今日の幻想郷の空は、雲がほとんどなく青い。一度紅に染まった事があるが、それを解決した二人の人間がいた
その片方は、日も昇りまだ気温も上がる今、そんな青い空を力なくフラフラと飛んでいた。今にも墜ちそうな金髪の少女は、カクカクと船を漕ぎ、目を開いたかと思えばじわじわと目を閉じていき、また船を漕ぐを繰り返していた
少女はとある少女の元へと向かっていた。毎日のように、実際に毎日。それは少女の習慣と化していた。頭の中には少女に会うこと。それだけが理性のある頭を支配しており、少女を起こす力となっていた。それがなければ飛び立って少しすれば墜落していただろう
いつもの2割ほどの速度で飛んでいたそれは、ゆっくりと着実に目的地まで近づいていた
博麗神社は幻想郷の要である。もしこの神社が、いや、ここにいる少女がいなかったら幻想郷はなくなっているかもしれない。そんな少女は、家族4人が生活していてもおかしくはないほど広めの空間で、たった一人で生活していた。その少女こそが、紅い空、通称『紅霧異変』を解決したもう一人の少女、博麗霊夢だった。少女は巫女であり、妖怪退治を生業としておきながら、当の妖怪には好かれていたりするという、背反した少女だった
縁側に座り茶を啜る。一人で生活する彼女の、唯一の暇潰しだった。別段人も来ない、やや寂れたその神社は掃除もそこまで必要とせず、すぐに終わってしまう
幻想郷は外の世界の文明とは違い、忘れられたものの行き着く楽園な為、電気を使ったりする娯楽は全くといっていいほど無く、少女は暇つぶしも兼ね縁側でお茶を啜っていた。霊夢はモノに固執をしない正確な為、必要最低限+αしかないような神社では、子供が遊ぶような娯楽品すら無かった
持ち前の超人離れすらした、未来予知にさえ匹敵するそのカンではなく、長年の付き合いにより熟知した気配とその力の雰囲気、そしてそれらによるカンで少女は金髪の、モノに固執しない彼女が固執する、その中でも群を抜いて固執している少女がくると確信した。いつもより遅い時刻にやって来る彼女を歓迎しようと思い、煎餅を追加した
いつもよりゆっくりとした動作で飛んできた金髪の少女は、飛ぶだけでなく歩くのも不安定で、歩く度に金髪が大きく揺れる
「いらっしゃい魔理沙、おはよう・・・でいいのかしら?」
そう問うた霊夢の発言からたっぷりと5秒、金髪の少女・・・霧雨魔理沙はその眠気から静寂を決め込み、あ?とだけ返した
「・・・あー・・・おや・・・すみ・・・」
霊夢の発言から10秒も経った頃に返ってきた言葉は、果たして会話として成り立っていたのか。霊夢はくすりと笑い
「また夜更かし・・・いいえ、さっきまで研究かしら?」
未だにフラフラと頼りなく歩く少女は、しかし一点を見つめていた。一心不乱に、霊夢を
返答が無かった為にもう一度聞こうかと思った矢先
「・・・霊夢の・・・ひざ・・・って」
気持ちよさそうだな。ポツリと呟いたそれは、霊夢の耳には届かない
「ん?どうかしたの?起きてる?」
魔理沙は抑揚のない声で「霊夢の膝・・・まくら・・・」と力なく言う。その異様な雰囲気に気づいた霊夢は焦り出す
「あ、眠いのね。そうなのね。ね?だからお布団用意しなくちゃ。そっちの方がいいもんね。こんなところで寝られたら困るし、うんそれがいい。そう」
説得を試みて、強引に立ち上がろうとすると、目の前に迫っていた魔理沙は霊夢の服を掴んでいて、そこを支点にして霊夢はコケる事になる。いたた・・・と肩を抑え、文句を言おうとしたが、靴を脱ぐことすらしないまま縁側に立ち、霊夢を見下ろす魔理沙の、その威圧感に気圧される
抵抗しようかと思ったが、そのオーラがそれまで霊夢が味わったことのない何かを感じ、冷や汗が出てくるほどだった
双方が何も言わない静寂な一時は、体感で何時間と感じるほど、霊夢は追い込まれていた。魔理沙は倒れ込むように霊夢の太股に頭をダイブさせる。所謂膝枕だ
霊夢は一瞬ビクリと身体を震わせたが、すぐに事態を飲み込み、どかせようとする。が、魔理沙は退くどころかむしろ抱きついてくる。抵抗虚しく、魔理沙は動くことをしない。霊夢は振りほどくのを諦め、掴んでいた手を離すと、魔理沙は上機嫌そうな顔に変化させ、ものの数十秒のうちにぐっすりと眠り始めた
その安らかな寝顔をみた霊夢は一瞬何かがこみ上げてきたが、すぐに閉じ込める。やや傷んだ金髪を弄り、勿体ないなと呟く
そもそもどうして自分は抵抗したのだろう。霊夢はそう考え始めた。まさか好きだとか?いや違う、これは好きではない。そう、邪魔になるからだ。それが嫌だった。そうに違いない。洗脳するように反芻させ、脳内に刷り込んでいく。それでも顔が火照るのを抑えることは出来なかった
チラと魔理沙の寝顔を見る。それだけで虜にされてしまう。全てを意識してしまう。これを恋と呼ばないなら何と呼ぶのか。しかし霊夢はそれを受け入れたくなかった。もしそれが恋だとして、魔理沙はどう思っているのか。それを考えると、やはり一歩踏み出せないのだ
「もう・・・可愛い寝顔見せて・・・」
こんな無防備に。その言葉は心の中だけで言い、空気の振動には変換されなかった。ゴクリと喉を鳴らし、周りを見渡す。誰もいない。そうわかると、その魔理沙の唇に顔を近づけていく。今の彼女の顔は面白いほどに紅く火照っており、知ってる人がこの場にいたら確実に冷やかしの一言をかけていただろう
尋常じゃないほどの緊張感に襲われ、身体が震えている。そしてキスをする。それはほんの少し、1秒にも満たない上に、軽く触れる程度だったのだが、それでも霊夢は先より顔を真っ赤にする
内心起きないかとドキドキしたが、眠りが深いらしく全く起きない。そもそも魔理沙は朝に弱く、不規則な生活もしているため、一度寝ると中々目を覚まさない
スヤスヤと眠りこける少女は白雪姫のようで、しかし性別的にも王子ではなく、どちらかといえば王女な彼女のキスでは起きないらしい
やってしまうことをやり遂げると、後は謎の虚無感が全身を包み込む。そして春も中頃と言った、太陽が暖かく気持ちいい今日この頃。その二つが霊夢に欠伸を推進する
急に眠気が襲い出すが、それに耐え髪を撫でる
今日は泊まらせてでも普通の生活をさせようと決め、献立を考える。魔理沙の好きな食べ物でもいいと思いながら、外の景色をぼうと眺める
気がつくと、視界いっぱいに魔理沙の顔が映る。つい先程まで膝枕をしていたと思っていたのだが、外の景色はやや赤みがかった空になっていた。霊夢はいつの間にか寝ていたらしい
目が合った瞬間、寝ぼけていた霊夢は呆けていた魔理沙の、だらしなく空いた唇に顔を近づけ、そして魔理沙に倒される
霊夢が寝てから5時間以上過ぎた頃、マリサは自主的に起きた。まだ寝たりない脳が悲鳴を上げるように眠気を出すが、それよりも目の前に広がる霊夢の顔にビックリして目が覚める
そしてやや混乱した頭を動かし、経緯を考え始める。が、イマイチ思い出せない
取り敢えずどうしようかと考え、膝枕をしていた・・・正座の状態で器用に寝ている霊夢を見て、思いつく
「私だけがやられるってのは、しょうに合わんからな」
それは本心だったのか、それとも屁理屈だったのかは、魔理沙には分からない
「・・・こ、こんなもんかな・・・」
頭を太腿の上に載せる動きはぎこちなく、見よう見まねでやるしかなかった
「・・・正座なんだよな・・・」
座る時は胡座をかいていて、いつも正座をする霊夢に比べて圧倒的に正座に慣れていない魔理沙は、いつ脚が痺れてもおかしくなかった。それに痛みや慣れてないために起きる不快感など、いつもの彼女なら数分もすればといているであろう
それでもとこうと思わないのは、霊夢という大親友・・・それどころかある一線を越えかけた存在。魔理沙からしても、霊夢は特別な存在だった
「・・・暇だぜ・・・」
いつもならばなんだかんだで稚拙な会話を霊夢と交わしている。内容の特にない会話でさえ、二人にとっては大きな意味を持つ
「・・・喉、渇いた・・・」
辺りを軽く見回す。するともう冷めた、飲みかけのお茶がぽつぜんとあった。これ幸いと一気飲みをする
そして空になった茶碗を少しの間見つめ、そして急須に手を伸ばす。急須も近くにあり、手を伸ばせば充分届く位置にあったのが幸いした
淹れたての熱さは既に空気中にあらかた放熱され尽くし、そこにあるのは外気とほぼ同じ温さのお茶だった。しかし霊夢は魔理沙が来ることを予感して、継ぎ足していた為、量はそこそこあった
もう一杯継ぎ、またもや一気飲みをする。大きく息を吐き、外を見つめる。気がついたように太腿の上に乗っかって、安らかな寝息を立てて寝ている少女を見つめる
「・・・・・・」
イタズラ心が芽生える。厳密に言えばそれは慈愛という名が付くものだ
小手調べと言わんばかりに、髪を弄る
「・・・サラサラしてる・・・気持ちいい・・・」
気持ちよさそうにへにゃりと顔を歪ませる。ここに新聞記者がいれば、それを撮ってネタにしているであろう。それほどにいつも魅せる表情とは違っていた
何分も触り、段々とある気持ちが芽生え始める。それは小さな根を張るただの若葉だったが、加速的に成長していき、若木へと成長していった
この髪の毛に頭を埋めたいと思う気持ちは、ものの10分もしないうちに大きな木のように心を埋め尽くしていった。緑は心を落ち着かせるというが、今この時の魔理沙は全くと言っていいほど落ち着きを持たず、ある一つの感情が暴れだしていた
「・・・い、いいよな?れ、霊夢が悪いんだ。うん。私の膝の上で寝てるコイツが悪い」
寝かせたのは自分だということはすっかり頭から抜け落ちているらしい。ちょっとだけ・・・と顔を近づけ・・・
「うぅ・・・ん・・・」
霊夢の顔に魔理沙の、しかしそれは小さい胸が当たってしまう。その圧迫感が不快だと感じたのか唸るが、起きる気配は見せない。確実に驚いた魔理沙は慌てて背筋を伸ばす。しかし首は曲げたまま、霊夢を見ることをやめない
「・・・び、びっくりした・・・」
先程までの緊張による胸の鼓動と、驚きによる鼓動により、心臓が荒ぶるように全身に血液を送り出す。高すぎる血圧が魔理沙の顔を赤く染めあげる
やや落ち着いた頃には、髪に対しての感情はだいぶ薄れていた
「・・・」
「お、起きたか。おはよう」
全く状況を理解してない、しようとしない霊夢の脳が、鈍く動く。ややあって、目の前にある魔理沙の顔が何かおかしなことに気づく
「・・・」
頭の下敷きになっているのは、間違いなく魔理沙の太腿で、自分の右手は魔理沙の左手と繋がっていて、そんな魔理沙の顔は今まで見たことがないほど晴れやかで
そしてすべてを理解する
「・・・この、変態!」
「いてっ!なんで!?」
霊夢はその暇な左手で、魔理沙の腹部を殴っておいた
静かな時が流れる。聞こえるのは液体を啜る音と、パキンと煎餅を割る音。それは何故か重なって聞こえてくる
「・・・ねぇ、なんで私の真似をするのかしら?」
「いや、それはこっちのセリフだぜ」
お互いはお互いの時間を保って、自分のしたいように行動している。しかし鏡合わせのように同じ行動をとっている。立ち上がるのさえ同じで、何故か気まずくなり、やはり同時に座る
外は暗くなり、星空が綺麗に映し出されていた
霊夢はぼんやりと、今年も流星群の観察をしようかしらと。魔理沙もぼんやりと、今年は流星群の観察をするんだろうかと
(書く事)ないです
まあ強いて言うなら改変+増量版を出したいと思ってる位です。何時になるかはもちのろんわかりませぬ