「あたし!占い巫女やるねっ!」
巫女の姿をしたララが朝の食卓でそんなことを言い出した。
リトは呆れ顔でどこか得意げなララを見つめる。…今日もご飯がうまいな、また腕を上げたなー美柑。などと関係ない思考でこれから始まりそうな"とらぶる"から逃避していた。
「じゃあ占うね!まずはリト!えー…うーん…今日はころばない!でしょう!」
「いや、転ぶでしょララさん」「私も転ぶと思いますわ、お姉様」「まぁケダモノだからパンツに飛びつくよな」「じゃあ、やっぱり転ぶでしょう!」「…ちょっ!言いすぎだろ!?」
達観した物言いをする三人に不満を口に…口から飯粒を飛ばしたリト。向かいに座る美柑の綺麗な顔に張り付く…表情を無にし、瞳のブラウンを弾けさせた美柑はリトに"ハイマット美柑フィンガーフルバースト"をあらゆる急所に食らわせた。1,234!…8COMBO!
吹き飛んだリトはナナのペタンコ胸に転んで抱きついてしまい占いは見事的中した。…当然激怒したナナに頬を激しくつねりあげられたリト…9!10COMBO!Good!
「次!美柑!えー…最近すけすけなセクシーブラジャーをしだした!」
「…もう、秘密だってばララさん」「そうなんですか?美柑さん…それにひきかえナナは…プッ」「笑うな!あたしだってもうブラ買ったんだぞ!」「そ、そうだったのか…美柑…がふっ」11!12!131415…!20COMBO!Excellent!
これも的中した
「次!モモ!えー…最近誰かに会う前に念入りにシャワーをあびている!」
「ふーん…へぇー…」「ちょっ…!お姉様っ…!か、躰はいつも綺麗にしておくのが女性としての嗜みですわ、お姉様…深い意味はないんです、ないんですったら」「モモのヤツ長いんだよなーやたらパンツとかも何度も換えてさー…ちょっと湿って…ちょっ!イタッ!ほっぺた引っ張んなよ!」「…モモの躰ってだからいつもスベスベなんだな…」「もう♡リトさんったら♡恥ずかしいじゃないですかっ想像しないでください♡ビンタしちゃいますよ♫」20,2122232425…!80COMBO!Marvelous!
これも
「次!ナナ!えー…ギガイノシシに赤ちゃんが!生まれるでしょう!」
「イノシシかぁ…猪鍋…秋人さ…お兄さん好きかな、お肉好きだもんね」「食べると思いますよ、美柑さん…お手伝いますね、でもお兄様には内緒でお願いします♡」「ホントか!?姉上っ!ってかオマエら!あたしの友達食べようとすんナァ!」「あのさ…
――――というかソレ、占いじゃないんじゃないか?」
ズダボロの状態になり、餅のように膨らんでいる頬を擦りながらも当然の疑問を口にするリト。ララ以外の皆も思うところあった。
最初のリト、最後のナナ以外は暴露話であったし、リトの"何もないところで転ぶ"…というのは既に能力であるから占いの対象にはならない。
皆が自分と同じく感動して目をキラキラと輝かせるのを期待していたララは、当然ふてくされた。
1
「…で、俺のところへ来た…と」
「ウン…」
ちゅーっと紙パックのイチゴ牛乳を啜る秋人。甘っと眉を寄せ上げる、
丁度昼休み、春菜お手製の弁当を残さず平らげた後、自販機の前でコーヒーにするか、と指をボタンに伸ばしたところにふいに声をぶつけられたのだ。…背中に体をぶつけられた、すなわち体当たりされたともいう。はずみに押されたボタンが不本意な甘い飲料のものであったのだ
少し落ち込んだ様子のララ…しゅん、と俯いている。チラリと物欲しそうに秋人の唇……口元に視線を投げたあと、更にがっくりと肩を落とした。
…あの後、学校で「春菜はお兄ちゃんが大好きでしょう!」とか「唯はおっぱいが最近もっとおっきくなって感じやすくなったでしょう!」とか「リサは最近恋をしているでしょう!」だとか占い(暴露話)を披露したが、混乱を生むばかりだった。
「占いとかじゃなくて祈祷とかはどうなんだよ?」
ほらよ、とララにイチゴ牛乳を手渡す秋人。ぱっと顔を上げ笑顔になるララ
「キトウ?なぁにそれ?」
ちゅーっと桃色の甘い飲料を吸い上げながらララは小首を傾げる。
「幸運のお祈りとか、困難な出来事を避ける意味とか…なんかそんなのだ」
「ナルホドー!お兄ちゃんあったまいー!じゃあお兄ちゃんはソレ!それしてあげる!」
《ではララ様これを…》
サッと万能ツールをララに渡すペケ。神の依代と呼ばれる"
「えーっと…コレをどうするの?」
ゴミ箱に紙パックをぽいっと投げたララはきょとんとした顔で幣束と秋人を交互に見やる。秋人は全部処理させるつもりはなかった桃色のイチゴ牛乳…描く綺麗な放物線を残念そうに目で追っていた。ララは続きを催促するようにクイクイと秋人の袖口を引っ張った。
「はいはい、引っ張んなっての、むしれるだろーが…えっと、その剣…幣束をふって、適当な…かしこいかしこい羊が一匹、じゅげむじゅげむ後藤さん風邪薬ください、とでも言って最後に"あなたに幸運がありますように!"ってつけ加えればいいんだよ」
《めちゃくちゃな…きっときちんとした文句があるでしょうに》
この場で唯一の常識を持つペケの溜息と呟きは誰にも聞こえなかった。ペケは此処へ来るまでララの機嫌の上昇を図ろうとなんとか一人、頑張っていたのだ。最後の最後に頼ったのが秋人であった。――――ペケが提案する前にララは秋人のもとへ向かったのだが
「おー!なんだか楽しそう!よーし!やるね!」
あっけなく機嫌が上昇気流にのり、元気よく返事をしたララは目をつぶり、秋人の頭の高さまで幣束代わりの剣を掲げ、左右にぶんぶんと振った。紅白の巫女服を纏い、結い上げたピンク髪を弾ませるララ、形のよい魅惑的な胸も同じくゆさゆさと揺れる。窮屈さを感じる為ララはブラをつけないのだ
「かしこいかしこい必需品!……"お兄ちゃんに幸運がありますように!"」
だいぶ端折られた文句、ピタリと秋人の頭の上に万能ツールを止め、力強く祈りの言葉を発する―――――
その言葉に偽りなど欠片も無く、まごころの言葉であることを秋人は胸に感じた。
「…どうかな?お兄ちゃん」
「ん、サンキュなララ。すごい幸運になったぞ」
「え!?さっそく?!すごーい!わたし!」
よしよしと穏やかな表情でララの頭を撫でる秋人。
「で?どんな幸運だったのー?」
「ああ、ララのおっぱいがゆさゆさ揺れてて、ときどき当たって幸せだったぞ」
「ん?揺れるのがいいの?」
「そうだぞ、何気ない日常の中、ふと揺れるおっぱいに男は幸せになるのだよ、そしてだな…」
こう?と、はね飛ぶララ。ぶるんぶるんと大きく揺さる。なんだかとても楽しそうだと、その無邪気な姿に秋人も語る口を
そうして秋人が幸運になったのを知ったヒロインたちはララの祈祷へ殺到した。
―――――つまりはこれがきっかけだった。
2
「ん?なんだ?あれは…」
「?どうかした?お兄ちゃん」
ふたり仲良く彩南高校に登校した春菜と秋人。教室に続く廊下の先に人だかりを見つける
ちらと人だかりから秋人へ目を移す春菜、秋人はより遠くを見ようと目を細めていた
「"こううんララうらない ごりやくあり いっかいひゃくえん"…祈祷じゃなくなったのか」
無意識のうちに口元を
…秋人は知るはずもなかったがウチへ帰ったララが嬉しそうにキトウキトウと言ったところ、何を勘違いしたのかモモが目を丸くして驚き「ダメですよお姉様!そのようないやらしい単語を口走っては!」と言葉を封じたのだ。モモの秋人へのヘイトはぐーんと上がった。……ちなみに百円の料金設定はナナの案である。初めはモモのいう10000円だった、それは高すぎダロ、リピートっていうか顧客を増やしてうんぬんかんぬんとマーケットコンサルタントばりに頭のキレるナナ。"甘いもの"、"兄上(仮)"、"えっちぃ知識"以外は至極マトモなプリンセス・ナナに論破されるモモ…という出来事があったのだった。
…ピーチ姫が一人自室に戻り「ペタペタ草原のクセにぃ!」と枕をバンバンと叩いたのはまた別の話
「あ、先輩!ちょっと!なんなのこの人だかりは…私達風紀委員会はこんなの認めてないわよ?!」
「んー…よく見えないけどやってんのは祈祷だな、ララの巫女コスは可愛かったしな…アレだけ揺れれば、まぁそりゃあ当然人気出るよな」
「はあ?何よソレ…なんだかハレンチな匂いがするわね」
「なんだそりゃ、どんな匂いだよ…まぁあってるけど、大丈夫じゃなかろうか…」
ララの祈る姿…もとい跳ねる、揺れる双つ丘にえっちぃ目を向ける不埒な男(秋人含む)はララの横に控えるリトやレンが許さないだろうし、もともとララは王女であり、美少女転校生だ。このように人に団子のように殺到されるのは慣れっこだろう、それに―――――
「まぁ効果がないとわかればすぐにブームも終わるだろ…おっと悪い春菜、唯も」「きゃっ」「わ!」
ララ占いへと走りよる男子生徒に背を押され、春菜と唯の方へよろける秋人。とっさに壁に手をつき身体がぶつからないよう二人を庇う―――――俗にいう壁ドン状態だった。
「お、お兄ちゃん…」「せ、先輩…」
「悪い、すぐ離れて…お、おおおう!?」
ドキドキと高鳴る鼓動、二人の乙女は期待に慎ましやかな丘を、破廉恥な山を膨らませた。
更に殺到する男子生徒たちに、再び背を押され…密着して春菜と唯の二人を胸に抱くようにしてしまう、柔らかな躰の感触、女の子特有の甘い匂いが秋人の鼻腔をくすぐる。
「わりぃ春菜、唯」
「う、うん…大丈夫…?お兄ちゃん」「わ、わたしも別に…ハハハハレンチだけど厭じゃない、わ」
すまなそうな顔をして謝罪の言葉を口にする秋人。頬を朱に染める二人の少女。同時に同じことを二人は考えていた―――――秋人にとって、兄、先輩にとって"真のセクハラ行為"もとい"ハレンチ行為"は自らやるものであり偶然やラッキーは良くない、自らえっちぃ行為をしてそして出来れば春菜の方から、唯の方から、ヒロインの方から"あなただったら…わたし…いいよ"と求められたり許しを得るのがそそられるようだった。こっそり春菜も、唯ですらそういうアピールをしているのは内緒である
「秋人!まったく、此処に居たのか」
「!…凛!おおおう!?た、助けてくれ!」
秋人探索に定評のある九条凛。このままではクラスメイトが間に合わず朝のSHRが始められない…というのを口実に迎えにやって来たのだった。西蓮寺家まで迎えに行き、一緒に登校…という勇気は勇敢な武士娘にはまだ、ない。
凛の目には駆け寄る男子生徒たちの群れに押され、壁・春菜&唯&秋人・人混みのサンドイッチ状態になっている三人があった。
「まったく…情けない声を出すな。それでも男か…待っていろ」
ひょいとどこからか竹刀を取り出し二、三度振ると人混みへ向けて気合一閃、たたっ斬る凛。
凛々しく光る眼光、踊る漆黒の一つ結び、靡くスカート…「うぎゃああああ!」「うおおおおぁあああ!」「キャー!リン!わたくしまでぇえ!」…木霊する無数の悲鳴。
「た、助かった…サンキュな凛」
「…情けないぞ秋人、今度剣道を教えてやる。覚悟しておくんだぞ」
「ハイハイ…はいはいはいはい、頼りにしてるよ凛」
秋人の制服の襟を正してやりながら"頼りにしている"その言葉にじーんと豊満な胸を震わせる凛。スカートの埃をはたき、ジト目を向ける春菜と唯。
こうして春菜、唯、凛に幸運があったのだった。
3
「仕方がないじゃないですか…春菜さんとお兄さんのウチのソファー…三人用なんですから…」
「で、でも…」
「まさか家主の春菜さんとお兄さんを床に座らせるわけにはいかないですし…ヤミさんは正座や床に座るの苦手ですし…だからこうするしかないんですよ」
「いや、だったら…」
「それとも優しい春菜さんは"美柑ちゃんだけ床に座ればいいんじゃない?"とでもいう気ですか…?三人用ソファーに三人座って、私だけ冷たい床に座ってのけものに?」
(冷たくないよ…だって床、ふかふかカーペット敷いてあるから…)
春菜は思ったが口に出せなかった。ひどいです、と上目遣いで見上げてくる美柑の瞳は僅かに涙で潤み、母性本能をくすぐったからだ。
「いいじゃねぇか別に…春菜、美柑だってたまには甘えたくなるもんだぞ?普段しっかりモノだからな」
「はい…ありがとうございますお兄さん」
頬を染めつつ兄・秋人を見上げる美柑。秋人の膝に跨がり、すっぽりといった具合に身体全身を預けている。
―――そう、三人をソファに座らせた美柑は「あ、わたし座るところありませんね、でしたら…」と白々しく(春菜にはそう聞こえた)口にすると秋人の膝上に腰を下ろしたのだった。
秋人も秋人で慣れた様子で(春菜にはそう見えた)ん?ああ、そういえばそうだな、といった顔をしただけですんなりと受け入れている―――ずいぶん毒されてしまっているらしい。美柑のおなかを抱えるように抱きすくめる兄であり、大切な想い人でもある秋人は、確か好みの女性のタイプは
「好みのタイプ?そうだな…俺はヒロイン全員好きだぞ?…睨むなよ、悪かったっての春菜…そうだな、コス…じゃない、服装って大事だよな?和服とか俺は好きだぞ?あと他には―――――――――」
和服→浴衣→清涼感→清純→わたしのこと?
とゆるやかに自身へと解答を導いた春菜。えへへ、お兄ちゃんったらしょうがないんだから、とだらしない笑顔になったのは二日前のことだ。
ちなみに秋人が続けた「他にはメイドだのナースだの婦警だの魔法少女コスだの、なんでもイケるな。やっぱカワイイは正義」との発言は春菜の意識から完全シャットアウトされている。
都合の悪いことは聞こえない、意識の外へと放り捨てる術を春菜は兄から学んでしまったのだ。だいぶ毒された清純ヒロインだった。
その男が好みのタイプど真ん中の自身を放っておき、突然ウチに遊びにやってきたふたり、というより美柑と仲睦まじく会話を続けている。
春菜の視線の先には、ニコリと頭越しで笑い合うふたりがいる、見下ろす秋人と見上げる美柑。美柑が頭を揺らすとてっぺんにある結び目がゆらゆらと揺れ、秋人の鼻をくすぐる。秋人は誘われるがままにパクっと
「お兄さん、はい、食べるならこっちをどうぞ」
「お、みかんかサンキュな…」
…"蜜柑"の
ぱく、もぐもぐと秋人…見上げる美柑は幸せそうに微笑み甲斐甲斐しく世話を焼き続け、その様子に春菜の思考が瞬時に現実へと引き戻される
(違うもん…お、お嫁さんは私だもん…でもなんだろう…私よりずっと年下のはずなのに、美柑ちゃん色っぽい…思わず甘えたくなっちゃう色気…愛人さんとか…向いてるかも……お兄ちゃんが浮気!?お嫁さんで奥さんな私より甘えさせ上手な二号さんの美柑ちゃんのほうがイイの…!?)
「ぐぬぬぬぬ…」
「…なに唸ってんだ春菜、お兄ちゃん心配ですよ」
「何かストレスでもあるんじゃないですか?お兄さん…たまには別の女の人…別のヒロインにお世話を任せるなんてどうです?」
「そうか、それもアリかもな」
ヤミは我関せずとばかりに美柑とお土産に、と用意したたい焼きを頬張っている。既に半分程平らげていた。
こうして美柑にも幸運があった
4
そして、とある放課後
「はあ?!
「バカ?…誰だいそれは…?ああ、天条院先輩かな?」
長い廊下に素っ頓狂な声を響かす秋人。異星の王子らしく顎に手を当て丁寧に言葉を返すレン。
「そうなの…沙姫様…、毎日物思いに耽って元気がなくて…留学の話に悩んでるみたいなの…だから…癒やしを…沙姫様に元気を、と思って」
「だからってなんで俺に…なんでだっての、綾」「それは…先生がたくさんの素晴らしいアイディアをお持ちであるからでは?」
面倒くさいからパース、とレンの肩を叩き、立ち去ろうとする秋人、いいんですか?と首を傾げつつも後を追うレン。王子とその悪友従者…といった図であった。立場が逆な気がするが
「お願い!沙姫様の力になってあげてっ!お金なら払うからっ!」
ふたつの背中に悲痛な想いをぶつける綾
「舐めるな!金で人を動かせるなどと思うなよ!ブルジョワめ!ぱっつん眼鏡っこめ!人の想いは金より重い!」
振り向かずにクワッと叫ぶ秋人。流石は先生…、とその言葉にジーンと感動に胸を震わせるレン。
「A5肉好きなだけ食べていいから!」
「話だけでも聞こうか、綾。焼き方に俺はウルサイタイプだ」「先生…」
瞬時に綾へと向き直り凛々しく整った面立ち、よく通る声で秋人。さっきとは違う感情に胸を震わせるレン。
お金で買えるのでは?という当然の疑問の答え、それは秋人が無駄なお金を持つと"はるちゃんぎんこう"に(勝手に)貯金されてしまうからだ。没収とも言う。そしてお金は将来的に
こうして
「ヒャッハーッ!水と食料、そしてスイーツ(甘)、兄上(仮)を置いてけー!」
叫ぶ悪党、肩パッド。
「そ、そんなっ!
悲痛な叫びをあげる沙姫、お嬢様。
「アアン?!何シケたこと言ってんだぁ!じゃあオマエがアタシの兄上になるかぁ?……ってなれるかぁい!いらんわ!ン?オマエは天条院グループの一人娘だなァ!?ハッ!オマエを使ってカネ儲けしてやるッ!」
「くっ…!」
悔しそうに唇を噛みしめる沙姫…
そう、結城家へと逃げこんだ沙姫は謎のトゲトゲ肩パット装備の桃色ツインテールの襲撃を受けていた。開け放たれた玄関のドアからは吹きすさぶ春一番。その風に少女のピンク髪が揺れる、桃色ツインテール少女はさながら桜の妖精のような愛らしさがあった。(服装の黒いレザーが不似合いすぎるが…)風に桜が散る事に文句をいいにやってきた…というわけではない。家出した沙姫を連れ戻しにきたのだ。
ちなみに
「アレー?サキー?どうしたのー?」「ご機嫌ようララ…少しお世話になりますわ…全く、狭い家…まるで小屋ですのね」「?なんかあったの??」「ちょっと家出しただけですわ」「じーっ」「…なんですの?」
「どうしてお兄ちゃんのとこ行かなかったのー?」
当然の疑問をぶつけるララ。たしか兄と沙姫の仲は悪態をつき合いつつも、関係良好のはずであった。
ふっと鼻を鳴らして、肩をすくめる、不遜な微笑みで沙姫は言った
「あの凛が想いを寄せる男性の家に、もしも
おー!オトナだー、サキー!とララは目を丸くして素直に感心した。ララも王女としていつもザスティンを従えていたが、自由に振る舞わせていたため正直配慮などしてなかった。―――そんな大切な心得を教えてくれたサキを渡すわけにはいかない、とララの瞳に決意が灯る。
「サキは渡さないよっ!ナナ!」
「姉上…ッ!例え姉上でもアタシはこの不味そうな"チョココロネ"を貰ってくぞ!」
(なっ…!誰がチョココロネですの!…それに不味そうなどと…!演技にのって上げましたというのに無礼な…流石はララの妹ですわね)
釘付きバット…ではなくチョコチップつきフランスパンを手に持つナナは立ちふさがるララに多少びっくりした様子だが、真剣な表情で沙姫の前で庇う姉を見据える
「…何を手こずっている」
「凛…ッ!」
すっとナナの後ろから姿を現す…紋付袴。新選組の装いをした沙姫の従者が現れた。凛々しい彼女によく似合っていたが襟と背中には"ルンちゃん激ラブ萌え萌え親衛隊"と恥ずかしい文字がプリントされている。"ルン"のところはマジックの二重線で消されていたが、そこに入るべき二文字が何なのかは沙姫にはよく分かっていた。もしもその文字が入ったら…と先を想像して笑みをこぼしそうになるが、なんとか沙姫は堪える。
「沙姫様…無駄な抵抗はやめて私に…ついてきてもらいます」
「クッ……誰か…誰か助けはいないんですの!?」
「助けなら…此処に居ます!」
誰?!と沙姫が振り向くと其処には…
「癒やしの光ぃっ!春菜ホワイトぉッ!清純清楚にただいま参上ぉッッ!」
やけくそといった具合に叫ぶ春菜。お兄ちゃんのばかぁ!と続けて叫ぶ、ふわふわ真っ白、ゆるふわメイドコスを可憐に着こなし、その姿は白百合の妖精のよう。美しくも愛らしいその妖精には誰もが目も、心も奪われるだろう…が、その頬は赤く、瞳も羞恥と憤怒で潤み、どこかをじっと睨みつけている。妖精はかなり無理をしているらしい、原因はスカートがやけに短い事、だろうか、ぎゅっといった具合に裾を握りしめている。まさかお気に入りの青が見つからず、穿いてないなどとは沙姫が知る由もなかった。
「ララさん!これで変身してッ!」
「!」
ぱしっとララに投げつけられるペケ。しっかり受け取ったララの体が光に包まれ…
「天然系!発明品で何でも解決!ララーーーー!ピーーーーンクッ!」
《ララたん、とらぶるエネルギーフルチャージ完了済みだぎゃ…なんですかこの喋り方は…》
ケーキのクリームで悩ましい部分を僅かに隠し、艶かしさ抜群のララ。Vっとピースで天真爛漫な笑顔。ふるりと揺れるメリハリボディもお色気全開…というよりララの無邪気さで健康的さが優っていた
「まままままま巻き込まれけ‥「たっぷり果汁で
ドンッと背中を押され名乗りを奪われるリトピンク(ジャージ)。うわっと転び沙姫・ナナへと抱きつき押し倒してしまう。沙姫のごわごわと布越しの柔らかさとレザー地のナナのペタペタ大地がリトの純情心を大いに刺激した。勿論それは喧嘩女王とチンピラ少女の怒りの琴線も大いに刺激した
「敵か味方か分からない…破壊の使者…金色ブラック、もう貴方の日常は平凡ではいられない…」
いつもの
「ああっ!リトピンクが!タイヘン!でも名乗りたーい!だから名乗るよ!みんなっ!せーのっ!」
「「「「帰ってきた!とらぶる戦隊!無印原作をもっかい読むんジャー!」」」」
ボロボロにされたリトがフローリングと壁にぶつかり、ガシャン!ガシャガシャ!パリンパリン!と食器の割れる音が響く、体操着にお玉&エプロン装備の美柑オレンジの眉がピクリと上がる…なんとも現実的な登場音だった。
その時、刺激的すぎる魅惑の悪役、大ボスのモモは一人キッチンの影で「ええっと…私の台詞は『フフッ…紋付袴サムライガールがやられたようね…しかしヤツは天条院シークレットサービス内では最弱…真の最恐・最悪はこの私…サキュバスクイーン、モモ・ベリア・デビルークなのだから…貴方達、吸い尽くしてア・ゲ・ル』でしたわね、ああっ何という大役、しっかりあの方に向けて演技をしなくては…うふふ♡そのあとホントに吸い尽くしてあげちゃったりして…うふふふふ♡」いそいそと鏡で自身の姿、レースクイーンコスをチェックするモモ。悩ましい白い躰を覆う真っ赤なハイレグ・レオタード。背には悪魔を思わせる小さな黒翼。モモ本来の色香も相まって十分に男を惑わせる姿であった。さて、そろそろ出番…とキッチンから舞台である玄関へと向かう…と
「…よっよく来たわね、小娘たち…真の最恐・最悪…ハレンチクイーン、古手川唯が貴方の精を吸い尽くしてア・ゲ・ル…わ、よ…」
破廉恥ボディを覆う真っ赤なハイレグ・レオタードに妖艶に仕立て上げさせ、背には悪魔を思わせる小さな黒翼。唯本来の色香も相まって十分すぎるほどに男を惑わせる姿であった。声は羞恥で若干震え、頬も上気していたが、なんとか真面目に演技している…それが更に淫靡であった
ガーン!と出番も台詞も格好も奪われ絶句のモモ。
…モモの秋人へのヘイトが臨界を突破した瞬間であった。
「みんな!最後の攻撃だよー!」
登場素早く最後の攻撃をお見舞いする"原作を読むんジャー"の4人。ガッと沙姫の両肩を抑える
「な!なんですの!?私を裏切るんですの!?ララ!?」
「ゴメンね!サキ!ちょっと我慢してね!」
キャー!うらぎりものぉぉお!ゆるしませんわよぜったいにぃいい!と二流悪役の捨て台詞で消える、流される沙姫。
「や、やっぱりこんな扱い…!ここは…「おや?君は…?」」
"じゃーじゃーワープくん"で流された先、そこはザスティンたちの宇宙船であった。湯上がりのほかほかとした湯気を上げるザスティン、沙姫の想い人がそこに立っている。驚愕し困惑する中、じんわりと暖かいものが胸に広がっていく。辛い時、困難にぶち当たった時は想い人の姿を見るだけで癒される思いになれるのだ
「ざ、ザスティン様…」
瞳を恋に潤ませる沙姫…―――はたと気づく。この案、この演劇を誰が練ったものかと。
ただ単に何かに釣られただけならば沙姫とザスティンに連絡して引きあわせてしまえばいい、だがそれをせず、こうして回りくどいやり方で、思いがけずの出逢いを味合わせてくれたのだ。最初に出会った二人のように…その為に先程の無礼すぎるララ姉妹と、その友人たちにも根回しをしたのだろう…―――
ふっ下僕のくせに生意気ですわね、と沙姫は一瞬苦笑をひらめかせ、だが直ぐに柔らかな
目の前には美しい青い惑星を背に立つ、金髪の、彼女の王子様がいるのだから、一秒たりとも無駄にはできないのだ
(―――でも、まあ…少しくらいは貴方にも感謝してあげますわ、秋人)
そうして幸せな笑顔を一層濃くする沙姫なのであった。
このように沙姫にも幸運が訪れた。
5
幸運のララ巫女ブームが一段落した放課後。
「そういえばララさんに幸運はあったの?」
「んー?私ー?」
教科書とノートを几帳面に整理しつつ春菜はずっと気がかりであった事を尋ねた。ララが幸運にしてくれるのであれば、誰がララを幸運にするのか気になっていたのだ。
唇に指を当て、んーと小首を傾げるララ。やがて一つの出来事へと思い当たりエヘヘとはにかんだ笑顔をみせる
「ウン!リトとデートしたよ!」
満面の笑みを浮かべてみせるララ。幸せといったその笑顔につられて春菜も笑顔になる。
「そっか、楽しかった?」
「ウン!」
大きく頷くララ。恋に学生生活に、と大いに充実した日々を送る目の前のプリンセスは体の節々にまで瑞々しいパワーで漲っているようだった。見るもの全てに元気をくれる…太陽のような、そんな弾ける魅力がある。と春菜は思った。当然、恋する春菜も同じ活力がある…ララとはタイプの違った、控えめで、優しげな…月の癒やしであったが。
「そっか…良かったね。ララさん…どんな楽しいことあったの?」
「んーとねー」
ララの活力に満ちた自然な輝きに惹かれた春菜は自身の参考に、と尋ねた。勿論、想い人との素敵ラブラブライフの参考にするつもりなのだ。
「リトと一緒に歩いてる時に「どこかにリトの好きなカラアゲが落ちてるといいねー!」って言ったらほんとに落ちてて二人でびっくりしたり」
「うんうん」
そんな偶然、あるものかな?と春菜は思ったが黙認する。ララの周りでは不思議で楽しいことがあって当然な気がしたからだ。
「いい天気でぽかぽか陽気だったんだけど、「リトもう春だねー!でもどこかの国では雨が降ったり冬だったりなんだよね?んー…暑い、もうちょっと薄着がよかったかなぁー…こんなに暑いと濡れてるヒト見て涼しくなりたいね!」って言ったら全身ずぶ濡れのヒトが歩いてたり」
「?うんうん」
誰かな?と疑問符を浮かべる春菜、なぜか日曜、「漫画読んでたらドブに落ちた…ドジっ子だったらしい俺」とずぶ濡れになった兄の姿が思い浮かんだ
「"マジカルキョーコの溶岩風呂"を探しに行ったんだけど…なんかお風呂が詰まるとかいう理由で生産中止になってて、それでどこにも売ってなくてってガッカリしてたら!なんと!ウチの玄関前に落ちてたんだよー!リトと二人で大喜びしちゃったー!」
春菜は「あはは…良かったねララさん」と苦笑いでそれに応える。ラブラブライフの参考にならなかったからではない。おそらくその日、朝も早くから出掛けた秋人は、ララの欲しがるソレを手に入れるため奔走していたのだ。勿論、そんなことを素直に伝えるはずもなく「どこにいくの?お兄ちゃん」と尋ねる春菜に「春菜に似たパクリがいるらしいからな、その調査だ調査。嫌がらせしてくる」とだけぶっきらぼうに答えただけであったが。
(…今日帰ったらお兄ちゃんにウンと優しくしてあげよ、)
心に満ちる慈愛の気持ち、いつも自分を
「どうかしたのー?春菜ー?」
「ううん。なんでもないよ、ララさん。」
遠い茜雲にぼんやりと目をやった春菜はうつくしい夕焼け空に秋人の笑顔と恋する気持ちを浮かべ、目を線にして幸せそうに微笑むのだった。
―――こうしてララにも幸運があった。
その同じ夕暮れ時、同じ校舎屋上で一人、夕焼けの斜光を灯りに本を読みふけるヤミ。本に暗い影が落ちていく…雲が灯りを隠したのだ。
「…。」
そろそろかな、と頭を上げる…視線の先には彼女がずっと待っていた青年が「なんか最近、妙に大変だったな…なんだったんだ一体…」などと呟き、だらだらと気だるそうに歩いていた。
「…」
その背をぼうっと見続けるヤミ…人形のように完璧な造形を同じく儚げな茜色が染め上げる…表情からは何を考えているのか…分からない。だが、彼女の親友がみれば、僅かに上る口元から何か良いことがあった、と読み取ることだろう
――――――そうしてヤミには幸運は訪れなかった。
彼女にも幸運が訪れるのは、もう間も無くの
「……ふふ♡せんぱい…ヤミお姉ちゃん…ドキドキ♪」
漆黒の瞳に妖しい輝きを灯し……そんなヤミの監視を続ける一人の少女。
(―――"金色"から心を奪い、本来の
「ウン…
自身の裡に闇を住まわせるメア……黒咲芽亜。
彼女が闇と決別し、確かな光を手に入れるのも……――――――
(―――所詮この世は暇潰し。
――――――あたらしい、季節での話。
感想・評価をお願い致します。
2017/07/30 一部修正