FAIRY TAIL~全てを包み込む大空の軌跡~   作:綱久

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お久しぶりです綱久です。三か月近く振りになりますかね。
まずはそれ程長い時間更新ができず申し訳ありません。大学の研究や就活説明会などで中々時間が取れず、空いた時間で執筆をしてたのですが、途中で大幅な内容変更などしてしまいここまで遅れてしまいました。
こんな自分ですが、これからもよろしくお願いします。

話は変わって、たくさんのお気に入り登録、評価付け、ありがとうございました! ランキングの順位にも入っていたみたいで、とても嬉しかったです!

今回の話は題名で分かると思いますが戦闘シーンです。最初は短く書こうと思いましたが、描写など色々と加えた結果かなりの文字数になっちゃいました。下手くそですけど楽しく読んでいただけると幸いです。




標的5 大空VS火竜

『新人、しっかりやれよぉ!!』

 

『ナツはちゃんと加減しろよ!!』

 

『ツナ君頑張ってぇぇ!!』

 

『いけぇナツーー!!』

 

『くたばれナツ!』

 

「誰だ今"くたばれ"って言った奴!? 後でぶっ飛ばすからなっ!!」

 

 現在ギルドの外に、中心には模擬戦の対戦者である綱吉とナツが向かい合い、これから始まるであろう二人の戦いを観戦しようと周りにはギルドの面々が立っており、双方に野次を飛ばす。

 

 ナツは笑みを浮かべながら手をボキボキとさせ如何にもこの模擬戦にやる気満々みたいだが、対照的に綱吉は大きなため息を吐いており乗り気じゃないことが明らかだ。

 

 何故こんな状況になってしまったのだろうと綱吉は思い返してみる。

 

 

 

 確か、これから仲間になるであろう妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーに一言を言おうと口を開くよりも先にナツと呼ばれる桜髪の少年に『俺と勝負しようぜ!』と勝負を仕掛けられたことから始まった。

 

 いきなりのナツの言葉にギルドの仲間達は、"こいつと戦うのかナツ?"、"視るからに大したことなさそうなんだけど"、"すぐ決着(けり)がつきそう"、などと、綱吉の見た目(・・・)だけを判断し好き放題口にする。

 普通であればそれは腕に自信がある者や幾度も喧嘩や戦い、殺し合いを経験している者にとっては青筋ものだ。もし今の綱吉の立場が、『X』の称号を名に二つ持つあの男だったら『かっ消えろドカス共!!』と問答無用で目の前にいるギルドメンバーを冗談抜きで言葉通り消しにかかるだろう……と言ってもあの男を見た目で"弱そう"と判断する者はいないと思うが。

 

 話は戻して、周りからそんな声が聞こえても綱吉は不愉快になることも憤慨することはなく、むしろ嬉しく思いその声を肯定して模擬戦をなくさせようとした。

 

 今では数々の命懸けの戦いや経験を得て、後ろにいる大切な者達を護れる力を持った『戦士』としても、周りを落ち着かせ安心させ導く『ボス』としても相応しい男に成長した。

 しかし、そもそも綱吉は本来争いごとを好まない優しい性格の持ち主。今まで戦ってきたのも、"逃げ道がない"状況だったり"敵から友人や仲間を護る"ためであり、好きで戦っているわけでもなく、自分から戦いを吹っ掛けたりなど決して行わず、戦わないでいい道があるなら真っ先にその道を選ぶほどである。例えそれが自分の身を傷つける結果になろうとも。

 

 それに、素人目から見ても"死ぬ気"状態になった自分は、平時でいる自分と二重人格者と思われても仕方ない程変わりすぎている。

 そして自分が使うのはこの世界で当たり前に存在する"魔法"ではなく、この世界の者達が知るはずもない"死ぬ気の炎"だ。最初は魔法と勘違いする者もいるかもしれないが、それも時間の問題だ。

 自分のそんな姿を見て、彼らにとって全く未知の力を見せて、果たして《妖精の尻尾》の皆は自分を受け入れてくれるだろうか?という不安が内心では一杯なのだ。ならばいっそこの世界に滞在してる間は"死ぬ気"の自分を見せず、ギルドのただのウェイターとして働いた方がいいんじゃないかと考えている。

 

 だから何とか模擬戦をやめさせようと声を出そうとするよりも前に誰かがナツに、"何でツナと戦おうとするんだ?"という当たり前の疑問を尋ねる。尋ねられたナツは何の迷いもなく自信満々に答える。

 

『そんなモン―――勘だ! 俺の勘が告げてるんだ、こいつは強いってな!』

 

(そんな理由で俺が強いって思ってるの!?)

 

 中らずと雖も遠からずのナツの勘に綱吉は一瞬ドキっとしたが、所詮は当てずっぽうの勘だ。再び周りの声に便乗しようと思ったが、周りからは"マジか……"、"ナツのこういう勘は馬鹿にできねぇし……"、"でも強そうには見えないけど……"などと、全員彼の勘に半信半疑の状態だった。

 

 彼ら曰く、ナツは本物の竜から『滅竜魔法』と呼ばれる特異な魔法を教わったことから直感力が人間を超えているらしく、彼の"戦闘"に関する勘はバカにはできないとのことだとそうだ。

 

 この世界に空想上の生き物である竜がいるのも驚きだが、その竜から魔法を教わったというのはあらゆる意味で予想外だ。普通なら信じられるような話ではないが、綱吉はナツが嘘を吐いているとは思えない。ただ小さい子供の様に自分が体験したことをあるがままに話している様な感じだ。"だからこそ"というわけではないが、綱吉はナツの言葉を半信半疑でありながらも信じることにした。

 

 しかしだからと言ってどんな形であれ戦うことを嫌う綱吉は何とか彼に諦めてもらおうと策を練ろうとするが――

 

『ふっ、流石はナツだな。私もツナがただ者ではないと感じていてな』

 

 一体何を根拠にしているのかという疑問を抱きそうになりながらも、ギルド内でも信頼が大きいエルザの言葉をきっかけに、この模擬戦に口出しする者はいなくなり、綱吉は一瞬呆けてしまった。だがすぐ正気に戻り、嘘でも偽りでも何でもいいから自分は弱すぎて相手にならない、戦っても何の得にもならないとここにいるメンバーに理解してもらおうと――する前にマカロフに止められ、綱吉にしか聞こえないように話す。 

 

『確かにお前さんは見た目を見る限りでは戦いに向いてるとは思えん。じゃがお前さんは力を隠している――いや、感じさせないように振舞っておるのが儂には分かる。まあそれが素である可能性も否定できんが』

 

 恐いぐらいに当たっている……もうこの人相手じゃ隠し事は出来ないんじゃないのかと、まだ会って初日なのに改めてマカロフに戦慄してしまう。

 

『お前さんの態度を見ていれば、お前さんが戦いを好まない事が何となくじゃが分かる。じゃがお主が一体どんな力、実力を持っているのか……ギルドのみんなは内心では気にしておる。勿論仲間だからといって全てを明かせというわけではない。じゃが、その方がみんなお前さんをより強く信頼し、共に戦い、守ってくれる。力を隠し秘密を抱えるよりも露わにし皆に理解してもらう、その方がお前さんもこれから気が楽じゃろう。そして例え試合でお前さんの新たな一面が見られようと、戦いに負けようと、《妖精の尻尾》のみんなは必ず受け入れてくれる。じゃから一戦だけで構わんから、ナツと試合をしてくれんか?』

 

 マカロフの言葉に一理あると感じ反論も言えなくなり、綱吉は渋々模擬戦を了承したのだ。

 

 

 

 そして現在に至る。

 

 もう綱吉に模擬戦から引くという選択肢はない、故に逃げることは許されない。いや、もう綱吉の頭にそんな思考はない。普段は優柔不断だが一度やると決めたことに揺らぎはない。

 それに今回は"どちらかが死んでもおかしくない死闘"や"敵からの一方的な殺しの戦い"ではなく、ただの腕試しという名の模擬戦。戦うことに変わりないが、少しばかり気が楽だ。

 

 意を決した綱吉はまず、首に下げているチェーンを取り出し、そのチェーンに通している二つある指輪(リング)のうち一つを取り外し、慣れたような手つきで中指に指輪を嵌める。

 

 今綱吉が嵌めた指輪(リング)こそ、『ボンゴレファミリー』のボスの正統後継者の証である『大空のボンゴレリング』。常人では…いや、どれだけ腕を上げた者でも多大な才能を持つ者であろうと決して持つことも指に嵌めることもを許されないボンゴレファミリーの至宝。そして今だ詳細は不明だが、世界を創造した礎の原石から出来たとされる(トリニセッテ)の一つでもある。

 

 一月前、綱吉と守護者がそれぞれ持つ『ボンゴレリング』は『VG(ボンゴレギア)』にVer(バージョン)アップしていたが、D(デイモン)との戦いを終え、自分と守護者の『VG(ボンゴレギア)』は『ボンゴレリング』と『アニマルリング』へと再び戻ったのだ。しかしある条件を満たすことで再びVG(ボンゴレギア)Ver(バージョン)アップできることは立証済みなので問題はないが、この戦いで使うことは決してないだろう。

 

 指輪(リング)を嵌めた綱吉が次に取り出したのは、いつも自分を助けてくれる武器――見た目は白いミトンの手袋を身に着ける。普通の人から見れば、これを武器と見れる者はいないだろう。現に対戦者のナツや観戦のメンバーは怪訝な表情だ。まぁ自分も最初これを手にした時も同じ気持ちだったから何も言えない。

 

 さぁ、最後は死ぬ気モードになるだけ。だけどあのモードになると、初めて見る者にとって二重人格者と思い違いをするのではないかと一瞬抵抗の気持が沸いたが、今更そんなことを思い描いたってしょうがない。内心でため息を吐きながらポケットに入れている『死ぬ気丸』が入ったケースを取り出――――

 

(―――あれ?)

 

 おかしい。『死ぬ気丸』はいつも戦闘の際すぐ取り出せるように、常に着用している服のポケットに入れてるはずなのに……ポケットのどこにも入ってない。何度も何度も探ってもない物はない。まさかどこかに落としてしまった? いや、あれは戦闘の際にとても欠かせない大事な物だし万が一無くしたりなどすれば家庭教師からの制裁は免れないため有り得ない。それに確か数日前に――――"あ!"と呟いたと同時に綱吉の記憶が蘇る。 

 

(『死ぬ気丸』鞄に入れてること忘れてたーーーーーーーーーー!!)

 

 綱吉はシモンとの戦いから一月の間、命懸けの戦いから無縁の平和な時を過ごしていた。と言ってもリボーンによって"ボンゴレ式イベント"とか、"ボンゴレ&シモンによる野生動物(人を襲う肉食動物など)の触れ合い"とか、"『馬の前に人参をぶら下げる』という言葉があり、『雲雀の前に強者をぶら下げたらどれ程の力を発揮するのか』という分かり切った実証をえるために"綱吉と炎真(逃走者)雲雀()による恐怖の鬼ごっこ"等が引き起こされ、一般では平和とは言い難い非日常も送っていたが、綱吉から言わせれば"命懸けの戦いよりマシ"だし、まだ何とか余裕があるらしい……。

 

 まあ兎に角一か月とはいえ、それほど長い時間戦いとは無縁な生活を過ごしてきたため戦いに対しての危機感が薄れてしまい、『死ぬ気丸』を利用することがなかった。更に一月前の戦いで死ぬ気丸のストックが底をつきかけたため、数日前にリボーンが製造してくれた際に、死ぬ気丸が入ったケースを一度取り出し補充後、持ち歩きの多い学生鞄に入れたまま放置してしまったのだ。一応『死ぬ気丸』の入った学生鞄は自分と共にこの世界に来たが、今はギルドの中に置いてきており今手元にケースがない。

 あれがなければ自分は"死ぬ気化"出来ず戦うことすら叶わない。どうにか事情を説明して一時中断してもらっ――

 

「それでは二人とも、準備はよいかの?」

 

「おう、俺はいつでもオッケーだジっちゃん! とっと始めようぜ!」

 

「は、はい!(――って何返事しちゃってんの俺ーーーーー!!?)」

 

 つい条件反射的に審判役のマカロフに返事をしてしまった。

 もう中断なんて出来ないし、今戦いが始まろうとする周りの空気を読まない行動を起こすこと何て綱吉には出来ない。

 

(どうしよう!! "死ぬ気"状態でないと戦うことすら出来ないし、『死ぬ気丸』と『死ぬ気弾』なしに"死ぬ気"になるなんて―――あっ)

 

 そんな時綱吉は再びある事を思い出す。そしてすぐさま、普段は使わないボタン付きのポケットに手を伸ばす。そこにはあった、見た目はどこにでもあるアメに見える、予備用の『死ぬ気丸』が二つ。

 

 普段は戦う気はない綱吉だが、後ろにいる守るべき者達を守るため、そして仲間や友人のためならば綱吉は戦うことを躊躇わない。しかし『死ぬ気丸』には数が限られており、それがなければ"死ぬ気化"出来ず綱吉は戦うこと何て出来ない。

 それを回避するための予備。たった2個でも、こんな時には重宝するものだ。まさかここで使うことになるとは思わなかったが、今回は本当に助かった。

 

 そんな安心してた矢先に、マカロフによって開戦の狼煙が上がろうとしていたことに綱吉は急いで手を動かす。

 

 自分の力はこの世界で通じるのか、戦う自分の姿を見ても妖精の尻尾(フェアリーテイル)は受け入れてくれるのかと不安が一瞬よぎるが、その考えを今は捨て去る。自分と相対する桜髪の少年にしっかり応えるため、そして新たな妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間として受け入れてもらうため、綱吉は少しばかり不承不承の気持ちを持ちながらも気持ちを切り替える(・・・・・・・・・)

 

「それじゃ尋常に――――始めい!」

 

 綱吉が死ぬ気丸を口に入れたと同時にマカロフの開戦の合図が上がる。そしてその二つと共にナツも同時に動き出した。まるで檻から解き放たれた獣の如く瞬時の速さで綱吉との間合いをつめ、開始数秒で綱吉の目の前に迫った。

 

「先手必勝!!」

 

 先手必勝――先に攻撃を相手に与えた者に流れが来ることはナツは知っている。だからこそ、ナツは先に仕掛けるように拳を振るう。自身の魔法を付加させていない拳だが、魔導士ギルドに属する一般魔導士や『評議院』傘下の強行検束部隊の《ルーンナイト》の兵隊を一発で沈めることができる威力を秘めた一撃だ。

 勿論この一撃で倒せるなんて微塵も思ってない、この後の展開もしっかり考えての攻撃だ。

 

 普段の彼は喧嘩っ早く楽観的な行動で勘違いしがちだが、ナツは戦闘の際はそれらと反比例してよく頭が切れる。だからこそ彼はこの拳の一撃を防がれる、または躱されたとしても何も問題視しておらず、むしろそれは想定の範囲内と見越しての行動だ。さあ、一体綱吉はこれに対してどのような対応を――

 

 

 

 

 

「がぁっ!」

 

 バキ!という殴った音の後に、壁か何か崩れ落ちていく音が響く。

 

「………あり?」

 

 刹那、ナツは一体何が起こったのか理解出来ないでいたが、徐々に瞬く暇に起こった出来事を思い出していく。

 確か自分が繰り出した拳が綱吉の頬にまもとに入り、そして拳に入れた膂力に比例したかのように近くの建造されていた無人の木造の家まで吹き飛び、その影響で崩れた数々の木片に埋まってしまったのだった。

 

 恐る恐る綱吉が埋まった木片の山に目を向ける。しかしその山が動き出す気配が全くない……つまり――

 

 

 

 綱吉、ナツの一撃にて戦闘不能。よって模擬戦はこれにて終了。

 

「あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

『ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?』

 

 ナツも、そして観客側のギルドメンバーも、この結果に驚愕を隠せず驚きの声を上げる。これから新人とナツの手に汗握る力比べの試合が始まるのだろうと皆期待に膨らんでいた。だからまさか、こんなにもあっさりと終わるとは思いもよらなかった。

 

「も、もう終わりやがったのか……」

 

「やっぱ見た目通りだったんだな」

 

「まあ俺はこうなることは予想できてたけどな」

 

 元々綱吉の実力に対して半信半疑だったメンバーが大半だ。最初は驚きの声を上げたが、考えてみれば彼らにとって予想通りの結果だ。

 でもだからと言ってみんながそれで綱吉を軽蔑したり馬鹿にしたりなどは決してしない。別に《妖精の尻尾》は戦闘が出来なければ入ってはいけないというルールはない。人間には得意不得意があり、綱吉にとって戦闘は不得意なのだろうし、この結果も分からないでもない。現に戦おうとするのも渋々といった感じだったのは覚えている。だとすれば彼には悪いことをしたなと心内で謝罪する。勿論きちんと直接彼に謝るが取り敢えず、まずは木片に埋まっている綱吉を救出せんと何人かが動き出――

 

 

 

 

 

「――誰がもう終わりだって?」

 

 不意に、芯の通った澄んだ声が聞こえた。

 その声は無視できず、思わず全員の動きを一斉に止めるほど。そして突如綱吉を埋めていた木片が爆発でもしたように四散に飛び散る。その影響で煙が上がるが、そこから悠々と歩み寄る足音が聞こえ、その主の姿が煙から現れる。

 

 露わになったのは一人の少年。その少年が一体何者かだなんて分かりきっている。それなのにこの場にいる誰も彼もが、動揺と戸惑いを隠せないでいた。

 

 目を凝らした先に映るのは沢田綱吉――だが先程までと彼とは全く違う。

 まずは今の綱吉の雰囲気だ。先程まで彼が纏っていた気弱そうでありながらも初対面でも関わらず暖かさを感じさせる優しさを持つ雰囲気とは似ても似つかない。

 今は先ほどの気弱さを全く感じさせない、どんなことにも動じない落ち着きはらった冷静さを感じさせる。

 そして変わったのは雰囲気だけじゃない。毛糸の手袋はどんな手品を使ったのか鋼鉄のグローブに変わっており、手の甲の部分には何かの紋章が刻まれている。

 印象的なのは額に灯る濁りや汚れがない綺麗な澄んだ橙色の炎と、綱吉の髪の色と同じだった茶色の瞳が全てを見透かすような橙色の瞳に変化していることだ。

 

 勿論他にも変わった所はあるが、綱吉のことを何も知らない《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》のメンバーが理解できるのは現時点で"ここまで"だ。

 

「ね、ねぇ……ツナ君、なの?」

 

「そ、そんなの私に聞かれても分かんないよ……」

 

 先程まで綱吉が纏っていた雰囲気がガラリと変わったのだ。周りが動揺するのは無理もない。

 しかし、マカロフを除けば今いる《妖精の尻尾》の中でも最強の実力を誇っているエルザは違う意味で驚愕している。そしてそれは薄々ながらも他のメンバーも理解できている者は気づいている。

 

(何だ!? この圧倒的な……まるでこの場を支配するような感じは!)

 

 視線は自分達に全く向けられてない。なのに気を一瞬でも気を抜けば彼が纏う雰囲気と気迫に飲み込まれそうになる。そしてそれを真に受けてエルザは気づく。

 

 綱吉は別に自分で存在感をだそうと炎圧や気迫を放出などしていないし、周りを押さえつけようと圧をかけているつもりもないことを。ただ雰囲気が変わったと同時に、戦うべき相手を見据え立っているだけなのだと。

 

 そのことにエルザの体に武者震い(・・・・)が奔る。

 あの少年はたったそれだけで周りの存在を圧倒する存在感を出しているのだ。勿論ただ何もせずにこんな存在感を出せるはずがない。血の滲むような鍛錬と数々の命懸けの修羅場を乗り越えた事で、彼はここまでの存在へと成り得たのだろう――それがエルザにはよく分かる。

 そんな少年は今ナツと1vs1(サシ)で戦おうとしている、そんな雰囲気の中で自分が割り込もう(・・・・・・・・)という気持ちなど持ち合わせてなどいない。だからもし次の機会があれば――いや、もしこの模擬戦でまだ余力があったら……

 

 そんな周りの動揺や考えを知ってか知らずか綱吉は今戦うべき相手であるナツに視線を向ける。綱吉の激変に呆然としていた様子だったが視線を向けられたナツは一瞬震えが奔った様子が見れた。だが僅かに笑みを浮かべながらも意を決したように表情を引き締め、構えをとった。

 この様子じゃ引く気はないようだ。"死ぬ気"状態になってもまだ戦うことに抵抗がある綱吉は彼自身がこの戦いから引いてくれるんではないかという期待を込め、少しばかり威圧を込めた視線を送ったのだが無駄だった。ならば引く気のない彼に応えなければならない、綱吉の心の中にあった最後の抵抗はなくなり、今この時もって(・・・・・・・)戦る気を表す。

 

 彼――ナツにとってこの試合は武術家のような試合感覚の腕試しのつもりなんだろう。しかし――

 

「…やはりどんな理由があろうと戦うのは好まない。だから――」

 

――すぐに終わらせてやる

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ナツにとって綱吉の第一印象は面白い奴、そして強い奴だということ。前者は普段の彼を見れば理解できなくはないが、後者の方は流石に見た目からは理解し難いだろう。

 ナツでさえ何故綱吉が強いと思ったのかは分からない、何せ勘でそう思っているからだ。だからこそ、この力比べの試合でそれを見極めようと決めた。勿論自分が戦いたかったという気持ちも否定しない。

 例えそれで強いことが分かっても、弱いことが分かっても綱吉はもう自分達妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間、家族であるのは変わりない。これから先に送る日々が楽しくなるのは間違いない、まだ綱吉とは会って間もないが、そんな予感がナツにはあった。

 

 だが、流石にこの展開は全く予想できなかった。

 

 何もかも見据えているようなの橙色に変わった瞳が自分に向けられた時は思わずブルっと震えてしまった。そして不覚にも一瞬、戦うことを拒否しようとしていた。

 恐怖? いや違う。決してそれはない。普段は恐れて手出し出来ないエルザが相手でも、戦いの際は臆せず立ち向かえるし、今の実力なら勝てずとも渡り合えることは出来ると確信している。

 

 じゃあこの震えはどう説明すればいい。今まで感じたことがない――いや、ずっと昔に感じたことがある。

 その感覚を思い出した時、ナツはこの体の異変に気付いた――いや気づかされた。今奔るこの震えは、頭よりも勘よりも先に体が気づいてしまったのだ。竜の本能なのか、それとも実践の経験からか定かではないが、負けず嫌いで認めたくない気持ちがあれどナツは理解してしまった。

 

 今目の前に立つあの少年は――自分なんかより遥かに強い、と。まるで自分が知っている強者――ラクサス、ギルダーツ、マカロフ……そして自分の親であるイグニールと相対している気分だ。

 

 相手がとてつもなく強く、自分の今の(・・)力じゃ勝てないことは真っ先に理解できた。なら勝てない勝負を棄てるか? それとも結果が見えてるからといって降参するのか?

 

 ナツの答えは迷うことなく―――否だ。

 

 相手が自分よりも強いからと言って勝負を捨てるような性分ではないし、勝ちを諦めるなどのマイナス思考をナツは持たない。何よりも"気持ちで負ける"と自身で決めつければ、どんな戦いでも確実に敗北してしまうことをナツは知っている。だからこそナツは、例え自分よりも上の者が相手だろうと自分が絶対に勝つ!という気持ちを決して忘れない。

 

 再び目の前の少年の目を合わせ、相対し構えを取る。

 先程は彼の瞳に思わず萎縮してしまったが、覚悟を決めたナツには、もう恐れる理由がなかった。

 どうして額の炎が灯っているのか、何で毛糸の手袋が鋼鉄のグローブに変わっているのか、戦いに入るとこうまで雰囲気が激変するのかと疑問は尽きないが、今はそんなことはどうでもいい。

 

 始めは入ってきた新人がどれ程強いのか腕試しのつもりだったが、今は違う。

 思わず楽しそうに嬉しそうに笑みを浮かべてしまう。自分よりも上に位置する実力を持つ綱吉との戦いを糧に、自分は新たな段階へと昇れる、強くなれる! そして、イグニールの出会いに近づける!! これほどの機会と好機を、見逃してなるものか!!

 

 

 

 先に動いたのはナツだった。様子見などしない――いや、自分よりも実力が上の相手にそんな真似をする程、ナツは能天気な頭脳は持ち合わせていない。だからナツは自身の魔法を使うのに躊躇いはしない。

 

「火竜の――鉄拳!!」

 

 放出した炎を拳に纏わせ、目の前にいる綱吉目掛けて振りかぶる。単純な動作であったが、その速さには目を見張る。ただの魔導士なら反応できず彼の拳をまともに受けることになるだろう。更に自身の魔法である炎を付加させたことで、先程とは比べものにはならない破壊力であるのは間違いないだろう。

 

 だが、沢田綱吉はその魔導士のレベルに当てはまらない。彼は落ち着いた表情で体を横に45°ずらすという最小限の動きだけでナツの振りかぶった拳を躱してみせた。

 

「――と、火竜の鉤爪ェ!!」

 

 躱されることが想定内だったのか、ナツは火竜の鉄拳の際に力を込めた勢いを利用し火竜の炎を纏わせた脚による回し蹴りを綱吉の胴体目掛けて放つ。

 だがそれも、ナツの回し蹴りに合わせるかのように後ろに少し下がったことで、またも対象を失った攻撃は空を切ることとなる。

 

「まだまだぁ!! 火竜の――」

 

 ナツだって綱吉相手にこれだけで決まるだなんて思う程の気楽者ではない。気落ちすることなく次の攻撃の手を緩めず、両腕に炎を纏わせ薙ぎ払うように――

 

「――翼撃っ!!」

 

――敵を焼き尽くす火力を秘めた炎を纏った両腕を薙ぎ払うように振るい攻撃する――まるでその名の通り竜の翼を思わせる広範囲の攻撃は、綱吉を焼き尽くさんと襲ってくる。

 今度こそいけるか!?と期待を込めたそのナツの攻撃は――脚だけを素早く動かし翼を模倣した炎の一撃が当たらない範囲に移動されたことで当たることはなかった。

 

(また躱された!?)

 

 その事実にナツは技が通用しないことに少しばかり動揺してしまうが、一瞬で頭を切り替えならば次は手数で勝負だ!!、と自身の脚力と敏捷力を大いに利用し綱吉との間合いをあっという間に詰め、腕と脚に炎を纏わせての連続攻撃を放つ。

 ストレート、裏拳、フック、アッパー、回し蹴り、膝蹴り、かかと落とし……二桁は優に超える殴り・蹴り技、竜の炎を纏わすことでその一撃一撃が人体を破壊するのではないかという威力を、ナツが持ち得る最大限に近い速さで休むことなく綱吉に振りかぶった。

 

 だがそれでも、目の前の少年に一撃入れることは叶わなかった。完璧に躱されていたのだ。まるで攻撃してくる場所が最初から分かっているかのように。

 

 滅竜魔法が、自分の魔法が全て躱されている(・・・・・・)。更にずっと全力に近い攻撃のために体を動かしていたため多少なりとも疲労を隠せないナツ。

 あれだけの手数の攻撃で勝てるだなんて思ってもいなかった。だが――当てる(・・・)ことすら許されないなんて……。

 言っておくがナツの攻撃が遅いわけではない――むしろその逆だ。

 滅竜魔法とはその名の通り、竜と呼ばれる幻獣種の中でも最高位に位置する生物を滅ぼさんとする魔法であり、その破壊力は他の魔法とは一線を画していると言ってもいい。だがその破壊力も相手に当たらなければ全く意味はない。だからこそナツは自身の滅竜魔法を確実に当てるために敏捷力をひたすら鍛えた。結果ギルドの中でも最速とはいかないものも、上位に入るほどの速さを兼ね備えるほどになったのだ。

 

 では何故そんな速さを持つナツの攻撃が全て綱吉には躱されるのか?

 

 答えは至極単純。

 その攻撃を完全に見切り回避できるだけの反応速度を彼が持っているだけだ。勿論それだけではない(・・・・・・・・)のだが、今の彼らには理解できないだろう。

 

 そんな内心から生んだ戸惑いのを感情何とか押し殺し、顔を動かし瞳に綱吉を映す。

 綱吉の無表情に近い表情から、一体何を考えているのか全く読めないし、何よりも彼は躱し以外の動きを全く見せていない。ゆえに彼の躱し以外の動きが全く読めない。だからナツは綱吉の些細であろう動きを見逃せないため、目だけはしっかり綱吉を見据える。

 攻めだったナツが様子見に転じたため膠着状態が続くんじゃないかと周りが考えてるなか―――

 

 

「……もういいか」

 

 そんな小さな呟きが、ナツの耳に入った瞬間―――――瞳に映っていた綱吉の姿が文字通り消えた。

 

 目の前の光景にナツは驚きを隠せなかった。

 自分の瞳は、しっかり綱吉を捉えていた。いつ躱そうと動き出すのか、いつ防御の構えを取るのか、いつ攻撃に移るのか……それをどんな事があろうとも見逃せないために疲労を感じながらもずっと視ていた。にも関わらず、自分の目の前から綱吉が消えた。

 一体どうなって、綱吉はどこに行った!?……そんな思考は――

 

「っ!」

 

 滅竜魔導士になったことによって人間を凌駕した嗅覚で感じた臭いが、頭や勘よりも速く感づき体を反射的に後ろを振り返り腕を交差させた盾を作り出す。その数秒にも満たない瞬間――

 

「があぁ……っ!!」

 

――交差した腕に衝撃が奔る感触と同時に地面に転がされていた。そして転がされる中で、自分が先程までいた場所にいつの間に綱吉がいた。そのことから、自分は彼によって殴り飛ばされたことにようやく気付く。

 交差した腕が痺れる。魔法によって強化されたにも関わらず、それを無視するかの様な重みの一撃が今でも感じられる。もし接近に気づかず綱吉の打撃をまともに受けていれば自分は敗北していた……悔しいが、それを理解できない程ナツは馬鹿ではない。

 

 だがこれで、やっと隙ができたことにナツは転がりながらも笑みを深くする。

 ほんの一瞬であったがナツは見た。クールで感情を表に出すことなんて考えられない綱吉の無表情顔に少しばかりの変化があったことを。

 彼にとって今の打撃で勝負を決めるつもりでいたのだろうが、ナツの無自覚に等しい防御反応は流石に少しばかり予想外だったのだろう。

 ならば更にお前にとって想定外の行動を起こしてやろうと言わんばかりに、ナツは片腕に炎を纏わせ転げ回る状況であるにも関わらず、釘を板に打ち付ける要領で腕を地面に無理やり殴りあける事でブレーキをかけ、転がり状態から瞬時に脱し立ち上がる。

 

 そしてナツはすぐさま準備を始める、今自分が持ち得る滅竜魔法の中でも一番の破壊力を誇る魔法を。

 

「火竜の――」

 

 口を開いて空気を大いに体内へと取り組み体内に魔力を溜める。やがて限界まで溜め込んだ魔力は自らの属性に変換及び準備が完了。

 そして吐きだす。通常の人間が吐く空気ではなく、自分と父親が誇る属性である灼熱の炎を!

 

「――咆哮!!」

 

 竜の代名詞たる咆哮(ブレス)。炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たるナツから繰り出されるのは躱すことは許さない程広大で、高温という言葉では表現できない程の灼熱の咆哮(ブレス)。炎という属性の特徴を表すかのように、この咆哮(ブレス)は正にあらゆる物を破壊しつくさんとした威力がヒシヒシと感じられる。

 

 そんな敵を焼き尽くさんとする咆哮(ブレス)が自分に向かって迫ってくるにも関わらず、綱吉は表情を変えずその場から動かない。周りから"まさか受けきる気か!?"と正気を疑うような声が聞こえるが、生憎あんな死ぬ可能性だって否めない咆哮(ブレス)を受けるほど綱吉は病的じみてなどいない。

 

 受けるのではない、躱すのではない、防ぐのだ!

 

 綱吉の気持ちに呼応するかのように左手のグローブから額に灯る炎と同じ、汚れや濁りのない澄んだ橙色の炎が放出される。

 その炎の美しさに性別問わず誰もが一瞬見惚れたが、すぐある事実に気付く。彼の放つあの炎から"魔力を感じられない"……、魔力に敏感な魔導士は綱吉が灯す炎が"魔法"から出来ていないことに驚きと戸惑いの声を上げる。

 

 触れる物を焼き尽くしながら迫りくる竜の炎に全く怖気づく様子もなく、綱吉は左腕を横に一閃する。瞬間、目の前に綱吉を守るかのように橙色の炎の壁が出現――――形成された。

 

 そして瞬く間に、竜の炎()橙色の炎()が激突する。 

 

 竜の炎は橙色の炎の盾を貫き破りその後ろに控える綱吉を焼き尽くさんと徐々に橙色の炎()を押していき、正に矛の役割を果たそうとしている。対照的に橙色の炎は後ろにいる綱吉に指一本触れさせんと竜の炎()を完璧に防ぎ切り、盾としての役割を果たしている。

 もしこの状況(・・・・)で勝敗を決するのなら、どちらかの(武具)の強度が高い方が勝利するだろう……だが、それが自分達の知識で知り得る(武具)だった場合だ。

 

 その証拠に均衡していた状況に変化が起き始めた、原因は橙色の炎だ。

 

 橙色の炎は盾としての役割を果たしつつ、敵に対して――何よりも炎の性質(・・・・)として有るまじき現象を起こしているのだ。

 敵であるはずの竜の炎を、まるで橙色の炎は親しい者を受け入れるかのように徐々に包み込んでいってるのだ。当初荒々しく触れる物を破壊せんとした竜の炎は、まるで安心感を覚えたかの様に徐々に威力を弱めていき、やがて穏やかとなり――

 

 

 

――――橙色の炎と共に、"空気に溶けるように静かに消失していった。

 

 

 この矛と盾の衝突を観戦していたギルドメンバーの全員が、この結果に空いた口が塞がらないように呆然としてしまう。

 

 一瞬でも気を抜いてはいけない状況であるはずのナツですらそうだ。

 まだ自分が未熟だということも認める。自分など、まだ父親である炎竜王のそれには遠く及んでいないことを。しかし父親に追いつくべく日々鍛錬で鍛えた先程の咆哮(ブレス)は、自分が今発揮できる最強の遠距離攻撃だった。

 

 だが、今目の前で視た現象はどう説明すればいいんだ。強度や力負けで防がれるのなら悔しさを感じずにはいられないが、まだ納得はできる。しかし自分が視る限り今のは強度や力負けで防がれていないことが何と無くだが分かった。

 ギルドに入って7年間、討伐系を含んだ様々な依頼をこなすと同時に色々な物をその眼で見て来た。でもこの現象は今まで一度だって見たことがない。

 

 "一体どうなって……"、そんなナツの思考は――

 

 

 

「――がぁっ……」

 

 

――後ろから奔った、意識を手放したくなる強烈な痛みによって途切れた。

 

 




はい、無事試合終了!
今回はほぼナツ目線での戦闘話でした。

次回は今回の戦闘の簡単な解説……そしてもしかしたら、また戦闘になるかもしれません。相手は……――今回の話を読めば分かると思います。

それではまた次回お会いしましょう!
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