青山ブルーマウンテンの名作は、意外と苦労して生まれたものだったり。




青山さん生誕記念の短編です。増えろ青山ファン。

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青山ブルーマウンテンが生まれた日

これは、青山さんが小説家になる少し前の話。

まだ彼女がうさぎになったバリスタを書く前の話。

彼女の、奇跡の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、困りましたねぇ…」

 

青山さんは悩んでいた。とある喫茶店のマスターに貰った万年筆は、空中に線を描くばかりだ。

ここは茶屋甘兎庵。茶菓子と抹茶、何よりメニューの名前の奇抜さが有名な所だ。黒色のうさぎが鎮座しているのもこの街の特色と言える。

彼女の名前は青山翠。青山ブルーマウンテンとして小説を書いている作家だ。今日の彼女は筆が進まない様子だ。

 

「また書けないんですか?」

 

お茶のおかわりを持ってきたのはこの店の看板娘、宇治抹千夜だ。緑色の和服に割烹着を装った姿はまだ小さいながらも愛らしい感じを受ける。ここの奇抜なメニューも彼女が考えたものだ。

 

「前から書きたいものがあったんですが、どうも思い浮かばないというか、ぼんやりとしていて…スランプです。」 

 

「しょっちゅうここに来てお茶を頂いてくれるのはありがたいんですけど…流石にここまで来ると心配ですね。」

 

千夜も不安げな様子だった。ほそぼそと活動している青山であるが、いくつか書いたものの大ヒットとまでは行かず、作家としての収入はさほどいっていない。

 

「物書きとして本が売れてくれるのは嬉しいんですけど、やはり代表作のようなものがまだ定まっていないのが現実ですし、難しいですね…」

 

「青山さん…」

 

青山自身も書きたいことがあるのに文にできないと言った様子で、原稿用紙に万年筆を近づけたかと思ったら、迷いながらも離れていくといったことを繰り返していた。

しばらく唸っていると、甘兎庵の扉が開く。現れたのはいかにもキャリアウーマンと言った風貌の女性だった。

 

「ここにいるはず…あー!こんなとこで何してるんです!」

 

「あらやだ、担当さんに見つかってしまいました。」

 

どうやら青山の担当編集者のようで、担当さんと呼ばれた女性は青山の座るテーブルの前に陣取った。

 

「…その様子だと、まだ書けてないの?」

 

「えぇ…昔から書きたかったものなんですが、なぜだか文字に起こそうとすると途端に何も浮かばなくなって…」

 

「典型的なスランプね…どんなものなの?」

 

「ええっとですね、喫茶店のマスターが…」

 

青山は少しずつ自分が書こうと思ってたことを説明する。担当も頷きながら話を聞くが、やはり彼女の中でもぼんやりとしたものしか決まっていないようだ。

 

「…なるほど、そんなにあやふやなら別のものを書けばいいんじゃないの?」

 

「それはダメです!」

 

青山さんが珍しく大声を出す。千夜も担当もその姿に驚きを隠せない様子だった。基本動かないここのうさぎも、心なしか震えたように見えた。

 

「この話は絶対私の代表作になります。絶対に面白いんです。だから書きたいんです。」

 

「で、でも、そこまで決まってなかったら面白いも何もわからないじゃない。」

 

「そうですね…」

 

気合が空回りしてしまっている様子だった。でも熱意は人一倍だ。担当は少し考えて、答えた。

 

「…とりあえず、とりあえずよ。とりあえず書いてみたら?」

 

「とりあえず…ですか?」

 

「そ、とりあえず。今思いつくのをすーっと、気の向くままに書いてみるの。あなたメモ帳とペンは持ち歩いてるんでしょ?」

 

「え、えぇ…」

 

「そのへん散歩したり、家で本を読んだりしてさ、ふと思いついた時にとりあえず書いてみる。その集合体を後で見返してみれば、なにかおもしろい発見につながるかもしれないわ。」

 

「そんなことで本当にうまく行くんでしょうか…」

 

「担当以前にあなたの友人が言うのよ?安心なさい。翠ちゃん。」

 

「そうですか…そうですね。わかりました、とりあえず頑張ってみます。」

 

「その調子よ、先生。」

 

2人の兼ね合いを見ていた千夜は驚いていた。これが友人というものなのか。相手の悩みに対する最善策を瞬時に出して、納得させてしまう。友人より親友と言ったほうがいい気もするくらいの息の合い方に彼女は憧れと羨ましさを持っていた。

 

(…私も、シャロちゃんとあれくらい以心伝心できたらいいのになぁ…)

 

そんなことを考えている間に、青山は少しずつ話を書き進めていた。担当は安心したのか、席を立つと千夜の方に向かった。

 

「いつもごめんね?彼女がお世話になってるみたいで…」

 

「いえいえ、いいんですよ。お茶で一息ついてくれれば、私も嬉しいです。」

 

「そっか。なんかあったら私を呼んでね。名刺、渡しておくから。」

 

「ありがとうございます!」

 

そうして担当は店を後にした。青山さんも少しずつ書けているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思いの外書けましたね〜」

 

背伸びをしながら青山さんは唸るようにつぶやいた。思いつく断片的な情景や設定などをひたすらに書き込んだ原稿用紙はかなりの量だ。青山さんは早速自分の書いた想像の欠片を拾っていく。

 

「…なるほど、それならこうすれば…」

 

青山さんはつぶやきながら黙々と新たな原稿用紙に書き進めていく。どうやらピースが繋がったようで、彼女は周りの声も聞こえないほど作業に没頭していた。

 

(もうすぐ、閉店なんだけどなぁ…)

 

店の心配を他所に、筆は止まることを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「…へぇー、確かに面白いわ。設定がすごいわねこれ。」

 

「書いててとても楽しかったです。彼のことも思い出しましたし…」

 

「やっぱりあの人がモデルなのね?」

 

「えぇ、昔を思い出しますね。懐かしいなぁ。」

 

 

 

 

 

「マスターは、ウサギになれたんでしょうかね。」

 

 

 

 

 










お読みいただきありがとうございます。青山さんの過去編を連載しています専務と申します。以後お見知りおきを。


・青山さんが誕生日ということで、本当はもう少し気合を入れて書きたかったのですが、いかんせん今(2015/10/26 21:08)官庁訪問の帰りでして、疲労感あふれる中書いた故に2000文字程度となってしまいました。短編なので許して欲しいところです。

・以前千夜の誕生日記念ssも書かせて頂きました。これ以降の誕生日ssは自分が以前書いた誕生日の人も一緒に出そうと決めていたので今作は千夜と青山さん(と担当さん)くらいしか出していません。今後も誕生日ごとにキャラクターが増える予定です。

・先程も言いましたがうさぎになる前のバリスタと小説家になる前の青山さんというタイトルで連載をさせて頂いてます。今回の内容もこちらを読んでいただくと少しだけ楽しみの増える内容になっているとかいないとか。そちらもお読み頂けたら幸いです。


後書きが長くなってしまいましたが、これを期に私のことを知ってくださると感涙です。お読み頂きありがとうございます。

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