熱いスポ根も好きです。
アップテンポのギャグ路線も大好きです。
そして、バッドエンドが嫌いなわけです。
灰斗が無謀にも、古くは『殺人ゲーム』とまで揶揄された球技、アメリカンフットボールの道に足を踏み出してから、二年の月日が流れた。
この間、何かあったわけではない。
ただ、栗田は少しでも力をつけるために、小林に相談のもとで子供向けの筋力トレーニングを開始した。
灰斗はとにかく体力がないと死ぬのだと直感で悟り、幾つかの本を読んだ結果、ジョギングから手をつけ始めていた。
そして四月、麻黄中学一年生となった二人は、早速勧誘を開始した。
先ずは同好会設立に必要な三人。
欲を言えば、攻守のチーム編成に必要な二十人以上のメンバーが集まることが理想だった。
(人数さえ確保できれば、僕はマネージャーか庶務に専念できる。まさに理想……理想的展開……!)
そんな、やや後ろ向きな考えを抱きつつ、灰斗は勧誘を続けた。
────……そして、一か月後。
「ふんぬらばっ!」
ガショーン
「たわぱっ」
順に、
栗田がスレッドと呼ばれるラインマン用のトレーニング器具に突撃し、
手作り感満載のスレッドが衝撃から軋み、
後ろで押さえていた灰斗が吹き飛んだ音だった。
「あ、あ、ごめんよ、灰斗くん!」
慌てて駆け寄る栗田に、優に一メートルは吹き飛んだ灰斗が笑う。
「いや、大丈夫大丈夫。それよりも、相変わらずすごい力だね、栗田くんは」
打った尻を擦りつつ立ち上がる。
(何事なのこの力は。僕が五人いても勝てないんじゃなかろうか……)
スレッド越しに、熊か猪でもぶつかってきたのかと思う程の衝撃だった。
「おー、相変わらすだ栗田は。少しは加減してやらねえと、花宮が木っ端微塵になっちまうぜ?」
そこに、ふらふらとした足取りの小柄な男が歩み寄ってくる。
「どぶろく先生!」
栗田が嬉しそうな声をあげる。
「酒奇先生」
灰斗もその男、酒奇溝六を呼んだ。
「どうだい、調子は」
にかっと笑ながら話す彼は、結局最初の二人しかいないままのアメフト同好会未満の顧問(自称)だった。
「絶好調だよ! また力が強くなったみたいなんだ!」
「え、まだ上がるの?」
栗田の申告に、頬をひきつらせる灰斗。
「あー、まあ、栗田程ラインマン向きの人間もいねえからな。長所が伸びるのは良いことさ」
どぶろくの言葉に、灰斗は天を仰ぐ。
「先生……僕ちょっとランニングに行ってきます」
吐き出すように言うと、校外に向けて走り出す。
近くの土手まで行くのだろう。往復で五キロ程の距離だ。
灰斗が毎日、欠かさずこなしている日課である。
……主に、世を儚きたくなったときの習慣だったが。
一緒にアメフトを始めて一か月。
灰斗にとって、毎日が挫折感と共にある状態だった。
何せ唯一の相方が栗田だ。アメフトという競技において、欠かすことの出来ないポジションであるラインマン。
しかもその才能は元プレイヤーであったどぶろくのお墨付きである。
今でもありありと思い出せる。
神龍寺ナーガの試合を観戦後、凄まじいテンションではしゃぐ栗田を見つけたどぶろくは、
「こりゃすげえ! お前さんにゃラインマンの才能がある!」
そう言い放った。
その後、栗田からチームメイトだと紹介された灰斗を見て、
「お、おう……」
苦笑いである。
(わかってんだよそんなこと‼ どうせ見込みなんて欠片もないわ‼)
頭の中の憤りに釣られて、走るペースが上がる。
(大してでかくもなく、力もなく、足だって速くない‼)
行手に土手が見えてきた。
(挙げ句臆病で、後ろ向きで、すぐ諦める!)
その土手を登りきれば、折り返しだ。
もう少し。
毎日走っている道だ。
あと少し。
辛さだって、慣れっこのはずだ。
なのに、
土手を駆け上がる半ばで、
もう、灰斗の足は止まってしまうのだ。
ただでさえ校内での練習後、ろくに休みもせずに走り始めたのだ。
沸き上がる劣等感に突き動かされるようにハイペースで走り続けたのだ。
毎日のように走り、筋肉痛だって酷いのだ。
──そして、そんな言い訳に屈してしまうほどに、心が弱いのだ。
「みっともな……」
滴り落ちる汗。
両手を膝に置いて、へたり込むのだけは拒否する。
そんな誰に誇れるわけでもないプライド。
「あー、情けない。みっともないなぁ」
自虐の言葉は思いの外、灰斗を責めるようなことはなかった。
「そんなん、知ってるっつうの」
傷になるのは、その肯定。
「せめて水泳とかならなぁ」
顔をあげて歩き出す。
「ボードゲームとかでも良いなぁ」
土手の上に到着。
「でも、アメフトなんだよなぁ」
そしてまた、走り出す。
今度は今来た道を戻るのだ。
力尽きないように、ゆっくりと。
「じゃあ、頑張らないとなぁ」
今も元気に、スレッドを軋ませているであろう栗田の待つ、あのグラウンドの隅っこに。
帰るのだ。
なっさけないですね。
普通っていうのは凄く曖昧な言葉だと書いてて気付きました。
便利な言葉ですけどね。