テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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第5話 ティア、痛恨の失敗

 

 

「その首飾り……随分前に流行ったモンだ。富裕層の方々の間で『我が子の無事な誕生と妻の健康を祈って』っての。わしもあやかって亡き妻に贈ろうとしての……手持ちが足りずに、安モンの指輪に名前を彫ってもらうので精一杯……。あの時の店員殿の“渋さ”と言ったらのぅ! あははは」

 

 突然やって来た男は、突然遠い眼をして語り始めた。顔を赤らめたり、苦笑したり、頷いたりと、何とも口のよく動く男だった。

 

 ルークは「屋敷の外のおっさんって皆、こんなかよ? ウゼェ……」と思い始めた。

 ティアの方は男の話よりも、男の風体の方が気になった。顔はよく日に焼けていて、髪は白髪の多くなった黒髪を短く刈っている。そして、顔に深く刻まれた『笑い皺』がこの男の人柄を明確に示しているが、農民と言われたら、そうとしか見えない平凡な顔立ちだった。体格も中背で痩身と平凡だ。

 しかし、男の服は、変わっていた。直線的な裁断と縫製が特徴的な古代民族の伝統衣装だった。そして、腰には刃渡り50cm強ほどの軽く反りのある細身の剣を差している。なんとも珍しい恰好だった。

 

(確か……『キモノ』と『カタナ』だったかな?)

 

 ティアは、直属の上司カンタビレ謡士が、似た服を部屋着として着ていたの思い出した。「だらしないなぁ……」というイメージしかなかったが、それはどうやら、着ている本人に問題があったらしい。

 それはさておき、男の話は佳境に入っていた。

 

「まず、お嬢さんの様なお若い方が、持とうと思って持てるモンじゃあない。……ずばり『その首飾りは誰かからの贈り物。もしかしたら大切な形見の品?!』って話だの。どうかの? 当たらずとも、遠からずだろう?」

 

 男はにやり、とティアに笑い掛ける。

 

「それは、その……」

 

 ティアは、思わず口籠った。確かにこのペンダントは『兄から贈られた母の形見』だったからだ。

 

「本当かよ? そんな大事なモンを……! やっぱナシだナシ! アト払いだ!!」

 

 ルークは、ティアを咎めるように睨むと、馭者に向かって声を荒げた。

 

 

「まぁ、お前さんも食い扶持がかかってんだ……『あんま突っかかるのも可哀想』って話だ。と、そこで相談なんだがの、ご両人」

 

 男は馭者をルークから庇う様に立ち、彼の肩を気安く叩きつつルークとティアに人の良い笑顔を向けてきた。

 

「なんだよ……?」

 

「……なんでしょう?」

 

 ティアはもちろんの事、流石のルークも男を警戒するが、当の男は気にする様子も無く続ける。

 

「とりあえず首都に向かうのは、ひとまず諦めて『払えるだけ払って、行けるトコまで行く』ってのは駄目かの?」

 

 妥当な提案だった。ルークとティアは、肩透かしを食らった気分になった。

 

「いくら位なら出せるのかの?」

 

「ええと、これだけ……千ガルドです」

 

「オレは、百ガルド有った……」

 

「オヤジィ、どうかの?」

 

 ティアは法衣の袂から財布を取り出し、ルークはズボンのポケットから、コインを一枚取り出した。

 

「あ、あぁ……、これだけあれば、次の街まで行けるなぁ」

 

 二人の手のひらを覗き込み頷く。

 

「そんで、その街で首都の知り合いに手紙を出して、迎えか路銀を送ってもらうって寸法だ。もしくは、お嬢さんは教団の人の様だからの、そこの教会に駆け込むって手もある」

 

 男は満足そうに頷きながら『代案』を続けて出していく。

ルークとティアにとっても、特に文句の無い案だった。

 

「あのう……馭者さん。これで改めてお願い出来ますか?次の街まで……」

 

 少しバツが悪そうに再び頭を下げるティア。

 

「あ、あぁ良いぜ。そうだよな。形見は大切にしなきゃなぁ」

 

 馭者も同じくバツが悪そうに苦笑しながら、快諾する。

 

 しかし、この時のティアは『何処だか分らない場所に飛ばされた』事と『公爵子息を自分だけで守らなければならない』という事で、自分自身では気が付かない程度、混乱していたのだろう。

そして、魔物の巣を掻い潜り、ようやく人間に出会い、なおかつ馬車で移動できると聞けば、『気が抜ける』のも致し方ない事だろう。

 本来の彼女なら、首都までの馬車代を聞いた時点で、この渓谷の細かな地理を確認しただろう。そして、『首都』という、ある種曖昧な言葉ではなく『王都バチカル』と回りくどくとも念を押したかもしれない。

 こんな小さな行き違いが、ルークとティアの旅をより困難にする事をこの時の二人が知る由もなかった。

 

 

 

 朝の澄んだ空気を掻き分け、山道を抜け、大きな橋を渡る辻馬車。

 ルークは馬車の中で寛いでいた。馬車に乗るのは初めてだったが、なかなか快適である。これで『馬のいらない馬車』だったら「言う事なし!」……だったのだが。

 

「そういや、ご両人。自己紹介がまだだったの。『ここで会ったのも何かの縁、一期一会と行こうじゃないか?』って話だの。わしはイシヤマ・コゲンタってケチな野郎だ。ちなみに、イシヤマが家名で、コゲンタが名前だの」

 

と、世間話(もっともルークとティアはもっぱら聞き役)をしていると、イシヤマ・コゲンタが唐突に自己紹介をしてきた。

 

「ああ、そーだっけ? オレはルーク。ルーク・フォン……」

 

 ルークが名前に続けて、家名を名乗ろうとした瞬間、耳をつんざく爆音が響き渡った。

 

「なんだぁ!!?」

 

 ルークは外を見ようと慌てて窓に飛び付いた。

 次の瞬間、ルークの目に凄まじい光景が飛び込んできた。

 この辻馬車の大きさの十倍、高さにして三倍はあろうかという巨大な陸上戦艦が一隻、一台の馬車を追跡していた。

 甲板に設置された譜業砲が火を吹き、砲弾が馬車に襲い掛かる。しかし、馬車は、右に左に、と見事な動きで砲撃を躱し、凄まじい速さで戦艦を引き離していく。

 

「高速小型哨戒艦……速い。でも……」

 

「ありゃあ『漆黒の翼』とか言う盗人だの。自動四輪車とは、また珍しいモンを。しかも、動かしておる奴、盗人にしておくには勿体ない動きだの」

 

「自動? もしかして、あれが『馬のいらない馬車』か?! スゲェな! 戦艦より速ぇなんて!」

 

 小回りの利く小型艦といっても、大型艦に比べての事である。瞬間的な加速性能と旋回性能では自動四輪車に分がある。その上、駆動系が極限まで改造しているのに違いなかった。

 自動四輪車は、先ほどルーク達が渡った大きな橋に、ほとんど減速せず飛び込み、渡って行く。

 自動四輪車は、橋の中ほどに来た所で大きな円筒形の何かを荷台から次々と吐き出していく。

 次の瞬間、光った。

 そして、空間を揺さぶる轟音。しかし、爆風はほとんど感じなかった。

 光に驚き、目を閉じていたルークは不思議に思い、慎重に目を開け様子を窺う。

 見ると、六角形の光の板が、蜂の巣状に組み合わさり半球を作り、辻馬車を覆っていた。

 

「今日は珍しい物の大行進だの……。見世物ではない本物の『譜歌』を間近で見られるとは、御見それ致した音律士殿」

 

 コゲンタは目を見張り、ティアに頭を下げる。

 

「……いえ……、た……いし……」

 

 答えたティアの声が擦れていた。「コホン」と少しむせたように咳き込む。

 

「ティア! 大丈夫か!?」

 

「ええ……ありがとう、ルーク。少し難しい『譜歌』を慌てて使ったから、喉がびっくりしたのね。きっと……」

 

 冗談交じりに笑って誤魔化すティアをこれ以上追及するのは気が引けたが、ルークには、まだ少し喋りにくそうに見えたので、言わずにはいられなかった。

 

「ムリして使わなくたって、大丈夫だったかもしれねぇんだから……。これからはムリすんなよ」

 

「……そうね。ありがとう、ルーク。でも、『やらずに』後悔するより、『やっておいて』後悔する方が良いじゃない? ……ええと? なんて言えば良いのかな……?」

 

 ティアは、ルークの心配をありがたく思いながらも、ティアは首を横に振る。

 

「要するに『備えあれば憂いなし』って話ですかな?」

 

「あ、そういう感じです。無理しないといけない時もあるから……。とにかく、わたしは大丈夫」

 

 ティアは、ルークの気遣いを突き返すような形になってしまった事を後悔しながら、微笑んだ。

 

「チッ……ワケわかんねぇ。勝手にしろよ……」

 

 不承不承といった様子ではあったが、ルークはとりあえず矛を収めた。

 

「先程は危ない所を、誠にかたじけない。改めてお名前を伺いたい、音律士殿。拙者、エンゲーブのイシヤマ・コゲンタと申す」

 

「ええと……ご丁寧にどうも。メシュティアリカ・グランツと申します。ティアとお呼び下さい。……え? エンゲーブ……?」

 

 コゲンタの、先程までの気さくな態度とは全く違う折り目正しい言動に、ティアは恐縮するがある事に気が付き、身体が固まった。

 

「なぁ、エンゲーブってなんだ?」

 

「村の名前でしてな。野菜やら、果物やら、家畜を育てて世界中に売りさばいている『食料の村』と言った所で、村と言っても、そこいらの街より規模は大きいですぞ」

 

「ふぅん……、知らねえな」

 

「あははは」

 

 ルークとコゲンタが、何か話しているのは分ったが何を言っているのか、ティアの頭には入ってこなかった。

 

「しかし、漆黒の翼の奴ら無茶苦茶しやがるの。『ローテルロー橋』が落ちてしまった。あれでは、直すのにどんだけ掛かるか?」

 

「大事な橋だったのか?」

 

「そりゃあ……、あれが無けりゃ向こうの大陸に行くには海路しか無くなってしまいますからの」

 

 少し待って欲しかった。そう、ティアは色々な事を待って欲しかった。今向かっているのが、エンゲーブ方面だとして、あの壊れた橋が『ローテルロー橋』だったとしたら、『目的地』とは、逆方向だった。

 ティアは、根本的な部分で自分が勘違いをしている事を理解した。

 つまり、ここは……

 

「マルクト……? 向かっているのは……首都は首都でも……帝都『グランコマ』……?」

 

「うん? どーした? ティア?」

 

 ティアは今すぐ、ルークに土下座してしまいたい衝動をこらえ、絞り出すように言った。

 

「ルーク、ごめんなさい。間違えたわ……」

 

 




 オリジナルキャラクターの本格登場の回でした。
 何故、このテイルズに似つかわしくないとさえ思えるキャラを登場させたのか説明させていただきたいと思います。
 アビスのパーティーに足りない物は何だろう?と考えると、『共感』と『人生経験』そして『鷹揚さ』だという答えが出ました。
 『共感』は、まるで別人のティアに任せるとして、彼女にも足りない『人生経験』を補い、悪い意味で潔癖なパーティーの狭量を補える人物が必要だと考えました。
 ジェイドは、『人生経験』があるんじゃないのかと思えますが、おそらく、人間と関わっていた時間より、試験管を眺めていた時間の方が長いようなので、少年と大して変わらないと私は思います。
 また、ガイは、『鷹揚』じゃ……と思えますが、彼は、自分の価値観に執着し過ぎていて、視野が狭くなっているような言動が多いと私は思います。

……またやってしまいました。スピーチと何とかは短い方が良いと言いますので、この辺で。
 

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