ミッド市内を駆け回る無数の電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物……もといアニマル型ガジェット。何をしているのかと言われれば、絶賛飛翔中の監修製作以下もろもろスカさんでお送りしている遊園地の宣伝だ。
景気良くビラがばらまかれ、地球で無断使用するとちょっとヤバそうな夢の国のBGMを響かせガジェットは街を回る。
まぁ、害という害はない。強いて言えば散らかされたままになるチラシなのだが、どういうわけか地面に放置されたチラシは五分後には土に還っている。ホントなんでだ変態技術キモいとはテスタロッサ家にお住まいの二人の言である。
ただ、次元世界を渡る海より賃金は安いけど、社畜精神剥き出しで今日も元気にモリモリ働くぞ! がモットーなミッドの平和を守る陸部隊の皆さまはそうも言ってられない。
ミッドの歴史でも屈指の変態レベルを誇ると言われている古代ベルカの兵器が空を飛び、それの宣伝を行っている謎の機械が市内あちらこちらにいるのだ。
聖王教会あたりが怒りそうだが歴然たる事実だ、どう考えても変態技術の結晶である。
「クイント分隊長! 魔法が、魔法が通じません!」
そしてこれである。スカリエッティ印のガジェットは、基本的に魔力の結合をほどいてしまうAMFを発動しているため魔法が効かない。というか一般魔導師に至っては使えないに等しい。
「AMF程度でミッドを守り抜いてきた私たちは止まらないわ! マジカルパンチ!」
「クイントそれフィジカルよ、フィジカルパンチ。まぎれもない物理よね」
故にアニマル型ガジェットの覇道(ビラ配り)を止めるものは一人もいない――なんてこと全くなかった。
もう一度言おう。資金力、人材不足、その他色々ないない尽くしで社畜精神剥き出し、元気モリモリ働き続けた陸部隊を舐めてはいけない。
ミッドを守り続けてきた
「ドローンの上に瓦礫類を転送して圧殺してるメガーヌに言われたくないわ」
「重力×質量×魔法=破壊力よ!」
「その論理でいくと、私軽いからパンチ力なくて大変だわ!」
「そんなことないわ、大丈夫よ。クイントは十分
「メガーヌあとで屋上! 久々にキレちゃったわ!」
若干二名の分隊長が真剣にふざけつつAMFを無視(物理)しガジェットを破壊していく。そこから少し離れた地点では槍で粉砕喝采、ついでにユニゾンデバイスとおぼしき小人が炎系統の魔力変換で爆砕をかましていた。
よくよく見れば他の隊員たちも己のデバイスに重量のあるものを縛りつけ、マジカルアタック(紛れもない物理)で攻撃している。
「質量兵器? ハハッ、これは陸部隊式魔法さ」
「たまたま、ホンッッットたまたま重いデバイスに魔法を付加して攻撃してるだけだから」
「ウワー、魔法がキャンセルされたけど慣性の法則的なアレのせいで急には止まれないナー……フンッ!」
「アレー? 運動の第一法則のせいで……ソイヤァ!」
「ホッウムッラァァァァァン! ウッシャア! っと力学的エネルギー保存の法則的なアレのせいでまた殺っちまったぜ!」
「あぁ、なんかアレがアレしたソレ的なナニかのせいデェリャァァァ!」
今ではエースオブエースと称えられる、軽めのデバイスを持っていたなのはちゃんは成すすべなく、やられてしまったアニマル型ガジェット。
しかしなんということでしょう。何故か、偶然たまたま超重量系にカスタマイズされたデバイスを持っていた陸部隊の皆様にかかればこの通り。
日頃のストレスを発散せんとばかりに、バッティングセンターよろしくガジェットを粉砕していく。動物型の遊具を壊す大人たち、絵面的には最悪である。
「デコレーションできたぜ!」
なかには壊したガジェット自体をデバイスに巻き付けリサイクルするエコな奴までいる。振るうと千切れて落ちそうな首が怖い。
極めつけはガムテープでガジェットにデバイスを張りつけ、ガジェットでガジェットを殴るゴリマッチョまでいる始末。
デバイスwithガジェットでなく、デバイスがおまけ扱いとなっている。
デバイス使えばなんでも魔法と思うなよ。
「だ、旦那ァ! 陸部隊も相当変態じみてるぜ!?」
「言うなアギト……みな、ミッドの平和を思い戦っている。悪い奴等ではないのだ、個性的なだけだ」
「あたし知ってんだぜ? 個性もいきすぎると変態に成るって」
「…………」
「あ、目ぇ反らすなよゼストの旦那!」
人員も資金もないない尽くしな陸部隊――しかし弩根性と熱血は誰にも負けない変た、猛者揃いだ。あと限りなく真っ黒なグレーを白と言い張るとぼけ具合もミッド一だ。
そしてミッドを守るのはそんなイカ
その名も
「行きなさいザフィーラ! デスロールよ!」
「お前も働け、あとデスロールはワニの得意技だ」
ザフィーラは他の局員に混ざりガジェットの破壊や牽制、シャマル先生は疲労した者の回復担当を担っていた。AMFがなければシャマル先生が旅の鏡で適当な部品を引き抜いて壊していたのだが残念無念。
▽▽▽▽
ところ変わってミッド市街地の外れ。全ては無に帰す。
テスタロッサ家の主の目に映るのは澄んだ空、と耳障りな音を鳴らしながら飛ぶ
そう、子の幸せのためなら子守りから隕石撃墜、次元世界征服までこなすのが母の勤めというものだろう。だからまずは身近な掃除からしていこう。
無造作に振るわれる杖。体内を循環する膨大な魔力は先天的な体質により紫電へと転換され吐き出される。音を置き去りにしたソレは空と地を這い、百を越えるガジェットドローンVI型を掃除した。
「くぁぁー、おはようプレシア……なんか少し焦げ臭くないかい?」
「今日も雲ひとつない、いい天気ね」
「……そうだねぇ、布団でも洗っておくかい?」
「そうね」
今日もテスタロッサ家の主は平常運転です。
▽▽▽▽
はやてとヴィータは悩んでいた。今自分たちがいる聖王のゆりかごは間違いなく次元犯罪者のジェイル・スカリエッティが改造したものだ。しかし、それならばこんな遊園地のような改造がされてるとは思えないのだ。
人体実験だってなんとも思わないような人間――それが管理局内の資料から得た情報。そういう情報から浮かべたイメージとどう考えてもこの遊園地とは結び付かない。
「なんやろ……ジェイル・スカリエッティからは似た臭いを感じるで。今ごろリインたちに足止めされてる二人と!」
「はやて、それめちゃくちゃフラグっぽいぞ」
「まぁ、今のところ危険は無さそうやしええんやけど」
強いていえば少し前にあった大きな振動。ヴィータ曰く、ちょっと寒気のする感じだったけど心配ねぇと思うとのこと。理由は本人にもわからないそうだ。
さて、二人は現在下へ下へと向かっている。
「なのはたちにゃ上に向かわせてたのに、なんであたしたちは下にいくんだ?」
「ボスってのは大抵最上階か最深部におるもんやからな、私らは後者を攻めるわけや」
「そんな単純な……いや、
「やろ?」
それからしばらく進んでいくと最深部とおぼしき吹き抜けた空間へ辿り着いた。途中見かけたアトラクションは全てスルーしたのだが、たまにヴィータがチラチラと好奇心からか視線を向ける様子をはやては見逃さなかった。今度、八神家の皆で遊園地に行こう、そう心に決めたはやてだった。
「さて、着いたわけやけど……そこにおるんは誰や!?」
「ふっふっふ、よくここまで辿り着いたね」
薄暗い空間にパッと照明が灯され現れたのは――ジェイル・スカリエッティ。ニマニマと笑っている。
「君たちの目的は、そう私を捕らえてこの船を停めることだろう……」
「あぁ、そうだぜ。だからジェイル・スカリエッティ、大人くお縄についてもらうぞ?」
「ふぅ、残念ながらそうはいかない。たしかに私は君たちより戦闘能力は遥かに劣り、負けは確定だろう。しかし、それでも君たちは
「は……?」
そう言いきるやいなやスカリエッティはクルリと華麗に髪をなびかせ回転する。
するとスカリエッティであったはずの人物は――金髪の女性へ、ジェイル家二女ドゥーエへと姿を変えた。
「ウフフフフ! ドクターだと思った? 残念、ドゥーエちゃんでしたぁ!」
「スカリエッティが女になったやと……? アイツの変態度は私らの想像を遥かに越えとったんか……!?」
「あら……ドクターが変態過ぎて思ってた反応が貰えないわね」
「はやて、はやて。普通にコイツはスカリエッティじゃないぞ」
「よくぞ見破ったわねロリっこ、私は迷子の一般人よ」
「いや、逮捕だからな?」
ガチャンとドゥーエの手に付けられる手錠。
「そうよねぇー……いえ、ここで逃げてもいいのだけれど? 私も一時的にとはいえ母となった身だし、子に胸を張って見せれる姿にならないとね、胸を張って」
少し感傷的な表情を覗かせたドゥーエだが直ぐにニヤつき胸を突き出し煽る。だがしかし、ヴィータはともかく、はやても一筋縄ではいかない人種であった。
「よぉ意味はわからんのやけどなんで二回も胸を強調したんや、んっ? おっぱいマイスターはやてちゃんが揉むで?」
「管理局ぅぅぅ! 変態よ、変態がいるわ!」
「残念だったな、私たちがその局員だ」
「絶望したわ……三脳に入浴剤ぶち込んだの間違いだったかしら?」
「ん?」
「いえ、なんでもナイワー」
なにはともあれドゥーエが逮捕された。その直後――ゆりかごに轟音が響き渡った。
▽▽▽▽
魔王討伐の勇者よろしく道中にあるめぼしいもの全て剥ぎつつ案内板を無視して突き進んでいた。もちろん案内板は全て無視しているのでスカさんの元へ行けるはずもなく、なにやら重要そうな部屋の前へと来てしまった。
いかにも大切そうであり、かなり注意を促す文が書いてあるな……さすがにこれは開けない方がいいか。
「開けるな絶対、ワーニング、重要、とか書いてあります!」
「開けるよ!」
「はい、ドーン!」
開けないわけがなかった。アリシアと片扉ずつ押し開けるとそこには、なんだこれ? おっきな赤いクリスタルが浮かんでいた。どこかで似たもん見かけたが……あ、時の庭園だ。
「これはゆりかごの機関部、エンジンみたいなものかな……飛行能力自体はここに関係なさそうだけど、基本的な兵装はここから供給受けてるっぽいかなー」
「ここの機能停止にはこれを壊さないといけないと」
「うん、なんか元々あったっぽい防衛システムは落ちてるし砲撃魔法とか使えばいけるかな? ツヴァイいける?」
「も、申し訳ないのです……ここのAMFが強くて上手く魔力結合が出来ないです」
リインの肩に座ったリインはそう言う……えっ? アリシアと顔を合わせて首をかしげる。
「AMF、効いてたのか?」
「ま、まさか私たちがミソッカス過ぎて気づけなかったとでもいうの……!? そんなはずは――あっ、飛べない」
「あっ、ホントだ浮かぶことすらできねぇ!」
「私は、なんとなく、わかってた」
「チクショー!」
表情の変化は乏しいながらも少しドヤッとする準ミソッカス魔力のリインと、悔しがる見るも無惨な真のミソッカス二人。
「くそぅ、でもAMFか……ならリイン任せた」
「私たちが作ったそのボディの真骨頂を魅せるとき! はやてもきっと喜ぶよ!」
「よし、やる」
「お姉ちゃんがやる気満々に!? あ、お二人が作ったボディというなら、私もマイスターはやてとお二人が作ったのでもしや秘められた力が……!?」
「ない」
「ないのですか……」
ショボーンとするツヴァイだけど、ツヴァイは魔法重視だからね。まさに力の1号、技の2号だから。
そしてクリスタルの前に立つリイン。精神統一のためか息を浅くし目を閉じる。そして始まる連撃、散弾のように浴びせられる拳と蹴りの嵐。あ、肩からツヴァイ降ろしてないから落ちそうになってる。
「こういうところで活躍できたら、なのはやフェイトみたいに主人公っぽくてカッコいいんだけどねぇ」
「たしかになー、死んで生き返るとか主人公なれそうな設定なのにな……いやでも、俺たちが主人公とか似合わないし」
「だね! あ、でも私を生き返らせるときはカッコいいとこ見せてたって聞いたよ?」
「あのときは一生分頑張った……てか誰にだ」
「それにしてもリインかなり叩いてるけど中々割れないね、さすが聖王のゆりかご」
なんか露骨に話逸らされたけど掘り下げることでもないので気にしない。それに確かに凄く硬いようだ、罅も入ってな――お? リインが構えた。
「リイン選手、脇をしめシャープな構えになりました!」
「弓のように体を引き絞りぃぃぃぃ! 右足で地を蹴る!」
「回転を加えた身体から最強の拳が打ち込まれたぁぁぁぁあああ!? ホントに砕けた!?」
リインフォース・アインスの本気の一撃はクリスタルに罅を入れ、それは瞬く間に波状に広がる。そして軋むような音がピタリと止み――轟音。砕けたクリスタルは地へと落ち、ゆりかご全体へ衝撃が伝わった。
魔法技術の発達した世界で何故物理的に殴って物を壊してるのか甚だしく不思議だ。
「しかしあれだな、今の衝撃って昇ってたエレベーターが止まったときのガクンッ! って感じだったな」
「あちゃー、飛行機能も兼ねてたみたいだね……上昇は止まってないけど大分システムも落ちたみたい」
「まぁ、落ちないならセーフセーフ」
「ふぅ……頑張った」
「リイン、拳怪我してない?」
「大丈夫、無傷」
「……明らかに設計の耐久値を上回ってる件について」
「り、リインも成長してるんだよ」
そういうことにしておこう、なんか触れるべきでない気がする。
さてさて、もう大方めぼしいところは回ったようなのでスカさんのところへ向かうことへする。適当にアトラクションの感想でも伝えればいいでしょ、たぶん。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
魔法といえばだいたいどうとでもなる。
陸部隊の皆は今日も元気です、質量兵器ではないのです、ベルカのアームドデバイス風のナニかです。
二月に投稿できないとはなんだったのか、活動報告で嘘つきまくりな作者です、すまない。