〈銀時side〉
「銀さ~ん、おはようございます。」
布団を新八に捲られ、眠い目を擦る。
「ふぁ~ん。」
大きなあくびをして身体を起こした。
「もう、昨日帰る時にゴミ捨てしてくださいって言ったじゃないですか。夜に出すとお登勢さんが煩いし、今日遅れますって。なのに、出してないなんて……どうするんですか?もう、車行っちゃいましたけど?」
新八は何に怒ってるんだろう?ゴミ捨てを頼まれた覚えがない。
一人首をかしげてると、新八が布団を畳んでる。
「うっ~、神楽は?」
いつも朝から騒がしい神楽の声がしない。
「なに言ってるんですか?昨日からそよ姫さんの所に行ってますけど?」
「そうだっけ?」
そよ姫って誰だ?
「僕、買い物行ってきますね。銀さん、最近物忘れが増えてませんか?前から、物忘れありましたけど……」
新八が出ていく。
うーん、多くなったかなぁ?自分じゃよくわかんない。
――――
――
―
その夜、いつもの飲み屋にて……。
「お前、何してるんだ?」
恋人の土方が俺の隣に座る。
「何って?」
「お前、そんなの呑まなかったじゃんか。味覚変わったか?」
居酒屋になぜだかあったハイボール。俺はそれを飲んでいた。“いつもの”を頼んだが吐き気がして呑めなかった。
「そうかも。いつもの呑めなかったし。」
「親父、いつもの。」
「はいよ。」
土方の前に熱燗が運ばれてきた。適当にツマミが運ばれてくる。
「今日さ、新八に物忘れが増えたって言われたんだよね。そんなことねぇよな。」
「…………あるんじゃねぇのか?」
「へぇ?」
てっきり、“そんなことない。大丈夫だ。”って言ってくれると思ってた。
「まぁ、年相応だろ?俺だって、物忘れぐらいあるし。」
「そっか。」
こういうとこが、俺ってば好きなのかなぁ?
二人でこういうのがずっと続けばいいな。
「今度の非番の日にさ、デートしねぇ?車借りれることになってドライブしに行こう。」
「いいけど?」
「じゃあ、今度の木曜日に屯所に来い。」
「なんで、命令口調?」
「いいだろ?別に……」
夜が更けていく。土方が支払いをして店を出た。
木曜日。
「銀ちゃん、マヨラーから電話アルよ?」
「なんだよ、全く。」
渋々電話に出る。
「お前まだ家に居んのかよ。今からそっちに行くから準備してろ。」
なんだか怒った口調で言われ、電話を切られた。
「準備ってなに?」
「なんか、約束してたんじゃないんですか?」
「…………約束……?」
わかんない。というか、なんで土方から電話がかかってくるのかわかんない。だって、出逢えば喧嘩ばかりで……うーんなんで?
「たく、せっかくデートの約束してたのにドタキャンか?」
不機嫌な顔して土方が、入ってきた。
「なに勝手に入ってきてんだよ。依頼か?依頼しに来たのか?」
「銀ちゃん、なに言ってるアルか?」
「そうですよ。いらっしゃい土方さん、お茶用意しますね。」
「いいよ。すぐこいつと出るから。」
土方が俺の腕を引っ張る。
「やだ!!離せ!……なんだよ。ワケわかんないことばかり言いやがって、俺はお前と約束なんてした覚えない。今まで家に来たことねぇのになんだよ、急に来るなり俺を連れていこうとしやがって、別に悪いことしてないから、なんでお前に連れていかれなきゃなんないんだよ。」
手を振り払い、罵る。その場にいた皆が目を丸くしてる。
「どうしたんだよ。銀時……」
「銀ちゃん変アル。」
「病院行った方が良いんじゃないんですか?」
「そうだな。行こう、銀時。」
名前で呼ぶ土方に違和感を覚えながらも、肩を抱かれ安心する自分がいる。
下に停めてあった黒塗りの車に乗せられ、病院に連れていかれた。
「どうぞ。」
看護師に呼ばれ皆で診察室に入った。土方が何やら目の前の人に話しているが、あまり耳に入って来ない。
その後、何からテストをされた。なんのテストなんかわかんなかった。
〈土方side〉
今までの言動を全て先生に話す。“テストしましょう”と言われ、銀時にテストをさせる。
「認知症の疑いがありますね。MRIをしましょう。」
認知症……?あの、銀時が全てを忘れる?
嫌だ。忘れて欲しくない。けど、銀時の過去を考えると忘れてしまった方がいいのかもしれない。
検査が終わり銀時に、告げた。始めはキョトンとしていてわかってない様子だった。俺が丁寧に説明すると理解したのか綺麗な涙を流した。
「お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
病院からの帰り道、銀時が空を見上げて言った。
「なんだ?」
「ノート買って。」
「ノート買っても食べられないアルよ?」
「そんなの知ってます。」
「別にいいけど?」
コンビニに入り、無地のノートを買って帰る。
「なにするんだ?」
ノートなんか何にするのかわからなかった。
「皆のこと、このノートに書いて欲しいの。忘れてもこのノートを見れば思い出せるように。」
「私が先に書いてあげるアル。」
「ありがとう。神楽。俺との関係性を書いてな。」
万事屋でなんとも言えない嫌な空気が流れる。
「顔もわかった方がいいですよね。僕、カメラで皆の写真撮ってきますね。神楽ちゃん、写真張る場所を開けて書いてて……人も連れてきますね。」
そう言って、メガネが一人出ていった。
「ゴメンね。皆のこと忘れちゃう。」
「気にすんな。その為に、ノート書いてるんだろ?」
「ありがとう。土方。なんか、優しいね。」
クスクス無邪気に笑う。
「あんた、大丈夫なのかい?」
「ババァ。」
「なんだい、まだ覚えていたのか?」
少し残念そうに下のスナック人間がぞろぞろ入ってきた。
「銀時様、私のデータを全てバックアップしましたので、こちらをどうぞ。」
緑色の三つ編みの女性が、マイクロチップを渡してる。
「いやー無理だから。」
「このノートに書けばいいんですか?坂田さん。」
――――
――
―
「本当に、忘れちゃうんですか?旦那?」
「今は、まだ名前わかるけど明日になればわからないし……」
万事屋を後にして、屯所の俺の部屋で入れ替わり立ち替わりノートに書いていってる。
「結構、いっぱいになったな。」
「もう、2冊目ですしね。」
「トシ、お前まだ書いてないんだろ?後は、お前で
近藤さんにノートを渡される。
「………。」
「土方?書いてくんないの?」
皆が書いていってる中、ずっと考えていた。
今の銀時は、俺とのことを完全に忘れてる。じゃあ、ノートになんて書いたらいい?
呑み友達?
いや、喧嘩仲間?
違う、知り合い?
俺との関係なんて、所詮はすぐに忘れてしまうような関係なんだ。
そんな関係をわざわざ思い出させる必要があるのだろうか?
書く手が、“土方”と書いて止まる。
このまま、書かなければ…………。
「何やってるんでぇ?さっさと書けばいい話でしょ?」
俺の気持ちを理解したのか、総悟がせき立てる。
「俺はいい。」
「へぇ?なんで?」
銀時が不審がって訊いてくるも、聞こえてないふりをして屯所後にした。
一人河原に座り、声を殺して泣いた。
銀時が、認知症だと皆に話した時最初は驚いていたが、あまりにもすんなり受け入れるもんだから、どこか一人置き去りにされたみたいで………。ついこの間まで、近くにあった銀時の手が遠い。
「トシ?」
不意に言われ振り向くと、銀時が立っていた。
「なんで、泣いてんの?俺のせい?」
記憶が無くて、“トシ”なんて呼ばずに昔みたいに“土方”ってさっきまで呼んでいたのに……。
「よくわかんないんだけど、“土方”っていうとさぁ……胸が苦しくて、けどお前の下の名前知らないしそしたら……えっと~、近藤さんだっけ?その人に教えて貰ったの。トシって呼ぶと不思議と胸が苦しくなくて……。」
俺の横に座り、川を見ながら言う。
「ねぇ、泣かないで………?」
俺は銀時に抱きつき、ただ泣くことしかできなかった。
空では、トンビが鳴き廻っていた。
完
要望があれば、続きを書く予定です。一応、これで終わってはいますけど……。