※pixivからの転載です。タイトルは変わってますけど。
第四真祖。伝承でのみその存在を語られてきた、四人目の真祖。これは、その力を受け継いだ少年の、未来の一つの形、なのかもしれない。

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Is This My Blood of Destiny?

香ばしい匂いを鼻腔が感じ取り、ゆっくりと目が覚めた。

「朝.......か.......」

上半身を起こし、ポキポキと首を鳴らして脳の覚醒を促す。

「あー........」

まだ僅かにぼやける思考の中で、ここが自分の部屋で無い事に気付いた。

ホテルの一室ほどの大きさの部屋。

殺風景で、あるのはベッドとソファー、そして大きな窓のみ。

そしてやけにベッドが大きい。

そう、サイズで言えばダブル。

「.......あ........?」

明らかに変だ。

絃神島にある古城の自宅はマンションの一室だった筈なのに。

疑問を払拭すべく、布団を取り払って立ち上がる。

「寒っ.....!?」

そして、かなり寒い事に気付いた。

と言うか、自分が何も身に付けていない事に気付いた。

「おいおい.......俺はいつから露出に目覚めたんだ?」

疑問に思いつつも、投げ出してあった服を着る。

いつもの制服に、パーカー。

いつも通りの格好だ。

「........ってか、ここはどこだよ」

着替えを済ませてから、改めて思った。

此処は、何処だ?

「つーか何でこんな寒ぃんだよ」

日光が入ってこない所為だろうか?

自分自身日光は苦手だが、寒いのも苦手だ。

「カーテン開ければ、少しは違うか?」

閉め切られたカーテンに歩み寄り、手を掛ける。

そのまま勢いよく、左右に開け放った。

弱めの光が、暁古城の顔を照らした。

「.......ああ.......そうだったな」

日光を浴びて完全に意識が覚醒するのと共に、欠落していた記憶が蘇る。

窓から見える景色は、まだ見慣れない物だった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

切っ掛けは、今でも良く覚えている。

彼には耐えられなかったのだ。

自分と一つしか違わない少女が、戦わなければいけない事が。

華奢な身体に、幾つもの悲劇を背負い込んで。

両親に捨てられた。

意思に関係無く、修行を強いられる。

正体さえ知れない男の元へ強制的に送られる。

それでも尚、彼女は笑っていた。

『監視役ですから』

そう言って、苦笑を漏らしつつ、いつも自分の無茶に付き合ってくれた。

そんな彼女が倒れていく姿を、見ている事しかできない事が。

敵は、ただの獣人だった。

“黒死皇派”の生き残りらしかったが、油断せず、確実に戦えば、二人が負ける要因は無かった。

ただ一つ、誤算があった。

“ナラクヴェーラ”が一機だけ、残っていた。

それに気付かず、二人は戦っていた。

古城が獣人を殴り飛ばし、雪菜が止めとばかりに“雪霞狼”を振るう。

その瞬間だった。

獣人が口元を歪め、懐からリモコンを取り出し、スイッチを押す。

そして紫の光が、雪菜の身体を貫いた。

ゆっくりと、彼女の身体が傾く。

血が、零れ落ちる。

その手が力を失い、退魔の槍が地面に刺さる。

黒髪の少女が、力無く倒れるーーーー。

『姫柊ぃぃいいぃいいいいぃいぃい!!!!!!!!』

気づけば、古城が叫んでいた。

その腕に雪菜を抱き、絶叫していた。

既に獣人も、ナラクヴェーラも原型を留めてはいない。

古城の怒りが、悲しみが、感情が爆発し、暴走した結果。

絃神島東部、アイランドイースは住民諸共、海の藻屑となり消え去った。

 

 

 

ーーー

 

 

 

見慣れない街並みを眺めながら、ぼそりと古城が呟く。

「十七万人、か」

それは古城の罪の数。

彼の眷獣によって奪われた、罪なき人々の命の数。

「........何やってんだか..........」

静かにカーテンを閉める。

あれからもう、一年が経とうとしていると言うのに、まだ自分は引き摺っている。

既に、普通の人間としての生活など、諦めた筈なのに。

「そうだ........俺は“焰光の夜伯”」

静かに右手を握り締める。

無意識に魔力が古城の体から漏れ出て、彼の瞳が赤く染まった。

「“十二体の眷獣を統べる吸血鬼の帝王”.........俺も大層なもんになったな」

この一年で古城に付けられた異名。

実際に使役できる眷獣は未だ六体だが、圧倒的な力を持つ“第四真祖”の眷獣の前では、その程度は些細な物だ。

「へっ........一年前までは想像も出来ねえ」

自嘲する様に古城は呟いた。

前までの彼は、例え吸血鬼になろうとも、普通の人間としての生活を望んでいた。

だが今は違う。

そんな事は赦されない。

多くの人間の命を奪った古城は、そんな自分自身を赦す事が出来ない。

「俺は弱い」

肉体的にでは無く、精神的に。

「どうしようも無く弱い」

十七万という数の命は、彼一人が負うには重過ぎた。

「だから俺は戦う」

誰も傷付けたく無い。

力を使いたく無い。

ならば、誰一人として自分に牙を向けない世界にすれば良い。

それが古城の答え。

歪んでいるのは分かっている。

その上で、古城は進んでいる。

世界の全てを敵にして、古城は戦っている。

「そうだろ.......姫柊」

背後の気配へ向けて、古城が小さく言った。

「........気付いていたんですね」

「俺が気付かない訳ないだろ?」

ドアの向こうから現れたのは、小柄な少女。

水色を基調としたセーラー服。

艶やかな黒髪を肩まで伸ばし、薄い琥珀色の瞳が古城の姿を写している。

「先輩、そんなに魔力を出していたら、見つかってしまいますよ」

「ああ.....悪い」

魔力の放出は無意識だったが、攻魔師に見つかれば面倒な事になる。

全身から放たれていた魔力を抑え付け、爆発的な放出を止める。

目には見えない波動が消え、古城の瞳も血の如き紅から元の色へ戻って行く。

「もう.......急に先輩の魔力が放たれたから、何かと思ったんですよ?」

「悪い悪い、ちょっと昔の事思い出してたんだ」

腰に手を当てて、頬を膨らませる雪菜に、古城は苦笑しつつ応えた。

それを聞いた雪菜は、首を傾げて、古城に尋ねた。

「昔......ですか?」

「一年前の事だよ。姫柊も憶えてるだろ」

出来るだけ、軽く言おうとした。

重苦しくならない様に、告げようとした。

だが、目を見開き、はっと俯く雪菜を見て、それは完全に失敗したと古城は思った。

「忘れられる訳、ありません。今こうしているのだって、あの時が始まりなんですから」

俯きながら、雪菜が紡いだ言葉に間違いは無い。

「あの時に、わたしが油断しなかったら、こうはなっていませんでした」

「姫柊.........でも........俺は、今のこの状況が嫌いじゃない」

「でも先輩は!先輩は.......こんな風になる事を望んでなかった.....」

小さな拳を握り締め、俯きながら必死に言葉を紡ぐ雪菜。

肩は僅かに震え、漏れそうになる嗚咽を抑えている様に見える。

「姫柊..........」

思わず古城が手を伸ばした。

その手が雪菜の肩に触れる、その瞬間。

ドオォン!!!!と轟音を響かせ、部屋の壁が吹き飛んだ。

「何だっ!?」

恐らくプラスチック爆弾の類い。

直径2メートル程の穴が壁に空いている。

その事を確認する暇も無く、立ち込める砂埃の向こうから銃弾が雨の様に飛来してきた。

「くそっ!!」

古城が悪態を吐きながら右手を翳す。

手の先から電気の膜が発生し、襲いくる弾丸の全てを弾き返した。

「姫柊!無事か!?」

右手はそのままに、隣の雪菜に声を掛ける。

「はい.......大丈夫です」

流石は剣巫と言った所か、雪菜は全くの無傷。

既に臨戦体制を整え、敵を見定める様に壁の向こうを睨んでいる。

それを確認し、一度安堵の息を吐いた古城も、まだ晴れない砂埃の奥へ視線を向けた。

「国安対魔科か.......?」

床に散らばる無数の弾丸に目をやる。

対魔族用の呪力弾。

恐らく初めから古城を狙って襲ってきたのだろう。

その弾は純銀製だ。

「気をつけて下さい。幾ら先輩が真祖とは言っても、純銀の弾は危険です」

「分かってる。当たらなければ良いんだろ?」

「本当に分かってます?」

分かってるよ、と古城が言おうとした瞬間に、弾丸の雨が降り注いだ。

「おっと、危ねえな!」

だがそれも、古城の魔力の壁によって弾かれた。

しかし、その銃弾の雨霰は止まらない。

野太い男性たちの怒号と重なり、思わず耳を抑えたくなる程の音量が、サラウンドで古城の耳を突く。

「うるせえな!オイ!」

思わず古城も怒鳴る。

が、放たれたのは、声だけでは無かった。

軽く古城が左腕を払うと同時に、舞い上がった砂埃と、飛来する無数の弾丸が全て床に叩き付けられる。

重力操作。

それは第四真祖、七番目の眷獣である“夜摩の黒剣”の能力。

「なにっ!?」

砂埃が晴れ、現れたのは、全身を覆う黒いパワードスーツを着用し、大型のアサルトライフルを装備した十人余りの(恐らく)男性。

突然起きた理解の出来ない現象に、疑問の声を上げる。

意識が逸れたのは、ほんの一瞬。

だが、その一瞬を雪菜は見逃さない。

電光石火の勢いで距離を詰め、先頭の一人の鳩尾へ掌を翳す。

「鳴電(なりいなずま)っ!」

ゴガァ!と凄まじい音が鳴り響いて、雪菜の手が翳された部分のパワードスーツが砕け散り、大柄の身体が吹き飛ばされた。

後ろにいた数人を巻き込み、壁に叩き付けられ、そのまま気を失った様に倒れ込む。

「ぱ、パワードスーツを破壊しただと!?」

「馬鹿な!有り得ん!」

仲間をやられた襲撃者たちも、雪菜の見せた戦闘力に対して悪態を漏らしながらも、接近した華奢な身体に銃口を向ける。

しかし、その引鉄が引かれる事は無い。

襲撃者たちの意識が雪菜に向かった瞬間、今度は古城が跳ぶ。

「姫柊に手ェ出そうとしてんじゃねえよ!!」

一瞬で襲撃者たちに肉薄し、拳を突き出す。

その拳は何かに当たる事は無い。

だが、突如発生した衝撃波が、残っていた襲撃者たち全てを弾き飛ばした。

古城が操る九番目の眷獣。

“双角の深緋”の能力は振動操作。

そんな事は露も知らずに、壁や床に強烈に叩き付けられ、全ての者が意識を手放した。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「片付いたか」

「はい。増援もいないようです」

ボロボロになった部屋で、古城の呟きに雪菜が頷いた。

「ったく。朝っぱらから襲ってきた上にわざわざ壁ぶっ飛ばしやがって」

倒れた者たちを横目に、面倒そうな表情で古城が着ているパーカーを払う。

「砂埃だらけですね.......」

雪菜も苦笑いを浮かべ、自分のセーラー服の見つめた。

「...........はぁ」

どちらからとも無く、溜息が零れた。

「ここも見つかった。仕方ねえし、逃げるぞ。姫柊」

「分かりました........あ」

神妙な面持ちで移動を始めようとした古城と雪菜。

しかし、何かを思い出した様な雪菜が洩らした呟きに、古城の足は止まった。

「.........姫柊?どうかしたか?」

「いえ.......先輩。ちょっと待ってて下さい」

「へ?」

古城が何かを言うよりも早く、雪菜はガタガタになったドアを開いて部屋から姿を消した。

向かった先は、恐らく台所。

首を傾げながらも、取り敢えずソファーに座って待とうとした古城。

戦闘の余波で引っくり返ったソファーを片手で持ち上げ、元通り置き直す。

砂埃を手で払い、腰を降ろした。

そのまま手持ち無沙汰に待つこと数分。

「先輩?」

今にも外れそうなドアを開いて、雪菜が顔を出した。

「姫柊。どうかしたのか?」

古城の問いに、雪菜は少し不安そうな面持ちで答えた。

「いえ........折角淹れたので、飲んで貰おうと思って」

「淹れた?」

何を、と聞く前に、古城の前にグラスが差し出された。

中身は、湯気を上げるコーヒー。

「ああ.......あの匂いはこれか」

起きた時に感じた芳ばしい香りは、このコーヒーが元だったらしい。

有難くグラスを受け取り、少し口に含む。

「ど、どうですか.......?」

不安げな表情で、雪菜が尋ねた。

ゴクリと、喉を鳴らしてコーヒーを飲み込む。

程良い苦味が、味蕾を通して古城に伝わった。

「......久し振りにうまいコーヒー飲んだ気がする」

思わず口角が上がるのが分かる。

「ほ、本当ですか?」

「ああ、本当だよ。サンキューな、姫柊」

嬉しそうな雪菜に微笑みかけ、残りを少し勿体無く思いながらも飲み干す。

「ごっそーさん」

「お粗末様です」

にこりと雪菜が笑い、釣られて古城も微笑む。

「んじゃ、行くか」

「はい、行きましょう」

歩き出した古城の手に握られた空のコーヒーグラスが、一瞬にして消えた。

それを気にした様子も無く、雪菜も古城に続いた。

古城が一歩足を踏み出す度に、邪魔な瓦礫は消えていく。

一歩、また一歩と古城と雪菜は進む。

足を止めたのは、廊下の突き当たり。

「階段降りるのだりぃし.........」

怠そうな顔をして、古城が壁に手を付く。

刹那、そこら一体の壁が、同様にして消え去り、強い風が古城と雪菜を晒した。

地上数十メートルの位置から、眼下に広がる風景を眺め、靡く髪を抑えて、雪菜は言う。

「これからどうします?」

僅かに悩む様子を見せてから、古城は答えた。

「.........俺に刃向かってくる奴をぶっ飛ばす。それだけだ」

曖昧な古城の答えに、思わず雪菜は溜息を洩らした。

「........なんだよ」

「いえ.......先輩らしいです」

雪菜から見れば、古城は何ら変わっていない。

一年前も、今も。

「行きましょう、先輩」

「.......おう」

あの日、この二人の運命は大きく狂った。

「しっかり掴まってろよ」

「先輩こそ、うっかり離したりしないで下さいよ?」

少女の命が果てる寸前に、少年はその命を救った。

自らの血を与える事でーーーー。

ドガァッ!と音を立てて、雪菜を抱きかかえた古城が広がる風景に向かって跳ぶ。

太陽の光を反射して、四つの紅い瞳が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、始めまして。音尾素と申します。
pixivでは、ネオスという名前で活動させて頂いています。
あちらからの転載のこの小説、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
pixivでは、一年以上前に投稿した小説ですが、個人的には結構気に入っています。
こう、ダークな雰囲気を感じて頂けたでしょうか?
まあ、僕にそこまでの技量はありませんけどね(笑)。
もしかしたら、この先こちらのサイトでも投稿する事があるかもしれません。
その時は、どうか暖かく身守って頂けると、とても有難いです。
では、またどこかでお会いしましょう。


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