つまりは、更新できない言い訳です。
最近、栗田が熱心に勧誘を続ける相手がいる。
蛭魔妖一。
細身に鋭い目付き、やや尖った耳と髪型。
最初、彼の背後に覗く影を見たとき、灰斗はこいつ実は悪魔なんじゃないかと思った。
なんでも、屋上で一人、アメフトの戦術について考えていたところを見つけたらしい。
(それが本当なら、ド素人の僕なんかよりよっぽど良い……願わくば、スレッド越しに弾き飛ばされる仲間が欲しい!)
この頃、既に灰斗は栗田の圧倒的な力に対し、悲観的になるのを諦めていた。
どうあがこうが、悔しかろうが、この友人に力で並ぶのは無理だ。
そんな諦め……『理解』に近いものだった。
灰斗の体育の成績は、せいぜいが中の下だったが、それでも走るのは栗田よりも速い。
ランニングバックというポジションと言うのは、分厚いアメフトの専門書で知っていた。
今の灰斗の目標である。
「今日も駄目だったよ……」
萎れた栗田の報告を、灰斗は最近の日課である短距離用の筋トレをしながら聞いていた。
「うん、まあ、そういう日も、あるよ」
短距離用の、と言っても大それたものではない。
ただの
身体を地面すれすれまで下げて、上げる。
そもそもが、専門職などと掲げるにはおこがましいレベルの身体能力しかない灰斗だ。
どぶろくにも言われ、先ずは全身の筋力アップから取り組んでいるのである。
……ランニングバックへの道は遠い。
なお、灰斗のプッシュアップ自己ベストは五回である。
五回だ。
スポーツマンへの道も、遠い。
「でもさ、せっかくアメフトの仲間が増えると思ったのに……」
「……だから、今日はたまたま、駄目な日だったんだよ。また明日行けば良いじゃない」
今日こそは、と六回目に挑み、そのまま地面に潰れてしまった。
それを何でもないという風に、灰斗は言葉を発した。
「出来ることはなんでもやってみようよ。僕も仲間が増えるのは嬉しいしさ」
起き上がり、胸についた土を払い落としながら続ける。
「う……うん! そうだよね! まだまだこれからだ!」
栗田は息を吹き返したのか、鼻息も荒くスレッドに向かった。
「よーし! 今日も頑張ろう‼」
ガショーン
ガショーン!
ガショーン‼
「…………僕、ちょっと走ってくるね」
悔しくなんかない。
が、なにも感じないわけではないのだ。
(ちくしょう、ちくしょう、ちくしょーーーー‼)
今日も、スタミナ度外視の長距離走が始まる。
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灰斗が息も絶え絶えにランニングから戻ってくると、何やらおかしな様子だった。
まず、自分達が間借りしているグラウンドの一角に、いつも鎮座しているスレッドがなかった。
どぶろくが廃品を修理して作った、お手製のスレッドだ。
(……ついに壊れた? まあ、修理するにしても限界があるしなぁ)
疲れから頭も回らず、取り敢えずは休憩と思い、校門の近くに座り込む。
「よお、花宮ぁ」
ふいにかけられた声に反応して顔を上げると、ニヤついた顔の同級生が立っている。
サッカー部で日頃グラウンドの賃貸料として荷物運びをやっているときに、見た顔だった。
「……何?」
正直、答えるのも億劫だったが、なんとかそれだけ返す。
「なんだよ、ガッカリして声も出ねぇのか?」
疲れてんだよ。察せよ。
「いつもガショガショうっせーからな。仕方ねえよなー?」
「はあ……?」
何が言いたいのか、息が整い始めた灰斗は考える。
すぐ、時間の無駄と悟った。
何か話したいみたいだし、そのまま語らせておこう、と。
「ついに廃部だろ? アメフト部。や、まあ、同好会以前のママゴトグラブだったけどよ」
そんな傍観の体が、一瞬で吹き飛んだ。
「なんだって?」
「だから、廃部だろって。さっき教頭が栗田のやつにそう言ってたって。見たやつがいんだ」
(は? 部活動の届出も出せてないとこに、わざわざ教頭が? なんで?)
疑問は尽きないが、それよりも大事なことがあった。
「栗田くんは、どこに?」
ランニングから戻って最初からあった違和感の正体。
スレッドがない?
あのやかましい突撃音がない?
違う。
栗田がいないのだ。
グラウンドの隅っこで、いつも誰より早くから。
放課後は誰より遅くまで。
楽しそうに、本当に楽しそうに、夢中で。
大きな身体の優しい友人が。
「どこだよ‼」
いないのだ。
基本的に、灰斗の世界は栗田を中心に回ってます。
だから、いなくなると混乱します。
次は、ちょっと長く書きます。