テイルズオブジアビスAverage   作:快傑あかマント

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今回の作品には、竹河聖 著「風の大陸」秋田偵信 著「魔術士オーフェン」をオマージュした、あるいはインスパイアされたシーンがあります。


信仰と権威そして清貧の都ダアト

 薄暗い洞窟の中で、一点に明らかに譜術の灯りや松明とは違う光が差しているのが見えてきた。ルークは心なしか早足になって、その「出口」へと向かう。

 

 そして、とうとう目の前へとやって来て、光が差し込むギリギリの所で立ち止まった。それはユリアシティから人工的な弱い明かりに慣れていたので、その明かりが強烈に感じたのもあるが、それだけではなかった。

 

 ルークは背後の仲間達を振り返った。ティア、ガイ、コゲンタが見守ってくれている。

 

「ルーク……」

 

 ティアが何かを耐え忍ぶような顔で呟くが、二の句が出てこない。

 

 ここに至ってなお、甘やかすような優しい事を「言うべきではない……」あるいは「そんな言葉しか思い浮かばないなんて……」と自縄自縛、自己嫌悪に陥っているのだ。

 

 そんな彼女の想いを汲み取るかのようにコゲンタは何も言わず静かに頷き、ルークに歩み寄る。

 

「さて、ここからがルーク殿の本当の始まりだの」

 

 コゲンタが朗らかに笑った。彼の隣のガイも微笑んで、大きく頷く。けれども、ティアは曖昧に微笑む事しかできない。

 ティアは「この後に及んで……」とルークを鼓舞するような上手い台詞一つ言えない自分を胸中でさらに嫌悪する事しか出来なかった。

 

 一方、そんなティアの複雑な心境を推し量ることは当然のこと出来ないままルークは大きく頷き返すと、深呼吸をして一歩踏み出した。当然の事だが見えない壁などなく、彼の全身が太陽の光に包まれた。

 

 木々が風に揺れて、鳥が鳴いている。そして、身体に太陽の熱を感じる。

 ルークは「この感じ、ティアと会った時に初めて海を見て以来だな」と考えつつ、わざと太陽を見て、その光で目を灼く。その残像すら不快ではないと今は想えてしまう。我ながらヘンな感情だ。

 こんな風に何かを楽しんだり、嬉しがったりするのはアクゼリュスの人達に失礼なのに……

 

 と、その時である……

 

「やぁやぁ、ルーク。もう体調は良いのですか? う~む、顔色が少し悪いようです。まだまだ本調子ではないようですねぇ。当然でしょうね。まぁ怪我にしろ病気にしろ、何事も治りかけが危ないと言いますからねぇ……。御用心、御用心ですよ」

 

 ルークへ不意に緊張感のない、いや、わざと無くしているような小芝居がかった声を聴いた。

 

 声のした方を見やると、はたして思った通りジェイドが木立ちを掻き分けて現れたではないか。

 

「ジェ、ジェイド……」

 

 出し抜けに会うと、流石に気まずくてどう反応して良いのか分ない。彼が、ルークを罵倒したり嫌味を言ったり、全責任を転嫁したりするような事をしないと解っているのだが、気まずくて不安になるのはどうしても抑えられない。

 

 おずおずとジェイドに眼を合わすと、ルークは思わず息を呑む。頭の上からはミュウの悲しげな呻きが漏れ聞こえてくる。

 

 一方のジェィドは声は平静そのもので、顔は爽やかに微笑んではいるが、青い軍服があちこちボロボロに擦り切れていて、泥や埃だらけだった。多少の傷もいくつか負っているようだ。

 

 ルークが「ティア!」と叫ぶが早いか、彼女がジェイドに走り寄り傷を検めようとする。

 

「あぁ……いやいや、私は大丈夫です♪ ただ同行している『大隊』の何人かも怪我をしていましてね。診て頂けますか?」

 

 だが、微笑むジェイドはティアを片手で軽く制止しつつ背後の茂みの向こうを指し示すと、ティアは返事をする代わりにすぐに茂みへと駆けこむ。

 

「わしも参ろう!」

 

 コゲンタもルークやガイに声を掛け、彼女に続く。

 

 ガイはジェイドに歩み寄ると、

 

「ジェイドの旦那、どうしてここへ? 何があったんだ? アンタがそんなになっちまうとは……」

 

 少し混乱したように言う。あの時別れた時には、こうもすぐに、しかもこのような形で再会するとは思っていなかったのだ。

 

「恥ずかしながら皆さんに頼み事です。ここでルークを待つと言っていたので、ここへ来れば少なくともガイには合流できると思いましてね……」

 

 ジェイドは自嘲するように肩をすくめて、早過ぎる再会に苦笑する。

 

「俺に? どうも見た限り、あんまり良い知らせじゃないみたいだな……」

 

 彼の態度が決してふざけているのではない事は、これまでの付き合いから分かっていたので、至って真面目に問い返すガイ。

 

 ジェイドはほんの少し黙って息を整え

 

「えぇ、イオン様とナタリアがモースの手に落ちました。面目ない限りです」

 

 などと、とんでもない事を冷静に言い放った。流石のジェイドも、先程の苦笑は消えて眉を顰めている。端から見るほど冷静ではないのかもしれない……

 

「なっ、何だってっ!?」

 

「してやられました……。囚われた二人を助け出さないと、まずい事になります。場所が場所ですから、近くにマルクト軍がいないので、皆さんに……少なくともガイになら助力をお願いできるかと思いましてね」

 

 今まで見た事がない苦り切った表情のジェイド。

 それに思わず息を呑みルークは口を開く。

 

「その“まずい事”……って、いったい何がおこるってんだよ……?」

 

 いつものように冗談を言って欲しいと願いながら、恐る恐る尋ねてみたのだが……

 

 ジェイドは少し間を置いて「失礼……」と平静を取り戻すと、

 

「アグゼリュスが消滅した事をきっかけに、キムラスカは開戦準備を始めたと聞いています。恐らくナタリアの死を戦争の口実に考えているのでしょう。王女謀殺の報復……ようするに“敵討ち”ですねぇ」

 

 形の良い眉毛を“ハの字”にしつつも、戦況を分析するような冷静な口調で答える。よくそんな器用な事が出来るものである。

 それはともかく、期待した冗談は何も無く、文字通り“冗談じゃない”情報ばかりが並べ立てられる。

 

 

「キムラスカの人達は、俺達が……いや、ナタリアが生きている事を知らないから……。いいや、この場合はどちらでも良いのか、生きてても、死んでいても……」

 

 ガイも考え込み、苦虫をかみつぶしたよう唸る。確かに、陸地が丸ごと崩れて、底の見えない大穴が口を開けたのだ。生きていると考える方が不自然だろう。しかし、何故ナタリアが生きていても同じなのかルークには解らない。生きていてくれたなら何も問題ないのではないか……?

 

「イオン様もこれを警戒して、導師詔勅を発令しようと教団に戻ったところ、捕まってしまったのです。ああも人目につく場所で、イオン様を手荒に扱うとは……。どうも私の心根の善良さが、悪い形で他人を信用し過ぎてしまったようです。失態ですね。我ながら度しがたい失態です……」

 

 ジェイドは一瞬、屈辱を堪えるような顔をしたが、分析口調は崩さず続ける。

 

「イオン様はともかく、ナタリアが本当に殺されちまう。よし、ルーク。二人を助けよう。戦争なんか起こしてたまるか! そうだろう?」

 

「あぁ、ダアトに乗り込もう」

 

 拳を振り上げんばかりに声を掛け合うルークとガイにジェイドは「抑えて、抑えて」という風に手を上下に振ると、ルークの方へ向き直る。

 

「いやいや、待って下さいルーク」

 

 何を言われるのか?と僅かに身構えるルークだったが、ジェイドは中々口を開かず、たっぷり数秒の間、

ジェイドの赤い瞳で真っ直ぐに見つめる。

 

「あなたはここで戦いを止めても誰も責めませんよ? ユリアシティでなら静かに暮らせるかもしれない……。ティアさんもテオドーロ市長も、けっして悪いようにはしないでしょう?」

 

と若者の無謀な挑戦を止める大人の口調で言った。

 優しさと厳しさが同居した言葉。少し前のルークであったなら解らなかった。(いや、解ろうとしていなかったのかもしれないが……)

 

 その優しさと厳しさに、頼って甘えて縋りたい欲求が込み上げてくる。

 

「オレは……!」

 

 泣きそうになるのをぐっと堪えて、

 

「オレはっ! 逃げないっ!」

 

 ルークは怒りを含んだ声で反発する。

 

「ルーク、ジェイドはお前を心配しているんだ」

 

 いきり立つルークの肩をポンと叩くガイ。

 

 ルークは一つ深呼吸をすると、今度は自分もジェイドに向き直り、

 

「悪い……、でも決めたんだ。足手まといにはならない。どうしたら良いか教えてくれ、ジェイド!」

 

と彼に対して、頭を下げた。

 

 ジェイドはそれに対して、かなり驚いたような顔をしてから、いつもの軽口の時とは違う笑顔を浮かべると、

 

「ふぅむ……。いやはや、まさしく、男子三日会わざれば刮目して見よ……と言った所でしょうか? 分かりました、お互いにお互いをカバーし合いましょう。よろしく頼みますよ。ルーク♪」

 

 ルークに敬礼してみせた。

 

 三人が茂みの向こうへと進むと、ティアとコゲンタが数人の兵士を応急処置していた。彼らは神託の盾の法衣は着ておらず、平服で防具も最小限で揃いの赤い腕章をしている以外は、傭兵といった体だった。皆、意識はあるようだが、大怪我には違いないようだ。

 

 ガイもすかさず一人に駆け寄り、応急処置を始める。

 

 そんな彼らと少し離れた木の根元にアニスがしゃがみ込んでいた。膝を抱えて顔を伏せているため、小柄な体がより小さくなってしまっているように見える。

 

 ルークはそんな彼女に歩み寄ると膝を突き、

 

「よっ、アニス。平気か?」

 

 極力、以前のような軽口に聞こえるように話しかけた。上手く出来ているとは思うが……

 

 アニスがゆっくり顔を上げた。

 

「ルーク……。うん、ケガとかは平気。でも、けっこー疲れちゃってさ……」

 

 彼女の顔が一瞬、似てはいても別人のように見えてルークははっとした。(今のルークには分からない事だが、今の彼女の顔は、色々な嫌な物を見過ぎた女性のような顔だった)

 

 ルークはその驚きを押し殺して、

 

「一緒にイオンを助けようぜ。オレ、頑張るからさ!」

 

努めて、明るく言った。

 

「あれ……? え、髪切った?! イメチェン?」

 

 アニスは放心したように、何の関係ないような答えを返した。

 

「ん? あぁ、なんか軽くなったよ。ハハハ」

 

 ルークは気まずそうに後頭部を掻いた。

 

 アニスは「あぁ」と頭を抱えて、

 

「ごめん、なんか頭ん中ぐちゃぐちゃでさ。そんな場合じゃないのにね、お互いに……」

 

と涙声になって、しきりに袖で目元を擦る。

 

「あぁ、キツイよな」

 

 ルークはできるだけ優しい声を心掛けて、アニスの髪を撫でてやる。

 

「……また守れなかった。これじゃ守護役としてイオン様に会わせる顔がないよ……」

 

 アニスは「これがいつも明るかった少女の声か?」と思わせるほど弱々しい泣き声で答えた

 

「何、言ってん……」

 

「だって、あたし守れなかったし!」

 

 もらい泣きをしそうなのを堪えて笑うルークの言葉が終わらぬ内に、アニスは強い調子でかぶりを振る。

 

「そうじゃなくてさ、アニスはアニスの顔で会えば良いんだろ」

 

 ルークは前向きな口調に、アニスはぽかんと見上げた。

 

 そんな彼女に手を差し伸べて、

 

「イオンは守護役なんかに会いたいんじゃくなくてだとアニスに会いたいんだと思うぜ」

 

ともう一度笑いかけるルーク

 

「アハハ、チョー理論だね。そだね、ここでイジけて助けないわけにはいかないんだし」

 

彼の手を取ったアニスは涙の痕が残る顔に、以前の調子を少し取り戻した笑顔を浮かべて、身軽に立ち上がる。

 

「あぁ、イオンに一緒に謝ろう」

 

「うん、ありがとう」

 

 ルークとアニスは力強く頷き合うと、兵士たちを手当てするティアたちを見て、

 

「はーい、わたしも手伝うよ。ティア、どうしたら良い?」

 

「オレも」

 

と、彼らの下へ走り出した。

 

 

 そして、全員の応急処置を終えて落ち着くと、

 

 

「これからダアトへ乗り込むのか?」

 

 ルークは一人だけ力んで、落ち着かない調子で言った。

 

「ルーク落ち着いて。これだけの人数でダアトに入ろうとすれば目立ってしまうわ」

 

「それが良かろう。それでタルタロスはどうされた? 負傷された方々を収容しなくては……」

 

 ティアとコゲンタが左右からたしなめて落ち着かせると、ジェイドの方へ話を向ける。

 

「はい、タルタロスもある意味で我々の切り札ですからね。流石にダアトに突撃する事は出来ませんから、ここから北側の森に隠れています」

 

 ジェイドは頷いて、地面に枝で簡単に地図を描いて見せる。

 

「我々は大丈夫です。自力で帰艦します」

 

 『大隊』の代表者の隊員が落ち着いた調子で進言する。

 

「小人数なら『勝手口』の方からダアトに入れるだろう」

 

 ガイがジェイドの地図の横に、円を囲む大きな円を描くと、大きな円の縁の一つに縁を突き抜けるように線を二本描いた。

 

「カッテグチ?」

 

 ルークがそれを眺めて、「裏口って意味だったかな?」などと考えながら呟いた。

 

 ガイは頷いて、

 

「ダアトは大きく二つに分かれているんだ。正式な神官や信者が住む『中央』と他から移り住んできた棄民が多く住む『外縁』で、そこならそれなりの物を渡せば、俺達でも潜り込める」

 

 中心の円を「ここが中央」と突いて、それを囲む円を「こっちが外縁」と突いた。

 

「『外縁』には教団で下働きをしておる者たちも多い。そうした者たちなら、わしにツテもある。ひとまずそこで準備といたそう。お尋ね者のわしらがこのままという訳にはいかん」

 

「良い事を思いつきました!」

 

 ジェイドが実にわざとらしい仕草で右の手の平を左拳で叩き

 

「変装作戦です。神託の盾に変装して『中央』へ素知らぬ顔でほくそ笑みつつ“しれっ”と入りましょう!」

 

 と元気よく手を挙げた。

 

「はぁ……、その、そんなに上手くいくでしょうか……?」

 

 ティアは本当に困ったように何とも言えない曖昧な表情をして答えた。

 

 ジェイドは「チッチッチッ」と人差指を左右に振り、

 

「我々にはティアさんのお爺様、正真正銘、本物のテオドーロ市長の信書があるではないですか?」

 

 お馴染みとなった悪戯に誘うような笑顔になった。

 

 

 こうしてルーク達は、ダアト港で落ち合う事を取り決めて『大隊』と別れて、ひとまずダアトの『外縁』に住むというコゲンタの知り合いの所へ向かう事になった。

 

 外縁の街は、木でできた。いや、でっち上げたような粗末な柵によって囲われていた。ここが話に出てきた『勝手口』なのだろう。

 その一角に門になっており、武装した兵士たち……とは言っても神託の盾ではない、明らかに覇気のない怯えたような男たちが門番をしていた。腰に帯びた剣が重そうだ。

 そして、それを後ろで妙にふてぶてしい顔でニヤつく柄の悪そうな者たちが見張って……いや、眺めている。何がしたいのかルークには意味が解らない。

 

 何故こんな者達が見張りをしているのだろうと流石に呆気に取られたルークだったが、ティアを見れば彼女は落ち着いているようだったので、ルークもそれを真似て平静を装った。そして、コゲンタが少し話をして、それなりの額の金を渡すと、身元の確認もなくあっさりと通る事ができた……いや、出来てしまったではないか。

 そんな事を心配する立場でもないルークでも呆れる他なかった。

 

 

 それはともかくとして……

 

 

 その街は日陰に在った。 

 

 巨大な聖堂の影に隠れるようにして造られた“日陰者”たちの街、様々な理由で無宿人となった者たちの住処だった。正式名称はないのだが、いつの間にか貧民街ならぬ『清貧街』などと言う持って余ったような呼び名が付いていた。

 ローレライ教団の“必要最低限の善意と施し”に縋ってでしか生きられない非力な者たちの拠り所とされている。しかし、彼らは非力で貧しくはあるが、愚かでも怠惰でもなかった。それどころか、優秀で学もあり勤勉な者たちも大勢いる。(もちろん、愚かで怠惰で実に下らない理由で身を持ち崩し、ここへ流れ着いた者たちもかなりの人数がいるわけだが……)

 

 それでは何故、そのような者たちがこんな物乞い一歩手前のような場所に燻ったままで、貧しさを享受しているのかというと、ただ“そうとしかならなかった”し”そうとしかできなかった”としか言いようがないのである。すなわち、明日は我が身なのかもしれないという事である。

 

 それはともかく……、いかに“清貧”な者たちが集まる場所であっても、一か所に人々が集まれば様々ないざこざや面倒事が起こるのが世の常である。その面倒事の多くは貧しさに耐えかねての窃盗行為である。

 その日に食べる物なら、食べてしまえば終わりの“可愛らしい”物だ。

 

 美術品や武器を食べて栄養にできる特異体質でもないならば……そう、売って金に換える必要がある。

 

 それには密告もせず、足元も見ず、しっかりと代金も支払ってくれる信用のおける買取業者が理想的である。

 

 そして、それは今いるこの場所である。そこは主人がコゲンタの昔の知り合いだという木賃宿兼食堂の《木々のこずえ亭》は、名前と佇まいだけならなかなか風雅な宿屋だ。

 宿泊料も安く、食事も安くて量も多いと評判の店で、住人に仕事の斡旋も行う口利き屋のような役割も行う《清貧街》の顔役ような店だった。

 

 そう、表向きは……である。いくつもの顔の中には“裏の顔”もあるのだ。

 

 《木々のこずえ亭》は盗品も何も言わずに適正(盗品の適正?)価格で買い取り、匿いさえしてくれる《盗っ人宿》だったのだ。ついでに言えば、盗んだとされる物が実は当の神官や騎士団からの横流しされた物も少なくない。

 一通り説明されたのだが、ルークにはよく分からない事が多く、怖い気持ちもあったが、よく読んでいた冒険活劇みたいで少しワクワクしていた。

 

 ルーク達が待つ部屋に一人の痩せた老人が入ってきた。服装は質素ながら清潔でしっかりとしており、薄汚いとかだらしないような印象はなく、少し薄い髪も、白い口髭も整えれていた。ルークが思い描いていた「盗賊の親玉」とはかなり違っていた。

 

「当宿屋の主人でございます。この度はご利用ありがとうございます」

 

 主人は貴族の執事のように所作で頭を下げた。

 

 コゲンタが歩み出て、

 

「お久しぶりでござるな、親方。どのくらいぶりになるかなぁ?」

 

と親しげに話しかけ、握手した。

 

「十五年でございます。イシヤマ様」

 

「ホドを出てからしばらくしてからだから、そのくらいなりますかのぉ……」

 

 主人とコゲンタは過去を懐かしむように笑顔を交わした。彼らの間にどのような物語があったのだろうか?

 まさかコゲンタが盗賊をしていたとも思えないルークは尋ねたくてウズウズしたが、そんな場合ではないと我慢した。

 

「すまぬが、昔話をしている暇はありますぬでな。早速、お頼みしたい事がござる」

 

 コゲンタは挨拶を切り上げて、事の次第を説明し始めた。

 

 主人は最後まで黙って話を聞くと、少しの間考え込むように俯いたが、

 

「他ならぬイシヤマ様の頼みです。ご協力させて頂きます」

 

と力強く頷いた。

 

「ご迷惑をおかけする。代金は、しっかりお支払いさせていただく」

 

「いえ、それは……」

 

 コゲンタは誓約書を書こうと紙と筆立てを取り出すが、それを主人は困ったように押し止めた。

 

「いやいや、それはいかん。危険を冒すのだ」

 

 コゲンタの説得をなおも固辞する主人の横からジェイドが歩み寄って

 

「ご主人、差し出口を挟むようですが、その方がお互いに信頼し合えるという物でしょう?」

 

 珍しく執り成す大人の口調で話しかけた。

 

 主人は少し考えたが、

 

「……それではありがたく。すぐにご用意いたします」

 

 了承すると、深々と頭を下げて部屋を辞去した。

 

 そして主人が部屋を出てしばらくしてすると、何人かの人物が様々な神託の盾の鎧兜、ローレライ教団の法衣が運び込んできた。

 

「これ、ホンモンなのか……?」

 

 兜の一つを手にしつつ顔をしかめるルーク。いや、今まで何度も戦い合い命を脅かされた相手を連想させる物品の数々である。ルークの反応のほうが正常なのかもしれない……

 

「ほほぅ、これはこれは……。ほとんど新品のこれらは、一体どこから手に入れたのですかぁ?」

 

 ジェイドが骨董品を値踏みするように覗き込んだ。しかし、何やら芝居がかったわざとらしい言い回しだ。

 

「はい。第七師団の方からお売り頂きました」

 

「おぉ、なるほど! やはりですか!」

 

 穏やかに微笑む主人に、にこやかに微笑み返すジェイド。そしてジェイドは、その微笑みを何故かティアにもチラチラと向ける。いったい何だと言うのだろうか……?

 

 一方この瞬間、ティアは元上官のカンタビレが妙に羽振りの良く機嫌の良い日があった事を思い出して、頭を抱えた。そういう事だった。そういう事だったのだ……

 

「どうした、ティア? 頭、痛いのか?」

 

 ルークは気遣わしげにティアを覗き込んだ。

 

「えっ……え、えぇ。うぅん、大丈夫。ふ、ふふふ……」

 

 ティアは「今は気にしては駄目だ」と自分に言い聞かせて、微笑んだ。自分でも笑顔が引き攣っているのが分かる。

 

 こうして、カンタビレの間接的な貢献により「変装作戦」の準備が整ったのである。




 皆さん、お久しぶりです。四か月ぶりの更新となってしまいました。申し訳ございません。

 さて、今回はかなり改変の多い回でした。
 原作のジェイドは、イオンとナタリアを守り切れなかったのに、「オレはわるくねぇ(笑)」とばかりに平然としていたので、拙作では懸命に戦ったけれど……という事を描写してみました。
 また、アニスもその後の「親の借金」をコミカルに描くシーンが許せなかったので、一緒に合流してもらいました。
 しかし、「こんな事は言わないだろうな……」と思うようなキャラ(ジェイドとアニスですね。)に言わせるのは難しい事ですね。
 終始、大人しくパンチが足りなくなってしまいます。特にジェイドは「万能感(笑)」が魅力なキャラなので、謙虚な事を言わせると誰なのか分からなくなっていたと思います。

 それから、次回の主な舞台となるダアトの設定背景情報を捏造してみました。キャラが生活している或いは活躍する「国」や「街」のディティールを深める事で物語が面白くなるのではないかと思い、このように脱線気味に描写してみました
 畏れ多いのですが、竹河聖さんの「風の大陸」や秋田偵信さんの「魔術士オーフェン」のような感じを出せたら良いなと思いますので、工夫してみようと思います。

 『ものの本によれば……』のように語り手?作者?が登場するような描き方も憧れましたが、流石に止めておきました。(笑)
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