俺の身体はもうボロボロだった。幾度とも繰り返される爆発に巻き込まれ、その度に吹き飛ばされた。
それは何故か? 理由は簡単、答えは明白である。
「魔法のプログラムを弄って何度も暴発させたのね」
「イグザクトリー、回復魔法を弄って身体が発光したときは死ぬかと思った。爆発しなくてよかった」
「バカじゃないの? ……ハァ、今あなたに死なれると困るのだから無茶は控えてもらえないかしら」
そう言いつつも回復魔法をかけてくれるプレシア。ええ、あまりにも爆発音が絶えないから様子を見に来てくれた。今は室内に戻っている。
仕方ないんだって、半端に弄れそうなプログラムなもんだから出来心と好奇心と今度こそ成功するって根拠のない自信が湧くんだもの。
「沸いてるのは貴方の頭じゃないかしら」
「いやいや、これでも一個成功したんだから誉めて欲しい」
「へぇ、何かしら?」
「回復魔法で全身が発光します、これで暗闇のなかでも困りません」
「暗闇で的になりたいのかしら?」
上手く調節したらうすらぼんやり姿を浮かばしてホラーチックにも出来るんだけど。ほら、魔法の色が水色だし丁度いい。
「どうでもいいわよ。それでまともにプログラム通りに覚えた魔法はないの?」
「フォトンバレットとヒール、あとラ、ラウン……防壁を。因みに防壁も弄ると爆発しました」
「バリアバースト……の劣化版ね、正しく出来たら自分じゃなくて相手にダメージが入るわ」
ほう、今回は全部自分が吹き飛んだからな。きりもみ回転して飛んだときは死ぬかと思った。
さて、そんなことは一旦横に纏めて置いておこう。
現在どんな原理かは知らないけど空中に映像が浮かんでいる。映っているのはフェイトとアルフ、海上で竜巻らしきもの相手に奮闘している。
「何あれ」
「海のなかにジュエルシードがあると判断したフェイトが海に魔力を叩き込んで無理矢理発動させたのよ。それで位置を特定した今封印しようとしてるのだけど……あの子かなり無茶をしてるわ」
「うーん、見るからに劣勢。ここに前の管理職だっけ? あれが来たら超ピンチ」
それを聞いたプレシアは舌打ちをする。
「管理局……! 間違いなく気づいてるはずなのにフェイトが力尽きるまで傍観してから捕獲するつもりね……ナナシ下がりなさい。管理局の船の位置は特定してる、跳躍魔法を叩き込むわ」
「フェイトさんや、あんたの母親がなんかヤバそう。俺は止めるべきなのか……あ、砲撃少女」
エグそうな魔法を使おうとするプレシアを止めるか悩んでいると画面に砲撃少女が現れた。うーん、何やら協力的な感じである。
取り敢えず俺はこのうちに話を逸らそう。
「そういやフェイトやあの砲撃っ子の格好はなんなの?」
「バリアジャケットね、一言で言えば最低限の防具。デザインは自分で決めたきゃ決めれるものよ。あと特にフェイトのものはスピードに重きを置いてるから装甲が薄いのだけれど……母としては布地の少なさに一抹の不安を感じるわ」
「全部が終わったら一緒にデザインし直そう……」
「ええ……」
なんか際どいし、あのまま更にスピード求めて布地面積減らしたり成長したらただの悩殺ファッションになりそうだ。スピードのために防御以外にも大切ななにかを捨ててしまいそうである。
「それで現状はどうするの?」
「……ジュエルシードを押さえ込むと同時に転送魔法を使ってフェイトを逃がすわ」
「了解、俺なんかすることある?」
「邪魔しないでくれればいいわ、ミソッカス魔力」
…………部屋の隅に移動し三角座りで画面を眺めておく。
ピンクと金色の魔法が入り乱れ竜巻が収まっていくが、砲撃少女じゃなくて何だっけ。名前は、えーとなのはか。なのはがジュエルシードを半分こに分けてる。
そしてフェイトがジュエルシードをデバイスに収納すると同時、クロノ登場。
「管理局の少年が来たよー」
「チッ、こういうときだけ早いわね――転送!」
画面に映るフェイトの身体が輝き、転送が始まる。クロノとなのはが慌てて止めようとするが既に時遅し。
フェイトはこちらへ転送された……フェイトは。
「母さん、ありがとう」
「ええ、あなたが無事でよかったわ」
「プレシアさーん、アルフが残ってるんスけど」
そう画面にはアルフが残っており、慌てて自分で転送を開始した。それに続き管理局の隊員らしき人間が数人出てきて追走を始める。
「あ、アルフーー!?」
「やっちゃったわね、少々急ぎすぎたせいで転送からアルフを漏らしてしまったわ。まぁ、転送自体はアルフもできるし大丈夫でしょう」
愛犬使い魔の名前を叫ぶフェイトに、結構ドライなプレシア。俺にはどうしようもないので強く生きてくれアルフ……
▼▼▼▼
ジュエルシードをあのなのはって子に、不本意ながら協力を得て封印を完了した直後のことだ。執務官が出てきてヤバいと思った。フェイトもジュエルシードを三つも封印したあとで疲労の色が濃く見えているのだ、万全の状態でも勝ち目はないに等しいというのにこの状況は絶望的すぎる。
そう考えていたら、馴染みのある魔力反応が、プレシアの魔力反応があった。次元転送だ、逃亡の手助けにホッとしたのも束の間。
フェイトだけが転送された。
「ぷ、プレシアぁぁぁぁぁぁ!?」
あの親バカ、フェイトだけ転送したね!? いや、あたしのご主人様が無事ならそれはそれでいいんだけど、普通にあたしも転送しておくれよ!
「っと、そんなこと考えてる場合じゃないね……! 転送!」
「逃がすな、追え!」
転送に転送を繰り返し、管理局員たちを振り切る。けど振り切った頃には一晩たっていて体力の限界だった。
……そのまま、あたしは狼形態のまま気を失った。
目が覚めるとあたしは行き倒れの犬として保護されてた。いや、気を失ったところがどうやら民家の庭だったようだ……民家といっていいのかわからないくらいの豪邸だけど。保護してくれたらしい少女は優しい子だった、なので好意に甘え三日ほど休養し魔力を回復させてお暇しようとしてた。
のに、三日目にアイツが来た。高町なのはっていうジュエルシードを集めている子だ。
「あ、アルフさん!?」
ああ、クソ。また面倒なことになったねぇ……
▼▼▼▼
アルフが無事帰ってきた。ってこと自体はいいんだけど面倒な案件を引き連れてきた。
「なのはって子がフェイトと一騎討ちで戦ってお話ししたい……? 戦いたいの? 話したいの?」
「あー、それはフェイトが話しても意味がないこともあるって言っちゃったせいかもしれないねぇ……時間は明日の早朝だって」
「まぁ、何にせよどうする? ジュエルシードは既に必要数集まってるけど」
プレシアは目を瞑り考えている。何を考えることがあるのか、わざわざここでフェイトを戦わせに向かわせるメリットなんてないだろうに。
いや、無くは……ないか。ほんの小さな意味はある、小さいけど決して無意味ではないはずの意味が。
「フェイト」
「は、はい母さん」
「あなたはどう?」
「……えっと、その」
何というか嘘のつけない性格なんだろうなぁ。ここで詰まるってことはプレシアにとって意味のない、デメリットにもなるかもしれないことをしたいということ。つまり、なのはと一度正面から戦いたいのだろう。
母親であるプレシアも当然ながらそのことを察したのだろう。優しげに微笑みながらフェイトの頭を撫でる。
「ふふ、嘘がつけない子ね。いったい誰に似たのか……」
「間違いなくプレシアさんじゃあ、ねぇわな」
「フォトンバレット」
《Photon bullet》
「ブハッ!?」
茶々入れたら、フォトンバレットで返された……気を失ってないあたり威力は押さえてあるみたいだが、めっちゃ痛い! 娘との会話に邪魔が入ったからってもう少し穏便な手段はないんですかね!?
「戦いたいのね、あのなのはって子と」
「え、と……うん。あとナナシが……」
「いいわ、フェイト。やって来なさい、きっとあなたにとってどう転んでも悪い結果にはならないわ。母さんが保証する」
「――ッ! はい! ……あとナナ」
「けどごめんなさいフェイト。きっと管理局がその戦いを監視するはずよ……だから私たちはその間に、フェイトに注意が向いてる間にアリシアの蘇生を開始するわ……あなたを囮に使うような真似をしてごめんなさいね」
ぐぉぉぉ、胸のあたりがズキズキ痛む……! ま、まぁジュエルシードを使った蘇生を行えばここの位置は直ぐに特定されると言っていたから、少しでも時間稼ぎをするには管理局の目を他に向けておくというのは悪くないだろう。あ、なんか感覚なくなってきた。
「ううん、私こそ我が儘言ってごめんなさい……派手に戦って少しでも管理局の目をこっちに向けとけるようにするね!」
「ふふ、お願いね。ほら明日は朝早いからもう寝なさい」
「うん、おやすみなさい母さん」
「おやすみなさいフェイト」
フェイトとアルフが部屋から出ていった。最後はもう俺のこと気にするの諦めてたな。
「なぁ、プレシアさん」
「何かしら」
「フェイトになのはって子と戦わせようとした理由は時間稼ぎだけじゃないだろ? 時間稼ぎならここの防衛をフェイトに任せた方が稼げそうなもんだし」
「そうね」
「あの、なのはって子がフェイトの友達になってくれんじゃないかなーって思ってだろ?」
「そうよ、あの馬鹿正直で愚鈍なくらい真っ直ぐな子がフェイトを理解するためあそこまでしてくれている。フェイトの友達になってくれるなら悪くないわ」
貶してんだか誉めてるんだかわからない。親バカなことだけはわかるけど。
「さて、ナナシ。明日が本番よ」
「あいよ、四次元空間の特大のゲートを開けて指向性を持たせたジュエルシードの魔力をそこへ廃棄していくんだよな?」
「そうよ……ただぶっつけの本番、もしかしたらの事態が起こるかもしれない。理論的にはジュエルシードの魔力を発生の瞬間に指向性を持たせることは可能だとわかって、実際そうなるようにはした。けどもしも失敗したら……死ぬわよ?」
「問題ないよ、いや死ぬのには問題はあるけど飯と寝床の代金はこれくらいでしか払えんからね」
「……そう。ならとことん付き合ってもらうわよ」
「断ってもそうするつもりだったくせに何を」
「当たり前よ、愛娘のためなら私は何だってするわ」
さて、と。たぶん、うんにゃ明日が間違いなく正念場だ。何が出来るわけでもない、ただプレシアのたてた理論を信じて俺はゲートを開けておくだけだ。それでも、気持ちだけでも引き締めますか。
――きっとハッピーエンドはもうすぐだ。
ここまで読んでくださった方に感謝を。
主人公らしく既存の魔法の改造に成功。なんと回復魔法で身体が光ります、因みに回復効果は半減します。
最後のハッピーエンドに三食寝床付き生活ってルビふっても問題ないです。