憑依時津風とほのぼの鎮守府   作:Sfon

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お久しぶりです。この辺で一旦区切りかな、と考えています。長い間お付き合いいただきありがとうございました。まだ本編をご覧でない方はぜひそちらもよろしくお願いいたします。


時津風、はじめての夏祭り。

 夏も終盤、涼しい夜の日が続くようになってきた頃、鎮守府には一大イベントがやって来た。夏祭りだ。

 

 艦娘たちのことを深く知ってもらおうと始まった鎮守府での夏祭りは、いまや地方のイベントになっている。夏祭りを目当てに多くの県内、県外の人が鎮守府にやって来るため、各種交通機関は祭り前日から最終日まで大忙しらしい。

 

 

 

 ここ、横須賀鎮守府では祭りの一ヶ月前から準備が始められた。例年の来場者数を考えると、祭りの各種備品整理などはそのくらいからやらないと到底終わらない。休日になると駆逐艦たちはパンフレット作り、駆逐艦以外は出店(でみせ)の骨組みを組み立てて並べるのに追われた。

 

 司令と秘書官も例外ではない。二人は本部から与えられた予算の各部分への分配やら出店の売り物の仕入れなどをまとめて行い、スケジュールも管理する役割を担っていた。司令は毎年の事ながら忙しく、秘書艦の私に至っては勝手がわからず、何かと司令に質問しては黙々と仕事をこなすのに専念するしかなかった。

 

 特に祭りの準備初日は、それはそれは大変だったそうだ。朝御飯を食べ終えて執務室に戻った二人は仕事に取りかかる。前々から伝えられていたとはいえ、ハロウィンパーティーやお花見とはスケールのまるで違う行事に時津風は心踊らせる。当日が楽しみなのもあるが、それと同じくらいに準備も好きなタイプだった。

 

「よし、時津風。今日から準備始めるぞ」

 

「お、いよいよだね。それで、何をすればいいの?」

 

 聞くと、司令は机から大判の書類の束を取り出した。

 

「これは?」

 

「去年の夏祭りの資金割りのデータだよ。何にどうお金を使ったかが書いてある」

 

「ほー、で、何をするの?」

 

「まずはここにかいてある購入物の値段を改めて調べてくれ。予算の振り分けはそれからだ」

 

 司令から紙束を渡されると、ページをめくっていく。底には細かな字で購入した物の名前と個数、単価、金額が羅列されていた。パンフレットの印刷代から当日販売する艦娘グッズ、出店の食べ物まで多種多様な物品数その数約50種類。

 

「えっと…これ全部?」

 

「全部だ。大口注文になるから、基本的に卸業者から直接買えるようになってる。とりあえずは買い付ける業者を決めて、単価もメモしておいてくれ。そこで予算が初めて割り振られる」

 

 前回利用した業者の名前と連絡先がある分まだマシだが、それでもかなりの時間がかかるであろうことは容易に想像できる。

 

「……期日は?」

 

「明日の朝まで」

 

 ここで今日中と言わない辺り、司令はその作業量を分かっているらしい。優しいのか厳しいのか。

 

 当然ながら、作業は夜遅くまで続き、翌朝、満身創痍ながらも司令に書類を提出すると、ベッドに身を投げる。カーテンの隙間から射し込む朝日を横目に、眠りに落ちていった。

 

 

 その後も仕事は終わる気配を見せない。一般客が居なくなった夜に行う艦娘向けの屋台で使う、お金の代わりの引換券の希望を各艦娘から取り、そのぶんを作って小袋に仕分けをするのはかなり重労働だった。如何せん艦娘の数が多いのだ。一人当たりはそれほどの量でなくても、人数が増えればとたんにキツくなる。

 

 数日後、資材が届いたところで、鎮守府をあげての本格的な準備が始まる。駆逐艦たちはパンフレット作りに励み、他の艦娘は屋台の設営や展示物の設置に取り組む。それらの進行状況を司令と秘書艦の時津風が把握し、今後の予定を調整していく。

 

 夕方になり外での作業が切り上げられると、時津風は作業場所を見て回ってその日の成果を確認し、手もとの用紙に書き込んでいく。まずは室内でパンフレットを一日ひたすら作っていた駆逐艦チームがいる会議室を訪れる。ドアを開けると、部屋の真ん中に置かれた大きな机に突っ伏している駆逐艦たちの姿が。第六、七、十六駆逐隊の総勢11全員が同じ格好で休んでいる光景はなかなか見れるものでもなく、思わず笑ってしまう。

 

「お疲れさま、見に来たよ。何そんな格好してるのさ」

 

 笑い混じりに声をかけると、天津風が重たい体を起こす。

 

「お、ご苦労様。今日は結構進んだわよ」

 

「うわぁ、これまたずいぶん頑張ったねぇ…」

 

 机の上にはパンフレットの案がきれいに並べられている。今回の夏祭りの見所を分かりやすく伝えようと簡潔な文と絵で構成されたそれは、よほどの時間がかかっていると思える。

 

「この四枚が私たちで、そっちが曙たち、あっちが雷たちのよ」

 

「おー、こうしてみるとやっぱり隊ごとに何となくの方向性があるんだね」

 

 進行状況表に「良好」と書き込むと、次の場所に向かう。今度は外に出て屋台の設営パートのところへ。まだ準備が始まったばかりというのもあって、構造物はまだ見えない。今は区画割や配置などを決めているそうだ。地面に引かれた線はおおよその屋台の配置だろうか、鎮守府の玄関から入り口に向かって多少の枝分かれがありながら続いている。それだけでも、この夏祭りの規模の大きさがわかる。

 

 すでに日は傾いていると言うのに、外に出ると湿度の高い熱気が体を襲う。それを何とか耐えながら進んでいくと、加賀さんが入口から歩いてきた。どうやら加賀さんが最後に点検して回ったらしい、他の艦娘は見当たらない。

 

「お疲れ様です、加賀さん」

 

「お疲れ様。一応一通り確認したからたぶん大丈夫だとは思うけれど、念のためお願いするわね」

 

「わざわざありがとうございます」

 

 端から一通り確認して、調査表に可と書き込む。それなりに進んでるけれど、これで間に合うんだろうか…。

 

「あの、ちょっと聞くのはアレかもしれませんが、その、これで間に合うんです?」

 

 そう聞くと、苦笑いで返事された。

 

「まあ、前日に徹夜すればなんとかなるのが例年ね、恥ずかしいことだけど」

 

 

 

 

 

 それからの毎日は、誰も休む暇がなかった。朝起きて体操代わりにお祭り準備。遠征から帰ってきて気分転換にお祭り準備。ご飯を食べて腹ごなしにお祭り準備。寝ているか出払っているかご飯を食べているかお祭り準備しているか、そんな日が続く。

 

 

 

 紆余曲折ありながらも、前日の夜、なんとか準備が終わったのだった。もっとも、食べ物関係に割り当たっている者はこれからが本番だが…。

 

 

 

 いよいよ夏祭り初日当日。四日日程で行われるこの夏祭りは、最終日の来場者がとびきり多い。フィナーレの打ち上げ花火があるからだ。出店は食べ物やら紐クジやらいろいろあるが、なかでも射的や輪投げといった商品がもらえる類いの物は人気だ。

 

 朝御飯を食べて間もなく会場の最終準備を行う。食べ物の屋台は仕込みを、その他の屋台は品出しやら何やらをこなすと、あっという間に開場時間の朝十時になる。

 

 

「うわぁ…話には聞いていたけど、こんなに集まるのかぁ」

 

 

 本部になっている執務室から覗く視線の先には入場門と、その奥に並ぶ来場者の長蛇の列が。ざっと見積もっただけでも三千人は超えているだろうか。毎年初日は混むと言うことで二日目以降に多くの人が来るそうで、初日はまだ甘い方らしい。そう考えると、明日以降が思いやられる。

 

「がんばれよ。今日が無理なら明日はとてもじゃないが無理だからな」

 

「そんなに?」

 

「ああ、あれはもはや戦いだ」

 

 

 

 

 しばらくすると、ファンファーレがなり、門が開く。

 

 あくまでも夏祭りだと言うのにどこぞのテーマパークのような光景に思わず固まってしまう。

 

「……これ、夏祭りだよね?」

 

「ああ、夏祭りだ」

 

「なんで某ネズミーランドみたくなってるのさ?」

 

「いや、以前はここまでじゃなかったんだが、艦娘の仕事なんかの展示の他に、どこぞのモノ作り艦が趣味で作ったアトラクションを穴埋め的に展示したら思いの外反響があってな。それから調子にのって予算を渡し始めたら、いつのまにかこんな風に、ね」

 

 

 

 初日はあっという間に過ぎた。開門から少したつと迷子のお知らせをしたり、混雑情報を流したり、出店からあれやこれやと報告が入ったり、仕事は途切れることがなかった。

 

 慌ただしく次から次へと舞い込んでくる仕事を片っ端からこなしていくといつの間にかお昼時に。しかし、休むことはできない。むしろ昼に差し掛かると同時に迷子の件数は増え、トラブルも相次ぎ、一段落できたのは3時を回ってからだった。

 

「司令、ぶっちゃけ、すごくキツイんだけど…」

 

「あー、こればっかりは頑張れとしか…」

 

「ご褒美、期待してるからね?」

 

「努力はしよう…」

 

 

 

 夕方、展示や艦娘の出し物がすべて終わった頃、時津風は執務室に戻って司令と一休みしていた。司令と時津風はソファーに並んで座り、背もたれに体を預けきっている。その格好からは、司令はまだマシなものの、時津風に関してはよほど疲れたように見える。

 

「これがあと三日間も続くの…きっつ……」

 

「明日からは多少楽になると思うぞ。開催側は今日で仕事に小慣れているだろうから、あとは迷子やら道案内をこなせばなんとかなるはずだ」

 

「うぅ…まあ、頑張ってみるよ。ご飯になったら起こしてね、ちょっと寝るから」

 

「おう、お疲れ様」

 

 

 

 夏祭り初日はご飯を食べると直ぐにベッドに横になり、一日が終わった。

 

 

 

 翌日は、朝は初日ほどではなかったものの、昼過ぎから一気に人が増えた。今年は例年に比べて気温が高く、休憩室はいつも満員近く。熱中症にかかり、救護室に運び込まれる人も出てきたほどだ。しかし、その暑さのお陰で飲み物や冷たい食べ物の売れ行きは好調。かなりの収益をあげるであろう事が期待できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか最後まで大事なくできて良かった…」

 

「四日間お疲れ様。もう俺たちの仕事は無いから、最後くらいはゆっくり休もうか」

 

 

 

 話しながら司令が手を時津風の頭にのせて軽く撫でてやると、少しくすぐったそうにした後、目を細めて頭を司令の肩に預けた。

 

 経験したことすらなかった夏祭りの実行側をこなした時津風は、そうとう気疲れしていた。鎮守府内だけならともかく、一般の方も参加する今回は毎日の仕事とは桁違いに神経をすり減らすものだった。

 

 

 

「明日はゆっくりさせてもらうからね…」

 

「あー、すまん。明日は一日かけて片付けだ。それが終わったら次の日は丸一日休みにするから、それまでなんとか頑張ってくれ」

 

「お、おぉ…きついなぁ…。まぁ、がんばるよ」

 

「頼んだ。それで、この後は打ち上げ花火だけど、ちょっと着てもらいたいものがあってさ、これ、頼むよ」

 

 

 

 手を離された時津風は、少し不満気な表情で司令を見上げる。それに苦笑しながら司令がソファーの脇から紙袋を取り出して渡す。受け取って中を覗くと、そこには何やら服が。

 

 

 

「何これ……浴衣? ずいぶん子供っぽいね、いや、この見た目にはこのくらいがちょうど良いんだろうけどさ」

 

「背丈を考えるとどうしてもな。女の子が夏祭りに行くならやっぱりこれだよなって思ってさ。頼むよ。着付けはお願いしてあるから。そろそろ来ると思うんだけど…」

 

 

 時津風は夏祭りを含め、イベント事にはあまり参加してこなかったのもあって、夏祭りに浴衣と言うのは本当に有るのか、と言うのが最初の印象だ。

 

 暫くすると、ドアのノックされるのが聞こえた。中に入ってもらうと、そこには加賀さんが。

 

 

「失礼します。着付けをしに来ました」

 

「お、ありがとうな。それじゃあ頼むよ」

 

「はい。それでは時津風は浴衣をもってこちらへ。寝室をお借りしますが良いですか?」

 

「ああ、構わないよ。好きに使ってくれ」

 

 

 加賀さんについて行き寝室に入ると、まず服を脱ぐように言われた。あまり関わりのない相手の前で下着姿になるのは少し抵抗があるが仕方がない。

 服を脱ぐと、浴衣の下に着るうすい着物のようなものを着せられ、次いで浴衣を着せられ、帯を結ばれる。

 

「はい、完成です」

 

「ありがとう、加賀さん」

 

 一言お礼を言うと、司令のもとへ行ってお披露目する。

 

「どうよ、司令」

 

「……予想以上だ」

 

 平静を保とうと表情を抑制しながらサムズアップする司令は、とても奇妙に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りはすっかり暗くなり、出店の灯りが煌々と海辺を照らす頃、時津風と司令官は鎮守府の裏山に二人で登っていた。蝉のがうるさいほどに響き、それがかえって、気持ちをノスタルジックにさせる。

 

「なんだかんだ言って、もう終わりかぁ……」

 

 二人並んで歩いていると、司令が唐突に呟いた。それまで会話らしい会話をしていなかったためか、返事に間が空く。

 

「一度始まると早かったね」

 

「準備が大変だっただけにな」

 

 そう言うと、労をねぎらうように頭を撫でてくる。もったいない気がするが、誰かに見られている気がして手を取り、指を絡める。少し力を込めると司令も握り返してくれて、思わず笑みがこぼれる。

 

 開けたところに出ると、わざわざ持ってきた折り畳みの椅子を広げて司令が座る。一つしかないが、司令の思い通りにされるのは癪にさわるので、少し抵抗してみる。

 

「これ、私が座ったら壊れたりしない? 結構重くなるよ?」

 

「大丈夫だって。耐加重は調べてあるし。お前軽いだろ」

 

「むー…、一応さ、一般人も居るんだし見られる可能性も考慮した方がいいと思うわけ」

 

「まあ、万が一見られても親子とか勝手に解釈してくれるだろ」

 

「不本意ながらね」

 

「そうふくれるなって。ほら、そろそろだぞ」

 

 司令に急かされてあくまでも「しょうがなく」膝の上に乗ると、若干軋みながらも壊れることはなかった。頭を司令に預けると、腕が延びてきて胸の前で組まれた。全く、ここまでしては父娘になんて見えないだろうに。

 

 

 

 しばらく司令にもたれて空を見上げていると、唐突に一発の花火がうち上がった。色のついていない。真っ白な小さめの花火。思ったよりも地味だと思ったのもつかの間、それを皮切りに色とりどりの花火が連なって打ち上げられる。砲撃とはまた違う、腹のそこまで響く花火の音は、声を出すことを許さなかった。光と、遅れて届く地鳴りのようなその音が途切れるまで、ただひたすら圧倒された。

 

 一度途切れると、ようやく司令の顔を見る余裕ができる。

 

「すごいね、これ」

 

「まだ始まったばかりだぞ」

 

 結局、花火が全て打ち上げられるまで、さんざん考えた会話の内容を一つも使うことができなかった。いや、使う必要がなかったと言うべきかもしれない。言葉を交わさずとも一つの感情を共有できる、数少ない経験だった。

 

 花火が終わって閉園のアナウンスが流れると、ようやく時間が戻ってきた。

 

「こんなところに連れてこられたから、てっきり新しいプレイでもするのかと」

 

 わざとふざけた口調で言ってみせると、司令が苦笑しながら体を左右に揺らす。それがまるで赤子を寝かしつけているようで、どうにも安心する。

 

「お前な、花火を見終わって最初に言うのがそれかよ…」

 

「いや、だって花火見た感想なんて言葉に表せないじゃん。凄かったとか、そのくらいしか表現できないし」

 

「それもそうだがなぁ。まあいいや。とりあえずこれで一区切りついたわけだが…」

 

 そこまで言うと、司令が一呼吸おいて、話を続ける。

 

「浴衣を着てる幼女が左手薬指に指輪しているとかめっちゃヤバイよな」

 

 話題を無理矢理変えたのが見え見えだが、追求せずにしておく。掘り下げると何が出てくるか分からない。

 

「幼女言うな。それ言ったらそれをさせたあんたはもっとヤバイでしょ」

 

 適当に返事をすると、胸の前に延びていた腕が解かれる。名残惜しく思っていると、手が顎に延び、上を向かされる。それも真上を超えて、のけぞるようにして司令の顔を見るまでになる。意図がわからず、司令の好きにさせているとそのまま動かないで時間が過ぎていった。司令の表情は辺りが暗いせいで今一つ見えない。

 

「………なにさ」

 

「やっぱなんでもない」

 

 司令が手を離したので頭を戻すと、やることもなくなったので立ち上がる。

 

「ほら、帰ろ?」

 

 司令に手をさしのべるが、立ち上がるそぶりを見せない。司令の視線はどこか宙を彷徨っている。

 

「どうしたのさ」

 

「……出会ったときの事を思い出してた」

 

「出会ったときねぇ…もう一年近く立つのかな、早いね」

 

 司令の言葉につられて自分もいままでの事を振り返りそうになったが、自分らしくないと思い直す。

 

「花火のせいでどうにも感傷的になってるみたいだ」

 

「みたいだね。司令っぽくないよ」

 

「お前と出会えて本当に良かったよ」

 

「はいはい。そう言うのは部屋で聞くからまずは帰ろう?」

 

 何時もとは雰囲気の違う司令の言葉に戸惑いながらも、なんとかこの場を収めようと司令を急かす。

 

 何度か声をかけると、ようやく立ち上がる。手間のかかる司令だと心の中でため息をついていると、司令は椅子を片付けようとせず、そのまま歩み寄ってくる。

 

「どうしたのさ司令…?」

 

 見上げていると、司令が背中に腕を回して抱き寄せる。普段より服が薄いからか、司令の手がくすぐったく感じる。

 

「な、なにさ、急に」

 

「いや、夢じゃないんだなぁ、と」

 

「ケッコンして半年経つって言うのに、今さらどうしたのさ」

 

「何だか夢物語みたく感じてさ。うん、帰ろうか」

 

 満足したのか手早く片付けを済ませると山を降り始める。散々かき乱しておいてそれはないだろうと思いながら、後ろをついていく。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻ると、司令から着替えないように言われた。汗もにじみ、寝る前にシャワーの一つでも浴びようと思っていたところだったので少し不満に思ったが、大人しくそのままベッドに座って待つ。司令が何か執務室で作業をしているようだ。襲ってくる眠気に耐えていると、司令がどこか硬い表情をして部屋に入ってくる。

 

「なあ時津風。写真とっても良いか?」

 

 その手にはカメラが。もちろんかまわないのだが、どうして着替えたときに言ってくれなかったのか。

 

「着替えたときに撮ってくれたら疲れた顔じゃなくてすんだのに…」

 

「いや、あのときは加賀もいたし時間も押しててだな、すまん。じゃあ、撮るから立ってもらえるか?」

 

 ベッドから立ち上がって司令の前に立つと、何枚か写真を撮られる。数枚撮られてから、ふと気づいてポーズをとる。膝に手をついて、内股ぎみに少ししゃがんでみせる。

 

「折角撮るなら見映えよく撮ってよ?」

 

 意識して上目遣いにすると、司令が唾を飲んだ。やっぱり司令は分かりやすくないと。こうでなくちゃ。

 

 それから司令が注文を出して撮るのを数回繰り返すと、満足げにカメラを棚においた。

 

「よし、ありがと。それじゃあもう浴衣は乱れても問題ないよな?」

 

 思わぬ発言に眠気も吹き飛ぶ。怪しい笑みを浮かべながら近づいてくる司令に思わず後ずさるが、後ろはベッド。回避することも出来ず倒れ混むと、司令が覆い被さってくる。

 

「ち、ちょっと待って司令、今日はもう疲れたし着替えて寝よう?」

 

「俺もそのつもりだったんだがな、お前のポーズのせいでそうはいかなくなったんだよ」

 

 いつか似たようなことがあったと現実から目を逸らそうとすると、司令の手が胸元に延びる。

 

「ただでさえ意識のなってないお前に浴衣なんて着せたらこうなるって予想ついただろうに、俺もまだ甘いよ」

 

「そ、そう。それでさ、寝たいなぁーなんて思うわけですが…」

 

 ベッドの上に逃れようとするが、角に膝の裏が引っ掛かって動けない。司令の手は襟元を撫でる。

 

「なに言ってんの? 浴衣なんて今日しか着ないでしょ? この機会を逃すわけないだろ」

 

「し、司令? その、目がイッちゃってるんだけど…」

 

「時津風…」

 

「な、なにかな?」

 

「明日は一日休みにしてあるんだ」

 

「えっ、でも片付けが…」

 

「それは俺ら以外だから問題なし」

 

「そ、それで?」

 

「最近はご無沙汰だったからな。今日は覚悟しろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 あっ………これは終わりましたわ。

 皆ごめん、明日は私、使い物に成らなさそうです。

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほどほどにね?」

 

「大丈夫さ。やってるうちにそっちから懇願してくるようにしてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 まって、今までこんなこと言われたことないんだけど。どんだけ溜まってたわけ?

 

 ………一ヶ月近いですわ。

 

 

 ………………この部屋って防音どうなのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

「実は準備期間中にちょっとした防音工事を寝室にしたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 ………………………せめて意識は保てると良いなぁ。

 

 

 

 あははははははは……はぁ…………。

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