千夜の生誕記念の短編です。作者の妄想で展開していくのでご了承願います。
青山さんの過去編も投稿しておりますので作者ページ、又は後書きのURLよりお読みいただければ幸いです。
私は昔からこの街にいた。
物心つく頃にはおばあちゃんのお店を手伝いたくて、抹茶を飲んで顔をしかめて。
隣に引っ越してきた子と仲良くなって、たくさん話して、たくさん遊んで。
高校に上がるともっとたくさんお友達ができて、べつの喫茶店の人たちとも仲良くなって。
私の節目には、たくさんの人達で溢れてて、たくさんの幸せで溢れてて。
私の人生は笑顔で溢れてる。
でも、あんこだけは笑ってくれないなぁ。
高校最後の夏も終わって、新学期が始まった。
甘兎庵とラビットハウスを行き来する夏休みはあっという間に終わってしまい、私も進路を決める時だ。頑張らなくちゃ。
今日はちゃんとココアちゃんくるのかしら。心配だわ、彼女時の流れを把握してないもの。
いつものところで待っていて数分、ピンク色のカーディガンの似合う女の子が駆け足で来た。
「千夜ちゃぁぁぁぁん!遅れてごめええええん!」
私も今来たとこよ、大丈夫だから落ち着いて、お茶飲んで?
私の水筒を掴んで飲む彼女の姿、ほほえま〜。
実際遅れていないのに何を焦っているのかしら。いつも学校行ってる時間と大差ないわよ?
「あれー!時計止まってるよぉ…」
妙に落胆する。帰りに時計屋さんに寄りましょ。きっとただの電池切れよ。
私と彼女の道中の会話はもっぱら仕事、バイトの話だ。甘兎庵での話はいつもとあまり大差ない。
「へぇー…、私は昨日ね、いつもみたいにバイトの時さー…」
変わってラビットハウスはいつも楽しい話題であふれている。リゼちゃんがどんなことしてたのか、チノちゃんはこうだった、マヤちゃんにメグちゃんが来てたり、青山さんが夜に来ていたり。
こっちはシャロちゃんが遅くまでバイトだからそんなに話すこともない。でもお互いの休みが被ったらシャロちゃんの家で紅茶とお茶を用意して、たくさん話しをしている。
他愛も無い話は時の針の進みを早める気がする。歩く時間がこんなに短いのも、ココアちゃんが来てくれたおかげ。
高校最後のクラスもココアちゃんと同じで、なんだか運命を感じちゃうわ。気のせいかしら。
席につくと担任の先生が用紙を持って私を急かす。人生の分岐点だものね、考えなくちゃ。ココアちゃんはどこにするか決めたの?
「んー、やっぱり文系が苦手だからねー近くの理数系の大学に進学してー、って感じかな。」
ココアちゃんは苦手なところを補うよりも、得意なところを伸ばすほうが得意だものね。
私は迷っていた。自分のやりたいことは決まってた。でもその進路を反対する人も多い。学歴という2文字が、私を覆って逃さない。
授業はつつがなく終った。ココアちゃんも私もそれぞれの場所に帰る。私も甘兎で仕事をしてる時は日常の悩みを忘れられる。
仕事をしていると聞き慣れた声が入ってきた。
「どうも、精が出ますね。」
青山さん。いらっしゃいませ〜。
今日も執筆かと思ったけど、原稿用紙は持ってないみたい。こうしてたまに純粋に茶菓子を楽しみにしてくれるところが青山さんの好きなところ。
「千夜さん、最近はおかわりなくて?」
ええ、特には何も。
ここで今の進路の事話しても困らせるだけだものね。
青山さんはどうやって小説家になったんだろう。
小説家も非常に不安定な仕事だ。売れなきゃお金はもらえない。自分の才能に左右される仕事。決断も大変だったと思う。それでも今まで貫いてるってことは、青山さんはどうやってここまできたんだろう。
「私に聞きたいことでもあるんですか?」
うわっ!びっくりしたー、と言っても私がずっと青山さんの顔を見て考え事をしてたのが原因だけど。
「言いたいことがあるなら言ってください。貴女と私の仲ですよ?」
そう言われて思い返す。おばあちゃんが言ってたっけ。青山さんは昔からここに足を運んでは何か書いてたって。私が働き始めた頃にはすでに常連客だった。
「青山さん、少し聞きたいことがあるんだけど。」
「何でも話して?私、お悩み相談は得意なの。」
私の好きなこと。
この空間が好きだ。この仕事が好きだ。ここの人たちが好きだ。メニューを考えるのが好きだ。実際に作ってみるのも好きだ。
私には好きなことが多すぎるてしまう。でもどれも終着点は同じなのに、その道は世論という壁に阻まれている。
したいことができる生き方をしたい。でも周りは常に『それが通用しなかった場合』のみに注目する。可能性が低い方は切り捨てられる世の中に、唇を噛んで耐えるしかない。
でも青山さんは違っていた。相談すると自分がどうやって今に至るかを話してくれた。喫茶店のマスターに読んでもらってたこと。昔から本が好きなこと。
最後に青山さんはこう締めくくった。
「私は昔から好きなことには一直線だったの。ずっと私には本がついてたから。千夜さんも、好きなことにはとことん努力できる人だと思うわ。だから大丈夫。やれば結果はついてくるもの。」
仕事が終わって、看板をかたしていると丁度シャロちゃんが帰ってくる頃だった。おかえり。
「ただいま〜。千夜もお疲れ様。」
この一言で私は頑張れる。ありがと、シャロちゃん。
片付けを終えた私はすぐ隣りのシャロちゃんの家に行った。最近はご飯を食べるのもここになってる気がする。
「千夜、いい加減進路は決めた?」
私が一番焦ってるわよ。したいことをしていいのか、やり続けられるのか、ってね。
そういうシャロちゃんは決まったの?
「リゼ先輩の行った女子大に行こうとも考えたけど、私は私の道を行くわ。紅茶の勉強をしにイギリスまで行こうと思ってるの。」
考えてるスケールが違うわ…尊敬します、シャロ様。
やりたいことを貫ける、そんな彼女が眩しかった。それに比べ私はいつまでも迷ってる。このままじゃいけないの、わかってる。
ベッドに横になる。私は考えてた。いや、考える必要なんてないのかもしれない。ココアちゃんにシャロちゃん、そして青山さん。3人のを聞けば私もそうするしかないじゃない。足りないのは覚悟だけ。でも自然と心は軽く、やれる気がしていた。私だもの、挫折なんて知らないわ。
やれるだけ、やってやる。
私はそう決心して、机の上の紙に将来を書き込んだ。
モダンな煉瓦の街に、3つの喫茶店があった。
1つはラビットハウス。ここは父と娘の二人で営んでいる。軍学校を出た父と、バリスタ協会から認められたライセンスを持つ一人前のバリスタのコンビネーションで、今日も日常のひとときを彩ってくれる。
1つはフルール・ド・ラパン。イギリス帰りの専門家がプロデュースして、その新しい紅茶はまたたく間に有名になって、他県からも人が訪れるほどだ。
そしてもう1つは、
「いらっしゃいませ、ようこそ、甘兎庵へ。」
茶菓子、和菓子を専門に勉強した一人娘が全く新しい和菓子の形を作り、その独特な感性から生まれる逸品に今日も行列を作っている。
「ご注文は、翡翠スノーマウンテンですか?」
千夜かわいいよ千夜。
彼女の夢のための奮闘記でした。個人的に将来こうなればいいなぁと思っています。
ココアは大学院に行って現在は菌類の研究をしている設定で、リゼは自衛隊かなぁという感じです。二人共街を離れているため描写は行いませんでした。
青山さんがどんなことを話してくれたのかは私の現在連載中の「うさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さん http://novel.syosetu.org/60481/ 」の内容です。そちらもよろしくお願いします。