・IFのため本編とは違う事が大小発生します。
・作者に恋愛経験はありません(苦笑)
今回はアリシアと速人です。
Side~アリシア=テスタロッサ
「むぅ…」
私は両手で頬杖をつき、モニターに表示させた表を眺めて唸っていた。
我ながら思うけど、これだけの数よくやったものだ。
けど成功しないと意味がないんだよなぁ…リライヴまで来たし、どうにか早い内に動かないと…
「どうしたの?」
「わわわっ!リ、リライヴ!?」
背後から声をかけられて思わず身体が跳ねる。
しまった…速人達はメンテナンス時位しか顔を出さないから油断してた。
私は表示中のモニターをリライヴから隠すように立ち上がる。
「…見た?」
「ううん。」
睨んで問い掛けたい所だけど、身長の関係で大抵見上げる形になる。
当然小柄なリライヴ相手でもそれは変わらず、ちっとも睨んでる感じにならない。
リライヴはそんな私に小さく首を横に振る。
良かった…見られてなくて。
安心して一息吐く。
「題名しか見てないよ。」
「って題名見たんじゃ駄目じゃない!!」
安心した矢先に告げられた事実に思わず叫ぶ。
モニターに表示されている表。
タイトルには『ハートキャッチ作戦集』と書かれていた。
うぅ…自分で書いておいて恥ずかしいタイトルだ。
何で見つかっちゃうかなぁ…
~風纏う英雄IF・小さな恋愛オペレーション~
リライヴに見つかったその表は、要するに速人を堕とそうとこなした作戦集だ。
「題名がまずかったんだ…表の名前に恥ずかしいものつけなきゃいいのに。」
「気分だよ。でも見つかった今となってはそれも同感。」
小さく息を吐いて微笑むリライヴを前に肩を落とす。
「どんな事したの?」
「聞くんだそれ…失敗した話だし良いけどね。」
失敗した手だから真似られて困るものでもないし、リライヴが真似するとも思えない。
ヒントの一つも回収できればいいかと思った私は、話してみる事にした。
『その1・デート作戦』
「初手から思い切るね。いや、普通なのかな?」
表の一番上に書かれているタイトルを見て首を傾げるリライヴ。
この時は子供っぽくなるのを避けるのに美術館とか映画とかを選んで思いっきり外したんだっけ。そもそも速人の趣味自体そんなに大人っぽい物でも無いし。
恭也さんの趣味が盆栽と釣りだから間逆なんだよね。
最も、自分の趣味と合わないからって退屈そうにしたりしない所は二人とも優しいと言うかいいと思う。こんな所で家族の似てる所とか違う所とか発見できたのは少し嬉しかったな…
「楽しげに思い出してる所を悪いんだけど、失敗集なんだよね?」
書かれている詳細を眺めてながらデートの時を思い返していた私は、リライヴの一言で物思いから戻ってくる。
「ぅ…しゅ、収穫はあったからいいの!」
「それで次に繋げたんだね?えーと…」
言葉に詰まりながらも反論した私の言葉を聞いたリライヴは、次の作戦に視線を移す。
『その2・プレゼント作戦』
「なるほど、趣味に合うプレゼントで気を引いてみようって事だね。」
「そうなんだよ。この時はちょっと頑張ったんだけど…」
思い出しつつ私は頭を抑える。
特撮番組をレヴィと揃って楽しそうに眺める速人を見て、デバイスやバリアジャケットの技術を使ってああいう変身ベルトをあげたら喜ぶかな…と思ったんだけど…
「作るのが大変だったの?」
「いや、最初あげた時はアッサリ出来た。」
「…それも凄いね。」
感心するリライヴだったけど、正直あまり喜べない。問題はその後だったから。
最初は戦闘に使うものでも無いから衣装とバイクの転送機能くらいしかつけなかったんだけど…
見せてすぐ、衣装について突っ込まれた後、多段変身は必須だとか武装変化がどうとか物凄く語られ、武装のチョイスについても事細かに話を聞かされ、話を聞いたレヴィにもせがまれ、おまけに速人のとは種類を変えるように言われ…
「もしかして…それ全部やったの?」
「ははは…まぁね。速人は無理しなくていいって言ってくれたけど、私なりに意地になってやってやるって…」
正直燃え尽きた。
唯一の救いは、二人ともメインとしてる武装でも無いのに何気にガジェットくらいなら倒せそうなくらい使いこんでくれたことだろう。
「この家、本当に皆してステータス高いなぁ…」
多分一番デタラメなリライヴが、呆れたように呟いた。
私も確かにいろんな意味でおかしい集まりだとは思うけど。
「で、終わってから気が付いたの。レヴィにまで送ってたら目的と全然違うただのプレゼントになっちゃうって…」
軽く放心したように呟いた私の肩に、リライヴはそっと手を置いた。
『その3・キスをねだる+色気を見せる(常用)』
「これはまた、直接的だね…」
「前回がまるで目的と違う方向になったから、方向性を修正しようと思って。」
恋人になるのが目的なのに前回のプレゼントはあまりにずれ過ぎた。
「この(常用)って?」
「日常的に常に心掛けて置くって事。ワザと過ぎず、でも機会があれば積極的に。」
「なるほどね。」
キスの方はデバイスのメンテナンスの後とか、ご褒美の感じとかでねだってみた。
で、色気の方は、向かい合った席でミニスカートで足を組み替えたり、速人の傍で胸元の緩い服でかがんでたり。
後は不快に感じない程度の甘い香りがする香水とかシャンプーを選んだりと言った感じだ。
「うーん…」
細かい話を聞いたリライヴがどこか困った様子で唸る。
いや…うん、見た目的に問題あるのは自分でも分かってるんだ。シュテル達よりはマシだけど、幼いって領域をギリギリ外れたか否かって位なんだから。
恐らくはそれを直接告げづらくて困ってるんだろうリライヴのコメントを待たずに、次に移す事にする。
『その4・お風呂場への突撃(失敗)』
「ちょっ…え!?」
「いや…言いたい事は分かるよ。でも前回足りなかった訳だし、一応水着では行ったからさ。…紐だけど。」
さすがにリライヴでも驚いたけど、それも分かる。私としても勇気要ったし。
「でも失敗って明確に書いてあるけど…」
「うん。入った瞬間私の視界で水が盛大に撥ねて、次の瞬間にはいなかったの。神速使ったんじゃないかな。」
「そこまでするのか速人!?」
作戦自体をまともに試す事すら出来なかったので失敗と言う扱いで記録しておいた訳だ。
『その』
「待って!待とう!もういいから!表の題名なんかより余程こっちの方が問題でしょ!?」
半ば自棄になりつつ次に移そうとした所で、慌てたリライヴに止められる。
そう言えばリライヴってこういう話苦手だったっけ。衣装もそれでミニスカート避けてって言ってたし。
「随分過敏に反応するけど、大人なら割と一般的な話題の一つだよ?」
「一般的にお風呂に飛び込む女性なんて見たく無いから!!」
「そうじゃなくて夜の話。」
少し慌て気味のリライヴだったけど、私の方が普通に話しているからか言葉に詰まる。
「まぁ…私はその一般的な話に混ざれる状況ですら無いんだけどね。」
リライヴが言葉に詰まって降りた沈黙に、私は自嘲気味にそんな事を呟いた。
「普通に告白とかはしてないの?」
呟きに対して返ってきたのは、真っ当な…綺麗な台詞だった。
恋愛を生存競争扱いしてるような人にしてみたら鼻で笑うような…
同時に、速人が好きそうなやり方。
でも…
「…言わないでよ。あれだけやって気も引けないんだから結果位分かるでしょ?」
どう見たって大人には程遠い体型の私。それに、これだけ頑張ってもいい反応しなかったんだ、今更告白なんてしたって結果は目に見えてる。
残酷な綺麗さだ、頑張って玉砕して来いって言うの?
「アリシア、何が不安なの?」
「何がって…」
さっぱりとした様子で告げるリライヴに、さすがに苛立ってくる。
他人事だと思って…っ!
「失敗するのが怖いって言うのは分かるよ。でも、これだけやってて告白だけはする勇気が出ない理由が分からなくて。」
「それは…」
つくづく痛い指摘。
答えにつまったものの、ここまで話しておいてこれだけ流すのも妙な話だ。
「誘いだったら失敗しても流されるだけだけど、ちゃんと告白したらちゃんと返事されるから。そしたら…」
『その後』を考えて身震いする。
単なる結婚相手探しならさっさと他に狙いをつけるんだろうけど、それ以前に私はこの『家族』と離れるつもりが無い。
血縁とかじゃないから、『~ファミリー』(こう言うと地球の危ない組みたい)のような家族。でも大事な場所なんだ。
ちゃんと告白を断った速人がいるこの場所で…速人の為のデバイスマスターとして居続けるのか、それとも普通に外で働くのか。そんな二択、嫌過ぎる。
簡単に理由を聞いたリライヴは、少し考える様な仕草を見せ…
「OK貰うまで何回も告白すれば?」
なんともぶっ飛んだ答えを返してくれた。
「そんな滅茶苦茶な」
「確かに滅茶苦茶だけど、さっき見せてもらった表の内容よりはマシだと思う。」
「うぐ…」
バッサリ切られて言い返すことも出来ない。言葉に詰まる私を前に、リライヴは続ける。
「迷惑とか気にするなら、そもそも速人好みの方法じゃないあの絡め手を続けるのもおかしいし。」
「それは…そうだけど…」
「どうするか決めるのはアリシアだけど、私は正攻法で行ったほうがいいと思うよ。」
言い返すことも出来ない私を前に、言いたい事を言い切ったらしいリライヴはそこで言葉を止める。
そんなリライヴ相手に、少し気になる事があった。
「何で…アドバイスみたいな真似するの?」
リライヴは優しい。
犯罪者の時のニュース段階ですら悪い人かどうか疑問に思う位だったし、一緒に暮らすようになってからはもっとそれを知っている。
ただ、一緒に暮らしてよく知ってるからこそ今回のアドバイスに疑問を抱く。
「んー…たまたまとは言ってもあんな表見ちゃったからね。」
「だって…リライヴも速人の事…」
物凄い無茶の果ての救出劇。しかも、その後も一緒に暮らす事を速人の誘いで受け入れたんだ。
好き…かはともかく、少なくとも特別ではある筈だ。
「そうだね、気に入ってるよ。」
「だったら」
「騙して出し抜く方が普通なのかな?」
小さく微笑んだまま告げるリライヴ。彼女に限ってはその一言で納得できてしまった。
それで不利になったり不都合があった所で、彼女がそんな真似をする訳が無い。
「…わかった、やってみる。」
「頑張って。」
笑顔で背中を押してくれたリライヴを見ながら、私は小さく息を吐いた。
…損な役回りばっかりする娘だな、リライヴ。
決めた以上躊躇う理由もなく、速人の姿を探す。
居間まで来た所で、速人の声が聞こえて来た。
「アリシアが付き合いって…ありえないっつの。どう見たって子供だぞ?」
「っ…ぁ…」
覚悟を決めてきたはいいけど、聞こえて来た内容が胸に刺さる。
「あ、アリシア!」
一緒に探してくれていたリライヴの声を無視して、私は部屋に向かって駆け出した。
部屋に入るとベッドに座り、自分の胸に手を当てる。
やっぱりこんな身体で告白なんて出来る筈無い。
ポッドで長い間眠っていた結果、幼児体型になってしまった自分の身体を眺めながらフェイトや母さんのモデル並のスタイルを思い出して、涙が滲む目元を袖で覆い隠した。
SIDE OUT
「速人!」
「え?リライヴ。どうしてそんな怖い顔…っ!?」
『ちょ、ちょっとリライヴちゃん!?』
通信でなのはと会話している真っ最中に、唐突に現れたリライヴが俺の胸倉を掴み上げる。
「お、おい…軽く首絞まって」
「うるさい!断るにしたって体型基準ってあんまりだよ!どういうつもり!?」
「ちょ…公務員と通信繋がってるのにこれは…」
家庭内とは言え微妙にまずい事している気がしなくも無い光景を眺めているなのはの反応がまずいんじゃないかとモニターに視線を移すと…
なのはは、冷めた視線を『俺に』向けていた。
『お兄ちゃん、今度は何したの?』
「ってお前も敵か!?」
首絞められてるのに俺が何かしたって言う発想が先に来る辺り、一体俺の扱いってどうなってるんだろうかと一度本気で問い正したくなった。
俺、そこまで普段から悪い事してないと思うんだけどなぁ…
世間話から、なのは達も歳の関係で酒の席にも誘われかねないが、職が職だけに色々難しいと言う話になり、外と一番繋がりが多いアリシアとかはどうなのかと聞かれ…
『アリシアが付き合いって…ありえないっつの。どう見たって子供だぞ?』
と返した訳だが、どうやらそれが問題だったらしい。
「何て間が悪い…」
こっちの状況を説明すると、物凄く苦い表情で額を抑えるリライヴ。
そう言えば、さっき聞こえた足音はアリシアのだったな。
どうやら余計な勘違いをさせたらしい、早めに訂正しよう。
「なのは悪い、ちょっとアリシアの所へ行くから。」
『気にしないで。誤解は早めに解いたほうがいいし。』
通信を終わらせ、アリシアの部屋に向かおうとした所でリライヴから制止される。
「どうするつもり?」
「どうするって…誤解を解くに決まってるだろ。」
家の中で走り去る位には傷ついたはずのアリシアを放置しておけとでも言わんばかりのリライヴ。
当然リライヴがそんな事を言うはずも無いが、意味合い的にはそうなる。
「…じゃあ、何でアリシアが逃げたかちゃんと分かってるの?」
「そりゃ体型馬鹿にされたと思ったからだろ。」
さっき聞いたばかりだ。
何で聞くかも分からないとばかりに即答した俺に、リライヴは溜息を吐いた。
「…アリシアは速人に好かれて無いって思って悩んでたんだよ、体型のコンプレックスのせいでね。誤解を解くのはいいけど、わざわざ誤解だと言うなら…アリシアの事好きなの?」
睨み気味に見据えられて俺は言葉に詰まる。
好き。
さすがに俺も、この空気でその意味を『ライク』と取ってすっとぼける程馬鹿じゃない。
さっきの話が誤解だって弁解した挙句、やっぱり別に好きじゃないなんて話になれば傷口を更に抉った挙句塩を塗るような真似になってしまう。
リライヴはそれを心配して止めたんだろう。
「長い事わざと触れなかった話だからな、いい加減ちゃんと話す事にするさ。」
「あ…」
暫くの硬直の後、軽く息を吐いて俺なりに答えを返すと、リライヴは目を伏せる。
そんなリライヴの脇を通り過ぎ、アリシアの部屋へ向かう。
「その…二人の話なのに、余計な事し過ぎたかな…」
「家族の話に家族が関わって余計も何も無いさ、心配してくれてありがとな。」
背後から聞こえてきた、申し訳なさそうなリライヴの声に、俺は振り返って笑顔でそう返した。
実際、リライヴが首突っ込まなきゃアリシアも特にやる事変えなかっただろうし、俺は間違いなく今まで通り流してた。
それに、上手くいく保障がなきゃ関わらないなんておっかなびっくりでいられるよりは余程いい。
さてと…行くか。
Side~アリシア=テスタロッサ
「アリシア、入れてもらっていいか?」
ノックと共に速人の声が聞こえたけど、私は答える気になれなかった。
細かく聞いて無いからもしかしたらただの勘違いかもしれないけれど、だからって安心できる気がしない。
どの道、今の今まで誘いに乗ってくれた事なかったんだから…
「っ…」
落ち込んでしまった私は、頭を横に振る。こんな気分のまま速人と顔を会わせたくないから。
暫く何も言わなきゃそれほど騒がないだろうと思った私は、黙っていた。
少しして、ノックの音が消え…
「アリシア、入るぞ。」
「え?」
扉越しに速人が告げた言葉に首を傾げる。
入るぞって…鍵掛けてあ
キィン…と、甲高い金属音がしたかと思うと、扉が開かれた。
…扉の鍵だけをアッサリ切断したみたいだ。相変わらず色々と出鱈目すぎる。
「お邪魔しまーす。」
「か…鍵かけてたのに何事もなかったように入ってこないでよ!」
「やる事があるからな。」
何事もなかったかのように入ってくる速人にさすがに抗議するけど、何の意味もなかった。
ここまでするなんて、私が何で部屋に戻ったかまで知ってないと…誰かに聞いてないとありえない。
「リライヴの馬鹿…」
「そう言うなって、お前の心配して忠告してくれたんだ。多分聞かないとろくに知らないまま酷い事してたと思う。」
苦笑いでリライヴのフォローをする速人。
…私だって分かってる。
悪気があるならみすみす速人が私の所へ来るような話なんてする訳が無い。
「アリシア、『俺のためのデバイスマスターになる』って言ってついて来てくれたよな。」
「え、うん。」
今更当初の話を振り返る速人に、嫌な予想を抱く。
このまま別れでも告げられるんじゃないかと…
いきなりでそんな事ありえないと普通に思考すれば思えることでも、不安が不安を呼ぶせいで、意味深な話の切り出し方に耐えられなくなってくる。
「俺色恋沙汰全然わかんないし、正直生活的には負担でしかない俺達の所にいつまでもいてくれるはずが無いって思ってたから、ずっと流してたんだけどさ。俺…」
「止めて!」
耐え切れなかった私は、思わず叫んで耳を塞いで目を閉じた。
耳を塞ぎたくなる言葉を聞いて立ち上がったフェイトや、たった一人で戦ってきたリライヴみたいな強さなんてないから。
でも、手で耳を塞いだくらいで声を全て防げるはずもなくて…
「アリシアがいてくれてよかった。だからこれからもずっと一緒にいてくれないか?」
抱きしめられながら耳元で聞こえた言葉に、身体の力が抜けた。
安心できる内容に腕の力を抜いて、言葉を搾り出す。
「え…と…今まで通りって事…だよね?」
不安が不安を呼んでとてもネガティブになってしまっていた私は、それだけでも安心してしまう。
「そう…なのかな。俺はそれ以上『でも』いいけど、そんな程度じゃ嫌だろ?」
「あ…」
返ってきたのは、考えていたよりもずっといい返事だった。
恋とかがよく分からないって言う速人の返答としては、きっと最上級の答え。
それでも速人は足りないと言う。普通はきっと、妥協混じりなんて嫌だから。
だけど私は…
「私は…それでもいい。」
「アリシア…」
「だって知ってたもん。速人が子供っぽくて、恋とかそういうの考えて無いって事は。だから、誘惑して成り行きでもいいからくっつこうって色々やってたんだもん。だから…」
私は速人に抱きしめられたまま、涙を流しながら告げる。
これは…嬉し涙。
だって、ずっと相手にもされて無いって…こんなんじゃ駄目だって思ってたから…
ゼロだった距離を少し離して、顔を見合わせる。
「速人…キス…して。」
「ああ…全部…貰うな。」
「うん…っ!」
互いに見合わせた顔がゆっくりと近づいて…
唇が重なった。
「……で、そのまま扉の壊れた部屋でイチャついてた…と。」
「「あ、あはははは…」」
冷めた視線で見下ろすリライヴを前に、私は速人と一緒に自分の部屋の床で正座していた。
閉まらずグラグラ動いている扉を見かけたリライヴが、異変を感じて様子を覗いた所で丁度キスの真っ最中だった為慌てて止められたんだ。
扉の鍵叩き切られてるのすっかり忘れてた。
鍵をかけた状態で切られているので、当然普通に扉を閉める事すら出来ない。
同じく正座してる速人の様子を見る限り、速人も忘れてたんだろう。
止めてくれてよかった、キスまでで済んでて本当によかった。
家には雫ちゃんだってレヴィだっているんだ、閉まってない扉じゃ音も漏れるし、本当に危なかった…
「上手くいったのはいいけど、さすがに場所位考えなよ…」
「悪い。」
「ごめん…」
速人と揃って素直に謝ったけど、正直頬の緩みが抑えきれなかった。
だって…ようやくだったから。
正座させられているにも拘らず、速人と顔を見合わせて笑う。
そんな私達の様子を見て、リライヴが肩を竦めたその時…
忍さんがひょっこりと部屋に顔を出した。
「何だったらホテルの券あげよっか?折角の記念だし。」
「し、忍さん!?いつから聞いてたんですか!?」
「是非下さい!」
「すぐそれなのかアリシア!反省してるの!?」
「そうだぞアリシア。俺だってホテルに泊まる位の金はちゃんと」
「そういう問題じゃなーいっ!!」
一気に騒がしくなる部屋の中。
並んで正座をしたままで、速人がそっと私の手を握る。
今までなら絶対にしてくれなかったような事、そんな些細な変化も嬉しくて、私は頬が緩むのを止められなかった。
SIDE OUT
シリーズの続きはありますが、これで『風纏う英雄』は終了となります。
…IFのあとがきで締めるのもどうかとも思いますが(汗)とりあえず全体のあとがきは別にあるのでこの場で。
ここまでお付き合いいただいてありがとうございました。