もちろん、変な意味じゃありませんよ?
違うってば
「でね、スゴかったんだよ!」
朝から何時にも増して元気な栗田に、灰斗は多少引き気味に言葉を返す。
「へ、へえ、そんなに?」
そんな灰斗にも気付かず、栗田は鼻息も荒く続けた。
話題は、昨日檀家の人が持ってきたというDVDの内容についてだった。
昨日──
良寛が家に帰ると、寺の住職である父・空海が檀家の一人と話をしていた。
話題は──住職の一人息子、栗田良寛の体質改善についてだった。
その檀家、名を小林という男は、高校で体育教師を勤めており、子供達の健康に心配をする親の内情にも明るかった。
「良寛、ここに座りなさい」
父親に呼ばれ、おずおずと、巨体を折り畳むように座る良寛に、小林は住職の心配を概ね察した。
(大きい子だな……これでまだ小学五年生か)
背丈もそうだが、何より横幅だ。
下腹が、とか胴回りが、と言う話ではない。
小林の知る限りでは最大クラスの、まるで球体のような少年だった。
こちらを窺う視線には、初対面の大人に対する怖れが見え隠れする。
(やや引っ込み思案……いや、子供は誰しも似たようなものか)
「初めまして、良寛くん? 僕は小林と言います。
高校で体育の先生をしているんだ」
小林は名乗りつつ、怖がられないようにと笑みを浮かべた。
「…………は、初めまして、良寛です」
身体に似合わぬ小さな声が返ってくるのに、一呼吸の間があった。
(大人しい、というよりも、怖がりなのか)
「見ての通り、身体ばかりが先に大きくなりましてな。
何か精神を鍛えることができないかと、ご相談させていただいた次第です」
空海が禿頭を撫でつつ言う。
「いやいや、頼りにしていただき光栄ですよ」
小林はそう返すと、改めて良寛を見る。
「さて……突然だけど良寛くん、スポーツは好きかな?」
そんな問いかけに、良寛は気まずそうに答えた。
「えと、得意ではないです。僕、鈍いから……」
「同級生とは、遊んだりしないのかい?」
「う……一緒に帰ったりするくらいです」
その言葉に、横で聞いていた空海が驚く。
「お前、仲のいい友達がいたのか」
「……住職、それは」
小林が咎めるような声をあげた。
それはまるで、我が子のそうした状況を今まで放置していたようにも聞こえたからだ。
「ああいや、面目無い。私が僧職というこで、親御さんらにはやたら丁寧に扱われてまして、加えてこの子自身が大人しいので、これまであまり友人らしい友人の話を聞いたことがなかったのです」
本当に不甲斐なさそうに、空海は言った。
「……なるほど、子は親の態度を見ているものですからな」
小林は一つ頷くと、脇においた鞄から、ケース入りのDVDを取り出した。
透明なケースは市販のもので、ディスクの表には『良寛くん3』と書かれている。
「良寛くん、これはね、今日のために準備した君への贈り物なんた」
そう言って、小林は微笑みながらケースを良寛に差し出した。
「中には、色んなスポーツの試合が入っているんだ」
「スポーツ、ですか?」
良寛はケースを受け取りながら聞き返す。
「君の性格に合わせてね、いくつか用意してきた。
僕は教師だから、教材用にこういうのも手に入れやすい」
ディスクの3という数字がそのナンバリングなのだろう。
小林は、良寛の人間性に合わせたある程度バリエーションを持たせた映像を用意していた。
……空手や柔道、相撲などの格闘技をはじめ、強いメンタリズムが必要とされるものがまとめられたディスク1。
野球、サッカー、バスケット等の様々な能力とチームプレーが要求されるものが入ったディスク2。
そして──
「これにはね、一芸に優れる人たちが出てくる」
「いちげい……?」
府に落ちていない様子の良寛に、小林はにやっと笑いかけた。
「足が速い、力が強い、遠くに物を投げることができる、とかね」
「ぼ、僕は、どれも持ってないよ……」
良寛は不安そうな声を出す。
「何を言ってるんだ」
小林は良寛の肩に手を置く。
「身体が大きいことは、君の持っている才能だよ」
「え……?」
良寛の驚いたような声。
「気に入ったものがあれば、お父さんに相談してみればいい。きっと力になってくれるよ」
小林はそう言って立ち上がる。
「それでは住職、私はこれで」
「今日はありがとうございました、小林さん」
空海は頭を下げて、その後ろ姿を見送った。
「あ、ありがとうございます!」
良寛も習って、そう言った。
「なあ良寛」
空海は、そんな息子を見てやや気まずそうに、
「もし良ければ、今度その友達を連れてきなさい。
無理にとは言わんがな」
言ったのだった。
──そして今日
灰斗はそのDVDを観てから興奮の収まらない栗田に、朝からひたすら話を聞かされていた。
「そんなに良かったのか。
その──アメリカンフットボールって」
まさか二年後には自分が、その名前を聞いたばかりのスポーツを始めることになるなんて、知るよしもない。
灰斗はただただ、栗田の勢いに辟易としながらも、大人しく聞き役に徹するのだった。
栗田、灰斗のアメフトとの出会いでした。
原作での栗田は、神龍寺戦を観てアメフト好きになりましたが、それより少し早くであったことに捏造しました。
あまりに無理のあることはしませんが、不快でしたら申し訳ありません。
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脇役列伝(という名の設定メモ)
⬛小林
都内の高校で体育教師を勤める34才。妻子あり。
子供達の悩みをスポーツを通して解決する指導方針。
でも、学力の伸び悩みを抱えた生徒には完全に無力。
生徒「いや、けん玉で学力は上がらないでしょ」