大和撫子も異世界から来るそうですよ?【更新停止】 作:夜明けの月
ということで、お楽しみください。
「ジン坊ちゃーん!新しい人を連れてきましたよー!」
黒ウサギが明るくそう言いながら手を振る。その先には、だぼだぼのローブを身にまとった少年が地面に座っていた。
「あ、黒ウサギお帰り。その後ろのお三人が?」
「Yes!この五人様が………ってあれーー!?」
クルリと回って確認すると、そこには飛鳥、耀、颯人はいるのだが、十六夜と初愛の姿が見当たらない。
「もうお二人ぐらいいませんでした?こう『俺問題児!』という方とお綺麗な和服の方が」
「ああ、十六夜君と初愛さんのこと?」
「二人なら『ちょっと世界の果てまでデートしに行ってくる』とか言ってあっちの方に行ったけど」
「違うでしょ。藤原さんが逆廻に連れ去られたんでしょ。僕らが何か言う前に」
その事実を聞き、呆然する黒ウサギ。ハッとして黒ウサギは三人に問い詰める。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!?」
「止めてくれるなよ、って言われたから」
「何故黒ウサギに言ってくれないのですか!?」
「黒ウサギには言うなよ、と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実はめんどくさかっただけでしょう!?」
「「うん」」
「いや、だから止める暇もなく爆走して行ったんだって」
女性二人の言葉を聞き、前のめりにうなだれる黒ウサギ。颯人が主張するのだが、黒ウサギには全く聞こえてないご様子。
「ま、まずいです!世界の果てには野放しになっている幻獣が!」
「あら?なら彼らはもうゲームオーバー?」
「開始前にゲームオーバー……?何それ斬新」
「よくよく考えたら逆廻は生き残りそうだけどね」
「そんな呑気なこと言っている場合ではありません!」
ローブを着た少年は物凄い剣幕で三人を糾弾する。
すると、前のめりにうなだれていた黒ウサギはゆらりと顔を上げて少年に告げる。
「ジン坊ちゃん、このお三人をお願いします。黒ウサギは問題児様を捕まえに参りますので。では皆さん、箱庭ライフをお楽しみくださいませ!」
そう告げた途端、黒ウサギの青色の髪が淡い緋色に変わる。そして、超人的な跳躍と共に世界の果てへと向かった。
「箱庭の兎ってあんなに早く飛べるのね」
「箱庭の兎は、箱庭の創始者の眷属ですから。自己紹介が遅れました。僕はジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩者ですがよろしくお願いします」
「よろしく。私は春日部耀」
「久遠飛鳥よ。で、そこの学生服の男の子が日陰颯人君よ」
「よろしくねジン」
「はい。それでは、先に箱庭の中に入りましょうか」
ジンを先頭にして、颯人達は箱庭の中に入って行った。
♠︎
Side 初愛
皆様、私は今ーーー
一緒にこの世界に来たであろう少年に拉致られました。
「ヤハハハハァァァァアアアアア!!」
「キャァァァァアアアアアア!!」
歓喜に満ちた叫び声を上げる彼、逆廻さんによって。
拉致してからというもの、豪速で走っている逆廻さん。抱えられている私のみにもなってほしいものです。第一、こんな速度を体験したこともない私は、絶叫を上げながら気絶しかかってるわけです。
それから数分後ーーー
「ヤハハッ!楽しかったな!」
「………殺す気ですか!?」
私はジロッと逆廻さんを睨めつける。だが、少しも悪いと思ってないのか、全く気にしていない。というより何処かへ歩いて行っているのですが。
私も急いでついていくと、そこは綺麗な湖でした。
「わぁ……綺麗……」
私はこの景色に目を奪われていたのですが、場違いな地鳴りと揺れで目を瞑らされます。そして目を開けると、そこには大きな大蛇がーーー
「って、うぇぇぇぇぇぇ!?」
驚きでおかしな声が出てしまいます。それも仕方がありません。だって、体長が人間六人分もありそうな蛇なんて生まれてから見たこともありません。
『ほほう、小僧と小娘か。我が貴様らを試してやろうぞ。知恵か、勇気か、力か?好きなものを選ぶと良い』
そういう事を偉そうに言う大蛇。この蛇は念話というものができるのかもしれません。基本的に動物とは話せないのですから。
「え、えっと、私達はここに来ただけであって何も試練を受けに来たわけでは「はっ、何言ってやがる。まずはテメェが俺に試されろ」ちょっと何言ってるんですか!?」
まさかの挑発。売り言葉に買い言葉とはこの事を言うのでしょうか。
逆廻さんの言葉に腹を立てたのか、大蛇は逆廻さんを睨み、口を大きく開けて告げます。
『……大きく出たな小僧。だが、その戯言が貴様の命を棒に振った事を教えてやろうぞ!!』
湖の水面がバシャバシャと荒れ始めました。これはもうあれです。無理です。どうにもできないやつです。
逆廻さんなんて自信有り気に不敵に笑ってますし。
ここで私は決めました。
ーーーもう、どうでもいいや、と。
怒る大蛇と快楽主義の少年の戦いの火蓋は切って落とされました。
それから数分後、髪を淡い緋色にした女性、黒ウサギさんが私たちの元まで来ました。
「ようやく追いつきましたよ初愛さん!もう、何やってるんですか!」
「私に言うんじゃなくて、あそこにいる逆廻さんに言ってください。私は拉致られただけです」
私は膝を抱え込み、目の前を見ながらそう言いました。
黒ウサギさんが着くまでの数分間で逆廻さんは人間らしからぬ行動を見せました。大蛇が繰り出す水弾を殴り飛ばし、大波を砕き、そして挙げ句の果てにはお腹に飛び蹴りを入れて今を迎えています。両者が交錯するごとに水しぶきがこちらまで飛んできたのですが、まあこれは些細な事でしょう。
それにしても、私は逆廻さんのような殿方は見た事がありません私が見た事がある殿方は、どれも弱々しく、守られていなければ生きていけないような人たちでした。なのに結婚する人は増えるばかり。
父は偉大で、母たちを守ってきましたが、他の殿方はどうも違いました。自分の娶った女性たちに守ってもらう、どう考えても腐った考え方でした。
私は、それを見てきたからこそ思えるのです。
ーーーこの人は自分を守ってくれるような人なのだろうか、と。
「って何考えてるんですか私は……っ!」
思い返しただけでも頭が煮え繰り返りそうになります。ですが、何故でしょう。その感覚が全く嫌ではないのです。羞恥が込み上げ、思考を鈍らせ、胸を締め付けさせるのですが、何故かこの感覚が嫌ではないのです。
一体、この感覚はなんなのでしょうか……?
そう考えていると、一際大きな水しぶきと声が鳴り響きます。
『まだ、まだ試練は終わっておらんぞ、小僧ォォォォォオオオオオオ!!』
大蛇さん、大変ご立腹です。
まあそれもそうでしょう。「ただのノロマ蛇」だの「強者気取りの駄蛇」だの馬鹿にされた挙句、あんなにボコボコにされたのですから、まあ当然でしょう。
「水神……!?ってどうしたらここまで怒らせられるのですかーっ!?」
黒ウサギさんも驚愕の声をあげます。分かります、分かりますよその気持ち。私もそう思いましたから。
『特別として、次の攻撃に耐えられたら貴様の勝ちとしよう』
おぉ、これはこれは、結構容易な勝利条件ではないですか。先ほどまで逆廻さんは全ての攻撃を防いでーーいや相殺しています。なのでこの試練は逆廻さんのーーー
「ハッ、寝言は寝て言え。勝負は勝者を決めて終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだ!」
勝利とは程遠い煽り文句を言いました。どうしてここで鵜呑みにしないのでしょうか。甚だ疑問なのですが、今はそれどころではありません。
先ほどの言葉でよっぽどお怒りになったのか、水面の揺れが激しくなります。
『その戯言が、貴様の最後だッ!!』
その言葉と共に作り上げられるのは三つの水による竜巻。だが、確実に逆廻さんの許容範囲を超えている威力のものです。怒りにより我を忘れているのか、確実に殺しに来ています。
私は直感しました。あのまま、もし逆廻さんが殴るなり蹴るなりして受けた場合、高確率で逆廻さんが死んでしまう。そう感じたのです。
『ーーー助けたいか?』
「………ッ!?」
突如脳内に何か声のようなものが流れ込んできます。それは女性のものでした。
『彼を、逆廻十六夜を助けたいか?』
声が脳内に響きます。体全体が不快感を覚え、私は無意識に頭を手で押さえます。
「助け、たい……です……」
私は今出せる声を振り絞り、不快感に耐えながらそう言いました。すると次の瞬間、視界がぐにゃっと歪んだような気がします。
『ーーーならば、少しの間眠れ。次、意識が覚醒する際にはあの大蛇は目の前にはいないだろう。我、天照に任せよ』
そう聞こえた途端、私の意識は深い闇の中へと落ちていきました。
Side 初愛 end
♠︎
十六夜の前に三つの竜巻が荒れ狂い、凄まじい豪風を生み出す。さすがの十六夜も立っているのを維持するだけで精一杯だった。
「おいおい、マジかよ……ッ!」
凄まじく最悪な状況に舌打ちをする十六夜。片や水に慣れ怒り狂って力の全てを出した大蛇、片や水に慣れておらずかつ全力が出し切れない少年。誰が見ても軍配がどっちに上がるかはわかるだろう。
「(くそったれ……一か八かーーー)」
そう考えていた時だった。十六夜の背後から眩い光が一面を照らす。
「"照光滅却"」
その照らされた光により、竜巻は跡形もなく消し飛ぶ。大蛇は大蛇で何者かに腹に一撃もらったのか、その大きな体を湖に投げ出す。
十六夜は目の前で起きたことが理解できなかった。まだ、力が計り知れない黒ウサギがやったのか、もしくはーーーー。
十六夜が振り返るとそこには、
左手を前に掲げ、左手に極光を宿した初愛がいた。
「な、な……!?今の、初愛さんが!?」
黒ウサギも信じられないといった様子だ。まさか、ここに来てから何のアクションも起こさなかった初愛にこんなことができるとは思いはしないだろう。十六夜は、少々買いかぶりすぎてたか、と頭を掻き、初愛に声をかける。
「すまねえな。流石にあれは俺だけじゃ無理だった」
「気にするでない。私は普通のことをしたまでだ。そして私は君らが思っている"藤原初愛"とは違うのだ」
初愛の言うことの意味がわからず首をかしげる二人に、初目は笑いかけて告げた。
「なら話そうか。私が何者なのか。そしてーーー"藤原初愛"という者の話を」
次回は気に食わないあの似非紳士が登場します。
颯人「それ絶対僕のところだよね……」
あと、初愛のことが少し明らかに!
颯人「ああいう終わらせ方して勿体ぶらせたりなんかしたら、後書きに逆廻連れてきてリンチにするからね」
そ、そそそんなことするわけないじゃないですか!
それでは、次回もお楽しみに!