイトからもメールが、ほら二人の写真」
「はー、ちょっと身長伸びたか? ……待て待て多いぞ、どんだけスクロールしたら一番下にいくんだ」
「妹から、仄かに漂う、親バカ臭。字余り、アリシア心の句」
「子供好きだしなぁ、割りと過保護だし。テスタロッサ家の血恐るべし」
「私にも流れてるのかなぁ……」
「アリシアにとっての我が子がデバイスと考えてみ?」
「あ、納得だ!」
だろ? あとエリオはまた会いたいとも言ってくれてるし久々に会いたいよね。なにかエリオとキャロに土産でもあげたいところだ。
「明日機動六課にお邪魔してみないか?」
「お、行ってみるか……アポは、いっか!」
「アポなし突撃!」
「アクシデントハプニングあり、ドキドキ機動六課訪問だー!」
「いぇーい!」
――翌日大惨事。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
A's以来デバイスそんな触ってないことに気づいた。