「ま、とりあえず分断させて貰うか」
「何を―――ッ!?」
交錯する槍と槍。ランサーがアーチャーの突き出した魔槍を力任せに跳ね上げると、ガラ空きの胴へと蹴り込む。
「アーチャー!?」
ビルの外に身を投げ出された己のサーヴァントを見て、凛は叫んだ。奇襲、成功せり。
しかしそれでも、アーチャーは不敵に微笑んだ。
「ぐっ、だが見立てが甘いなランサー!」
吹き飛ばされる刹那、陣地として機能させた複数のビルの屋上から数え切れぬ数の刀剣が群れを成して空を飛ぶ。大蛇のようにうねる鋼の雲に、アーチャーは軽やかに着地した。
「生憎だが、ここら一帯は私に都合の良いように加工していてね!」
「あん? あぁ、そういうことかよ」
ランサーがくるりと魔槍を回せば、激烈な勢いで飛んできた刀剣が一つ弾け飛んだ。
周囲を見渡せば、雲霞の如く押し寄せる魔剣名刀の数々が包囲を始めている。
「マスター! ランサーはコチラで釘付けにする!そちらはまず身を守る事を考えろ!」
「―――負けたらタダじゃおかないわよ! なんならランサーをぶっ倒してきなさい!」
そして、アーチャーは凄まじい速度で空を泳ぐ鋼鉄の雲の上で弓を構えた。
「そういう事だ。狙い撃たせてもらうぞ、ランサー!」
「気に入らねぇ。やってみな、アーチャー!」
閃光、と見紛う程の拳であった。
「っつぅ…!」
「―――なるほど。何の冗談かと思いましたが、随分と便利な礼装のようだ」
鉄塊を叩きつけたような打撃音。しかし、凜への直撃は一打とてない。やたらファンタジーな感じのピンク色の障壁が空間に現れ、その打撃を防いでいるのである。
ルビーの力を借りての術式行使、結界術の応用である多層障壁。防御は成功している。していて尚、この威力。
そして、その背後に浮かぶ鉄球は、常に凜の狙撃を狙っている。
「ならば、その空間ごと叩けばよろしい」
バゼットの背後にあった鉄球が変形する。腕甲、と言うべき形状に変容すると、すぐさまその腕に装着される。
そのままの勢いで剛腕を振りかぶれば―――。
「ぅぎッ!?」
乙女らしくもないうめき声が漏れたのは、それでも幸運の賜物だった。ガラスが砕け散るような音と共に障壁が"押し潰される"。
「っ、ふっ…ふぅ。どういう理屈よ、その鉄球!?」
紫電を纏う腕甲がその形を失い、土塊として荒れ果てたビルの屋上降り積もる。使い捨ての礼装、ではあるようだが、その威力はサーヴァントの渾身の一撃もかくやという異常な物。
凜が辛うじて身を守れているのは、その膨大な魔力に物を言わせた激烈な身体強化あってのことだった。
「答える義理があるとお思いで?」
その女、バゼット・フラガ・マクレミッツ。
現代魔術の総本山が一角、時計塔の封印指定執行者。
その力を物語る異名は数あれど、神秘の世界において最も強烈な通り名こそ。
「『
「おや、この程度で上限と思われるのも気に入りません―――ねッ!」
振り抜いた拳を素早く戻し、半身の姿勢から予備動作なく踏み込んでくる。気付いた時にはその鉄拳が―――。
『あぶなーい!?』
主の危機に両手でしっかりと握られていたルビーがその両翼を伸ばして目潰しを敢行する!
「甘い!」
驚くべき事にこのバゼットという戦士は完璧な不意打ちに対応してみせた。右のショートアッパーで杖先を跳ね除け、勢いのまま凜の下腹部へ目がけてタックルを狙う。
相手が飛ぶなら先にマウントを取って沈黙するまで殴り潰せばいいというスマートな目論見である。
『あべし!?』
「っナイスよルビー!」
だがカレイドステッキによって身体強化を施された凜の反応速度もさる物。ショートアッパーを挟んだことによる僅かな隙を見逃さず、吹き飛び掛かったルビーの勢いを利用してサマーソルトキック!
パンチラの恥ずかしさは命の危機と比べれば些事である。
「…面妖な」
そのまま迎撃するのは危険と見たバゼットがサマーソルトキックの直線上から退くと、帯状に形成された魔力の塊が空間を裂いて飛んでいった。
「斬撃。しかし術式は付与されていない。魔術、ではなく魔力その物を任意に成形し、発射する機構。下手な魔術より厄介」
涼しい顔であった。その他の形になることを織り込んでいる。
「ですが、それほど自由度はないようですね。咄嗟の即応性を見るに、成形そのものは使用者のイメージできる範囲が限度といったところですか」
「ご丁寧に考察して貰ってありがと。生憎だけど答え合わせはしないわよ」
「構いません。こちらも同じだ」
再び鉄球がバゼットの背後に浮かび上がる。その数、五つ。
「(あーもう。分断されたのは本気で失敗だったわね…)」
アーチャーがランサーに勝つ。これは前提だ。
釣り出しのエサに自分をベットしたのも、一刻も早く聖杯戦争を終わらせる為に必要なリスクと判断したためだ。
だが、事ここに至って、ようやく自分が戦争の当事者である事を実感している。矢面に立つとはどういう事かを痛感している。
良いサーヴァントを引き当てた。事前の準備もバッチリだ。だが、それでも勝てるとは限らない。負けて死ぬ、という当然の可能性に身震いする。
バゼットが拳を構えたまま声を上げる。
「改めまして、私はランサーのマスター。バゼット・フラガ・マクレミッツと申します。既にご存知のようですが、えぇ、礼儀として」
「ご丁寧にどうも。封印指定執行者にしてはお行儀がいいことじゃない。合格点でもあげようかしら」
『そういうの今は良いですから早く距離を取ってくださーい! 冗談抜きであのゴリラ女はヤバいですよ!?』
バゼットがその視線をちらりとルビーに移す。呆れの籠った視線であった。
「愉快な礼装ですね。野良の精霊か何かを封じてでもいるのですか?」
「お生憎様、コレはウチに代々伝わる由緒正しき魔術礼装よ」
「そうですか。遠坂家とは、随分愉快な家系のようだ」
「否定しづらいけどこの礼装が例外なだけで真面目な魔術師よ遠坂家は! 風評被害ってご存知!?」
『今は真面目に働いてるのになんか釈然としないんですが???』
酷い話である。
「まぁそれはどうでもいいわ。で、私たち同士で続けるって事で良いわね?」
「聞くまでもない事では? マスター殺しが最短最速で効率が良いことなど、アサシンの存在を考えれば当たり前でしょうに」
「上等。だったら正面きってぶちのめしてあげる」
魔力、収束。魔法陣が凜の目の前に浮かび上がり、極大のエネルギー圧縮を開始する。
「ほう、収束砲撃―――先ほどの成形と似たような事象に見えますが、こちらは正しく術式の類。良いでしょう、戦士の習いです。まずは付き合ってあげましょう」
『
5つの鉄球の内、3つが起動する。
現代に残る宝具そのもの。真名開放を可能とするバゼットが誇る五奥義の三。
「力比べといたしましょう」
「舐めんじゃないわ。やるわよルビー!」
『かしこま! 多元重奏砲撃準備!』
鉄球が光に溶け、三本の光条となって放射される。
魔法陣の前に圧縮される馬鹿げた量の魔力の塊が、指向性を持って解放される。
「『
「流石に全ベットとは行かないけど―――『
暴力的な神秘と魔力の激突。
戦いが、始まる。
よいお年を!