朝、目が覚める。
「悪りぃ、起こしたか?」
「うーん、へいき。」
まだ、眠い目を擦りながら身体を起こす。
「寝とけ、眠いんだろ?」
「むぅ~、ごはん?」
「いい、もう行くから。」
もう少し、引き止めたかった。手を伸ばすも相手は、襖を閉め行ってしまった。宙に浮いた手を握りしめ、下ろした。
時計を見ると、深夜2時を少し過ぎた頃。
ここ最近、ヤる事やったらすぐに帰る。前は、朝まで居たんだけど………それも遠い昔の事。
俺のこと、キライニナッタノカナァ?
『明日の夜、そっちに行くから。』
トシからの電話。正直受けるのが嫌になってきた。
『わかった。飯はどうする?』
『たぶん、遅くなると思うからいいや。明後日休みなんだ。』
『じゃあ、泊まりに来るわけ?』
『あぁ、頼むわ。』
言いたいことを言って電話を切られた。
はぁ~、ここは宿じゃねぇって。近くにあったジャンプを投げるも誰も居ない宙を舞ってパラパラとページが捲れて落ちた。
俺たち、付き合ってる意味があるのだろうか?
付き合いだしたのっていつだっけ?何が原因?
わかんない。もう、ワカレタイ。
「ガキたちは、居ねぇだろうな?」
開口一番がそれ。ヤル気満々なのが嫌になる。
「お妙ん家で、すき焼きするって出ていった。」
遅くなるって言ってたのに、現在5時ちょっと過ぎ。今まで定時に上がって来るなんてなかったのにな。
お陰で、食事をまだ摂ってない。
「何作ってるんだ?」
台所にいると、いつの間にか後ろに立たれてた。
「親子丼。今日、鶏小屋の掃除をしたらおじさんが鶏肉と卵くれて……トシも食べる?」
「いい。」
………付き合って今までトシの食事シーンを見ていない。付き合う前は、甘味屋に行ってもコーヒーを飲んでたのに、今じゃ街で出逢うとタバコを消すし、呑み屋で偶然出逢ってもすぐに帰ってしまう。
そんなに、嫌なのかって落ち込んじゃうんだけど………。
「沸騰してるぞ、おすまし。」
考え事をしていて、トシの声で現実に引き戻され慌てて火を消す。
「ぼっーとしてるとその内火事出すぞ。」
誰のせいだよ。って言いたいけど、言葉をひん飲んだ。
だって、せっかく美味しそうに出来たから……。一人分を盛り付けリビングに運ぶ。
口に含むと、甘さが広がった。
「ホントに要らないの?」
「あぁ。」
ふーんといい食べ進める。何しに来たんだろう?やっぱり、ヤるのかなぁ?
泊まるなんて凄く久しぶりなんだけどな?
「ご馳走さま。はぁ~、美味しかった。」
「やっと、食べ終わったか。」
トシがおもむろに席を立つ。
「行くか。」
「ん?行くって、もう布団に行くのかよ。やだよ、行くの。」
「布団じゃなくて、出掛けるの。」
何処に?と聞こうとすると、腕を捕まれ外に出された。いつ持ち出したのかと思うけど、丁寧に鍵までかけてる。
あんなに五月蝿かった蝉は、何処に行ったのかと思うほど静かになっていて、ほんのり暖かさの残る風が草花を揺らすと微かにスズムシの声が聞こえる。
依然として何処に行くのかは言ってくれない。
手は未だに、繋がれたまま。
「何処に行くんだよ?」
「まだ、内緒。」
暗がみの中歩き、1軒のビルの前に着いた。電気のついてないビル、こんなとこになんの用があるんだろう?
「行くぞ。」
「ここなの?」
正直入るのが怖い。暗闇にボンヤリ消えたり付いたりを繰り返す蛍光灯に蛾が群なってる。
ゆっくり二人で、階段を下りていく。
「怖いんだけど?ねぇ~帰ろう。」
トシの服の裾を引っ張る。
「もう、ちょっとだから我慢しろって。」
ドアを開けると、その中も真っ暗だった。
「帰る。」
手を振り払い、踵をかえす。
「待てって。」
「銀ちゃん、待ってね。」
「そうですぜぇ、旦那。土方の野郎にしては、ちゃっかり連れてこれたんですから。」
「待ってくださいよ。銀さん。」
一気にみんなの声があちらこちらから聞こえてくる。目の前が明るくなり、振り返ると新八や神楽・沖田くんが俺の顔を覗き込んでる。
「たく、土方の野郎がサプライズなんて言うから旦那が帰るなんて言い出すんでぇ。ちゃんと、言った方が良かったんでさぁ。」
「「旦那(銀ちゃん)(銀さん)お誕生日、おめでとうでさぁ(ネ)(ございます)」」
真撰組と神楽と新八から言われる。
「へぇ?誕生日?」
「やっぱり、こいつ忘れてやがる。」
トシが呆れた様子で言う。
「今日、10月10日。お前の誕生日だろ?」
「そうだけど、忘れてた。けど、なんでこんなとこですんの?いつもは屯所とかじゃん。」
「それは、余が居るからじゃ。」
「え?将軍様?」
奥の方からあまり目立たない着物を着た将軍様がやって来た。
「余も祝いたいと申したのだ。さぁ、こっちに……。」
手招きされ、人混みをかき分け向かうと結婚式?みたいなデカイケーキがあった。
「みんな、ありがとう♪」
トシに真っ赤な薔薇の花束を貰い涙が出た。
その涙は以前流したものよりも、温かかった。
「銀時?なんでこんなとこに居るんだ?」
昔から、人混みが苦手で暫くすると外に出た。階段に座りチューハイをちびちび飲んでいるとトシが出てきた。
「ちょっと、慣れてなくてさぁ。こんなの、嬉しかったんだけどね。」
「隣いいか?」
「うん。」
隣に座り、“大丈夫か?”と聞いてくる。
「ごめん、将軍様がどうしてもって……。」
「別に、責めてないよ?昔からさ、人酔いっていうの?あれになるんだよね。まぁ、あいつらは自分達が楽しんでるけどね。」
「だな。悪かったな、今までこのビルを使う許可を取るのに手間取って、裏口があるからそっちから将軍様を入れれると思って……。それでさぁ、お前のとこに泊まらずにここの管理人に逢ってたんだよ。」
「そうだったんだ。言ってくれればよかったのに……。」
頬を膨らますとつつかれた。
「驚かせたかったから。」
「もう~。」
トシの肩に頭を乗せると、重たいビルの扉が開いた。
「主役が居ないんじゃつまんないじゃないですか?」
「戻るか。」
「うん。」
単なる勘違い、少しでも言ってくれればよかったのに……。二人で、ビルの中に戻る。
まだまだ、宴会は続きそうだった。
完