ご近所のフリーダムな男の子に振り回されるライターさんのお話。

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フリーライターとフリーな高校生

 

 ドンドン。窓を叩く音がした。

 俺はうな垂れて大きな溜め息をつく。アイツめ、また来やがった。

 振り返ってみれば案の定だ。窓にへばりついているアホ面の男がいやがる。開けて開けて、と口をパクパクさせながら鍵を指さしている。

 これみよがしにしかめ面を見せてから俺は窓に近寄った。だが、鍵はそのままだ。

「何の用だ」

「会いにきちゃった」

 悪びれもなく男はにへらと笑った。

 躊躇なく俺はカーテンを閉めた。

 窓のドンドンが大きくなり、ドンドンがドンドンドンになりドンドンドンドンになり……。

「いい加減にしろ、このバカ!」

 勢いよく窓を開けて怒鳴りつけてやったが、やつは平然とふやけた笑みを浮かべ続けている。

「ご近所に見られたらみっともないだろ」

 首根っこを掴んで乱暴に部屋に転がり落としてやった。相手は頭をぶって撫でさすっている。ざまあみやがれ。

「だったらさっさと開けてくれよぉ」

「いいか」

 口を尖らせる相手の前に俺は仁王立ちした。

「入れたくないから鍵を開けなかった。入れたくないからカーテンを閉めた。なぜこっちの意図が伝わらない!」

「会いかったから来たんだけど。俺の意図は伝わらないの?」

 だーーーーーーーーッ。ああ言えばこう言う。俺は頭を掻きむしった。

「今、締め切り直前で忙しいんだ!」

「へえ、大変だねえ」

 ダメだ。いつものことながら、意思の疎通がまるでできない。こいつは相当のKYか。それとも宇宙人か。

「あ・オヤツ発見」

「オイッ」

 人の迷惑が感知できないのか、食べかけのポテトチップスをパリポリと食い出した。

 こいつといるとどうにも疲れる。椅子にどかっと座り、

「不法侵入で通報するぞ」

 投げやりに言ってみた。

「大丈夫。オバちゃんに許可もらったから」

「なら、玄関から入れよ!」

「こっちのがスリルがあって面白いじゃん? あ、飲み物ある?」

「自分ちで飲めよ……」

 ちょうどそこへ、遠くから声が飛んできた。

「ケンイチ!」

 向かいの家の窓からこいつ、ケンイチの母親が怒鳴っている。

「シュウちゃんのお邪魔しちゃダメだっていつも言ってるでしょう! さっさと戻って来なさい!」

「宿題見てもらってんだよー」

 窓枠に手をつきケンイチが答えた。嘘つけ。教科書の一冊も持ってねえじゃねえか。

 すると母親は互いの家の軒先にかけたハシゴをケンイチの部屋から撤去した。

「ああ! 何すんの、母ちゃん!」

「玄関から戻って来なさい。今すぐ」

 声にドスが利いている。相変わらずの迫力だ。細身でこざっぱりした女性なのに相変わらず男気がある。女でひとつでこの問題児を育てた賜物だろうか。

 ケンイチはこの母親には逆らえない。しぶしぶスポテチの袋を置いて立ち上がった。デニムの腿を払って食べかすを落とす。

「部屋を汚すな」

「どうせ散らかしっぱなしじゃん」

 悪戯っぽくヒヒッと笑って彼は扉の内鍵を開けた。

「また来るね」

「頼むから、せめて俺が暇なときにしてくれ」

 ひらひらと手を振って彼は部屋を出て行った。

 階下で「ケンちゃん来てたのー」「あ、どうも、おじゃましました」「あら、もっとゆっくりして行けばいいのに」などという会話がかわされている。

 頼むから母よ。引き止めてくれるな。さっさとそいつを追っ払ってくれ。

 玄関が閉まる音がしてようやく静かになった。俺は気を取り直してパソコンに向かう。頭で整理がついていたものが一挙に拡散し、キーボードを叩く指が止まる。手元の資料を見直した。徐々に考えをまとめ直していく。

 そこへ扉をノックする音が聞こえた。

 母かと思って「どうぞ」と声をかければ、

「ただいまー」

 と間の抜けた声がしてぐりんと首をねじった。痛え。

「な、何してんだ、お前」

「んー? オバちゃんが買い物に出るから留守番よろしくってさ」

「俺がいるのに?」

「原稿の邪魔しちゃ悪いと思ったんじゃない? はい、コーヒー」

 デスクにマグカップを置くと自分は床に座って、オレンジジュース片手に茶菓子を頬張り始めた。俺は浅はかな自分を呪った。こいつの愛嬌のよさは異常なまでにオバちゃんにウケるのだ。そしてご多分にもれず、我が母もファンの一人だ。

「もう分かった。そこにいていいから、いっさい口をきくなよ」

「ふぁーい」

「しゃべったら即刻退場だ」

 クッキーを口いっぱいに頬張って、やつはOKサインを作った。

 


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