私、雪ノ下陽乃は彼に期待する。


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11巻の陽乃のコメントより。



こんな背景がありそうだと思い書かせていただきました。


やはり彼でも役者不足である。

地元の国立大学に進学して二度目の春を迎えて、二ヶ月が経とうとしていた時のこと。

私の妹の雪乃ちゃんが同い年くらいの男の子を連れて買い物をしていた。

雪乃ちゃんがただの男の子なんか相手にしないことなんて分かりきったことなので、少しばかり相手の男の子が気になり、私は声をかけてみることにした。

雪乃ちゃんと一緒に居た男の子の名前は、比企谷八幡という珍しい名前だったので、直ぐに覚えられた。第一印象は、何と言っても、目付きが変わっている、ということ。

言葉にして表すなら、まさに雪乃ちゃんが言った通り、「目が腐っている」だ。

顔立ちは決して悪くない。むしろ良い方だと言えるだろう。しかしその顔立ちを台無しにしてしまうほどに、目が腐っているのだ。

そんな比企谷くんに、私がいつもの通りに自己紹介をすると、なんと比企谷くんは私の「仮面」を見破ってきたのだ。

年下の、それも初めて私に会ったというのに「仮面」を見破ってくるとは何ともおもしろい子だ。

彼曰く、

『今まで散々裏切られてきたんで、勘違いしないために人間観察して来た結果、欺瞞が見分けられるようになっただけですよ』

との事だ。

まさか、外見だけでなく内面まで腐っているとはね。

 

その日、私、雪ノ下陽乃は比企谷八幡という人間に興味を持ったのだった。

 

 

大学も夏休みに入り、暇を持て余していた所に、高校時代の「恩師」である静ちゃんに、

『千葉村で小学生のキャンプがあるのだが、ボランティアとして参加してみないか?もちろん、お前の妹の居る奉仕部も参加するぞ』

というお誘いがあったので、私は迷うことなく参加する事にした。

キャンプ当日、静ちゃんが運転する車に乗り、集合場所へと向かうとボランティアに参加する奉仕部の面子と隼人たちのグループが集まっていた。

私は車から降りて隼人たちに挨拶をし、二、三言隼人たちと話をしてから奉仕部の方へと挨拶をすると比企谷くんは驚いたような顔をしていた。

『ひゃっはろー比企谷くん。まさか私が来てるなんて思わなかったでしょ?』

『おはようございます。雪ノ下さんってリア充オーラ凄いんで暇そうには見えないんですが、もしかしてぼっちだったんですか?』

『雪ノ下さんじゃなくて陽乃って呼んでよ比企谷くん。私は私が面白そうと思った所へ行くの。今回もそうだよ。それに私は友達、いっぱいいるよ?』

『それはお断りします。雪ノ下さんが言う友達は都合のいい友達の間違いじゃないんですかね…』

『あはは!やっぱり面白いことを言うねぇ比企谷くんは。私の友達は色々な友達だよ!…詳しく聞きたいかな?』

『それは遠慮させていただきます。ぼっちにはそんな現実耐えられませんので』

なんて感じで比企谷くんや雪乃ちゃん達と話しをした後、私たちは千葉村へと向けて出発をした。

 

千葉村に到着し、小学生達との対面も終えて、レクリエーションの時間になった。

私たちボランティアスタッフは、小学生のサポートとしてレクリエーションに着いて行くことになっている。

小学生は何人かのグループに分かれて探索する事になっていて、それぞれ仲の良い子同士で組み、和気藹々としながら探索を続けている。

だが、そんなグループの中にも、一際周りと違っているグループがあった。

四人組の女の子のグループだ。そのグループではカメラを持った女の子一人だけが仲間外れにされ、グループの女の子たちから少し離れて歩いていた。

その子以外の3人は時折その子を見て何か話したと思えば小さく笑ってバカにしている。

一人を除け者にする事でそのグループを成り立たせているのだろう。

……全く、なんて馬鹿馬鹿しい事だろう。

私ならそんな事をされた日には、二度とこんな事が出来ないくらいの仕返しと相手の尊厳を奪う所だけど、そもそも私は、そんな事になる前に私が上の立場の人間である、という事をじっくりと「教えて」あげたからそんな事は起きなかったのだけれどね。

それでも一人ぐらい反抗してきてくれたらとっても面白かったのにね~、残念。

ちょっと話しがそれちゃったけど、こういうのは大半がリーダーとなる子がなんとなーくムカつく子とかを選んで、その子が仲間外れにされちゃうんだよね。

それで何ヶ月かしたら違う子に変わって、って感じで続いてくのよね。

ほんと下らない。一人でグループのコントロールも出来ないのにリーダーやってるんじゃダメダメだね。

そんな子は近いうちに下克上されちゃうぞ♪お姉さん心配!

…と、心の片隅にも思ってない事を心の中で吐き捨てながら観察していると、隼人たちのグループが動いた。

どうやら仲間外れの子をグループに戻そうとしているらしい。

だが隼人の呼び掛けも隼人たちが居なくなったらまた仲間外れになってしまう。

結局その女の子は仲間外れのままレクリエーションを終えた。

 

夕食作りも終わり、肝試しの時間となった。

夕食作りの時に比企谷くんはあの女の子に何やら話していたようだけど、肝試しでも何かをするつもりらしい。

…お手並み拝見!って感じだね、比企谷くん。

比企谷くんは隼人たちと何らかの打ち合わせをしている。

比企谷くんの話を聞いている隼人は苦虫を噛んだような顔をしている。

比企谷くんの話が終わり、渋々といった感じで了承した隼人に、比企谷くんは

『それじゃあ準備して待っててくれ』

と言い残して何処かへと行った。

 

結果として言おう。比企谷くんの出した案は私の予想よりも遥かに斜め下だった。

グループの修復ではなく崩壊。拗れた関係を真っ新にするというものだった。

波風を立てないようにしたがる隼人が苦い顔をした事から、一般的に考えれば褒められた方法では無いとは予想していたけどここまでとは。

ただ、予想外だった事はあの女の子が果敢にも隼人たちに立ち向かったことである。

一回崩壊された関係を無理矢理繋ぎ止めたのだ。

それは、比企谷くんが大嫌いな「欺瞞」の関係だ。

見て見ぬ振りをし、お互いが気にしてない素振りを強制される。

関係を繋ぎ止めたとはいえあのグループは近々自然と消滅することだろう。

まぁ、私には知ったことでは無いけど。

比企谷くんは私の予想以上に面白いことをしてくれた。

この場の誰もが褒めなくとも私は絶賛しよう。

これからも比企谷くんが私の期待に応えてくれる様に!ってね。

 

その日、私、雪ノ下陽乃の比企谷八幡への興味は期待へと変わった。

 

 

短い冬休みが終わり、一ヶ月と少しが経った頃、早くも大学二年目の終わりが近づいて来た。

 

去年は比企谷くんのお陰で本当に楽しかった。

文化祭での暗躍、修学旅行での道化と愉快で人伝いに聞いただけだが、とても興味をそそられる話だった。

しかし修学旅行以降の比企谷くんはどうだろう。

見ていてつまらない。

まるで「普通の」人が目指すような解消をするのだから。

もちろん、以前と変わらず、一般的には褒められない方法ではあるもののプラスの方向へと解消するのだ。

しかも雪乃ちゃんとガハマちゃんに向かって比企谷くんの本音を、本当の気持ちを吐露したそうじゃないか。

だからお姉さんつい比企谷くんに

『本物なんて、本当にあるのかな?』

なんて意地悪な質問しちゃったじゃない。

ねぇ、比企谷くん?

君はいつから悲劇の主人公から喜劇の主人公になったの?いつからマイナスからプラスになったの?いつからそんなに私を退屈させるようになったの?

今のあなたはただの退屈な高校生と同じだよ。酷くつまらないし、なんの価値もない有象無象と同じ。

あなたの忌み嫌う「欺瞞」となんら変わりのない。

でも最後に一回だけチャンスを与えてあげる。

いつもなら何もしてあげないけど、比企谷八幡が私を一年間期待させてくれたお礼と感謝にね。

 

期待してるよ、比企谷くん。

 

 その日、私、雪ノ下陽乃は―――



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