ゆうかりんか   作:かしこみ巫女

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外伝14 私が思い出になる前に

 まだちょっと肌寒く感じる世間に比べ、やたらと暖かい空気の風見家の夜。今日は最後の客人として、白黒魔法使いの霧雨魔理沙が現れた。手土産にはいつものキノコやら山菜だ。物々交換で、こちらは作物を渡したり、晩御飯を御馳走したりしてあげている。今は、太陽の畑の向日葵も監視ぐらいにとどめているらしく、自動で苛烈な迎撃を仕掛けることもない。おいでよ太陽の畑状態である。フレンドリー!

 

 一方、私とフレンドリーになれない人里と妖怪の山だけど、こちらはもう諦めムードだ。未だに出禁だしね。友達もいっぱいいるし、無理して押し通る必要もない。幽香は普通に出入りできているし。つまり、全く問題なしというわけだ。

 

「で、気になってるだろ、噂の命蓮寺。良ければ私が案内するぜ? この前の異変で伝手もできたしな」

「気にならないといったら嘘になりますけど、人里に近いですよね。出禁の私が出向くにはちょっと厳しいですよ」

 

 謎の宝船騒動はもちろん私の耳にも入っていた。特に乗り込む気はなかったけど、ルーミアとフランが宝探しの誘いに来た。「本当はノリ気じゃないけどいっちょ出張るかー」とやれやれムーブをかましていたら、全力で阻止された。幽香とアリスのダブル監視がキツくて抜け出せなかったのだ。妖夢も阻止側に回る良い子ちゃんムーブ。侍ガール妖夢には、幽香とアリスペアに立ち向かう度胸はないのであった。

 仕方がないから太陽の畑での豪勢なバーベキューに変更。確かに美味しかったけど、食材調達班にルーミアがいたのはいただけない。でも性格的にこっそり謎肉を忍ばせたりはしないと思う。正面から反応を見て喜ぶタイプだからね。幽香や美鈴も一緒にいたから大丈夫ということにしておこう。うん。

 

「いきなり囲まれてボコボコとか、そういうことにはならないから大丈夫だって。そんな卑怯な連中じゃないのは私が保証する。いい奴かは知らないけど、道理は通す連中だと思うぜ。まぁ、異変で少し喋って戦っただけなんだけどさ!」

 

 山菜の天ぷらを豪快にぱくぱく食べて、酒で流し込んでぷはーとやっている。私も「くーださい」と便乗してみたけど、最初の一杯以外はおあずけだった。意外とお酒に厳しいのが風見家である。最近は特に厳しい。酒豪の幽香もいよいよ肝臓を心配しはじめたのだろうか。妖怪はそんなにヤワじゃないと思うけど。

 そのお酒控えめ中の幽香が、少し考えた後で魔理沙に話しかける。

 

「駄目よ。当分は命蓮寺に近づかないように言ったばかりだし。さっきも釘を刺したところよ」

「そいつはどうしてだ?」

「燐香が言ったように、人里に近いからよ。燐香は相変わらず人間に危険視されている。藪を突いて騒動を引き起こす必要はないでしょう」

 

 実に大人で穏健派の意見だ。……ちょっと前までの厳しい暮らしが異次元の話、夢物語だったのかと私の頭が心配になってくる。どうしようもなかったから仕方ないけど。そうしなければ消えちゃってたし。でも、多分、お互いに傷を抱えていると思う。自惚れじゃなければだけど。癒やすにはのんびりと一緒にやっていくしかない。

 

「なるほど、確かに一理あるな。じゃあさ、見つからないように行けばいいだろ? 私が上手いことやるさ。いつも人間がいる訳じゃない。寺自体には妖怪しかいないしな」

「…………」

「万が一のときは、危なくなる前にちゃんと退散するって。約束する」

 

 胸をドンと叩く魔理沙の言葉に、幽香が顎に手を当てて考えている。即座に却下はせず、一応は検討してくれるらしい。多分駄目だろうけど。私の本音としては、見たくないと言ったら嘘になる。色々と気になるよね。妖怪に優しいなら、私が行っても大丈夫だとは思うけど。

 

「……その聖白蓮というのはどんな奴なの? 貴方、戦ったんでしょう?」

「ああ、かなり強かったな。一応魔法使いらしい。本当は僧侶とか言ってたけど。身体を強化して攻撃してきたし、パチュリーやアリスとはタイプが全く違うな。魔法より格闘戦の方が得意なんじゃないのかな」

「へぇ。それは面白そうね」

 

 幽香が興味深そうな表情を浮かべている。修羅から菩薩様に変わっても妖怪としての本質は変化していないので、そのうち弾幕ごっこと称してステゴロをやりかねない。聖白蓮とはタイプががっちり噛み合うので、お金が取れるメインイベントになるのは間違いない。その時は私がセコンドについてあげるとしよう。

 

「実力はあるし、部下の信頼も厚そうだし、ここでも頭角を現しそうってとこだな。良く分からんが、威厳ってやつがあるのは間違いない。後はかなり妖怪贔屓ってところかな」

「今回の異変は魔理沙さんが解決したんですよね? 射命丸さんの新聞で見ましたけど」

 

 私も天ぷらをパクつきながら話しかけると、魔理沙が嬉しそうに笑う。

 

「まぁな。へへ、今回は私が一番乗りで解決させてもらったぜ。霊夢の奴は宝船にまんまと釣られてくれたからな。お先に失礼って奴さ。早苗も来てたけど、腰が引けてたのかちょっと遅かったな」

 

 宝船というと聖輦船で、船長は村紗水蜜か。後は誰だっけ。寅丸星とかナズーリンだっけか。うーん、なんだか記憶に靄が掛かってきている気がする。今の楽しい記憶が増えるにつれて、誰かの記憶が少しずつ奥深くに沈んでいく感覚だ。幻想郷での暮らしに馴染んできた証拠だろうか。自我が芽生えてかなり経つけど、仕方がない。私の問題が解決するまでは、毎日を乗り切るのに一杯一杯で、余計なことを考える余裕なんてなかったしね。

 

 それにしても、緑の勇者の東風谷早苗は腰が引けていたらしい。こちらにやってきたときにボコボコにされた影響が残っているっぽい。さっきも私を連行しようとしていたし。一人だとちょっと怖いのかも。でも天性の図太さがあるから問題ないだろう。

 

「あの宝塔はちょっと欲しかったなぁ。人間が扱える代物とは思わないが、コレクションに加えたかったのが本音だ。間違いなくレア物だしさ」

「宝塔を持つ毘沙門天代理ねぇ。話を聞く限り、かなりの手練が揃ってるみたいね」

「ああ、主を筆頭に武闘派揃いって感じだな。ま、弾幕勝負なら負けないぜ」

 

 魔理沙の命蓮寺の話は続いている。異変を解決できたからとても上機嫌なようだ。霊夢との対戦成績は相変わらずらしいが、たまにあの鬼巫女相手に一矢報いているからやはり只者ではない。流石は不屈の魔法使いである。

 

「――そういうわけで、人間も妖怪も平等に仲良くやっていこうとか言ってる呑気な連中だから、そんなに心配いらないんじゃないか? 少なくとも、問答無用で襲い掛かってきたりはしない……とは保証できないけど、弾幕ごっこの範疇だ」

「いざ南無三――ですか?」

 

 白蓮の決め台詞を言ってみると魔理沙がニヤリと笑う。印象的だったので、それは記憶にしっかりと残っていた。

 

「そういえば、そんなこと言ってたな。はは、しかし良く分かったな。もしかして僧侶の前口上はどいつも一緒なのか?」

「さぁ、どうでしょう。ただなんとなくそんな感じかなって」

「……その寺の連中が呑気というのは、どうかしら。心の底で何を考えているかなんて、さとり妖怪でもない限り分からないわ。機を見て地底から浮上し、主の聖白蓮を復活させて、勢力を打ち立てたと。呑気な連中ができるとはとても思えないけど」

「はは、そりゃそうだよな。どこぞの吸血鬼よろしく幻想郷征服とか企んでたら面白いが、そんな感じはしなかったな。アイツの言う、人間と妖怪が平等な世の中を本当に実現できたら大したもんだ。なにをもって平等とするかは知らないけどさ」

「…………」

 

 確か、命蓮寺の下って豊聡耳神子の墓があったような。それを封じる目的もあってあそこに命蓮寺というか聖輦船をドカンと置いたんだっけか。意外と考えている。復活騒動がいつ起こるかまではもう思い出せない。何が引き金になったんだっけ?

 

 で、命蓮寺に関してだけども。白蓮の布教活動で妖怪の権利とやらが向上すれば、安全度も上がるので特に問題ない。別に人里に遊びに行きたいわけじゃないけど、危険視され続けるのも面倒くさい。縛りがかかるしね。人里に入れれば稗田阿求に幻想郷縁起の修正をお願いできるし。危険度低、人間友好度高にしてもらいたいところだ。……客観的に見ると、やっぱり無理かも。

 

「ま、気が向いたら今度遊びに行こうぜ。行くときはちゃんと幽香に許可を取るから心配無用だ。それでいいだろ?」

「……前向きに検討しておくわ」

 

 言葉と異なり全然前向きな雰囲気じゃない幽香だが、魔理沙は両手をポンと叩いて話を打ち切った。このパターンは、事後承諾で命蓮寺ツアー開催のパターンのような。魔理沙が怒られてくれるならいいんだけど、二人揃って説教の後に出禁を言い渡されそうだ。それで大人しくなるような人じゃないけどね。主人公の一人だし。

 

「よし、話はこれくらいにして食って飲むぞ! 幽香の飯は本当に美味いからな。食べるのに集中しないと失礼ってやつだ」

「あはは、もうすっかり我が家の常連ですね」

「多めに作ってあるし、別に追い返したりしないわ。こいつに言っても無駄でしょうし。それに弾幕ごっこの訓練をつけてもらってもいるから」

 

 最近はアリスの授業だけではなく、魔理沙の弾幕講座も始まっている。完全に私を弟子として扱ってくれている。魔法使い二人に面倒を見てもらえる私は魔法少女というやつだ。頭に赤いリボンでも付けて、黒猫を飼った方が良いだろうか。

 ちなみに今はマスタースパークについて教わっている。私は拡散マスタースパークとかいう亜流に逃げてしまったので、もう一度基礎から学びなおし中だ。いずれ幽香、魔理沙、私でトリプルマスタースパークをぶっ放してやりたいものだ。派手で楽しそうだし。

 で、ぶっ放すときは花梨人形を使いたいんだけど、全力で止められている。弱点なんだから背負っておけと。正論で何も言い返せない。でもアリスの華麗な戦闘を見ちゃうと、欲も出ちゃうというものだ。格好良いし!

 

「わはは、弟子の面倒を見るのは当たり前ってやつだ! さぁて幽香に燐香、もう一杯くらいいいだろ? 無事の異変解決を祝って改めて乾杯したいじゃないか」

「本当にもう一杯だけよ。貴方は好きにしなさい」

「ありがとうよ。よし、それじゃあ注いでっと。……乾杯!」

「乾杯!」

 

 私と魔理沙はグラスを打ち付けて乾杯。幽香も軽くグラスを掲げている。こうして飲んで喰って騒いでの風見家の夜は更けていった。私もデザートのアップルパイを食べてご満悦。魔理沙は当然一杯で終わるわけはなく、飲んで飲んで飲みまくって我が風見家に泊まり込むことになったのであった。

 

 

 そしてお他所のお家で醜態を晒している白黒魔法使いがここにいる。不屈の魔法使いの面影は欠片もない。それだけ打ち解けてきている証左かもしれないけど。

 

「魔理沙さん。ここで寝ると風邪ひきますよ。おーい」

「放っておきなさい。後で外に放り出すから問題ない」

「い、いや、流石にそれは可哀想ですよ」

「どこぞのスキマ妖怪くらい厚かましい奴には、当然の処置よ」

 

 大きないびきをかきながら、一升瓶片手に床に倒れ込んでいる魔理沙。頬をツンツンするが全然目覚めない。顔は真っ赤で涎が垂れてるし、スカートも乱れまくっている。ドロワーズが丸見えだが色気はさっぱりない。それを冷たい視線で見降ろしながら、幽香が冷たく告げてくる。

 

「いい、燐香。こういう恥を知らない女になっては駄目よ」

「あ、はい」

「反面教師としてコイツを役立てなさい。でも、絶対に真似をしないように」

「わ、分かりました。ここじゃあ可哀想なんで、私の部屋に運んでいいですか? そこで寝てもらいましょう」

「私がやるわ。適当に放り投げるだけだし」

「それじゃあ吐いちゃいますから! 母さんは洗い物をお願いします」

「はぁ、分かったわ。もしそいつが吐いたら外に叩き出していいから」

 

 魔理沙に肩を貸して、強制的に私の部屋へと移動する。とりあえず壁にもたれさせて、布団を引いて準備をせかせか整える。よし、準備オッケーだ。

 と、そうこうしていたら、魔理沙はいつの間にか目を開けていた。さっきのは狸寝入りだったのだろうか。

 

「あれ、起きてたんですか? いつの間に」

「へへ、まぁな。あれくらいで意識を失うほどやわじゃない。少しご機嫌に寝てただけさ」

「ほとんど同じじゃないですかね」

「見解の相違って奴だな。それにお前の母ちゃんの罵倒はちゃんと聞いてたぜ。言いたい放題だったな。ま、言われても仕方ないのは確かだけどさ」

 

 笑ったあと、大きく伸びをする魔理沙。そして、さり気なく身だしなみを整えている。どうやら恥を知る女らしい。

 

「なら遠慮なく寝てください。でも、歯磨きくらいはした方が良いと思いますけど。この前魔理沙さんが置いてった歯ブラシがありますからそれをどうぞ」

 

 案内してあげようと立ち上がろうとしたら、服を強めの力で引っ張られる。一体なんだろう。まさかの絡み酒かな? そういう酔い方はしないのが魔理沙だったはずだけど。

 

「……なぁ」

「はい?」

 

 魔理沙が、真剣な表情で私を見ている。一体なんだろう。

 

「何か悩んでいることがあるんじゃないか? なんとなくだけど、そんな気がしてさ」

「…………」

「幽香やアリスに話しにくいことだったら、私でよければ聞くぜ。あいつらだと、話が一気にややこしくなるからな。その点、私なら安心だろ? 口は堅いし義理も堅いし人情にも厚い。相談相手には言うことなしさ」

「……流石は魔理沙さん。相変わらず鋭いですね。そして本当に厚かましい」

「まぁな。観察するのは得意なのさ。厚かましいのも私の長所だし問題なしだ。たまに怒られるけどな!」

「…………」

「さ、まずは座れって。その気になったら話してくれ。心の準備ができるまで、私は休憩してるからさ」

 

 壁を背もたれにして、魔理沙の隣に腰かける。隣を見ると、穏やかに笑っている魔理沙がいる。なるほど、実に人たらしである。

 

 魔理沙なら安心かはともかく、悩みというか、考え事は確かにある。それは、魂とは何かとか、私はいったいなんなんだろうかという問いだ。騒霊と似たようなものと言われても、いまいち納得できない。彼女たちには依り代になるモノがある。とすると私は彼岸花か? でもそこら中に沢山咲いているじゃないか。彼らとの違いはなんだというのか。私には『個』となるモノがない。

 

 それに、この知識はいったいなんなのだ。どこかの誰かの幻想郷の知識、様々な知識が勝手にインプットされていた。どうしてこんなものが私にはあるんだろう。どこかのだれかの幻想郷の知識はあるのに、肝心な『個』の情報がない。完全に思い出になる前に、誰か私に教えて欲しい。私はただ、知りたいのだ。

 

 そんなことを、肝心なところは適当にぼかしながら魔理沙に話してみる。特に答えが返ってくることは期待していない。かなり酔ってるから、明日には忘れているだろう。だから、私も独り言のように話した。むしろ忘れてもらいたい。

 

「こりゃまた、えらく難儀なことを悩みだしたんだなぁ。幽香やアリスが知ったら、頭を抱えて落ち込みそうだ。しかも特効薬がないから一層深刻だぞ」

 

 魔理沙が腕組みをして溜息を吐く。私も幽香やアリスに話すつもりはない。ただ、うっかり魔理沙には話してしまった。人たらしならぬ妖怪たらしとは恐ろしい。

 

「あはは。何の不安もない幸せな生活が続くと、何故か不安になるんですよ。幸福だから感じてしまう、ただぼんやりとした不安ってやつです」

「…………」

「魂がないってなんなんだろうって。私は一体なんなんだろうって。今喋っている私は、一体誰なんだろうって。一度深く考えると沼にはまっちゃって」

「……こいつは本当に重症だ。よし、今夜はとことん語り明かすぞ! 私の夢とか悩みも話すから、お前も正直に思ったことを私に話すといいさ。多分、そいつはお前が未来に亘って、抱えていかなくちゃならないことだと思う。そして、私には都合の良い解決策なんてきっと思いつかない。でも、荷物を分かち合うことはできるはずさ。だから、遠慮なく私に話してくれ」

「…………」

「ちょっと待っててくれよな。長丁場になりそうだしな!」

 

 魔理沙がよしっと頬を両手で叩いて、ドアを開けて私の部屋を出ていく。幽香と何か話している声が聞こえたかと思ったら、一升瓶を小脇に抱え、グラスを二つ持って戻ってきた。

 その後ろには、心配そうにこちらを見ている幽香がいる。彼女にこんな話をできるわけがない。ただ苦しめるだけだし。今はこんなに幸福なのに、私は実に親不孝者である。でも、どうしても考えてしまうのだ。ぐるぐると思考が巡る。

 

「さて、心配性の母ちゃんはさっさと寝てもらっていいぞ。この師匠の私がしっかり面倒を見るからな! じゃあ始めるか。まずは飲め飲め!」

「は、はい」

 

 魔理沙との酒盛りは夜明けまで続いた。私は幻想郷の知識に関することを除いて大体全部話したし、魔理沙の夢や悩みも色々と聞いた。

 彼女は種族魔法使いになるか悩んでいるらしい。今は保留にしているが、いつか決断しなくてはならない。魔法技術を極めるために人間をやめれば、永い時間を生き続けることになる。アリスのような存在になるということ。それはつまり、親友の霊夢とは道を違えることになる。それが正しいことなのか、人間をやめてまでそれを追い求めるべきなのか。誰も答えてはくれない。絶対に自分で考えなければならないと、魔理沙は真剣な表情で呟いた。

 

「どちらを選んでも後悔するときはあるに決まってる。でも、よく考えて選んだ結果なら納得できるだろう?」

「流石は魔理沙さんですね」

「はは、褒めても何も出ないぞ」

 

 私も魔理沙を見習ってずっと考えていくべきなのかもしれない。魂について研究するのもありだと思う。アリスやパチュリーならきっと相談に乗ってくれると思うし。答えは出ないから、いつまでも研究していける課題でもある。

 

 きっと、私と魔理沙の会話を、幽香は聞き耳を立てていると思う。心配かけて本当に申し訳ないと思う。だからお酒のせいにして、明日からはまた普通に戻る。弱音を吐くのは今日だけだ。私はしっかりと生きなくてはいけない。私たちの分まで、幸福に生きる義務がある。生きなければならないのだ。

 

「ふー、最後にもう一杯。魔理沙さんもどうぞ」

「お、サンキュな」 

 

 グラスの酒を飲みながら、魔理沙の話に耳を傾けていると、窓から誰かがこちらを眺めているのに気が付いた。口元に手を当てて、楽しそうな笑みを浮かべている。新しい玩具をみつけたような、妖艶に見えるのに子供みたいな表情だ。これは誰だったっけ。青い髪の、かんざしが特徴的な人。なんだか面倒で厄介そうな印象を覚える。私は会ったことがないし、話したこともない。でも確かに知っている。擦れ始めている知識を辿っていく。種族は仙人、あるいは邪仙。確か、名前は――。

 

「――ん? 誰かいるのか?」

「いえ。気のせいでした。私も酔いが回ってきたのかも」

 

 私の視線に気が付いた魔理沙が窓に目を向けると、その青髪の人はいなくなってしまった。去り際にこちらに手を振ってだ。私は気のせいでしたと言ってごまかし、魔理沙の空のグラスに残りの酒を注いであげた。これで一升瓶も丁度空だ。飲み終わったらそろそろ寝なくてはならない。

 

「流石に朝日が出る前に寝ないと幽香に怒られるな。主に私がだけど」

「じゃあ師弟揃って連帯責任で怒られましょう。そうすれば軽く拳骨くらいですみますよ」

「そいつは名案だな。私の頭がヘコまないよう祈ってくれ」

 

 なんとなく、また何かに巻き込まれそうな予感がしたが、きっと気のせいということにして、私は酒に溺れることにした。次に目覚めたらきっと、飲み過ぎた私へのお説教から一日がはじまることだろう。それもきっと、幸福な日々というやつである。

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