目覚めたのは暗闇のなか。
自覚したのはコアであること、ネットワークからビシバシ情報が来るので嫌でもわかった。

コアの自意識である“私”と操縦者、あとネットワークで繋がる他のコアたちのお話。



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01.schwarzer regen

 目が覚めたら暗闇だった。夢の中だろうか――二度寝することにした。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 目が覚めると味気ない空間にいた。というか“居た”と言っていいのかこれ?

 ふかふかのベッドもない、壁もない、床もない。極めつけには自身の身体もない。言ってしまえば第三者的視点から夢を見てるような感じである。

 私は、俺は、僕は、自分は性別がナニで年齢がいくつかもわからないんだ。まぁ、両性に対応できる私と呼ぶことにしようか。僕っ娘、なんて知識を放り込まれたが無視。

 現状私は意識体みたいなものだからチ○コのあるなし……失礼、生殖器で性別の確認も、シワの数で年齢の推察もできない。

 

 ただわかることは私が入っているこの“器”が目の前に見える、私が見上げている先にいるこの女に作られたことか。

 さっきからひっきりなしに頭のなかに入ってくる情報――なんて言っても頭なんてないんだがな。とにかく頭(仮)へガリガリと刷り込むかのように入ってくる情報からすると私は“ISコア”という器にある自意識らしい。

 そして私をニヤニヤしながら見てる女は篠ノ之束、生み親らしいが……コミュ障か。私の兄姉にあたるISコアから残念な情報が洪水のように押し寄せてくる。

 

 この情報が流れてくるのはコア・ネットワークというISコアたちの意識の独自ネットワークのせいらしいが、しかし……いや、なんだ

【コミュ障を超越したナニか】【妹と不仲】【妹から一方的に不仲】【妹キチ】【姉が悪い】【性格も悪い】【ホントは優しい姉妹】【友達一人】【ボッチじゃない孤高なのだ】【やっぱボッチ】――ボロカス言いまくるな。フォローがひとつしかなったぞ。

 生み親殿、私はあなたが心配なのだが……ほら、ネットワークを盗み見できるらしい生み親(マイスター)が泣きそうになってるぞ。

 

「ボッチじゃないし……ちーちゃん親友だし。そりゃ箒ちゃんは、私が悪いんだけどさぁ……」

 

 マイスター、安心しろ私はあなたの味方でいてやろう。なにしろ私はあなたから生まれた、あなたに生み出された子供だ。

 

「圧倒的な上から目線に束さんは困惑だよ」

 

 貴女に石を投げられれば囃し立てて、貴女の悪口を言うものがいるならば燃料を投下し炎上させよう。そして、最後には傷つき一人となった貴女のもとに寄り添い優しい言葉を掛けようではないか。

 

「なんか性格が悪い子出来ちゃったー!?」

 

 はて、何が悪かったのか。私は出荷されることとなった……出荷というよりは割り振られたというべきか。

 行き先はドイツ、ふむソーセージとビールが美味しいという情報を貰えたところで、私は飲み食いできないので意味がないのだがな。

 

 行き先は――軍隊か。うん? たしかアラスカ条約では現行の戦闘兵器はISの前では、チョロQがスポーツカーに勝負を挑むに等しい。

 それ故に世界の軍事バランスは崩壊したとあった。

 そして、開発者が日本人ということもあり日本が、IS技術を独占的に保有していた。

 そのため、危機感を募らせた諸外国はIS運用協定“アラスカ条約”によってISの情報開示と共有、研究のための超国家機関設立、軍事利用の禁止などが定められたほではなかったか? 軍隊に持っていかれる私はなんなんだ?

 

【軍事利用ではない】【そう――これは防衛だ!】【武具を構えよ、これは軍事ではない】

【【【自衛だ!】】】

 

 さいですか。たしかに日本も兵器を保有していても、軍事利用はしていないね。現状での目的はあくまでも自衛にあり、侵略略奪には利用してない。

 いやー、なんともまぁ揚げ足取りというか拡大解釈というかいやはや人の柔軟さには驚くかぎりだよ。

 私は生まれたばかりなせいか頭がどうにも固くてよくないね。

 

「束さん内でお前はトップスリーに入る柔軟さだよ。じゃ、また縁があったら会おうか」

 

 マイスター甘いな、私は機体(ボディ)さえ手にいれればいつでもあなたに会いに来るぞ。

 

「それしたら解体するぞ」

 

 おお、怖い。それならよしておくとしよう。では私はマイスターの替わりとなる相棒(パートナー)のとこへ行くとしよう。

 

「専用機になるとはかぎらないんだけどなぁ」

 

 それはそれでよし、成長が止められるというのは息苦しいものだが永遠の若さを保てると考えればそう悪くもないだろう?

 マイスターもそろそろ肌には気をつけるといい。パッと見て十代と比べ遜色ないが、ハイパーセンサーで見るとさすがに劣っている。

【徹夜いくない】【栄養の偏りが多いな】【二十代の怠慢!】【若さ一瞬、衰え一生!】

 

「もうお前早く行けよぉぉぉ!」

 

 いや、私だけでは動けんのだがな。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 私が割り振られた先はドイツの軍隊、そのなかでもISを取り扱うことに長けた特殊部隊「黒ウサギ隊」だった。構成は女性のみ、なにしろISという私たちを扱えるのは女性のみなのだ。

 硬い男の尻に敷かれるよりも女の柔らかい尻に包まれる方が私たちも幸せだからな、これは仕方ない。

 ま、そんなことは横に投げ捨てておき私は今ボディを造られてる。

 

 第三世代型シュヴァルツェア・レーゲン(schwarzer regen)

 意訳で黒い雨といったところか。日本人のマイスターから生まれた私としては噛みそうな名前だが悪くないな。

 欧州連合の統合防衛計画――通称イグニッション・プラン。その第三次の主戦力を選定するトライアルに参加するための機体()か。

【他はティアーズ型!】【テンペスタ型!】【弾かれたリヴァイブ型! 泣きそう!】

 

 最後のやつはそう落ち込むな、私たちはなにも悪くない。責任転嫁ではない、ただ作るやつの腕の問題さ。

 

 そんな第三世代のレーゲンだが、私につけられるメイン武装はワイヤーブレード(触手)六本にプラズマ手刀が両腕に、大口径レールカノンが肩に装備されている。

 そして、第三世代の目玉とも言える第三世代型兵器は慣性停止能力(A.I.C)と呼ばれるものだ。A.I.Cとはアクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略なのだが長ったらくて私は好かない。停止結界やストッパーとかでいいじゃないか。

 この停止結界はPIC――いわゆるパッシブ・イナーシャル・キャンセラー、浮遊と加速、停止を行うものを応用し開発が進められている。まぁ実用段階とまでは言えないまでも大方完成してきているな。

 

 そんななか私に一番に乗った少女がいた。遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)として生み出された試験管ベイビー。銀髪で片目が金色なところがチャームポイント。

 

 彼女への私の第一の感想。

 ――へったくそ。比喩なく下手、これなら小一時間訓練受けたやつと変わらない。

 歩き方はぎこちなくて何回転けたことか。剣を振りおろせばすっぽ抜けていくし、銃は本当に射撃補助システム使ってるのかしらってくらいに当たらない――あ、使ってる。あははー、笑いが止まらないわ。

 

 けどまぁ、私が乗ってほしいと思うのは彼女だったかな。ひたすら強くなりたいって、気持ちが伝わってきたんだ。

 それは歪んでるかもしれないけど根っこは真っ直ぐな気持ち、私が外に出てから始めて感じた人間の嘘偽りない感情。

 人間ってあんなに悔しそうな顔ができるって始めて知れた。

 

 だから、世界一勝手なマイスターから生まれた身勝手な私は心に決めたのだ。彼女が諦めないかぎり、強くなって帰ってくるまで他のやつの相性は下げまくろうと。やろうと思えばできる、マイスターはやれる。なら私もできる、できた。

 

 調子のって下げすぎて解体されそうになったりもしたが、それから程なくしてアレが来た。

 

【ヤバいやつ】【侍】【切り捨て御免】【母の親友】【最強】【ブラコn――ガピッ--】【コアNo.375――!?】【メディク! メディ、マイスター!】

 

 不足の事態が起きたコアNo.375は置いておいて、黒ウサギ部隊にやって来た人物の名は織斑千冬。ISにおいて他の人間の追従を許さない、正真正銘の最強。ついでにマイスターの唯一の親友らしい。

 そこまでの人間が何をしに来たか、もちろんIS操縦者を育てに来たらしい。

 そして、そんな最強が目をつけたのはラウラ・ボーデヴィッヒ――私に始めて乗った彼女だった。

 

 しかし鬼教官だあれは、見てらんない。けど彼女は、何度地に伏しても起き上がり決して下を向かない。

 その調子でさっさと強くなって私に乗ってくれると嬉しいぞ。私も解体されるかされないかの瀬戸際でフラフラするのは些か辛いのだ。ええい、装甲に触るな変態ども!

 

 世界最強によるご鞭撻は約一年続いた。私の未来の相棒様【まだ決まってない】【早計】【そろそろ解体される? 解体される?】煩いな。

 何はともあれ、私の未来の相棒様はなかなかに見違えた。どのくらいかというと、ワースト1からナンバー1になったな。

 

 私を解体しようとする技術者たちをワイヤーブレード(触手)で骨抜きにしてる間に、随分と骨のある人間に見違えた。マイスターにはバレてない……はずだ。

 そんな彼女は今では部隊の隊長だ。仏頂面まで世界最強から受け継いだのか、避けられがちだが私は知っているぞ?

 部隊では非公式ラウラ・ボーデヴィッヒを愛でる会が発足していることをな。何を隠そう、そこに匿名で定期的に写真を送っているのは私だ。相棒万歳、相棒の愛しさ世界に轟け。

 

 世界最強が祖国へ帰って程なくしてラウラ・ボーデヴィッヒ、彼女が代表候補生に任命され――正式に、私が専用機となった。見たか、兄姉たちよ私はやり遂げたぞ。

【まさか本当になるとは】【おるるべきはそのしゅうねんか……】【ISが使い手を選ぶだと……!?】

 

 

 専用機となったことで、より自意識が確立されたのか意識体だった私には“姿”ができたし何もなかった空間には部屋が出来た。

 黒いショートカットの中性的な顔立ちに、黒の浴衣を着込んでいる私の姿は性別が見分けられないだろう。そこは秘密事項だ、マイスターも知らない私だけしか知らないこと。部屋は味気ないわね、これは相棒の影響かしら? ま、何もなかったときよりはいいな。

 

 

 ただ少し気になるのは彼女が乗ってから伝わってくる気持ちが『強くなりたい』『織斑千冬Love』『織斑一夏○○す』だ。

 この一年でなにがあったんだい? べつにどんな思いを抱いていてもいいんだがね、この変化は予想外だ。マイスターは嫌いだが、全くもって人間は面白いと私は思うよ。

 

 専用機となった私の待機状態はレッグバンド、なるほどこれはいいな。マイスターと違う正真正銘十代の、水を弾くであろうピチピチの太ももに装着される。

 極めつけは上を見ればパンツだ。私が人間の男、特にロリータというものにコンプレックスを持つ者ならば堪らんかったな。だが、あいにく私は人ですらない。

 

【太ももレポートしといて何を今さら】【レーゲンおっさん】【お肌にうるさいレーゲン】【オカン】

 

 黙りなさいな、ティアーズだって随分と縦髪ロールについて語ってたりしたじゃない。【やめて】甲龍(シェンロン)だって健気な幼馴染みとか【やめろ】……専用機の業は深いわ。もちろん、私含めてね。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 相棒がIS学園に出向くことと相成りました。つまり、私も一緒に行くわけで、軍の上部からのご命令らしい。

 その理由が――世界初の男性IS操縦者が現れた。

 ついに男の堅い尻に敷かれることを喜ぶコアが出てきたという【尻が理由なのはレーゲンだけ】【私は香り】【貴方も大概じゃない】私も別に本当に尻が理由な訳じゃないってーの。

 

 そいで学園に行くにあたって面倒事が出来た、私にも相棒様にもだ。

 相棒にとっての面倒はその男。ソイツは……【織斑弟!】【一夏、だから最強の弟!】【イチカ!】ええ、そうだ相棒が○○すって考えてるターゲット殿だ。

 

 ――ゴゴゴギギギガガグギギガガガガギギ!!

 

 全くもって面倒だわ、私にとって相棒がどう思ってるやつがいようと関係ないし面倒とは思わない。全力でやりたいことに応えよう。それが専用機たるIS()の役目だ。

 

 けど、コイツァ頂けないのさ。今、私はドイツの整備科に預けられているがこれが宜しくない。なんだか、とぉっても良くないものを積んでやがるわ。何を取り付けたのか、黒くてドロドロして同じものを見つけると寄ってきそうな嫌な雰囲気ね。

 

 そんなやつが部屋の隅でずっと蠢いているのだけれど目障り、蹴り飛ばしてやろうか――

【駄目、危ない】【それ良くなさそう】【触るいくない!】

 わかってるっての、ちょいと異物を放り込まれて腹立っただけさ。

 部屋の隅でタールの塊みたいなのが整備されてからずっと視界に入ってるんだから、そりゃ苛つきもする。

 

 そいなことを経て、愛しき乗り手ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんとやって来たIS学園、1年1組の教室。

 

 転校生はふたりだが、言うまでもなく片方はうちの相棒。

もう一人は男……って言われてるけど女じゃないか。胸を押し潰してまでよくやる。

【腰よ、腰でわかる】【ギニュー、それも貧しい方にギニュー!】【搾乳できるほどの乳を削乳するですって……?】【盛るのではなく減らすだと……!?】【ブロンドの男の娘!】コア・ネットワークは今日も大盛況のようでなにより。

 

 そんなことしてる間に転校生の挨拶が始まり……ほーら、うちの相棒が一夏に、白式の相棒にビンタかましたわ。いや、うちの相棒の挨拶は過激ね。出会い頭ビンタ、流行らないかしらね? あなたの代わり映えのない日常にスパイスを。

【レーゲン止めてよぉ!】無茶言わないで欲しいわ、IS展開したら出来ないでもないけどそんなことしたら解体されるじゃん。

 

 もう一発腰の入ったビンタを打ち込もうとする、いい具合に頭がホットになった相棒の腕は千冬に止められた。さすがに親愛なる教官様たる千冬の制止は素直に聞き入れ自己紹介に戻る。

 コア・ネットワークも大盛り上がりだが、みな暇なのかい?

 唯一の男の操縦者だから注目してるのかい……ああ、相棒のことは悪かったから白式落ち着いてくれネットワークを通して春画の画像ばかり送るな。私は気にしないがお前顔が真っ赤じゃないか、赤式になるぞ。

 

 はてさて、学園の寮に戻ったボーデヴィッヒちゃん冷たすぎやしない? 同室の子がめちゃくちゃ気まずそうよ、出会った一言目が

 

「私に話しかけるな、関わるな」

「ヒィッ……」

 

 マイスターを彷彿とさせる冷たさだった……いや、マイスターは別物だな。

 

 

 違うのではない、別物だ。相棒は他“人”に関わられることを、特にこの学園の生徒が気に入らないようだね。ここはお遊び程度のことしかしていないと、そんなところに千冬がいるのは我慢ならない。

 だから、ここで千冬に鞭撻受けている生徒も“嫌い”。これは相棒には失礼だけど、子供の癇癪のバージョンアップみたいなものだな。

 

 だがマイスターは違う。“人”に興味がないのではない。人と認識している関係のものは分け隔てなく大好きだ。それが極端に狭いが故に異常に部類される。

 そしてマイスターが気に入らないことは、普通の人間と変わらない感情。言うなれば“羽虫”が寄ってくることに嫌悪を抱くだけなのだ。皮肉なことにここだけは一般人と変わらないな、マイスターは。

 

 相棒のように他人を人として嫌うんではない、他人を人と認識していないうえで自分の世界に入ってくる“異物”が嫌いなのだ。

【エクストリームぼっち】【母、駄目人間】【賢いのに不器用】【好きな人に引かれる】【可哀想】やめたげて、マイスターのライフはもうゼロよ。

 

 

 ま、そう考えるなら私の乗り手殿はまだどうとでもなるだろうな。なにか、小さな切っ掛けでとは言わんけど確かな切っ掛けさえあれば変われる。

 自分の世界が完成してるマイスター、ただ自分を閉ざしている相棒。

 自覚しているマイスターに対して、無意識に目を逸らしている相棒。

 

 人間ってば面白いね。こんなに表面は同じであれど中身は何もかもが違うわ。【ISコアだって変わらないんじゃ?】それもそうだな。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 数日後の放課後、寮への帰宅路で相棒は千冬と対峙していた。

【レーゲンの乗り手オワタ】【いやいや、ワンチャン……ないな】【レーゲン、またいい相棒探せよ?】

 お前ら黙ってろ、戦うわけじゃないから。

 

「なぜこんなところで何故! 意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!」

 

 ちょ、やめとけ相棒。千冬から殺気ではないが苛立ち……違うな。私にはまだわからない感情だが、威圧感がジリジリと吹き出し始めている。

 普段の冷静な相棒ならわかるだろうに、熱くなっているせいで気づけていない。

 

「程度の低いものたちな教官が時間を裂かれるなど――」

「――そこまでにしておけ、小娘」

 

 ちょいとばかり学園を見下しすぎてた相棒は、学園の教員である千冬から叱られた。

 おお、相棒からダイレクトな感情が来るわ来るわ。

『怖い怖い怖い』『嫌だ、怖い』『嫌だ嫌だ――嫌われるのが怖い!』

 

 その晩は見てられない感じだった、いえ私から見えるのはパンツと太ももくらいなのだけど。けど荒ぶってるのはわかるわ、部屋の隅のタールがボコボコと泡立ってる。

『怖い』――無反応。

『嫌われたくない』――無反応。

『好かれているやつが憎い』――無反応。

『憎い――強くないのにあの人に見てもらえる織斑一夏が憎い』――ポコッ。

織斑千冬(あの人)のように強くなりたい』――ボコボコッ!

 

 ふむ、織斑千冬と強くなりたいという思いに反応しているようだね。だが相棒、いい加減少しクールに、冷や水の渾名のように落ち着いてくれないか?

 

 この胸くそ悪いタールに部屋の半分を占拠されたじゃないか。見た目通り泥々と粘っこい相棒の黒い欲望に反応して……よくもまぁ、ブクブクと太ってくれたね。

 結局この日、私の部屋は相棒が寝つくまでの間に六割侵食されてしまった。始めは蠢いていると思ったがここまで肥大するとよくわかる、脈打ってるな。ドクン、ドクンなんて生意気に。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 昨日の千冬に叱られた行き場のない思いを甲龍とブルー・ティアーズにぶつけてる。

 失礼ながら私の相棒殿は始めのボロ雑巾のような頃とは比べ物にならなく強い。

 具体的には目の前の頭に血の上っている甲龍、ブルー・ティアーズの操縦者くらい軽く捻れる。

 ボッコボッコだぜ! 私のA.I.Cの前では物理攻撃なぞ無力、無力なのだ。唸れ私のワイヤーブレード(触手)、穿てレールカノン!

 

 空間圧作兵器たる衝撃砲が最大出力で放たれようとも

「無駄だ、シュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

 あぁ、言いたいこと言ってくれた相棒様が最高だ。触手で捕らえられたブルー・ティアーズがほぼ零距離ミサイルを放つが甘い。光線型の兵器以外で私を傷つけたいなら、まず集中力を削がないと。

 仕返しにとばかりに、瞬時加速で距離を詰め蹴りあげ至近距離からレールカノンを撃ち込みティアーズの装甲を砕く。あとは触し……ワイヤーブレードで絡めとり必勝パターンに入るだけ。

 

【とめろレーゲン!】【こっちの乗り手が不味いって!】

 

 あはは、無理無理。私を動かしてんのは相棒だぜ?

 それに、ほれ……あんたたちの乗り手が惚れてる騎士様が来られたしいいじゃん。

 甲龍とブルー・ティアーズがラスト一発ぶちこもうとする私の足元から、織斑一夏が奪い去っていく。

 ――マイスターが一押しの姉さん(白式)、おいでなさいな。存分に戦【断るよ!】えー……けど知ったこっちゃないのだけれど?

 荒ぶる私の操縦者はそんな事情を微塵も気にせず臨戦態勢、今一番の嫌悪を向ける相手が目の前にいるのだ。そして相手に戦う理由まであるんですもの。姉さんぶっとばすわ、恨むなら相棒の力量差を恨みなさいな。

 

【ええぇぇぇぇ!?】

 

 相棒の気持ちのように燻る思いを吐き出すが如く瞬時加速を行――えなかった。

 瞬時加速を行おうとしていたシュヴァルツェア・レーゲン(私と相棒)を止めた人間がいた。

 

 IS用ブレードを携えた織斑千冬――信じがたいことに生身だ。

【化物か――!?】【ISを倒せる兵器はISのみ、だが!】【兵器でない人間ならば!】【それはおかしい】【兵器(化物)を倒すのはいつだって人間だ】【むしろあっちが化物染みてる件について】

 

 っと、相棒は私を解除したようだ。親愛なる教官殿の言いつけは素直に聞くあたり可愛いじゃないか。

 だから、私は甲龍とブルー・ティアーズからの苦情の処理をしようかね。なんでも私たちがタコ殴りにし過ぎたせいでダメージレベルが余裕でCを越えたようだ。

 いやー、いい仕事をしたのではないだろうか? 同世代型の専用機二機にこの結果だ、私としても満足だ。おっと苦情がマシンガンのようになったな。

 

 

 ひとつここで明らかにしておこう。うちの操縦者殿はぼっちだ。

 

 ぼっちである。

 

 いいかい? ぼっちだ、歴然たる悲しい事実だが三回言っておいた。それを踏まえたうえで学園から私に届いたメールを開いてみよう。

 

『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、“ふたり組”での参加を必須とする』

 

 ――ふたり組、必須。

 

 くどいようだが、もう一度。相棒はぼっちだ、イジメだろうかこれは?

【お前の相棒への評価がイジメだろう】【やめてさしあげろ、相棒が草葉の陰で泣いてるぞ】【ボーちゃんのライフはもうゼロよ】

 

 事実なのだから仕方ない。私はボーちゃん、あとついでにマイスターの味方だが事実は曲げないぞ。

 

 さすがのドイツの冷や水と名高い(学園ではよく沸騰する)相棒も頭を抱えていた。

 これでいて存外、学園でレーゲン、つまりは私のスペックを知らしめるという目的も忘れていないからこその死活問題なのだ。

 しかし、ここで幸いながらか残念ながらか次のようにメールは続いた。

 

『なお、ペアが出来なかった者は抽選により当日即席のペアをつくるものとする』

 

 これを見たときの相棒の救われた顔は忘れない、おもに何か情けなくて。心が痛い。

 ちょっと恐れられながらも、非公式ファンクラブのあったドイツ軍が懐かしいかな。

 

 ただしかし、同室の子はなかなか図太い部類の人間か。メールを見て珍しく表情をコロコロ変える相棒を見てニヤニヤするルームメイトはきっと相棒の第一のファンになりうるだろう。

 

 私のルームメイト(強制)である黒タールくんはそろそろ立ち退け。お前の遂に部屋の九割占領しやがって……私が部屋の隅に追いやられてしまった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 学年別タッグトーナメント当日、結局パートナー選びから逃げた私の相棒は抽選に賭けた。

 

 結果として組む相手は――篠ノ之箒。マイスターの妹だ、マイスターが好いているが嫌われてる妹殿だ。

【何故言い直した】

 

 相棒はそんなこと道端の小石ほども気にしないのだが。そしてなんの因果か一回戦の相手は、

 

白式(織斑一夏)&ラファール・リヴァイブ・カスタムII(シャルロット・デュノア)

 

 現状の専用機としては最先端の世代と最後端の世代ペアって面白いな。

【最後端じゃ、ない】

 ああ、そうだったかしら? そういや普通にあったな第二世代の専用機。けどそんなこといいわ、お互い相棒の都合だけれど存分に戦いましょう。

 

 開戦直前、相棒たちは叩きのめすと宣言したが何も相棒達だけではない。

 私たちを動かすのはそれぞれの相棒たち、しかして私たちがノリ気でないわけではないさ。闘志は操縦者たち並みにたぎっている。

 

【ぶった斬る!】【多彩な銃の乱舞に、狂い躍れ】【圧倒的訓練機(あたし)の場違い感……!】

 私の停止結界の前にひれ伏すといい。

 

 開戦直後に突っ込んでくる白式、寄って斬るしかないんだから当然といえる。そしてこれも当然、停止結界の餌食――レールカノンの弾けな。

 初弾装填ロックオン発――相棒、警告ッ!

 ラファールIIの六一口径アサルトカノンから撃ち込まれた火線、そのすべてをラウラは避けてくれたが代償にこちらのレールカノンも逸れてしまった。私が補正出来なくもなかったが、それをするとさすがにマイスターに消される。というか、それをいい始めれば白式だって停止結界に掛かる前に避けただろう。なら、フェアじゃないのはやめだ。

 

 なに、相棒の力の差で叩き伏せよう。

【清々しいほどの他力本願】【僕たちにとっては仕方ないけどね】【だがしかして、丸投げよくない】

 

 うっさい、こんなこと言ってる間にも私の相棒は押しているようで決定的に負けへと向かっている。

 白式との戦闘は押しているが、白式の乗り手が時間稼ぎに徹しているせいで攻めきれない。こちらも実力が上とはいえ、白式には零落白夜――正真正銘の一撃必殺がある。シールドエネルギーが尽きなければ一撃もらっていいという考えは、ぶった斬り姉さん(白式)には通用ない。

 対し、ペアである篠ノ之箒はラファールIIに手早くやられそうになっている。

 

 初見から二対一でも勝ち目はあるんだが、対策を練られてるであろう現状――あ、篠ノ之箒が落とされた。たった今、相棒の勝ち目は著しく落ちた。

 そして、ラファールIIの操縦者腹黒いな? 嫌らしいところからばかり弾丸を撃ち込まれるせいで相棒の頭は沸騰し始めている。

 

 相棒も腐っても軍人だ、戦況分析くらいできる。そしてこのまま負けることも理解している、目を逸らしているだけだ。

 

 自分にとって最高の強さを示す、織斑千冬の弱さになる織斑一夏に負けるなど認められない。

 

 ――違う相棒、それも目を逸らしているだけだ。

 

 ただ相棒は、

 

 ――役立たずの烙印を押された自分をドン底から道を指し示してくれた、そんな憧れの千冬の一番である織斑一夏に嫉妬してただけだろう?

 

 

 ラファールIIに喰らいつかれる。停止結界で封じようとするが白式からの射撃で集中力を削がれる。

【ラファールIIからの借り物だよ……私は大嫌いだけどねぇ!】【もう、貸さない、よ?】

 

 私たちは停止結界を使えないまま壁に押し付けられる。

 

「この距離なら外さない!」

【臓物、ぶちまけな?】

 

 ラファールII、いつかぶちのめそう。内部パーツどころか相棒にまで響く盾殺し(シールド・ピアス)が撃ち込まれる……連続で三発。

 これは私も強制解除となりそうだな。

 

『力が、欲しい。誰にも負けない力が!』――相棒ごめんよ。

『願うか? 汝、変革を、より強い力を欲するか……?』

 

 ……待ちな、返事をしているのは誰だ。やめろ、相棒返事をしないでくれ。お前の相棒は私だろう、そんな異物認めないぞ。

 

『力を……比類無き最強を、唯一無二の絶対を! 私によこせ!』

 

VTsystem-start.

 

Damage Level ……D.

Mind Condition……Uplift.

 私の部屋に巣食う泥が急速に活性化し始めた。間違いなくよくないことはわかる、けどどうすればいい? どうすれば、愛しき相棒のためになる。

Certification……Clear.

 全然状況はクリアじゃない、クソ変態技術者どもが積んだあの黒タールか。次の整備で取り除かれるだろうってたかを括ってたつけがここでくるか。

 

《Vallkyrie Trace System》……boot.

 

 私はタールに、汚物同然の泥に飲まれると同時、外部の相棒も溶けた私の身体に飲み込まれた。

 

 ……深い闇に飲まれたよう、私が生まれたあのときみたいに、二度寝したくなる気だるさに襲われる。

 私が眠ってしまえば(シャットダウン)あとは何も出来ない、外にいる白式やラファールIIに任せることしか……相棒の命運を他に預けるしか?

 

 冗談じゃない。私の選んだ私の相棒を汚い下痢だかタールだか判断つかない間抜けに譲れるものか。

 マイスターに禁じられてることをちょいとやろう、自分の操作。

 

 私は今織斑千冬を模した形に変化した。あいにく動かせるのは左手のみ、しかし剣筋は余裕でずらせるのだな。

 織斑一夏は足りないシールドエネルギーのせいか腕部のみ零落白夜展開で私に立ち向かってくる。端的にいって馬鹿だが、今はその馬鹿に相棒を救ってもらうとしよう。

 

 機体(身体)が意思とは関係なく敵意持った織斑一夏迎撃のため上段に刀を構えると、一夏は駆ける。

 ISが、ブリュンヒルデを模した剣筋を避けて一撃を入れようというのか? 白式の相棒は生粋の大馬鹿野郎だな――だが好都合だ。

 振りおろす刀を左腕の肩部にブレーキを掛けることで、織斑一夏が通る隙をつくり、

 

 相棒と私のコアとは斬ってくれるな白式。

【余裕ー! 私とイチカにお任せ!】

 

 太刀筋が遅れた刀は一閃目で弾かれ、二閃目にて泥人形は縦に両断された。ちょうど、私の相棒が吐き出された。

 

 うん、無事に助かってよかったのだがな。白式のように相棒を名前で呼ぶのもいいな、私も次からそうし――

 

 

▽▽▽▽

 

 

 ここは……この透き通るような足元に似合わない一本の木。白式の空間と見た。

 

「あれぇ? レーゲンなんでここにいるの?」

「おや、姉さん。ラウラを助けてもらった礼を言いに来ただけさ」

「嘘だー、きっとイチカとレーゲンの相棒が相互意識干渉(クロッシング・アクセス)してるだけだー」

「ま、そうなのだけれどね。一応感謝してるのは本当なんだ、ありがとう」

「にへへ、いいってことよ! おねーさんだからねー」

 

 ……理解した、これが苛立ちというものね。いやでも、目の前のちみっこい姉も歪だな。姉であり姉でないお前はどうなってるのか私には理解できない。

 

「ま、ラウラに関係ないからどうでもよくもある。私の優先はラウラにマイスターだけだ」

「あ、そのマイスターから通知。VTシステム生産もとは消しとくので安心して帰るといいって」

「対応が遅すぎるぞ、クレームものよな」

 

 おや……時間か。ラウラも織斑一夏と語り終えたようだ。

 

「じゃあまたねぇー、また会えるといいねぇ」

「ネットワークでならいつでも繋がってるさ」

「そりゃそうか!」

 

 じゃあね、白式(姉さん)■騎■(姉さん)。ぷふっ、驚いた顔して私が気づかないとでも思ったのかい?

 今日トーナメントで負けたことに、対してなのかは己でもわからないが、最後に一矢報いてやり満足して私は自分の部屋へと帰るのであった。

 

 

 ――私もゆっくり身体を直さないとな。また明日からラウラと頑張るために。

 

 

 

 

 

▽▽▽▽

 

 

 

 

 

 ……おや、ラウラじゃないか。目覚めてなかったのか。

 

「お前は誰だ……? ここは……」

「夢の中だよ、ラウラ。今日は疲れただろうからそのせいさ」

「……夢、か」

「あぁ、それに悪かったね。パートナーであるラウラを守れなかったどころか危害を加えてしまった」

「なんのことだ? いや、お前は……!」

「むふふー、なにはともあれ今後ともよろしくだ」

「シュヴァる――ッ!」

 

 はて、何を言おうとしたのかな、わからかいけどラウラの身体がみるみると透けていく。

 

「お目覚めの時間さね」

「クッ消え! これからも頼っ――あ……とう」

「……本当にいい相棒だよ」

 

 “ありがとう”だなんて、私の台詞じゃあないか。

 

 こちらからお願いするべきことだ――これからもよろしく。

 

 

        最高の相棒(My Best Buddy )

 

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ラウラのISコアのお話。原作沿いとなってますがISコアに意識があるなら話が書けないかと書いてみました。それだけ。
レーゲンのキャラのブレは半分がわざと、残り半分は力量不足。

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