その至高、正体不明【完結】   作:鵺崎ミル

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『番外』ぬえVSコキュートス後編

 極寒の世界となっている結界内。

 

 特等席が騒がしい一方で、ぬえはというと苦戦する一方だった。

 コキュートスの武器攻撃力は全守護者中最強であり、その一撃の重さはぬえの膂力であっても並のものではない。ただでさえ力で上回られているのに、攻撃の手数に至ってもぬえより上である。腕1本で振るわれる長物の武器が、両手で扱った動きと変わらない脅威の技巧。ぬえが放つ槍の軌道を、クセとして読み切り初動で潰していく恐るべき技量。このままでは、押し切られるのは自明の理だった。

 

「ドウサレマシタ、ヌエ様! 本気ヲ出サレテモヨロシイノデスヨ!!」

「舐めるなコキュートス、お前が本気を出す前に私が本気を出すとでも思ったか!」

 

 即死の一閃を受け流し、続く剛の二撃を大妖怪の力で強引に弾く。もはや鍔迫り合いは成立しない。そうなった時点で更に攻撃できるコキュートスが必ず勝つからだ。たとえ3つの武器を同時に受けきったとしても、コキュートスにはスパイク付の尻尾がある。これが振るわれ体勢を崩されたら一巻の終わり。

 

 コキュートスには強気で返しているが、ぬえとしても余裕はない。スペルカードは基本80レベル以下にしかまともに通用しない為、単独使用ではコキュートス相手には目くらましにしかならない。スキルに関しても、まだ仕込みの段階で、多用は避けたかった。使うスキルを決め、チャンスを窺う。

 

「一度距離ヲ取ラレルオツモリデスナ? サセマセヌ!!」

「!?」

「〈穿つ氷柱(ピアーシング・アイシクル)〉」

 

 ぬえの動きを読み切ったコキュートスが、唯一空いた手をぬえより後ろに向かって突き出した。巨大な鋭い氷柱が何十本と地面を突き破り生えてくる。リザードマンなどならば串刺しとなり、即死の一撃となっただろうが、ぬえには体力をわずかに削る程度にしかならない。それでも見た目が派手なほど、相手に一瞬の無駄を生みやすくなるのだ。コキュートスの狙い通り、氷柱は十分な牽制となって効果を発揮し、ぬえの動きに1手の無駄を生む。隙を突いたと確信したコキュートスが斬神刀皇を振るった直後。

 

「〈鵺の雷・レベルⅤ〉!!」

「グハァ!?」

 

 爆発的な閃光と光速の一撃がコキュートスを貫いた。一手の無駄と感じたのは、特殊技術(スキル)発動の前動作だと気づいた時には遅すぎた。コキュートスの腹部を貫通した雷の衝撃は全身に伝わり、スタンとなって彼の身体を完全に停止させる。

 

「……ッ!!」

 

 隙を作ったはずが、逆に最悪の結果となった事に歯噛みする。未だ腕にバチバチと火花を散らしているぬえが槍を地面に突き刺した。無手の瞬間にも、身体は一向に動かない。この手の耐性は完全に整えているはずなのに、それを上回るぬえの一撃にコキュートスの心は本日幾度目かの歓喜に包まれた。

 

「『禁忌剣・レヴァ』。いくぞコキュートス、炎熱耐性は十分か」

 

 ぬえは中空より抜いた真紅の剣を上段に構え、一切の躊躇なくコキュートスに振り下ろした。攻撃の瞬間に発生した真紅の光刃に彼の巨体が飲み込まれ、まき散らされた火球が凍り付いた湿地帯を次々と溶かし、炎上させる。続けてぬえの背後の氷柱にも横薙ぎに剣が振るわれ、戦場は一気に作り変えられることとなった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「〈鵺の雷・レベルⅤ〉。威力こそ低い方だが、発動までの速さや耐性無視のスタンと不可避の一撃が凶悪なぬえ様の特殊技術(スキル)だ」

「それより大炎上してるがコキュートス様は無事なのか兄弟」

「問題ないさ兄弟。コキュートス様の外骨格は見た目に反して炎耐性が非常に高い。最も、ぬえ様の槍で損傷が見られる以上完全無効には至ってないだろうがな」

 

 完全に解説役としての地位を獲得している八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)や、大口を開けたまま呆けっぱなしのリザードマンらを完全に無視してアウラとマーレは只管に見入る。

 

「……ぬえ様凄いね、御姉ちゃん」

「うん……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「流石ハ、ヌエ様。虚ヲ突ク事ニカケテハ敵イマセヌ」

「ありがとうコキュートス。でも武人としては、卑怯この上ないかな?」

「コレハ異ナ事ヲ申サレル。コノ模擬戦、自ラノ技能ヤ特殊技術(スキル)ヲ駆使スル事ヲ制限シテハオリマセヌゾ」

 

 燃えるフィールドで、コキュートスは笑う。ライトブルーの外殻のあちこちが焦げ付いているが堪えた様子はないようだった。追い詰める威力ではないとわかっているからこそ、ぬえも遠慮なく叩き込めたのだが。真紅の剣を仕舞い、再び真紅の槍を構える。次はどうしたものかとぬえが考えていると、コキュートスの最後の腕がアイテムボックスに沈んだ。

 

「!」

 

 抜き出されたのは白銀の剣。武人建御雷が彼に斬神刀皇を手渡す前で、最も切れ味の良かった武装だ。4種の武器を構える姿はまさに阿修羅。彼が完全武装を成した事に、ぬえの額に思わず汗が浮かんだ。3つの武装で単純に押し負けたのに、4つの武装をしたコキュートスに真正面からぶつかって勝てるわけがない。弱体化するのではなく、そのまま手数と攻撃力が上乗せされるのだから反則的だ。

 

「コレヨリ本気デ参リマス。私ガ掴ンダ感覚ガ正シケレバ……ヌエ様モ本気ヲ出サレル事ヲ御勧メイタシマス」

「あー、うん。そうだ、ねッ!?」

 

 不意打ち気味に突き出された槍を辛うじて受け流す。直後、左右同時に振るわれたのは二刀の一撃だ。槍を回転させるようにして、防ぐ。囚われたと気づいた時には遅く、上段より白銀の戟が振り下ろされた。

 

「うぐぅっ!」

 

 二度目の血しぶき。肩が一部抉られる様に切裂かれたが、これでも回避に成功した方だ。斬撃耐性は整えたのにまるで意味をなさない攻撃力。一度でも直撃を受ければ死なぬまでも瀕死は間違いなしだろう。

 

 同時に理解する。この武装では、コキュートスの攻撃を防ぐことが不可能だと。コキュートスは本気を見せた。ならば自分も意地で引っ張る必要なんかない。

 

「〈正体不明〉!!」

「!!」

 

 コキュートスの必殺の4連撃を無効化すると同時、通称アイスの当たり棒をへし折った。真紅の槍の姿が掻き消え、両の手に収まるは漆黒の三叉槍。

 

「オオ、ソレハ『神槍・完幻』!!」

「さぁ全力で来るがいい! お前はここで終わりだがな!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ぬえとコキュートスの戦い。観戦していたリザードマン達はもはや完全に混乱していた。封獣ぬえという存在が、これまで彼らの前で最強を現してきたコキュートスと互角に打ち合う様子だけでも信じられない内容だったのに、今では本当に今の光景が信じられない。

 

「今、ぬえ様コキュートス様の刀を防がれたんだよな……?」

「いや、今のは槍の一撃をコキュートス様が防がれたんじゃ」

「コキュートス様が貫かれた!?」

「何言ってんだ、打ち合ってるだろ!」

「いや俺も見たぞ!」

 

 見る者其々が、違う光景を見てると気づいたのは誰が最初だったかもうわからない。共通しているのは、コキュートスの動きは皆と同じでもぬえの動きが全く違う事。剣戟の様子がちぐはぐすぎてめまいを起こしたものまでいる。時折、ぬえの槍をコキュートスの武器ばかりか身体まですり抜けているのだからもうわけがわからない。

 

 それは特等席でも同じだった。

 

「マーレ、私達幻覚無効してるよね?」

「う、うん。闘技場であったぬえ様の模擬戦と同じだよ。幻覚無効を無視する幻覚があの槍にかかってる」

「ぬえ様の〈正体不明〉って特殊技術(スキル)の影響じゃないってこと?」

「あれはもう効果解けてる。コキュートスさんが看破したから」

 

 アウラの目は様々な能力を備えており、看破能力もその1つだ。だが、そのアウラの目でも今の光景の真実を暴けない。未知の体験に、恐怖すら覚えるほどだった。

 

「説明しよう! ぬえ様の『神槍・完幻』は見る者全てに神器級幻覚を強制的に与えるのだ! ぬえ様の振るう槍の軌道が完全に読めなくなるどころか、ぬえ様自体の行動すらランダム化して未知と化す!」

「つまりどういうことだ兄弟!」

「普通の人ではぬえ様に十合も打ち合えずに槍に貫かれ死ぬってことだ兄弟!」

「……お、御姉ちゃん。ぼっ僕が黙らせてあげようか?」

「いや、もうほっとこう」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 コキュートスの槍とぬえの槍が交差する……ようにコキュートスには見えた。だが、実際は槍ではなく振るった戟が不自然に弾かれ、脇腹を守る外殻に穴が開く。いかに手数で勝ろうとも、ぬえは対処できるのに対しコキュートスは対処ができない。それでもコキュートスの猛攻を潜り抜ける槍は僅かだ。3度目の槍の刺突を食らい、ようやくコキュートスは理解する。

 

(読メテキタゾ、幻覚ニ惑ワサレテハ駄目ダ。槍ガ1本ナノハ変ワラナイ。ヌエ様ノ手数モ、攻撃ノクセモダ。私ノ攻撃デヌエ様ノ攻撃パターンヲ最小限ニ……イヤ、1択ニ減ラシテシマエバ視覚ニ頼ラズトモ正体ガ見エル!)

 

 コキュートスの攻撃が一段と激しくなる。闇雲になったわけではない。ぬえの技量なら最善手を出し続ければ、防げる。そのような意図で繰り出されたものだ。武の才能ならば守護者随一と言ってもいいコキュートスの頭脳は、計算され尽くして初めてできる技を直感のみで披露する。コキュートスの狙い通り、視覚情報に反して攻撃は正確に防がれていく。つまり槍の軌道はそこにある。後は数瞬先の手を読めば、此方が勝ると感じた時。

 

「〈鵺の黒煙〉〈三つ首のキマイラ〉」

「!?」

 

 粘性のある黒い煙がぬえの身体から噴き出した。煙はどんどん溢れてくるが、ぬえやコキュートスの身体を覆う程ではない。コキュートスとぬえの剣舞で生まれた風が激しすぎるからだ。だが、この技を出す意味を知るコキュートスは警戒を最大限に引き上げる。一気に勝負をつけなければ敗北するという危機感を抱いて。しかし、大太刀がぬえの身体を捉えたと思った時には既に彼女の本体はそこにはなかった。後退し距離を取る動作にすら反映される幻覚に驚きを隠せないが、動揺する余裕はない。離れたぬえに向けて4本腕をかざす。

 

「〈ブリザード──」

「鵺符『弾幕キメラ』」

 

 コキュートスの魔法より先に、鵺のスペルカードが発動する。ぬえから無数のレーザーが一斉に放たれる。放射状に広がったレーザーは、結界内限界までその光を伸ばすと、一列の光球へと変化した。

 

「廻れ」

 

 広がった球弾が、ぬえを中心軸に高速回転する。右回り、左回りとバラバラに廻るそれらを回避するのは困難だ。4つの武器を用いて全力で弾くも、数が多すぎた。やがて隙間を縫うようにコキュートスの身体にいくつもの光弾が叩きつけられる。

 

(ダメージガ無イ……!? 狙イハナンダ!? マサカ)

 

 防ぐ動作そのものの誘発と気付いてぬえを見る。光弾の嵐の中心にいる彼女の表情は笑顔。普通の笑顔ではない、思い通りに事が運んだ、悪戯者が見せるような、そんな笑顔だ。

 

(〈三ツ首ノキマイラ〉ハ確カ、魔法ノ同時発動スキル……ヌエ様ハマダ発動サセテイナイ!?)

「リザードマン向けの魅せ技対処ご苦労コキュートス。〈魔法最強化(マキシマイズマジック)完全なる幻想(パーフェクトファンタズム)〉」

 

 ぬえの身体が黒煙に再び包まれる。弾幕が止んだと同時に飛び出してきたぬえの姿は、4人だった。

 

「!?」

「「「「ようこそ私の幻想郷へ!」」」」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「勝ったな兄弟」

「ああ、そうだな兄弟」

 

 幻術をかけられたとはっきりわかるほど技の精細さを欠いたコキュートスの動きをみて、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)2匹が息をついた。鬱陶しくてこの上ないが、疑問もあるのでアウラが訊ねる。口元が若干ひくついたのは気のせいではないだろう。

 

「えっと、決着ってこと?」

「模擬戦としては、ですがね。殺し合いでしたらコキュートス様があのように追い詰められる事はまずなかったでしょう」

「ぬえ様のスキルでコキュートスが幻覚耐性低下してるのはわかるよ? 私達だってマーレが魔法で無効から更に底上げしてなきゃやられてたんだし。今コキュートスにかかってる幻術そんなにヤバイわけ?」

「魔法そのものは10位階であり、対象を混乱、狂騒、幻惑、恐怖、畏怖等あらゆる精神系バッドステータスを植え付けるというものです。ぬえ様が作られた幻想世界に飲み込まれてしまった状態ですね」

 

 守護者コキュートスは魔法単体でやられるような存在ではない。アウラのそんな思いがこもった視線にも、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)は冷静に返す。

 

「アウラ様が思われている通り、それだけなら、コキュートス様ならば30秒もすれば復帰されることでしょう。その30秒でやられてしまうような御方でもありませんから。問題はぬえ様の神器が幻覚魔法・スキル効果を1.5倍にすることでして」

「……まさか」

「幻覚魔法に加え、大妖怪鵺としての幻術スキルを全て使用し半永続的に閉じ込めております。ぬえ様はこれを〈私の中の幻想郷〉と呼んでおりました」

 

 

 

 ◇

 

 

 

(ナンダコレハ!? ナンダコレハ!?)

 

 外因による恐怖を無効にしているはずのコキュートスの心に恐怖が捻じ込まれる。天地は不規則に入り混じり、回転し、前後不覚の状態だ。吐き気すら覚える歪んだ世界から全方位弾幕と、複数のぬえが襲ってくる。

 

「「「「あはははははは!」」」」

 

 何重にも重なったぬえの笑い声が響き渡るが、まるで脳内から発せられてるようだった。否、これは幻聴で本当に脳内によるものかもしれない。己が本当に地に足をつけ立っているかすら自信がなく、目を見開いている光景なのかすらももはやわからない。さらに恐ろしいのは。

 

「幻覚ナノニ、私ノ外殻ガ傷ツクダト!?」

 

 白銀の槍で貫いたぬえは虚空に消えるのに、そのぬえが放った一撃は間違いなくコキュートスの外殻を傷つけている。弾幕も、先程のは威力を全く感じなかったのに、今は鈍い痛みが積み重なっていくようだった。

 

(私ノ負ケカ……!?)

 

 対処の仕様がない。この技に飲まれた時点で詰み。敗北を察し、幻想の世界にそのまま飲まれてしまおうかと思ったとき。ぬえによってかき乱された脳内に、ある記憶が蘇った。ナザリックがこの世界に転移する前の事。造物主武人建御雷と封獣ぬえがPvPを終えたと思われる様子で第五階層で雑談していたことがあった。その時の会話だ。

 

 

 

『ぬえええええん! 行きたくない! 逝きたくないー! (嘆きアイコン』

『負けた罰ゲームであろう……はようニグレドのとこまで向かうがよい』

『大体武人さんはずるいんだよ! 私の必殺幻術〈私の中の幻想郷〉を斬るって何!? 幻術って斬れるの!?』

『拙者の斬神刀皇を舐めてもらっては困る。神すら斬り捨てる我が愛刀を、拙者の技量で振るえば妖怪如きの幻術など藁束がごとし。まぁ、たっち・みー殿には届かぬが、いつかは彼のように時空をも斬り捨てて御覧に入れよう(どや顔アイコン』

『妖怪ごときだと、馬鹿にしやがって! これで勝ったと思うなよ!』

『はよう行かんか』

『ぬえええええん!! (号泣アイコン』

 

 

 

 

(ソウダ……武人建御雷様ハ、ヌエ様ノ幻術ヲモ斬リ裂イタトイウ。ナラバ、コレハヌエ様ガ私ニ出シタ課題!!)

 

 偉大なる造物主がぬえの幻術を斬り捨てた。まさに、今のコキュートスと同じ状況下で逆転したのは間違いない。会話の中でわかったのは斬神刀皇を用いたということのみ。だが、どう用いたかコキュートスは本能で理解した。白銀の武器を手放し、斬神刀皇を静かに構える。五感はぬえの幻術で役に立たない。使うべきは第六感のみだ。

 

 弾幕が全身を叩く。三叉槍が幾度も突き刺さる。

 五感も心もぐちゃぐちゃにかき乱されている。

 それでもコキュートスは己が信じるチャンスを待ち。

 

「ココダッ!!!」

 

 持てる全力を余さず使い、世界を切り裂いた。

 

 歪みきった世界は斬神刀皇によって正される。

 砕け散るような感覚を覚えた次の瞬間には、コキュートスの五感は正しく本物の世界を捉えていた。目の前には、目を見開いた、それでも心から嬉しそうな笑顔を見せるぬえがいる。

 

「驚いた……武人さんと同じ事するとは……最高位の魔法からスキルまで使ったんだけどね……」

「偉大ナル御方ニ、一歩デモ近ヅケタ気ガシマス……感謝シマスヌエ様」

 

 コキュートスは思ったよりも自分がダメージを受けていない事に気が付いた。瀕死同然とすら思っていたが、槍による刺突の傷が記憶のものよりもずっと少ない。恐らく、幻痛をも与えられていたのだろう。抜け出せなければ心が先に死んでいた、本当に恐ろしい技だ。

 

(仕切リ直シ……ダガ、コレ以上ハ殺シ合イニナルカ……)

 

 手放した武器を回収するが、ぬえは邪魔をするでもなく動かない。コキュートスは悟った。模擬戦はこれで終わりだと。瀕死ではないだけで体力を半分は削られている。ぬえの方も、幻術展開時に反撃を受けてはいたのだろう、付けた覚えのない斬り傷が見られた。

 それでもお互い戦う余裕はあるだけに勝敗が全くつかないが、本来はリザードマンらへ封獣ぬえの威光を示す目的だ。問題はない。武人としての願望にぬえが付き合ったに過ぎないのだから。

 

「ヌエ様ト、マダマダ武ノ研鑽ヲシタクアリマスガ、コレ以上ハ危険デスナ」

「うん、残念だけど終わりかな。あーあ、仕込みもしてたんだけどな」

「ハ……?」

「ちょっと剣舞に付き合ってよ」

 

 ぬえが『神槍・完幻』を仕舞い、『真紅神槍』を取り出す。ぬえの言っている事がわからないが、ぬえからも戦意そのものが消えているので素直に従う。

 白銀の武器を仕舞い、斬神刀皇を構えると、ぬえが軽い調子で槍を振るってきた。お互い本気ではない剣戟が十数合続き、コキュートスはぬえの言う意味を理解する。

 

「ヌエ様……モシヤ今マデノ技ハ」

「私のクセを覚えたかと思ったか! 思い込ませて、本命の動きで仕留める。こういう技術もあるってこと覚えておくといいよ」

 

 コキュートスは愕然とした。最初から最後まで奥の手の為の幻惑を用意していたぬえに、これまで以上の深い敬意を抱く。もし、あのまま続けていたら無意識に覚えた『ぬえの動き』に合わせた行動をとり、その隙を突かれていたに違いない。それも『神槍・完幻』の幻術がかかった状態でだ。

 自然とコキュートスは跪く。忠義、敬意、そして敗北を示すために。

 

「コレハ私ノ負ケデスナ……サスガハヌエ様。至高ノ41人、百鬼ノ主」

「ぇっ? ……う、うん、私の勝ちということでもいいよ! 模擬戦だし気楽にね!」

 

 ぬえが動揺した様子をみせた事にコキュートスは首を傾げるが、元々勝敗を付ける気がなかったからだと理解した。武人としての自分に泥を塗らせたくないという気遣いを感じ、益々この御方には敵わないと実感する。

 跪いた自分をみても状況を飲み込むのに時間がかかったのだろう。かなり遅れて、アウラの決着を宣言する声と、リザードマン達の万雷の喝采と歓声が響き渡ってきた。

 

「コキュートス」

「ハイ」

「楽しかった! 機会があったらまた戦ろう!」

「有難キ幸セ!」

 

 ぬえが右手を差し出した。武を競い合った者として、コキュートスはそれを力強く掴んで応える。2人の心は何処までも晴れやかだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 視察帰還後、ぬえの私室にて。

 

「ぬえええええ……負ーけーたー!!」

 

 帰還したぬえは私室に直行するなり、勢いよくベッドに飛び込んだ。そのままじたばたと手足と翼を動かし悔しがる。

 

「仕込みはしたけどさー! 幻術破られた状態でコキュートスの全力受けて私が耐えられるわけねーだろ!! 悔しい────!!」

 

 負け惜しみのつもりで、仕込みを公開したら何故かコキュートスが敗北宣言したが、ぬえからすれば譲られた感が否めない。今更撤回させるのも恥だし、至高の存在としての立場もあるので受け取ったが、罪悪感と敗北感で押しつぶされそうだった。

 ばふばふと高級なベッドに八つ当たりし続け、ようやく落ち着いたあたりで仰向けに寝転がる。

 

「まさか武人さんと同じことしてくるとか夢にも……100レベルでも成長できるってことを更に示したコキュートスには褒美が必要かなー」

 

 負けて悔しいばかりではない。思わぬ収穫には笑顔が零れる。

 本気を出させろという命令にも答えてくれたし、何か望むものがあるならぜひとも答えてあげたかった。武器が欲しいなら、ぬえ謹製の幻想郷シリーズから1振り用意しようかと考えていた時。頭に糸が繋がる感覚を覚える。

 

≪ぬえさん、お疲れさまです≫

「あ、モモンガさん。うん、楽しかったよー」

≪アウラ、マーレから話は伺いましたよ。大成功だったようですね≫

 

 報告前にまず感情の処理から済ませたかったので後回しにしたのだが、どうやら報告は済まされてしまったようだ。リザードマン達から姫将軍だのなんだの讃えられたので確かに大成功と言えるだろう。嬉しくなって上機嫌に翼が揺れる。

 

「先に聞いてたの? 私の報告待ちでもよk」

≪課金アイテムを使ったようだな?≫

「……」

 

 翼が止まった。ドスのあるギルドマスターの声。ぬえを叱る時にやる声色だ。何故バレたと一瞬思い、堂々と使ってた事を思い出す。だらだらと汗が流れる。

 

≪あれらは今や手に入れる事が不可能な消費アイテム……それを模擬戦などといった興行に消費するとは……本当に良い度胸をしているな悪戯妖怪≫

「え、えっと……」

≪外出禁止令1か月延長≫

「ぬえっ!?」

 

 後日、アインズに叱られ凹みながら仕事をする様子のぬえと、ぬえを傷つけた事でアルベドに叱られ沈んだ様子で雪原に佇むコキュートスの姿がナザリックで見られたという。勝者の表情は、どちらにも浮かんでいなかった。




御無沙汰しております、お疲れさまでした。オバロの現実世界の設定が思ったよりアーマードコアというかブレードランナーというか…いや、ニンジャスレイヤーかな?
そんな事考えながらのんびり書いていたら2万字超えたので3つに分割しております。

大丈夫、2人は切り札まだまだあるよ!
どっちも負けたと考えるような決着ですが、コキュートスが表向きに勝ってると至高の41人として非常にまずいのでこのような形となっております。ぬえの被弾数が少ないのは、コキュートスが『全守護者中最大の武器攻撃力』を有している為、下手すれば一撃で重傷ラインと判断した為です。これが殺し合いならもっと違った形になりましたし、アインズ様ならぬえよりも上手く戦場支配して勝てるでしょう。

守護者の誰かと戦わせたかったのですが、原作でも一番模擬戦したがってて、かつ武人としての競い合いを描きやすいコキュートスになりました。褒美は多分、『お世継ぎ誕生の際は爺のポジションを確約』。

以下、ぬえのスキルについて解説。

中位妖怪召喚:レベル40以下の眷属を一度に5体まで、1日最大50体召喚できる。アインズが好むデスナイトのような盾役として優秀な特性を持つものもいないので、活用法にクセがある。6種ほどUFO化。

鵺の雷レベルⅤ:初見殺し。耐性無視のスタン。事前にスキル効果無効の防御魔法等で対策可能。大陰陽師にはパッシブスキルで通用しない。今回は模擬戦として魅せ重視の使用になったが、基本大技妨害に使う事が多い。

鵺符『弾幕キメラ』:効果範囲と見た目が派手なスペルカード。レベル80以上には基本ダメージが入らないが、実は精神作用耐性を更に低下させる隠し効果がある。

私の中の幻想郷:スキル名ではなくコンボ技。初見殺し。≪パーフェクトファンタジー/完全なる幻想≫による幻覚ダメージと数多のバッドステータス付与後に、『デスイリュージョン』『未知との遭遇』『トータルリコール』『鵺の悪夢』『エンラエンラ』など、幻覚系スキルを連続使用し半永続状態の幻覚世界に叩き込む。最後に使用する100時間リキャストスキルが発動すると詰み。今回は模擬戦なのでそれは使用されていない。
対処法は初動段階でレジストに成功する(たっち・みー)、カウンタースキルで幻覚をぬえに返す(茶釜)、無理矢理自身のバッドステータスを無効化する(武人他)等。武人やコキュートスがやったのは『斬る』という形での無効化。東方的にはラストワードではないがラストスペルのようなものなので、基本これが破られると敗色濃厚となる。

神槍・完幻:神器級武装。攻撃モーションが相手にランダム化して映る極悪仕様。『槍を振るいながら後退』する事で回避動作すらランダム化可能。だが、そもそも近づかせなかったり、全身防御を固めたり、圧倒的手数で反撃を許さないなどといった手段があるなら大して怖くなかったりする。
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総合評価:1537/評価:4.9/連載:300話/更新日時:2025年02月15日(土) 00:00 小説情報


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